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新型コロナ【マニラ・セブ ロックダウンの衝撃】今フィリピンで何が起きているのか?

フィリピンは世界に先駆けて首都マニラのロックダウンに踏み切りました。その後、ロックダウンはルソン島全域やセブ島にも拡大しています。

東京ロックダウンがささやかれる今、早々にロックダウンを実行したフィリピンの状況を知ることで、今後の参考にできそうなことが多々あります。

ロックダウン下のマニラを中心に、フィリピンでの新型コロナウイルスとの戦いぶりについて今回はレポートします。

「2020年はどんな年になるのか?」

とテレビや雑誌・新聞で様々な予測がなされたのは、ほんの4ヶ月ほど前のことです。

東日本大震災からの復興を宣言するモニュメントとして「東京オリンピック」が開催されるだけに、2020年は輝く1年になると誰もが期待に胸を弾ませていたはずなのに、現在の世界を覆い尽くすこの惨状は、いったいどうしたことでしょうか?

私たちは今、悪夢のなかをさ迷っているのかもしれません。あるいは、パニックを売り物にするSF映画のなかに取り込まれたのかもしれません。

新型コロナウイルスの現れる前と後では、私たちはまったく違う世界に住んでいます。

これから私たちはどうなるのでしょうか?

新型コロナウイルスの猛威が止まらないなか、人類と新型コロナウイルスとの戦いの果てには、どのような結末が待っているのでしょうか?

この疑問に答えるために、3部にわたる緊急特集をお届けします。

第1部は「ロックダウン」に的を絞り、早々とロックダウンに踏み切ったフィリピンのマニラやセブ島での暮らしぶりを紹介します。

東京でロックダウンが行われたとしてもマニラとそっくり同じになるわけではないものの、封鎖後にどんな生活が待っているのか、ひとつの参考になることでしょう。

日本よりも感染者が少ないにもかかわらず、ドゥテルテ大統領がなぜロックダウンに踏み切ったのかを中心に追いかけます。

第2部は迫り来る東京ロックダウンをテーマに、東京首都圏がロックダウンされたならば実際にどうなるのかを掘り下げていきます。

第3部は新型コロナウイルスとの戦いの結末として、どのようなシナリオが考えられるのかをレポートします。その一環として、世界とは異なる、いわゆる日本方式のウイルス対策の是非についても紹介します。
*なお、状況は日々変化しておりますので、記載した情報と現在が異なってくる場合もございます。予めご了承ください。


第1部 マニラ・ロックダウンでなにが起きているのか?

今や世界のほとんどの主要都市から人が消え、あたかもゴーストタウンのような様相を呈しています。

アジアもヨーロッパもアメリカもオセアニアも各国がロックダウン(都市封鎖)に踏み切り、市民の外出は規制され、大半の企業活動が禁じられています。現在、世界でおよそ25億の人々が自宅に閉じこもる生活を余儀なくされています。

そんななか、いち早く首都マニラのロックダウンに踏み切ったフィリピンで今、なにが起きているのでしょうか?

マニラ・ロックダウンの衝撃

ルソン島全域のロックダウン

ルソン島全域のロックダウン
引用:https://www.sunstar.com.ph/article/1848192

新型コロナウイルスに対し、世界の民主主義国のなかで先陣を切って思い切った対策を打ち出してきたフィリピンのドゥテルテ大統領が、マニラ首都圏のロックダウンを行うと発表したのは3月12日のことです。

その宣言に従い、3月15日からマニラ首都圏は事実上のロックダウンに入りました。マニラ首都圏は4月14日※まで封鎖され、陸路・空路・海路でのマニラ首都圏内外の往来は禁止されています。(※4月7日、4月30日まで封鎖を延長することが発表されました。)

さらに16日には「非常事態」が宣言され、17日からはマニラを含むルソン島全域へとロックダウンが拡大されました。4月12日までルソン島全域において、人の移動が大きく制限されます。

3月17日には、3月20日以降はルソン島全域の国際空港が閉鎖されると発表され、ルソン島に滞在する外国人の間に動揺が走りました。20日までに帰国のための航空チケットを手配できなければ、ロックダウンが解除されるまで帰国できない状況に追い込まれるためです。

日本人を含め、ほとんどの外国人が航空チケットを入手できず、半ばパニック状態でした。

しかし、フィリピン政府が国際空港の閉鎖については撤回したため、事なきを得ています。

なお、国内線は全線停止されています。

では、マニラのロックダウンによって、市民の生活ぶりはどのような状況になっているのでしょうか?

外出制限の実態

「都市封鎖」と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、「マニラから外へは出られない、及び外からマニラへは入れない」といったイメージです。

そのイメージは正しく、現在はマニラ首都圏全体が隔離されている状態です。陸路であろうと国内航空便であろうと国内海路であろうと、首都マニラへの出入りは厳しく制限されています。

マニラへ続く幹線道路には警察や軍が出動し、複数のチェックポイントが設けられています。出入りの際には身元が確認され、マニラに住居や勤務先がある人だけが通行を許されます。

あるいは外国人が国際空港から出航するチケットをもっている場合は、マニラに入ることができます。以前は24時間以内に出航する飛行機の予約がないと入れない状況でしたが、今は緩和されているようです。

マニラ首都圏内での人の移動も制限されています。首都圏9市77カ所に検問所が設けられ、警察官に混じって迷彩服を着用した国軍兵士の姿も見られます。検問所では通行人の体温検査と身元の確認が行われています。

市民の外出は原則として禁止されています。外出規制の強度はバランガイ(フィリピン最小の地方自治単位)ごとに異なります。

フィリピンにおけるバランガイは、日本で言えば住居区の「班」に該当します。「班」には行政上の権限はありませんが、フィリピンにおけるバランガイには日本の市区町村ほどではないものの、それに準じる大きな権限が与えられています。

バランガイは市民からの申請に基づき、パスIDを発行します。パスIDとは「自宅から外出するために必要な通過証」のことです。パスIDは1世帯ごとに1枚のみ発行されます。

基本的に外出が許されるのは、食料品や薬など生活必需品を買うときのみです。1日1回、パスIDをもった一家の代表1人だけが外出を許されます。

マニラ市でパスIDを持てるのは18~50歳までです。つまり 18歳未満、及び51歳以上の人の外出は、たとえ食料品や薬を買うためであったとしても認められない、ということです。(年齢の規制についてはバランガイごと異なります)

パスIDを持っていないと検問を通過することはできず、スーパーなどへの入店もできません。

パスIDは簡易的な証明書にすぎないため、その気になれば簡単に偽造できます。当初は偽造によって悪用される恐れが指摘されていましたが、偽造IDに対しては厳しく対処することがフィリピン行政府から通達されたこともあり、今のところ偽造問題は起きていません。

ドゥテルテ大統領がロックダウン中の規則を破る行動に対しては容赦しないとの姿勢を打ち出しているため、フィリピン国内は混乱もなく、市民は黙々と政府の方針に従っています。

麻薬撲滅戦争の例を見るまでもなく、ドゥテルテ大統領が本気で取り組んだ政策への反乱がいかなる結果を及ぼすのか、市民は十分に理解しています。

外国人に対しても規則に従わない場合は国外追放とすること、公務員にはロックダウン中の汚職に対しては公務から永久追放することを宣告しています。

このような背景もあってか、市民は自発的に外出を控えています。

マニラ市街の様子

マニラ市街の様子
引用:https://www.thejakartapost.com/

パスIDを所持していても、20時から翌朝5時までの時間帯の外出は認められません。ロックダウン中は夜間の外出が禁じられています。夜間に移動が認められるのは医療関係者や警察・消防関係など、ごく一部の人に限られます。
 
夜間はバランガイの代表者と警察・消防がチームを組み、それぞれのバランガイごとに見回りと消毒作業を行っています。消防車から大量の消毒液が噴射され、道路や歩道を浄めて回ります。

けたたましいサイレントともに見回りが行われるため、その時間帯にうろついている現地の人はほぼいません。それでも、ごくたまに夜間に外出している人がいると呼び止め、身分証を確認します。明らかな違反者に対しては、警官がその場で逮捕する場合もあります。

昼夜問わず、規則に従わずに外出している違反者は、刑法と行政法上の処罰の対象となります。具体的には支援物資が停止され、罰金を課され、拘束されます。

マニラ首都圏内で実際にどれくらいの人が拘束されているのかは不明ですが、たとえばカビテ州では2日間で586人が拘束されています。

拘束された人々は広場に並ばせられ、テレビなどのメディアを通じて晒(さら)し者にされています。地方によっては夜間に出歩いていた若者を大きな犬小屋のなかに拘留し、メディアに公開した例もあります。

フィリピンの社会全体が、新型コロナウイルスの拡散に繋がる無許可の外出を許さないとする空気に満ちています。

こうして外出制限が徹底されたことで、マニラの交通量はめっきり減りました。かつては大渋滞が起きていた道路も、今は閑散としています。大量の排気ガスをまき散らすジプニーの運行が禁止されたため、公道では息ができないほどの排ガス問題も一気に解消しました。

現在のマニラは、悲しいほどに空気が澄んでいます。

公共交通機関は停止されたため、自家用車を持っていないと長距離の移動はできない状況です。

閑散とした街中を、ごくわずかな人が行き交っています。その際も、ソーシャル・ディスタンシング(社会距離戦略)が徹底されています。

ソーシャル・ディスタンシングとは、新型コロナウィルス感染拡大防止のために、人と人との距離を意識的にとることです。日本国内ではまだ浸透していない言葉ですが、海外では感染対策のための標準的な対策になっています。

どのぐらいの距離をとるのかは、国によって違いがあります。たとえばオーストラリアでは1.5メートル以上、アメリカでは6フィート(1.8メートル)以上です。

マニラでは2人以上が並んで歩いているだけでも、警官やバランガイの役人に注意されます。

スーパーでは人数制限がかけられているため、入店するために長い列に並ぶ必要がありますが、1メートル以上の距離をとることが義務づけられています。スーパーに入店するまで1時間以上待たされることは、ごく普通です。

商店や小売店は、食料品や薬など生活必需品を販売する店以外は、ほぼ閉まっています。飲食店内での飲食は禁止されており、テイクアウトに限って営業が許されています。

ショッピングモールは銀行や食料品売り場は営業していますが、ほとんどの小売店は閉まっています。

銀行は支店を絞って営業されています。フィリピンでは庶民の銀行への依存度が低いこともあり、マニラでも地域によっては開いている銀行が近くにない状況です。

カジノや歓楽街などの娯楽施設は、当然ながら閉鎖されています。飲酒についてはバランガイごとに対応が分かれ、禁止されている地域もあります。

フィリピンでは1人だけで飲酒をする習慣がなく、酒を飲む際は多くの人が集まって騒ぐのが普通です。飲酒が禁止されるのは、人が一箇所に密集することを避けるためです。

ロックダウン中は多くの人が集まるイベントも、すべて禁止です。フィリピン人の大半はクリスチャンのため、日曜日には教会に集まってミサを行いますが、こうした宗教儀礼に伴う集会も禁止されています。そのため、無人の礼拝堂からネットを通じて神父の声が届けられています。

マニラ首都圏内の学校は全面休校しています。

結局のところロックアウト後のマニラ市街は、昼も夜も戒厳令が敷かれたかのようにひっそりと静まり返っています。

ロックアウトの弊害

マニラのロックアウトは、マニラ首都圏内で暮らす人々に大きな弊害をもたらしています。なかでも最も大きな弊害は、経済的な損失です。

ことに経済的弱者の多くが失業に追い込まれていることは、深刻な問題をもたらしています。たとえば日雇い労働者やエンターテイメント業に従事している労働者です。

ロックアウトによって日雇い労働者の職場は奪われ、エンターテイメント関連の店舗は休業に追い込まれました。

他にもジプニーやトライシクルの運転手もまた、その日暮らしを基本とする経済的弱者です。

こうした経済的弱者に対する生活保障や緊急融資の方針は、未だに示されていません。ロックアウトが長引けば生活に困窮した労働者が悲鳴を上げることは間違いなく、犯罪増加による治安悪化が危惧されています。

また、ルソン島全域に渡るロックアウトは物流にも様々な悪影響をもたらしています。検問所での審査が厳しすぎるため、貨物トラックが検問を通過できずに引き返す事態が方々で発生しています。

そのため生活必需品の物流がストップし、モノ不足が一時マニラ首都圏を襲いました。モノ不足は物価の高騰を招きます。物価の高騰は貧困層の家計を苦しめています。
参照Jetro:ルソン地方封鎖で国内外物流混乱

行政機関も最低限の機能や危機管理部門を除いて一時閉鎖されました。その影響もあってかフィリピン通関が人手不足となり、手続きが遅々として進まない状況に陥っています。

国内航路が閉ざされたために物資の運搬に海路を利用する業者が急増し、マニラ首都圏やその周辺の港は混雑しています。これにより、さらに通関が滞り、企業活動に支障を及ぼしています。

物流に重大な支障が出ているため、ルソン島に生産拠点を設ける製造業の多くは工場閉鎖を余儀なくされています。トヨタ自動車など日系の製造業にしても同様です。

工場の稼働停止が多国籍企業のサプライチェーンに、いかなる影響を及ぼすのか、現時点では見通せません。

今回の新型コロナウイルス感染拡大を阻止するためのロックダウンはフィリピンに限らず、マレーシアやインドでも起きているため、サプライチェーンに深刻な悪影響をもたらすことは避けられないと見られています。

もちろん工場の閉鎖がフィリピン経済にマイナスをもたらすことは、指摘するまでもありません。観光業の落ち込みとも相まって、ロックダウンによるフィリピン経済の損失は計り知れません。

ドゥテルテはなぜロックダウンに踏み切ったのか

ドゥテルテはなぜロックダウンに踏み切ったのか
引用:https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/

フィリピンはアジアのなかで最も早く首都のロックダウンに踏み切りました。
 
もっともフィリピンでは当初こそ「ロックダウン」という言葉を用いていましたが、その後、政府の指導によって「コミュニティ検疫」という言葉に置き換えられ、マスコミから「ロックダウン」という言葉が消えています。

「首都封鎖(ロックダウン・オブ・キャピトル)」という言葉の響きがあまりにも衝撃的すぎるとの批判を受けた結果とされています。

「コミュニティ検疫」とは、バランガイごとに感染監視を強化するという意味です。

しかし、実質的には世界中で広く行われている「ロックダウン」と変わりはないため、本記事では「ロックダウン」で一括りにしています。

事実上のマニラ・ロックダウンが始まったのは、3月15日です。その前日にあたる3月14日時点において、フィリピンの新型コロナウイルス感染者は累計140人、そのうち死亡者が12人でした。

一方、3月14日12:00時点の日本での感染者数は累計で699人、そのうち死亡者数が21人です。

日本とフィリピンの総人口が拮抗(きっこう)していることから考えると、フィリピンは日本よりも新型コロナウイルスの感染が拡大していないことがわかります。中国からの入国制限を世界に先駆けて英断した結果といえるでしょう。

しかし、ドゥテルテ大統領は迷うことなく、翌15日からのマニラ封鎖を早々に決断しました。日本の政府は未だに「まだ緊急事態宣言が必要な状態にはなっていない」と繰り返すばかりで、ロックダウンなどの積極的な対策に踏み切っていないことに比べると、その差は明らかです。

フィリピンの国民は、強いリーダーシップを発揮して新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するために万全を尽くすドゥテルテ大統領を熱烈に支持しています。

ロックダウンが一人ひとりの経済活動を破壊し、様々なストレスを生むことは先刻承知の上です。

それでもフィリピン国民の多くは「今この時期に」、なぜロックダウンが必要なのかを理解しています。だからこそ不自由な暮らしに耐えながら、嵐が過ぎるのをじっと待っているのです。

なぜ、フィリピンでは早々に、大きな痛みを伴うロックダウンに踏み切ったのでしょうか?

フィリピンの抱える医療体制の脆弱(ぜいじゃく)さ

ドゥテルテ大統領は3月12日にテレビを通して国民に語りかけました。マニラ首都圏を封鎖するのは、「皆さんをコロナウイルスから守るためである」と……。

ドゥテルテ大統領がロックダウンに踏み切ったのは、3月10日を境に感染者数が急増したためです。3月9日までフィリピンでの感染者は24人に留まり、死者は1人のみでした。この日までフィリピンは、世界各国と比べて感染者数・死亡者数ともに低いまま長く持ちこたえていただけに、国内での新型コロナウイルスの抑制は成功しているものと見られていました。

ところが10日には感染者数が33人に膨れ上がり、11日にはさらに16人増えて累計49人となり、一気に危機感が高まりました。

実はドゥテルテ大統領は10日の記者会見にて「国内の感染確認件数が1,000件を超えない限り、マニラ首都圏の封鎖は検討しない」、と発表しています。

ところが、わずか2日で考えを改め、12日にはマニラ封鎖を宣言しました。

国内の感染者が以前と比べて急激に拡大していること、なおかつ海外渡航歴のない感染経路不明の感染者が増えていることが、その直接の原因です。

日本に比べると感染者数も死亡者数もはるかに低いフィリピンですが、事は急を要しました。

先進国と比べると、医療体制も行政機構も脆弱(ぜいじゃく)であるという事実を重く受け止め、対処する必要に迫られたためです。

ちなみに世界各国と比べてもマニラの医療レベルは、けして低くはありません。マニラやセブなど都市部の医療レベルは日本と比べても、さほど見劣りしません。

しかし、都会も地方も含めた一国全体の医療体制となると、話は別です。先進国と異なり後進国のフィリピンでは、都心と地方都市の医療レベルに大きな差があります。医療技術はもちろん、医療スタッフの数や質にしても、設備や病床数にしても、信じがたいほどの格差が存在します。

そのため、フィリピン全体の医療体制は脆弱と言わざるを得ません。

2016年度の世界保健機関(WHO)と日本の厚労省のデータを元に、日本とフィリピンの医療体制を比べてみれば、その差は歴然とします。

人口10万人あたりの病床数を比べると、日本は1,311床ですが、フィリピンはわずか101床にすぎません。日本の10分の1以下です。病床数が少なければ、感染者が爆発的に増えることで医療崩壊に見舞われるリスクが高まります。

人工呼吸器の数は日本が2万2,254点、フィリピンは5,250点です。医者の数は日本の31万1,205人に対して、フィリピンは4万775人に留まっています。

フィリピンに比べて圧倒的に医師の人数が多い日本においてさえ、医師の不足が叫ばれているほどです。にもかかわらず、日本とほぼ同じくらいの人口を抱えるフィリピンの医師の数は日本の8分の1にすぎません。フィリピンの医師不足がどれだけ深刻な状況なのか、容易に想像できることでしょう。

フィリピンで医者の数が極端に少ないのは、多くの医者が収入の高い海外就労に志願し、出国しているためです。医者のなかには海外就労に有利な看護師の資格を取り、医者としてではなく看護師として海外で働いている人も相当数います。

看護師を含め、フィリピン国内における医療従事者の海外流失に伴う医療体制の急激な劣化は、以前から指摘されていました。今回の新型コロナウイルス騒動は、フィリピンの抱える医療体制の脆弱さを浮き彫りにしています。

日本の医療体制と比べると、あらゆるデータがフィリピンでは感染者が急激に増えることで容易に医療崩壊に至ることを示しています。

医師の不足、病床数の不足、備品や医療器具の不足などが相互に絡み合うことで医療体制は崩壊し、病人の治療という病院本来の機能がまともに果たせなくなります。

先進国であれば新型コロナウイルスの感染拡大に備える時間さえ稼げれば、病床数の確保や人工呼吸器の手配などの準備を行うことができます。

ですが、もともと医療体制が脆弱なフィリピンでは時間稼ぎをしたとしても、できることには限界があります。

医療崩壊を防ぐためには、感染拡大の兆候が現れた時点で早めに対策を講じ、感染者数をできるだけ低く抑えるよりありません。

ドゥテルテ大統領がアジアで最も早く首都のロックダウンに踏み切ったのは、こうした医療体制の脆弱さという問題を抱えているためです。

スラムを襲う感染の恐怖

スラムに感染を防ぐ術はない

スラムに感染を防ぐ術はない
引用:https://www.cnnphilippines.com/news/2020/4/3/

フィリピンの抱えるもう一つの懸念は、スラムに暮らす最貧困層の人々の感染リスクが日を追うごとに高まっていることです。
 
汚水の溜まった狭い通りに粗末な掘っ立て小屋やテントが立ち並び、耐えがたい悪臭が1日中たちこめるスラムは、マニラやセブなどの大都市圏のなかに複数存在します。

ちょっとした路地や川岸、高級ショッピングモールの裏や公共墓地の中など、都会のなかに生まれたわずかなスペースを利用してスラムが造られています。

スラムに住み着く人々に土地の所有権や賃貸権などあるはずもなく、そのほとんどが違法占拠です。

マニラ首都圏の人口は一千万を超えていますが、その37%にあたる400万人以上の人々がスラム居住者だとも言われています。けして少なくない数です。

現在、スラム居住者は新型コロナウイルス感染の恐怖に、為す術もなく脅えています。

なぜならスラムに暮らす最貧層の人々には、ウイルスの感染から身を守る方法がなにひとつないからです。

感染しないためにどうすればよいのかという情報は、世界中の多くの人に共有されています。手洗いをすること、マスクをすること、密集を避け他者との間に適度な距離を保つことなど、感染を阻止する対策の基本については世界共通です。

ところが、そのいずれの対策も、スラムに暮らす人々にとってみれば、けして実現できない無理難題です。

「手洗い」という贅沢

新型コロナウイルスから身を守る基本となる「手洗い」さえも、スラムの人々にとっては極めて難しい課題です。

清潔な水にアクセスすることが、そもそも難しいからです。貧しい人々が違法に居座るスラム地域の大半には、整備された水道がありません。もちろん、排水システムもありません。

では、トイレに行った後どうするのかと聞くだけ野暮です。そもそもトイレがない家もあります。バケツに用を足し、近くの川に捨てるのです。

そのため、川には腐臭漂う汚水があるのみです。汚水で手を洗えば、様々な雑菌やウイルスに汚染されるだけです。

私たちが当たり前に行っている清潔な水で手を洗うことは、スラムでは手の届かない贅沢な行為以外のなにものでもありません。

食べていくのがやっとの最貧層の人々に、石鹸や消毒液を買う余裕などないことは指摘するまでもありません。

マスクも同様です。日本と同様にフィリピンでもマスク不足が続いており、平時の何倍もの高値で取引されています。スラムの人々の経済力で買うことが難しくなっています。

マスクの代わりに、使い古しのタオルや古着で口を覆うのが精一杯です。

避けようがない濃厚接触

さらにスラムの日常は、濃厚接触の連続です。1世帯の住まいの広さは、せいぜい2メートル四方ほどにすぎません。その狭い空間に、10人ほどの家族が肩を寄せ合って暮らしています。家にいる限り、家族とは常に接触している状態です。

隣の家との距離は、わずか20センチほどです。路地も狭く、人がすれ違う際には濃厚接触を避けられません。

また、調理や洗濯などは道路や空き地などの共有スペースで行われます。そこでも周囲の人々との濃厚接触を避けることは、物理的に不可能です。

外出を自粛したとしても、スラムで生きる限り、果てしない濃厚接触が繰り返されるのです。

徹底されない外出規制

貧しければ貧しいほど、外部との接触を完全に断つこともできません。スラムに暮らす人々の仕事の多くは物売りや荷物運び、ゴミ拾いや物乞いです。

物売りも荷物運びも物乞いも、外出規制がかかり人通りが途絶えた状況では仕事になりません。ゴミ拾いにしても換金業者が休んでいるため、収入には結びつきません。

つまり、スラムに暮らすほとんどの人は、ロックダウンによって収入を得ることができていません。彼らに貯蓄をする余裕などなく、その日得た収入でその日の食糧にやっとありつける有り様です。

いくら外出規制がかかっても、家に1ペソの金もなければ家族が食べていけません。危険を冒しても、なんらかの仕事を求めて外へ出るよりない現実があります。

マニラの各所に検問所が設けられ外出は厳しく制限されていますが、スラム街はほぼ放置されています。警察にしても人数に限界があり、スラム街まで監視する余裕などないためです。

スラムでは夜間に警察が見回りに訪れる程度のため、日中の外出は比較的自由です。

そのことがスラムの住民に、より高い感染リスクをもたらしています。

症状が出ても家で寝てるだけ

その結果、感染したとしても保険に入っていなければ、スラムに暮らす人々に病院に行くという選択肢はあり得ません。診察料を払う余裕がないからです。

フィリピンでは貧困層でも無料で診察を受けられるヘルスセンターが役場に併設されていますが、風邪や怪我ならともかく、感染症には対応してくれません。

高熱が続き、新型コロナウイルスに感染した疑いが濃厚になったとしても、検査を受けることもできません。入院ともなれば高額な費用がかかり、費用を捻出することは不可能です。症状が出たとしても、家で寝ていることしかできないのです。

その間にウイルスは確実に家族や隣人に拡散します。スラムでは人が密集して暮らしているだけに、感染が広がればあっという間に拡大します。

感染拡大を促進するための、ありとあらゆる悪条件がスラム街には揃っています。

結局のところスラムに暮らす人々を守るためには、フィリピン国内でのウイルス感染自体を抑え込むよりありません。

ドゥテルテ大統領がマニラのロックダウンを早々に決断した背景には、スラムの人々を守るという思惑も働いていたと考えられます。

早く動いた甲斐があったのか、現時点ではスラムでの感染拡大は報告されていません。

それでもスラムにひとたび感染が広がれば、フィリピン全体に飛び火することは明らかです。フィリピン政府は早急に手を打つ必要に迫られています。

最貧層の人々を救うための取り組みは、すでに始まっています。マニラの路上でホームレス生活をしていた人々を体育館などに保護し、食事を配給する取り組みが行われています。

貧富の差が生と死を分ける現実をどれだけ緩和できるのか、ドゥテルテ大統領の政治手腕にかかっています。

ロックダウン後のフィリピン

ロックダウン後のフィリピン
引用:https://news.abs-cbn.com/news/03/15/20/

マニラから始まったロックダウンはルソン島全域に拡大し、ついにはフィリピン第2の都市であるセブ市をはじめ、フィリピンの各地に波及しています。
 
地方都市のロックダウンは感染者が増加したから行うのではなく、感染予防として行われています。そのため、まだ感染者が1人も出ていないにもかかわらず、早々にロックダウンに踏み切っている地域もあるほどです。

地方都市の医療体制は中央に比べて、さらに脆弱です。医療崩壊を引き起こさないために、なおかつ貧困層を守るために、フィリピンの地方都市は早期のロックダウンによって感染を防ぐ必要に迫られています。

ロックダウン下の市民は外出を厳しく制限され、ストレスの溜まる生活を強いられています。それでも「国民の命を守る」という大義の下に結集し、政府の方針に積極的に協力する姿勢を見せています。

市民による相互監視も強まり、防疫措置の規律を守らない隣人を見つけると、地方政府に通報する動きも活発化しています。

「麻薬撲滅戦争」は今や確実に「新型コロナ戦争」に切り替わりました。

しかし、それでも感染者は増え続けています。3月31日には新規感染者が538人と急激に増え、4月5日時点の累計感染者数は3,246人、死者はついに152人となりました。

このところ問題となっているのは医療関係者の多くが感染し、命を落としていることです。3月末までに医師13人が感染によって死亡しています。

その原因として指摘されているのは、医療従事者が感染を防ぐために必要とするマスクやゴーグルなどの不足です。

医療防具の不足が、医療従事者への感染を広げています。その結果、感染者と濃厚接触したと疑われる数百人の医療従事者が隔離される事態となりました。医師や看護師の家族にも感染が広がっています。

院内感染も次第に拡大しつつあり、マニラにある複数の病院では、新型コロナウイルスの新たな感染者を受け入れることができなくなっています。

マニラの医療現場は極めて厳しい状況に直面しています。新型コロナウイルスの感染者ばかりでなく、別の病気の治療に訪れる患者の受け入れにも支障が出ています。

3月29日にマニラ国際空港にて羽田行きのチャーター機が離陸に失敗して墜落する事故が起きましたが、実はこの背景にもマニラの切迫した医療体制が関係しています。

チャーター機に乗っていたのは、現地在住のカナダ人の患者と医療スタッフら8人でした。カナダ人の患者は新型コロナウイルスではなく、蚊に刺されたことで発症するジカウイルスに感染していました。

患者は重症に陥っていましたが、マニラの複数の病院から受け入れを拒否され、治療を受けられない状況でした。どの病院も新型コロナウイルスの対応に追われるあまり、患者を受け入れる余裕がなかったためです。

患者の命を救うためにはマニラを離れ、海外へ医療搬送するよりなかったのです。経済的に余裕のあるカナダ人だからこそできた選択です。その途上で、痛ましい事故が起きてしまいました。

このカナダ人のケースは氷山の一角にすぎません。

病院にて緊急に治療を必要とするのは、新型コロナウイルスの感染者ばかりではありません。マニラの複数の病院で生じている医療体制のほころびは、多くの患者の生死に影響を与えています。

医療崩壊を避けることができるかどうか、フィリピンは今、正念場を迎えています。

セブ島の状況

セブ島の状況
引用:https://www.philstar.com/the-freeman/

最後に現在のセブの状況について紹介します。セブ州は3月28日正午より事実上のロックダウンに入りました。

ロックダウン下の暮らしぶりは、マニラと大差ありません。ただし、マニラほどのモノ不足には至っていません。マスクや消毒液は日本同様に手に入れることが難しい状況ですが、スーパーの陳列棚には平時とさほど変わらない程度に商品が並んでいます。

急激なパニック買いが起こっていないことからも、セブの住民がロックダウンを冷静に受け止めていることがわかります。

あらゆる学校は休校となり、セブ島留学の語学学校も原則休校となりました。現在はオンライン英会話のみを提供している学校もあります。

外出は原則として禁止されています。外出が許されるのはスーパーやコンビニ、ドラッグストアでの買い物時や病院に行くときのみです。

マニラ同様に、外出できるのは1世帯に1人のみです。外出の際には外出許可証を携帯する必要があります。セブ市では18歳以下、および60歳以上の人の外出は24時間禁止されています。(セブ州は65歳以上です、エリアによって多少の違いがあります。)

そのため、高齢者と子供しかいない家庭では、食品を買うための外出さえできない苦境に陥っています。フィリピンは親戚や隣人との繋がりが強いため、このようなときには互いに助け合うことで急場を凌いでいます。

市内で営業しているのはスーパーやコンビニなど、生活を営む上で最低限必要な店のみです。スーパーなどに入店する際には前の人と1メートル以上の間隔を開けて列に並ぶ必要があります。マスク着用が義務づけられているため、つけていないと入店できません。

飲食店はテイクアウトとデリバリーのみの営業が許されています。セブではスーパーのデリバリーサービスを盛んです。外出しなくても野菜や肉、卵などを配達してもらえます。

ただし、コンドミニアムはどこも入居者以外の立ち入りを禁止しているため、部屋まで届けてもらうことはできません。受け取りは1階ロビーに限定されています。

公共交通機関はすべて止まっています。ジプニーもタクシーやGrabも走っていません。マニラ同様にセブの道路からもほとんどのクルマが消え去り、街は静まり返っています。

ロックダウンは4月28日まで続けられる予定です。状況によっては、もう少し延長される可能性もあります。

セブではマニラほどの感染拡大には至っていないため、今のところ医療崩壊の兆しも見当たりません。外出禁止という不自由な生活を強いられてはいるものの、住民は落ち着いており、平時と変わらない治安が保たれています。

しかし、隔離や封鎖が長引けば失業者が増えるだけに、経済的に生活できない人々が増えることは間違いありません。
また、夕方から夜にかけては治安の悪化により強盗に遭うことも懸念されます。

先進国と比べて後進国フィリピンのセーフティネットは強くありません。生活苦に陥った人々が増えれば、治安の悪化は免れられないでしょう。先進国でさえあるのですから。

新型コロナウイルスは人の健康や命を奪うだけでなく、対応を誤れば社会全体を崩壊させるだけのインパクトを持ち合わせています。

そんななか、フィリピンではドゥテルテ大統領の支持率が相変わらず8割を超えていることは「救い」です。

緊急時には平時と異なる思い切った施策が必要ですが、民主主義国では手続きに時間を要するため、なかなか機敏に動くことができません。

フィリピンももちろん民主主義の国ですが、国民の絶対の信頼を勝ち得ているドゥテルテ大統領であれば、足かせはほとんどありません。ドゥテルテ大統領の決断次第で、様々な思い切った政策を実行できる環境にあります。

新型コロナウイルスとの戦いをどのような形で決着へと導くのか、ドゥテルテ大統領の強腕にすべてがかかっています。

ドン山本
ドン山本
タウン誌の副編集長を経て独立。フリーライターとして別冊宝島などの編集に加わりながらIT関連の知識を吸収し、IT系ベンチャー企業を起業。

その後、持ち前の放浪癖を抑え難くアジアに移住。フィリピンとタイを中心に、フリージャーナリストとして現地からの情報を発信している。

監修サイト:日本とフィリピンの第二次世界大戦

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