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新型コロナウイルス【未来のシナリオ1/3】なぜ日本では感染者と死亡者数が低いのか?

前回は「東京ロックダウン」が行われたならば、私たちの生活がどのように変わるのかについて紹介しました。
新型コロナ【迫り来る東京ロックダウン2/2】日本式ロックダウンは感染を抑えられるのか?

新型コロナウイルス特集の第3部として今回より、「新型コロナウイルスとの戦いの果てに待つシナリオ」について追いかけてみます。

現在、依然として未知のことが多い新型ウイルスとの戦いが、世界各国で繰り広げられています。

しかし、感染拡大の勢いは未だに止まる気配を見せていません。

欧米やアジアをはじめ多くの国や都市でロックダウンによる強行措置がとられ、25億を超える人々が自宅に籠もる不自由な生活を強いられています。

日本でも4月7日に緊急事態宣言がなされ、他国に比べればかなり緩やかではあるものの、東京首都圏を中心に人と人との接触を減らす対策がとられています。

今の人類にとって最大の関心事は、この新型ウイルスとの戦いがいつ、どのような形で終わりを迎えるのかに集中しているといえるでしょう。

新型コロナウイルスとの戦いの末に、果たしてどのような未来が考えられるのでしょうか?

今回は戦いの行方を知るうえで欠かすことのできない「ジャパン・パラドックス」について振り返りながら、世界各国のウイルス対策とは明らかに異質な日本方式について、追いかけてみます。

なぜ日本では感染者と死亡者数が低いのか?

コロナウイルス感染

その1.世にも奇妙な「ジャパン・パラドックス」

日本では今、感染経路がわからない感染者が激増しており、このままの勢いで感染拡大が続けば医療崩壊に至ると、危機感を訴える報道が連日なされています。

日本が感染爆発の瀬戸際に立っていることは事実です。その一方、世界を見渡してみれば、世界各国の感染症の専門家が皆一様に首をひねる不可解な現象が、日本で起きていることも否定できません。

その現象とは、世界の主要国と比べて日本の累積感染者数と死亡者数が、極めて低い数値に抑えられていることです。

下の図は「新型コロナウイルス国別感染者数」の上位9カ国と日本の推移を表したグラフです。

新型コロナウイルス4
外務省 海外安全ホームページ  より引用

グラフをひと目見ればわかるように、日本の感染者数だけが底辺を這うような緩やかな増加に留まっています。

日本の累積感染者数は4月8日の時点で6,748人ですが、上位9カ国とは一桁、あるいは二桁も少ない状況です。

新型コロナウイルスの感染を原因とする死亡者数にしても、日本は低く抑えることに成功しています。

AFPの報道によると4月13日の時点の死亡者数は、アメリカ 2万1489人、イタリア 1万9899人、スペイン 1万6972人、フランス 1万4393人、イギリス 1万612人に対し、日本はわずか 138人(クルーズ船除く)に留まっています。

感染拡大が止まらない欧米各国から見て、この状況はあまりに理不尽です。

日本が台湾のように欧米以上に厳しい感染防止対策を施しているのであれば納得もできますが、現実は逆です。

欧米は軒並みロックダウンに踏み切り、経済を犠牲にしてまでも国民の外出を強制的に抑え込んでいることは、前回紹介したとおりです。

ところが日本では未だにロックダウンさえ始まっていません。外出は自粛レベルに留まっており、普通に通勤せざるを得ない人々も数多くいます。欧米とは異なり、飲食店もまだ普通に開いています。

厳しく外出を禁じ、ほとんどの経済活動をストップした欧米から見ると、日本のコロナ対策は信じがたいほどのゆるさです。

欧米の人々が、そこにパラドックスを見出すのは、ごく自然なことといえるでしょう。

「パラドックス」とは、「正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉」です。

たとえばケーキやチーズなどをフランス人女性はよく食べますが、なぜかスリムな人が多いことから「フレンチ・パラドックス(French Paradox)」と呼ばれています。

ロックダウンをはじめ、感染拡大を阻止するために全力で取り組んでいる欧米では感染者数と死亡者数が伸び続けているにもかかわらず、欧米から見るとなんら有効な手を打ってないように見える日本では低く抑えられているという現実は、論理的に考えて辻褄が合いません。

欧米の政府当局者は、これを「ジャパン・パラドックス」と呼んでいます。

新型コロナウイルスが流行りだした当初、中国からの入国制限にしても欧米はいち早く対応しました。ところが日本は習近平国家主席の来日が予定されていたための配慮からか対応が遅れ、あらゆる対策が後手に回りました。

日本政府の対応は初動からして遅く、しかも緩やかな規制に留まっています。

そのため、中国の次は日本で感染が広まるのではないかと世界中から危惧されていたのは、記憶に新しいところです。

ところがいざ蓋を開けてみると、予想外の結果が待っていました。

感染症の嵐に見舞われたのは欧米の方であり、日本はこれまで比較的上手く感染症を抑え込んできたといえます。

最近になって感染経路を追えない感染者が増え出したことから、日本でも欧米のような感染爆発に至る可能性が指摘されており、けして油断できる状況ではないものの、世界の先進国と比べて現時点で感染者数と死亡者数が異様に低いことは事実です。

新型コロナとの戦いの出口を模索するうえで、「ジャパン・パラドックス」がなぜ起きているのかを考えることは、極めて重要といえるでしょう。

その2.もっとも重要なのは人口あたりの致死率

日本での報道を見ていると「感染者数」がやたらとクローズアップされているように見受けられます。毎日、新たな感染者がどの地域に何人出たのかに関心が集中しているようです。

しかし、実際に新型コロナウイルス対策が成功しているかどうかを計る指標としては、「感染者数」はあまり当てになりません。

なぜなら「感染者数」はPCR検査の特性上、検査数が増えれば増えるほど確実に多くなるからです。(その理由については後に紹介します。)

そのため、世界各国と比べて検査数をあえて抑えている日本における感染者数が低いのは、むしろ当然の結果といえます。

「ジャパン・パラドックス」を解決するための答えとして、日本でのPCR検査件数の少なさを指摘する海外メディアは数多く存在します。

英オックスフォード大研究者らが公開しているPCR検査件数の統計によると、イギリス時間3月20日までの集計では、韓国が31万件超、イタリアが20万件超、アメリカが10万件超ですが、日本はわずか1万5000件ほどに留まっています。

【 国ごとのPCR検査状況 】
新型コロナウイルス6
各国の比較:山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信 より引用

日本のPCR検査件数が諸外国と比べて、かなり少ないことは間違いありません。

このことは海外から批判の的になっています。

「日本で感染者数が低いのは検査をしていないからで、他国と同じように検査数を増やせば欧米とさほど変わらない数の感染者がいるのではないか?」といった疑惑は、数多く寄せられています。

なかには「東京オリンピックがあるため、検査をあえてしないことで感染者数をごまかしていたのではないか」という批判もありました。

そんななか、米コロンビア大学の専門家が「日本のやり方は博打であり、事態が水面下で悪化し、手遅れになるまで気づかない恐れがある」と警鐘を鳴らしたことを機に、そのような考え方が欧米でのコンセンサスになった感があります。

「ジャパン・パラドックス」の謎が「PCR検査数が少ない」ことで解けるのであれば、こんなに簡単なことはありません。

ですが、さらなる難題が待っています。

それは、「人口あたりの致死率」においても日本は、世界各国と比べて明らかに低いことです。

新型コロナウイルス対策の効果を知るうえで、現在もっとも信頼のおける指標とされているのが「人口あたりの致死率」です。

先に「死亡者数」について紹介しましたが、国ごとに人口が異なるため、単純に死亡者数を比べるだけでは実態を把握できません。

新型コロナウイルスが世界的に蔓延した今、人口が多い中国やアメリカで「死亡者数」が多く、人口が少ない小国や都市国家で少ない傾向にあるのは、当然のことといえます。

だからといって単純に死亡者数を感染者数で割って致死率を計算してみても、あまり意味がありません。

なぜなら感染者数という分母が大きくなればなるほど、致死率は小さくなるからです。

逆に日本のように主として症状が出た人にPCR検査を絞っている状況では感染者数が少ないため、死亡者数を感染者数で割れば致死率が大きな値になるのは当然です。

たとえばA国で死亡者数が10人、感染者数を100人とした場合、
10 ÷ 100 = 0.1 となるため、致死率は 0.1 です。

一方、B国で死亡者数が10人、感染者数を 30人とした場合、
10 ÷ 30 = 0.333となるため、致死率は約 0.3 です。

この場合、数字のうえではB国はA国よりも致死率が3倍高いことがわかります。

したがって「新型コロナウイルス対策において、A国はB国よりも優れている」と結論づけるのであれば、それは大きな間違いです。

A国とB国ではPCR検査の取り組み方が異なるため、分母となる「感染者数」のカウントの方法が根本から違います。それを無視して強引に致死率を比べたところで無意味です。

この単純な間違いを、少なからぬ日本のマスメディアが犯しました。「日本での致死率が韓国に比べて3倍以上高い、日本は韓国に学ぶべきだ」とする論調が一時目立ったのが、それです。

症状にかかわらずドライブスルー検査などを徹底している韓国と、症状が出た人、あるいは感染者と濃厚接触した人だけに絞って検査をする日本とでは、感染者の数が大きく違います。

死亡者数を感染者数で割ることで得られる致死率を比べれば、感染者数が多い韓国の方が日本よりも低い値になるのは当然です。

しかし、そのことが感染対策の優劣を決しているわけではありません。

そこで、真の致死率として注目されているのが「人口あたりの致死率」です。

人口100万人あたり何人の人が新型コロナウイルスの感染によって死亡しているかを比較することで、その国の感染対策が成功しているか否かを計ることができます。

各国の比較データは https://www.worldometers.info/coronavirus/ を見れば、すぐにわかります。

4月14日時点の主要国の人口100万人あたり死亡者数は下記のとおりです。

アメリカ 71人
スペイン 380人
イタリア 338人
フランス 229人
ドイツ  38人
イギリス 167人
中国   2人
イラン  55人
韓国   4人
日本   1人

100万人あたりの死亡者数を比べてみても、日本が突き抜けて低いことがわかります。

「人口あたりの死亡者数」は、PCR検査数の多寡によって変わる感染者数の大小とはまったく関連しません。

つまり、PCR検査数が少ないことを理由に「ジャパン・パラドックス」を覆すことはできない、ということです。

その3.「ジャパン・パラドックス」の謎を解く

では、なぜ「ジャパン・パラドックス」が起きているのでしょうか?

残念ながらはっきりとした答えは、まだ出ていません。一般的に考えられる理由として、下記のことが指摘されています。

- 生活習慣の違い -

日本人が当たり前に行っている日本ならではの生活習慣が、感染の拡大を防いでいるとする論です。たとえば手洗いの習慣です。

手洗い
日本人であれば、トイレのあとに手を洗うのは当然の行為です。ところが海外は違います。海外に行った際に公衆トイレで観察してみれば、そのことはすぐにわかります。手を洗うことなく出ていく外国人の、なんと多いことか!

食事の前に手を洗う習慣も、欧米では根付いていません。それでいてハンバーガーなど手づかみで食べる食品が欧米では大人気です。

よく言われることですが、衛生観念に関して日本は世界トップです。日本人は幼少の頃から手洗いやうがいを、日常生活の一部として当たり前に行ってきました。新型コロナウイルスが発生する前から手洗いやうがいの習慣が根付いていることは、他国に比べて大きなアドバンテージです。

マスクをつける習慣も、日本では新型コロナウイルスが流行る前から定着しています。一方、欧米では健康な人がマスクを着ける習慣がありません。

つい最近まで欧米では、マスクを着けるのは感染症で入院した人と周知されており、街中でマスクを着けていれば病院を抜け出した人とみなされていたほどです。

握手
また、欧米のように挨拶代わりにハグやキスをしたり、握手を交わす習慣も、日本にはありません。

家に入るときに靴を脱ぐかどうかの習慣も、日本と欧米では異なります。どちらの生活空間がより清潔であるかは、説明するまでもないでしょう。

こうした様々な生活習慣の違いが、「ジャパン・パラドックス」が起きている理由のひとつと考えられています。

生活習慣の違いが疫病の流行を防いだ例として、中世ヨーロッパでペストが流行した際のポーランドをあげられます。

ペストによってヨーロッパの人口は60%減ったとされていますが、奇跡的にペストの被害を免れた国があります。それがポーランドです。

その理由はポーランドの生活習慣にありました。ポーランド人はよくウォッカを飲みますが、飲むばかりではなく、ウォッカでテーブルを拭いたり、トイレなどの清掃に用いる習慣があったのです。

つまり現代から振り返ると、ポーランドの人々は身の周りのものをアルコール消毒していたことになります。そのことがポーランドの人々をペストの蔓延から救いました。

私たちがまだ気がついていない日本の何らかの生活習慣が、新型コロナの蔓延を防いでいる可能性もあります。

- 医療体制の違い -

日本で生活していると気がつかないかもしれませんが、日本の医療体制は世界各国と比べて極めて恵まれています。

ことに病院の数の多さは際立っています。たとえばアメリカと比べてみましょう。

アメリカの人口は日本の2.5倍、面積に至っては日本の約25倍です。

では、日本とアメリカで病院数が多いのはどちらの国だと思いますか?

答えは、日本です。アメリカの病院数は6146施設ですが、日本は8372施設とアメリカをはるかに上回っています。

さらに日本には、病院とは別に「診療所」があります。「診療所」と「病院」の違いは病床数にあります。病床数が20床以上あれば「病院」、20床未満であれば「診療所」です。

実際には病床をひとつも持っていない診療所もあるため、それらを除外し、病床を有する診療所のみを数えると、6934施設存在します。

つまり、実際のところ日本には病院と有床診療所を併せて1万5306施設もの医療機関がある、ということです。

実は人口1000人あたりの医療病床数を比べるOECD統計によると、日本は13.6となり圧倒的に世界第1位です。アメリカやイタリア・スペインなどは 3~4 に留まっています。

新型コロナウイルス1
病床数の推移:厚労省 より引用

医療病床数が多ければ多いほど、より多くの患者を受け入れられるため、医療崩壊を回避できます。

「医療病床」といっても、実際には様々な形態に分かれています。新型コロナウイルスで問題となるのは急性期病床の数です。

「急性期」とは簡単に言えば「病気になりはじめた時期」のことです。急性期には症状が急激に現れるため、刻一刻と変化していく患者の状態をしっかりと把握することが必要になります。

下の図表は人口1000人あたりの急性期医療病床数を各国ごとに表したものです。

新型コロナウイルス2

急性期医療病床数においても日本は世界トップです。

日本での致死率が低く抑えられている理由として、病床数の多さが大きく影響していると考えられます。

ただし、世界各国と比べて余力があると思われていた日本の病床数も、感染者が激増していることですでに危険信号が灯っています。

感染者の症状に合わせて病床数を確保することは、喫緊(きんきつ)の課題となっています。

さらに日本の医療体制の特質として、医療機関におけるCT、MRIの普及率が世界各国と比べて突き抜けて高いことがあげられています。ことにCTの台数は人口あたり世界第1位です。

CTやMRIは肺の断層画像を撮ることにより、肺炎患者を早期に発見することに役立っています。肺炎患者のなかには新型コロナの感染者も含まれています。

そのことが新型コロナの重症者、死亡者の抑制につながっていると考えられます。

- 医療保険制度の違い -

海外で暮らしていて、つくづく思うことは、日本の公的医療保険制度の優秀さです。もちろん日本も、公的医療保険制度をめぐって様々な問題を抱えています。ですが世界各国と比べたとき、日本の医療保険が受診者にとって極めて恵まれた制度になっていることも事実です。

福祉の充実した北欧の国々と比べて日本の医療保険制度が見劣りすると批判する声もありますが、小国とは異なり、日本のような人口の多い大国で国民皆保険によって経済的弱者の人々をも手厚く守る制度があることは、多くの国の住民から羨ましがられています。

たとえば新型コロナに関してアメリカでの一般的な治療費を見てみると、検査を受けるだけでも3000ドル(約32万円)を超える医療費を請求される事例が相次いでいます。検査の結果が陰性であってもです。

米疾病予防管理センター(CDC)は新型コロナウイルスに関わる費用を請求しませんが、入院にかかる費用や他の病気を検査するための費用は免除されないため、最終的には高額な費用が請求されるようです。

3000ドルの医療費を請求された場合、医療保険に入っていたとしても、およそ1400ドル(約15万円)の自己負担が生じるため、経済的負担は重くのしかかることになります。

日本と異なり、アメリカでは医療保険に加入していない人が2018年の時点で2750万人ほどいます。その場合は当然ながら全額自己負担となります。

さらに検査で陽性となれば入院が必要となるため、数百万円の治療費が発生します。

そのため、新型コロナウイルスに関連する検査や治療にかかる費用をまかなうことができずに、個人破産をする人々も多く出てくると危惧されています。

あるいは検査を受けることも治療費を払うこともできないため、症状が出ても病院に行けない人々も相当数いると考えられます。世界最大の経済大国であるアメリでさえ、貧困層の人々には辛い現実が待っています。

まして経済的に豊かでない国々の医療保険制度がどれほど貧弱なことか、容易に理解できることでしょう。

金がなければ医療を受けられない、それが世界の現実です。

幸い日本では公的医療保険制度が充実しているため、症状が出ているにもかかわらず、治療費が払えないから病院に行かない人々がいるとは想定しにくいものがあります。

手厚い医療保険制度も「ジャパン・パラドックス」の理由のひとつと考えられます。

- 日本型のBCGワクチン接種を受けていること -

科学的な検証の結論はまだ出ていないため、今の段階では仮説の域を出ませんが、世界のBCG接種状況と人口あたりの致死率との間に、明らかな相関関係があることが知られています。

【 世界のBCG接種状況 】
新型コロナウイルス3
ReseachGate より引用

地図の茶色のエリアがBCG接種を義務づけていない国を表しています。パッと見てわかるとおり、アメリカとイタリアが含まれています。

アメリカとイタリアは人口あたりの致死率が高い国です。このことからBCG接種を義務づけていない国の致死率が高いことがわかります。

一方、紫色のエリアはBCG接種の義務化をやめた国です。茶色と紫色を合わせたエリアのなかに、致死率の高い国がすべて含まれています。

このことから致死率が高い国は、現在BCGを義務化していない国に集中していることがわかります。

地図のオレンジ色のエリアはBCG接種を義務づけている国です。日本や中国・韓国・ASEAN諸国・ロシアや中南米など広範囲に及びますが、これらの国はいずれも致死率が低い国です(イランのみ例外で致死率が高い)。

このことからBCG接種を義務づけている国の致死率は、いずれも低いことがわかります。

このようにBCG接種が義務化されているか否かで致死率に差が生じていることから、両者の間に相関関係があることが推定できます。

先にイランのみ例外と記しましたが、これには理由があります。実はBCGには様々な細菌株が存在します。

BCGのうち日本株とソ連株を使う国は致死率が低く、デンマーク株など日本株とソ連株以外の細菌株を使う国の致死率は高い傾向にあります。

イランとイラクは隣国同士ですが、日本株のBCG接種を行っているイラクでは致死率が低く、その他の細菌株を使っているイランの致死率は高くなっています。

同じ現象はドイツでも確認されており、ソ連株を使っていた旧東ドイツ地域とデンマーク株に切り換えた旧西ドイツ地域では、感染率に大きな差が生じています。

ただし、これらの現象はあくまで推論に過ぎず、科学的な検証が現在進められている状況です。

BCG接種率の高さが新型コロナの重症化を抑えているという説とは別に、「日本人は新型コロナの免疫を持っているのではないか」という新たな仮説も取り沙汰されています。

新型コロナには中国からもたらされたS型と、欧米から流入してきたL型があることが知られています。L型はS型が変異したウイルスであり、より強い感染力をもつことがわかっています。

そこで「日本には昨年末からS型が流入し蔓延したことで、日本人の一部がすでに免疫を獲得したのではないか、だから欧米とは異なりL型による重症化が少ないのではないか」との仮説があります。

この仮説の論拠とされるのが、今年に入ってインフルエンザの流行が急速にストップしたことです。昨年末まで日本では、インフルエンザの流行が史上最高ペースで進んでいたにもかかわらずです。

【東京都の定点医療機関当たりインフルエンザ患者報告数 2020年4月12日(第15週)まで】
新型コロナウイルス5
インフルエンザの流行状況(東京都 2019-2020年シーズン):東京都感染症情報センター より引用

上の図の赤色の線が東京都における今年度のインフルエンザの患者数です。昨年末にかけて例年になく、傾斜が急であったことがわかります。

この分だと今年は大流行すると思われていましたが、例年とは異なり、患者数は増加することなく収束しました。グラフを見れば、明らかに他の年度と異なる曲線を描いていることが一目瞭然です。

その原因として、新型コロナのS型がインフルエンザの感染を阻害している可能性が指摘されています。ウイルスが同時には流行しないことを科学的に追求した論文が、いくつか出ています。

こうして流入した新型コロナS型で作られた免疫が新型コロナL型を弾いているのであれば、ワクチン開発にも大きな前進があるかもしれません。

BCG接種率との関連性にしても、日本人がすでに免疫を獲得しているとの仮説にしても、現時点では科学的に認められていません。

- 日本方式のクラスター対策が功を為している -

新型コロナを封じ込めるための対策に、世界各国が真剣に取り組んでいます。それぞれの国の対策が成功しているかどうかを軽々しく評価はできないものの、結果が全てであることは間違いありません。

その意味では、現時点で世界から「ジャパン・パラドックス」と呼ばれるほどに新型コロナの封じ込めに成功している日本の対策は、成功を収めているといえるでしょう。

日本の新型コロナ対策は世界各国の対応と比べても、一際異彩を放っています。

その中心となっているのは、東北大学大学院教授の押谷仁氏が率いるクラスター対策班です。クラスター対策班は厚生労働省や感染症の専門家などを中心に50人ほどで組織されたチームです。

「クラスター」とは感染者の集団のことです。クラスター対策班の仕事は、クラスターを発見しては徹底的に潰すことにあります。

具体的にはクラスターが発生した場合、関連する感染者の周囲の濃厚接触者を特定し、PCR検査を徹底して行い、そのクラスターから新たな感染者が発生しないように努めています。

クラスター対策班によってクラスターの発見、追跡、収束が適確に行われたことにより、これまで日本での感染爆発が防がれてきたことは事実です。

欧米でもクラスター潰しは行われていますが、日本ほど集中して徹底的には行われていません。欧米や韓国がとった措置は、PCR検査を広範囲に多く行うことで感染者をあぶり出し、隔離し、感染の拡大を防ぐことです。さらに強権力を伴う都市封鎖によって人と人との接触を強引に減少させることで、新型コロナの封じ込めを計りました。

しかし、日本では初動からしてPCR検査を広範囲に数多く行うことも、都市封鎖も検討されていません。

なぜなら、現実的に不可能だからです。

武漢のような都市封鎖は、憲法に制約のある日本ではできません。PCR検査にしても日本の体制では限界があり、すぐに検査数を増やせる状況にはありませんでした。

韓国やシンガポールで大規模なPCR検査が可能だったのは、両国ではSARSの際に多大な感染者を出したため、すでに十分な準備態勢が整っていたからです。ところが日本ではSARSの感染者は1人も出ていません。そのため、大量のPCR検査を実施した経験もなく、準備は不十分でした。

そこでクラスター対策班の科学者たちがとった戦略が、クラスターを発見して徹底的に潰すことでした。

その際、PCR検査の枠を広げるのではなく、クラスターの発見と特定、経過観察の調査のためにPCR検査を絞り込むという「逆転の発想」がなされました。

より多くの感染者を見つけるためにPCR検査を行うのではなく、クラスターを潰す目的のためにPCR検査を有効に活用するという選択がなされたのです。

そのため、より多くの感染者を見つけるためにPCR検査を広く行っている他国と比べると、検査件数はかなり抑制されているように映ります。

こうした日本独特のクラスター対策は「日本式」と呼ばれています。

「ジャパン・パラドックス」と言われるほどの結果を残している「日本式」ですが、検査件数が少なすぎるとの批判を欧米から浴びていることは、これまでに紹介したとおりです。

国内においてもテレビのワイドショーを中心に「PCR検査を希望する人は全員受けられるようにすべきだ」との批判が連日のように繰り返され、PCR検査を拡充すべきか否かをめぐっては、大きな議論になりました。

その議論は今も続いています。

新型コロナウイルス特集の次回はPCR検査件数をめぐる真実について追いかけてみます。
続きはこちら→新型コロナウイルス【未来のシナリオ2/3】日本でPCR検査数が低い本当の理由

ドン山本
ドン山本
タウン誌の副編集長を経て独立。フリーライターとして別冊宝島などの編集に加わりながらIT関連の知識を吸収し、IT系ベンチャー企業を起業。

その後、持ち前の放浪癖を抑え難くアジアに移住。フィリピンとタイを中心に、フリージャーナリストとして現地からの情報を発信している。

監修サイト:日本とフィリピンの第二次世界大戦

3 コメント

  1. 現実問題として諸外国に比して死者数が増えていないのだから対策はうまく言っていると考えるのが筋。ワイドショーの「日本は全くダメで、欧米が素晴らしい」というのは現実を無視してジャパンバッシング願望が先走っている。

    検査数を増やせば感染者「認定」が増える事は一定の真理だが、それは「検査をしていないから感染者数が少ないのであって、欧米並みに検査をすればそれ以上に感染している」ということを意味するものではない。

    日本は検査をしていないから感染者も死者数も少ないんだ!と力説する論理破綻をきたした日本破壊願望者が後を絶たない。そいつらの論調は、「現時点で感染率が7%なら、検査を全国民にすれば1.25億人の7%、すなわち、875万人が感染しているはずで、致死率が3%なら既に262,500人が亡くなっていて、政府がそれを隠ぺいしているのだ!」ということらしいが、いかにキチガイじみているかお分かりいただけるだろうか。

    そして最終的にアベノマスク批判や、安倍ゲリ批判などを主張しだす。つまりは単なる安倍嫌いで、そこには論理的思考は一切存在せず、ただただ「安倍を批判するためだけに日夜適当な理由を探している」から、こういった明らかにおかしな間違いを犯す。

    個人的に安倍嫌いというのは勝手にすればいいが、そのために嘘をついて日本人全体の不利益になる活動をするのは本当にやめていただきたいものだ。

  2. 昔、原発推進する政府その受益団体原子力ムラと反原発派のいさかいを思い出す。危機管理もできないのに世界一の技術、医学力を持っているとノボセテいる。原発も医学も借り物、危機管理となると福島事件のごとく怪しいものである。クルーザ船に対する厚労省の新型コロナウイルスに対するアマチュア的初期活動(厚生省技官と事務員などの常識無視の業務)から始まった日本型PCRデータ活用法はいったい何のための検査なのか理解に苦しむ。検査の数を増やせば感染者が増える。当たり前のこと。増えると病院が忙しくなるからテストをしない。熱が出てクリニックへ行ってもコロナウイルスのPCRテストは受けさせてもらえない。若し感染していたら、家族親戚近所のクラスター。安倍のマスクの混乱。

  3. ICU病床数に一切触れていないのはなぜなのか。
    現在の医療崩壊の現実を見ると、何らかの作為しか感じないが。

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