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アフターコロナ#02 なぜ中国、韓国、台湾のコロナ対策を日本では真似できないのか?

前回は「なぜ感染者や医療従事者への偏見と差別が起こったのか?魔女狩りがもたらす監視社会の到来」について紹介しました。

今回も引き続き「アフターコロナの世界」として懸念されている監視社会について追いかけていきます。

今回は新型コロナの感染拡大の封じ込めに成功したとされる中国・韓国・台湾の監視・統制システムについて紹介します。
「韓国は素晴らしい」「日本も韓国を見習うべきだ」と主張するマスコミやコメンテーターが、全く理解していない(もしくは話していない)2つの真実とは?

新型コロナ封じ込めに成功した監視・統制システム

新型コロナは大きな爪痕を世界中にもたらしました。5月24日時点の全世界の死者数は、34万人を超えています。これほど多くの人々が一気に亡くなったのは、第二次世界大戦以来のことです。

しかもコロナ禍は完了したわけではなく、現在も日々被害を上積みしています。この混乱がいつまで続くのか、人類は未だに先を見通せない状況にあります。

ことに欧米各国が被った痛手は、アジア各国をはるかに上回ります。家族や友人など周囲に死があふれた欧米の人々にとってみれば、これまでの価値観を覆すほどの衝撃を受けたであろうことは間違いありません。

混迷を極めた欧米とは対照的に、いち早く新型コロナの封じ込めに成功したのは中国・韓国・台湾です。

もっとも中国は民主主義国ではないため、当局の発表する情報を真に受けるべきではないとする指摘もあります。それでも様々な情報から照らし合わせても、以前に比べて新型コロナの脅威が格段と薄らいでいることは、たしかといえそうです。

世界が新型コロナに翻弄されるなか、中国・韓国・台湾が成功を収めた、ある共通する対策が注目を浴びています。それは、最先端の科学が可能にした監視・統制テクノロジーを活用することで、新型コロナの封じ込めを図る手法です。

その核となっているのは、スマートフォンの位置情報を使うことで感染者や濃厚接触者を追跡する「デジタル感染追跡」です。

これまで人権やプライバシーの観点から監視・統制システムの導入には慎重な姿勢を見せてきた欧米でも、中国や韓国・台湾などの成功を目の当たりにすることで、これらのシステムを取り入れる方向へと一斉に舵を切っています。日本とて例外ではありません。

では、中国や韓国・台湾は監視・統制システムを実際にどのように活用することで、新型コロナの封じ込めに成功したのでしょうか? 

その1.中国編~入念に準備された監視システムの功罪

- 携帯キャリアの解約が一気に増えた理由とは -

3月の下旬に中国から次のような衝撃的なニュースがもたらされ、ネットを中心にちょっとした騒動になりました。

→【中国】コロナで携帯契約が大幅減?工情省が説明

中国の4大通信キャリアの回線が、今年の1~2月で1440万回線も解約された、とのニュースです。

中国が新型コロナの死者数を隠蔽しているのではないかとの疑惑は、以前から流れていました。そこへ「1440万回線解約」のニュースが飛び込んできたため、回線を解約したのは持ち主が亡くなったからではないかとの憶測を呼びこみ、中国での実際の死者数は膨大な数に上るに違いないとネット上は騒然となりました。

しかし、冷静に考えてみれば、新型コロナで1440万人もの人が亡くなったと推測することには、さすがに無理があります。いかに中国が共産党による一党独裁の国であるとはいえ、一千万人を超える死者を闇に葬るとなれば、どこかで必ずほころびが生じるはずです。

実際のところ、都市封鎖中の武漢で行われた非人道的な行為の数々はテレビや新聞では報道されないものの、SNSなどを通してネットでは世界中で情報共有されています。もし、本当に一千万を超える死者が出ていたのであれば、その痕跡がネット上に残ったはずですが、今のところ見当たりません。

では、なぜ1440万もの回線が一気に解約されたのでしょうか?

その背景として、中国国家衛生健康委員会が濃厚接触者を検出するための「ウイルス追跡アプリ」の提供を、2月8日より始めたことが指摘されています。

このアプリのインストールが必須とされたため、一部の中国人にとっては極めて都合の悪いことが起こりました。

それは、当局に隠れて別名義でスマホをもっていたことがばれてしまう、という厄介な問題です。

中国ではスマホを契約する際に個人情報が紐付けされ、政府にすべて筒抜けになります。そのため、政府の監視を逃れるために別人の名義を借りてスマホを契約し、隠して所持する人々が少なからずいました。

ところが「ウイルス追跡アプリ」をインストールすることで、どこに行って誰と会っていたのかを示す記録が、政府のデータセンターに集約されることになります。

そうなると、行動履歴が同じスマホを割り出すことは朝飯前です。つまり、別名義でスマホをもっていたことが政府に知られてしまう、ということです。

政府の監視を逃れるために別名義でスマホをもっていたとなれば、その人の信用は地に落ちます。自由主義の国ではないだけに、ひとたび政府から目をつけられると、一族もろとも不当な扱いを受ける恐れがあります。

こうした事態を避けようと、別名義で契約しているスマホをもっている人たちが一斉に解約に走ったため、一気に解約件数が膨れ上がったようです。

多くの中国人を震え上がらせたこの追跡アプリは、中国IT大手として知られるアリババとテンセントの決済システムと連動することで、高い精度を実現しています。

- 健康コードによる安全の確保 -

アリババ傘下のアリペイは、中国における電子決済の大手として揺るぎない地位を築いています。2019年第3四半期の時点で市場シェアの実に55%を独占するほどです。

そのアドオンアプリとして組み込まれたのが「アリペイ健康コード」です。

朝日新聞より引用

このアプリをインストールすると、個人データを元に判定されたユーザーの健康状態が「緑・黄・赤」のいずれかの色のQRコードとして表示されます。

どの色が表示されるかによって、ユーザーの行動は制限されます。QRコードが緑の場合は街中を自由に移動することができます。しかし、黄色の場合は7日間、赤色の場合は14日間の自己隔離が義務づけられます。

どのようなアルゴリズムに基づいて判定されているのかは公開されていませんが、米ニューヨーク・タイムズによると自己申告された健康状態のほかに、過去に新型コロナの感染者との接触や感染地域への立ち入りがあったかどうかなどが考慮され、政府がもっている公共交通機関の利用データも反映されている、としています。

ただし、判定については不可解なことも多く、ある日突然赤や黄になることもあれば、いきなり緑に戻ることも少なくないようです。

交通機関を利用する際や学校や商業施設、病院や行政機関などの建物に入る際には、ヘルス・チェックポイントにて健康コードを必ずスキャンする必要があります。このとき、健康コードが黄や赤だと施設への立ち入りを拒絶されます。

チェックポイントでスキャンした記録はすべて保存されるため、当局はユーザーの移動状況を正確に把握できます。

また、健康コードのアプリをインストールした時点で、その位置情報やユーザーの個人情報が警察にも送信される仕組みになっています。

健康コードが黄や赤の人が自宅から離れれば、すぐにわかるため、警察が取り締まることも可能です。

アリペイとは別に、11.6億人のアクティブユーザーを抱えるインスタントメッセンジャーアプリ”WeChat”を運営するテンセントもまた、独自の健康コードアプリを提供しています。

中国では地方自治体ごとにアリペイや WeChat と提携することで独自のシステムを構築しているため、これまでは自治体を移動するたびに複数の健康コードをもたなければいけない状況でしたが、最近は共通のインターフェースやデータを共有する仕組みが構築されたことで、ひとつの健康コードで事足りるように改善されています。

ユーザーは健康コードによって、自分が新型コロナの感染者と接触したかどうかを正確に知ることができます。

たとえば誰か感染者が出た際は、その感染者の行動履歴をたどることで、いつどの店に立ち寄ったのか、どのバスや電車に乗ったのかを即座にリストアップできます。次に、感染者のすぐ近くに一定時間以上いた人や、同じ車両に乗り合わせた人を割り出すことができます。

もちろん、このような煩雑な作業に人力を投入する必要はありません。AIの力を借りることでコンピュータを使って一瞬ですませることができます。

感染者と濃厚接触した可能性が高い人の健康コードは赤色に、接触が疑われる人は黄色へと変わることで注意を喚起すると考えられます。

監視社会・アフターコロナ・テクノロジー
*イメージ写真

日本では感染者が発生すると保健所の職員が入念な聞き取り調査を行い、クラスターが発生していないかどうかをたしかめます。聞き取り調査では本人の記憶が定かでない場合も多く、また意図的に伏せておきたい情報もあるだけに、どうしても不正確になりがちです。

しかし、中国では最先端の監視・統制システムを活用することで、保健所の職員に変わってAIが24時間休むことなく自動的に、これらの作業をこなします。

しかも、行動履歴はすべて克明に残されているだけに、正確にリストアップできます。AIはいっさい忖度しないため、ユーザーの隠しておきたい行動履歴であっても、すべてさらします。

さらにAIは、より敏速に、そしてより正確に接触者を発見できるようにアルゴリズムを日々進化させています。今後の伸びしろは極めて大きいといえます。

このようなシステムは、個人の人権やプライバシーが軽い中国だからこそ実行できたことですが、新型コロナの封じ込めに大きく貢献したことは紛れもない事実です。

さらに、健康コードに加えて中国国内に網羅された監視カメラが、新型コロナの蔓延を防ぐための大きな一助になっています。

- 監視カメラによる安全の確保 -

監視カメラ
中国における監視システムの元締めとなっているのは「スカイネット(天網)」です。

スカイネットは都市部を中心に2005年より開始されました。国内の至る所に設置された監視カメラによるネットワークが、その核です。

監視カメラの技術にかけては、中国は世界の最先端を走っています。監視カメラといっても、治安のために映像を単に記録しているだけではありません。AIを使うことで監視カメラの映像から人物を特定できる顔認証システムが、すでに実現しています。

そのため、当局がその気になれば、感染者が自宅を離れたあとの行動を監視カメラを活用することで、すべてリアルタイムに追跡できます。

さらに監視カメラの顔認証システムには、体温測定の機能も組み込まれています。これにより体温の高い人物が街中を歩いていれば監視カメラが即座に見つけ出し、警報を発します。

中国国内の監視カメラの多さは世界でもずば抜けており、2019年8月の時点で2億台が設置されています。イギリスの調査会社が世界の主要都市を対象に住民千人当たりの監視カメラ設置台数を調べたところ、上位10都市のうちの8都市を中国が占めたほどです。

中国政府はさらに監視カメラの設置を進め、2022年までに6億2600万台へと大幅に増加することを決めています。そうなると、国民2人あたりに1台の監視カメラによる監視が行われることになります。

スカイネットは監視カメラばかりでなく、警官のつけるスマートグラスとも繋がっています。スマートグラスは外見上は、ただのサングラスにしか見えませんが、実は顔認証システムを備えており、指名手配された人物などと一致すると警告が表示されます。

スカイネットによる徹底した監視システムは、一朝一夕で完成したものではありません。中国政府は以前から全国民の監視を目指して入念に準備を進めてきました。

こうした監視システムが今回の新型コロナのパンデミックを受け、応用されたのです。

中国は監視・統制テクノロジーを国家戦略のなかに位置づけています。中国の監視システムはコロナ以前から全体主義や独裁主義の国々から注目されています。

2019年にアメリカのブルッキングス研究所がまとめたレポートによると、中国の監視システムは少なくとも18カ国に輸出され、36の政府がセミナーやトレーニングを受けたとされています。

この事実が示すように、もともと監視システムは民主主義の国とは相容れない体制のもとで発展したものです。しかし、新型コロナの脅威を受け、民主主義国にも急速に広がりつつあります。

その2.韓国編~民主主義国の枠を取り払う徹底した監視システム

早期に新型コロナを封じ込め、世界的に高い評価を受けたのは民主主義国の韓国です。

日本においても、韓国ではドライブスルー形式の検査をいち早く整備するなど PCR検査を徹底的に行ったことが紹介され、ワイドショーのコメンテーターらに連日のように賞賛されていました。

こうしたマスメディアに煽られたことで、「韓国は素晴らしい」「日本も韓国を見習うべきだ」との世論が形成されました。

しかし、「日本も韓国のように対応すべきだ」と主張する人々は、そのためには韓国が新型コロナの封じ込めに成功する要因となった2つの制度を、日本人が受け入れる必要があることを理解しているのでしょうか?

そのひとつは監視社会化を受け入れること、もうひとつは徴兵制の復活です。

- 徴兵制が実現した大量のPCR検査 -

韓国が大量のPCR検査をこなせた背景には、徴兵制が大きく影響しています。

韓国の男性は憲法により、徴兵制が義務づけられています。なぜ平和な現代にまで徴兵制が残っているのかといえば、1950年に始まった北朝鮮との朝鮮戦争が、今も続いているからです。

1953年に休戦協定が結ばれたことで実際には戦闘は行われていないものの、まだ平和条約が締結されていないため今も戦時中であり、いつ戦闘が再開されるかわからない状況が続いています。

戦時中に徴兵制が維持されるのは、ごく自然なことです。徴兵制度の一環として、公衆保険医の制度があります。

医学部を卒業して医師国家試験に合格した男性には、3つの選択肢があります。一般兵として2年間服務するか、軍医官として3年間服務するか、公衆保険医として軍隊に入る代わりに医療施設が整っていない田舎や離島、あるいは刑務所などで3年間服務するかの3つです。

一般兵となれば服務期間が1年は短くなりますが、その間はほぼ無給に近く、兵士として鍛えられるため過酷な日々が待っています。

そのため、ほとんどの医師は服務期間が長くても軍医官か公衆保険医になる道を選びます。軍医官と公衆保険医には、一般の医師と比べれば薄給ではあるものの、軍将校と同じ程度の給与が支給されます。

韓国で大量のPCR検査が可能だったのは、公衆保険医を動員できたからこそです。

韓国のPCR検査といえば、ドライブスルー検査ばかりが目立って報道されました。ドライブスルー検査は2009年に新型インフルエンザが流行した際に、アメリカのスタンフォード大学が開発した検査手法です。

しかし、韓国でのPCR検査の内訳を見てみると、ドライブスルー検査の比率はそれほど高くはありません。たとえば 7000人近くの感染者が発生した大邱市でのPCR検査におけるドライブスルー検査の比率は、わずか16%ほどに留まっています。

では、どの検査手法がもっとも多かったのかといえば「移動検診」です。大邱市で行われたPCR検査のうち、移動検診の占める比率は 54%にも上っています。

「移動検診」とは、症状が出た人の自宅などに医師と保健所の職員が訪問することで検体を採取し、PCR検査に回す手法です。

すでに症状が出ている人をドライブスルー検査の場所まで移動させることにはリスクが伴いますが、医師が戸別訪問することで検体を採取するのであれば二次感染を防げるため、理にかなっています。

ただし、一軒ごと回る手間がかかるだけに効率が悪く、一日に検査できる数には限界があります。検査件数を稼ぐためには、多くの医師を一斉に動員して移動検診を行うよりありません。

この移動検診に動員されたのが、公衆保険医の一部です。新型コロナのメガクラスターの発生を受け、韓国政府は公衆保険医に対して感染対策の最前線で働くことを命じました。

通常、保険医になる予定の医師に対しては4週間にわたる講習が行われますが、今年は講習なしで即座に現場に派遣しています。その数は2700人以上です。

しかも、政府が公衆保険医らの宿泊所を手配する時間もないため、宿泊先は自分で探すようにと「無茶ぶり」とも思える指示が下されています。

それでも公衆保険医は軍役であるため、国家の命令に逆らうことはできません。命令を拒否すれば厳しい刑事処罰が待っています。

韓国が膨大なPCR検査件数を達成できた背景には、こうした公衆保険医の奉仕という犠牲があったことを忘れるべきではないでしょう。

また、韓国では大量のPCR検査をこなしたことで一時は医療崩壊の危機にさらされましたが、軽症者を収容するための「生活治療センター」を設けたことで危機を乗り越えています。

軽症者を生活治療センターに集めて隔離したうえで適切な治療を行うことは、家庭内感染などの二次感染を防ぐとともに、医療崩壊を避けることにつながります。しかし、問題は膨大なマンパワーを必要とすることです。

ところが、韓国政府は公衆保険医に生活治療センターでの常勤を命じることで、あっさりとこの問題を解決しました。

では、韓国と同じように日本でも大量の移動検診を行ったり、軽症者のための隔離施設を設けて集中管理ができるのかといえば、現実的には、まず無理と考えられます。

日本の医師はそれぞれの勤務先に属し、勤務地にて医療の空白が生まれないように奮闘しています。日本政府が移動検診や隔離施設での治療を要請をしたところで、応じられる医師はほとんどいないことでしょう。

だからといって韓国のように、国家が国民に一方的に命令を下すような法体系を日本はもっていません。純然たる民主主義国である日本において、国家の指示と統制によって労働力を強制的に動員することなど、できるわけがありません。

できもしないことに対して「韓国と同じようにするべきだ」と主張するのは、あまりに無責任です。

日本と韓国では国家のあり方が根本的に異なっていることを理解する必要があります。

- デジタル監視が実現した新型コロナの制御 -

日本が韓国のように新型コロナ対策を進める上で徴兵制と並ぶ障害となるのは、デジタル監視を国民が受け入れるかどうかです。

PCR検査の多さばかりが強調される韓国ですが、新型コロナを抑えこめた背景には、中国と比べても、さほど見劣りしないデジタル監視の取り組みがあったことを欧米のメディアは伝えています。

韓国では国内の86万カ所に設けられた携帯電話の基地局からユーザーの位置情報を取得し、国民一人ひとりの動きをリアルタイムに把握する監視システムが整備されています。

さらに国内の都市部には、2014年の時点で800万台を超える監視カメラが設置され、必要があれば政府が個人の動きを徹底的に追跡できる態勢になっています。2010年に行われた調査によると、一人が1日に平均して83.1回以上も監視カメラに撮影されていたと報じられました。監視カメラの設置は信じがたいことに、更衣室やバスルームにまで及んでいるといわれています。

クレジットカードやデビッドカードの使用履歴も政府の管理するデータベースに蓄えられるため、個人の行動や趣味嗜好まで筒抜けです。

こうしたデジタル監視のシステムがもともと造られているところに今回のパンデミックが生じたことを受け、韓国行政安全部は防疫体制の一環として専用のモバイルアプリを開発しました。

このアプリをインストールすると、近くに感染者が出るや、その感染者の詳細な行動履歴などが住民に通知されます。携帯電話の位置情報やカードの使用歴、監視カメラの記録から割り出した訪問施設などの情報が、感染者本人の同意なく公開される、ということです。その情報をもとに、ユーザーは感染者と接触した可能性を自分でチェックできる仕組みになっています。

感染者の情報はwebにも公開されるため、誰でも見られます。

感染者は匿名化されているものの、その行動履歴や付随する情報が明らかにされるため、個人を特定できる可能性は大いにあります。

日本でも感染者の情報をどこまで公開すべきかは議論の的になり、地方自治体ごとに対応が分かれました。

韓国では、そのような議論が行われることもなく、政府によって強制的に感染者の行動履歴など多くの情報が公開されています。医療上の守秘義務などあったものではなく、一歩間違えれば感染者への差別や偏見につながりかねない危うさを抱えています。

軽症患者や感染を疑われて自宅待機を命じられた人たちの行動把握にも、デジタル監視は活用されています。監視対象の人にはGPS機能のついたリストバンドが配布され、アプリと連動して行動を追跡できるシステムが構築されています。

対象者が自宅から無断で出ると警報が鳴り、当局の関係者が駆けつけるなど、監視の効率化に一役買っています。韓国では自主隔離対象者が一時は3万人ほどいましたが、監視システムによって人手をかけることなく、徹底した管理に成功しました。

- デジタル監視の土台は「住民登録番号」にあり -

韓国のデジタル監視も中国と同様に一朝一夕で構築されたものではなく、数十年の時間をかけて入念に準備されてきた賜です。

たとえば携帯電話にしてもカードにしても、ユーザーの個人情報と紐付けされていなければ、情報としての価値を持ち得ません。

しかし韓国では、この問題をすでにクリアしています。

デジタル監視の土台となっているのは、韓国人であれば誰でも出生届と同時に一律に割り振られる13桁の「住民登録番号」です。番号のなかには生年月日や性別・出生地などの個人情報が含まれています。

全国民を番号で管理するのは、国民の生活すべてをデジタル管理するためのスタートラインです。

韓国では16歳以上の国民全員に「住民登録証」の所持が義務づけられています。住民登録証には「住民登録番号」が記載されており、公的身分証として大きな役割を果たします。

銀行口座の開設やクレジットカードの申し込み、ネットや携帯電話の契約、車や不動産の売買など、本人確認が必要なサービスでは必ず「住民登録証」の提示が求められます。国民の利用する主要なサービスのすべてを「住民登録番号」と紐付けするためです。

紐付けされた、あらゆるデータは、日本の総務省にあたる行政自治部の管理するデータベースに蓄積されています。

そのため韓国当局は「住民登録番号」から、個人の身元や学歴・職歴・病歴、クレジットカードの使用状況、預貯金の額から納税額、さらにはその人物の思想や宗教までも一瞬にして引き出すことができます。

韓国ほど徹底してはいないものの、日本でも「住民登録番号」によって行政サービスのデジタル化を図ろうと試みたことがあります。

「マイナンバーカード」制度です。

しかし、日本では個人情報の収集管理に対する抵抗が大きく、マイナンバーカードの所持を国民に義務づけることはできませんでした。

マイナンバーカードの取得はあくまで任意ですが、2020年3月の時点で、わずか15.5%しか普及していません。日本人の大半がプライバシーを守ろうとする意識が高いことが、数字に表れています。

では、韓国では「住民登録番号」制度に対する反対の声はなかったのでしょうか?

実はここにも、戦時下の韓国が抱える特殊な事情が大きく影響しています。韓国で「住民登録番号」制度が始まった歴史は古く、冷戦によって世界が緊張状態にあった1962年からです。

続いて住民登録証の発行が始まったのは1968年です。この年、北朝鮮の武装ゲリラ部隊が韓国大統領官邸を襲撃するという大事件が起きました。

この事件をきっかけに韓国に潜入する北朝鮮の工作員をあぶりだすために、住民登録証制度が開始されました。

当時は個人情報の収集やプライバシー侵害に反対する声も上がりましたが、工作員によるテロ活動を防ぐことのほうが重要と考える世論に支えられ、住民登録証は国民生活に自然になじんでいきました。

もっとも、当時の韓国は朴正煕(パク・チョンヒ)政権による独裁が行われていたため、民主主義国とは異なる体制にあったことも事実です。政府の定めた政策に抗うことは難しい状況でした。

今日、住民番号制度や住民登録証が普及したことが、韓国のデジタル監視システムを支える基盤になっています。

- 「住民登録番号」が実現した電子政府化 -

同時に韓国は、国民生活に必要なほぼすべてのことをデジタル処理することにも積極的に取り組んできました。

その甲斐あって「韓国の役所の窓口には住民が来ない」と言われるほどの電子政府化に成功しています。

韓国では住民票であろうと印鑑情報であろうとも、転入届も納税証明もすべてオンラインで申請し、受け取ることができます。健康保険や年金、国税や地方税、免許証や自動車登録証など、すべての情報がデジタル情報として管理されているため、住所の変更などがあってもオンラインから一括して素早く手続きできます。

すべてがオンラインを通して完結するため、役所に足を運ぶ必要がまったくない状況なのです。

2018年に発表された国連の電子政府ランキングによると、韓国はデンマーク・オーストラリアに次いで世界第3位です。第10位の日本と比べると、その差は歴然としています。

日本では新型コロナ対策として国民一人あたりに10万円を支給することが決まりましたが、役所の手続きが滞り、支給が遅れていることに批判が集まっています。

しかし、対応が遅れている最大の原因は、日本の電子政府化が遅れていることにありますす。

そのことを政府の怠慢だと非難するのは、少々的外れかもしれません。マイナンバー制度による電子政府化を拒んだのは国民自身だからです。

日本国民のすべてがマイナンバーカードを所持し、銀行口座などの情報が紐付けされていれば、特別給付金の支給など数日で完了したことでしょう。

国家による個人情報の収集を拒絶してプライバシーを優先するのか、それとも利便性を求めるのか、そのバランスをいかにとればよいのかが今後の課題です。

マイナンバーカードさえ浸透しない日本では、韓国のようなデジタル監視社会を実現することなど現状では到底不可能です。

ただし、ウィズコロナが長引き、政府による国民への給付金が何度も繰り返される事態となれば、マイナンバーカードを受け入れる世論が形成される可能性は十分にあります。

そのとき日本は、韓国のデジタル監視を手本とするのでしょうか?

その3.台湾編~国民の信頼に支えられた監視社会

- 国家が管理する全国民の位置情報-

中国の圧力によりWHOから排除されている台湾ですが、新型コロナの封じ込めに最も成功した国のひとつにあげられています。

中国の武漢で新型コロナが猛威を振るい始めた頃、欧米のメディアによれば台湾は中国に次ぐ多くの感染者と死亡者を出すだろうと予想されていました。台湾と中国は距離的にも近く、両国間を行き来している台湾人は膨大な数にのぼるからです。

しかし、かつてやはり中国から発生したSARSの蔓延により悲惨な経験をした台湾は、そのときの失敗を生かし、専門家を集めた感染症対策チームを素早く立ち上げるとともに、早々に厳格な入国制限をかけました。

その際、活躍したのは最新の科学技術に基づく、デジタル・テクノロジーです。

入国者に対しては、検疫電子システムが導入されました。入国者は航空会社のカウンターでチェックインの手続きを行う際に、自分のスマホを用いて指定されたQRコードをスキャンすることで、検疫システムのサイトにアクセスします。そこで必要事項に入力するだけで、健康申告書が作成できる仕組みになっています。

飛行機が台湾に着き、スマホの電源を入れると、健康申告書を受理したことを表す認証が送られてきます。あとは入国審査の際に、その認証を提示するだけでスムーズに入国できる、というわけです。

この検疫電子システムは、単に利便性を向上させるためだけに導入されたわけではありません。入国者が飛行機に搭乗している間に実は、国民健康保険証に登録された臨床症状など各種のデータと、移民署や税関に蓄えられた渡航歴などのビッグデータとを結びつけた分析が行われています。

これらの分析により隔離の必要があるかどうかを判断し、自宅での健康管理を促す、自宅やホテルなどでの待機の要請を行う、自宅または指定施設での隔離を命じるなど、適切な措置を講じています。

隔離対象者となると、専用のスマホを手渡されます。そのスマホの位置情報機能などを利用することで、対象者は隔離期間、外出をしないように厳しい監視態勢におかれます。

この監視システムは「電子フェンス」と呼ばれています。対象者が隔離場所から離れると、直ちに警察が駆けつけるようになっています。

なかには監視の目を逃れようとスマホを置いたまま外出したり、スマホの電源を切る対象者もいます。

前者に対しては担当者が定期的に電話をかけることで防いでいます。電話をかけても出ないときは、すぐに警察がたしかめに入ります。その際、対象者が外出している事実が判明すると、犯罪者扱いで追跡が始まります。

台湾警察の位置管理システムは、SF映画レベルにあるとよくいわれます。実際のところ対象者がどこへ逃げようとも、デジタル・テクノロジーに基づく警察網を駆使することで、すぐに発見に至ります。

スマホの電源を意図的に切っても無駄です。15分以上通信が途絶えているだけで自動的に警察に通報が届く仕掛けになっています。なかには、まだ寝ている早朝に警官に押しかけられ、確認してみたところ、充電を忘れていたために1時間ほど前にスマホの電池が切れていた、などという逸話も残されています。

今のところ、「電子フェンス」から逃れる手はないようです。

- 国民感情に寄り添う監視システム -

電子フェンスのシステムにおいて、外出したのかどうかを警察がいちいち調べるために対象者のもとを訪ねたり、担当者が定期的に電話をかけるのは、効率が悪いように感じられるかもしれません。

そもそもスマホを貸し出して監視するのではなく、韓国や中国のようにGPS機能のついたリストバンドを対象者に強制的につければ、いちいち外出したことを確認する手間を省けます。

もちろん、リストバンド装着による監視ができる技術を、すでに台湾はもっています。

しかし、台湾はあえてリストバンドによる監視を拒絶しています。鉄人大臣の異名をとり、国民から絶大な人気を誇る陳時中厚生労働相は、台北市長が感染者にリストバンドをつけて位置情報を監視すべきだと発言したことを受け、次のように答えています。

「隔離対象者は肉の塊ではない、人間です。思いやりのある制度を作り社会で支えることが解決につながるんです」

高度な監視テクノロジーを活用しながらも、個人の尊厳を守るために政府が超えてはいけない一線を自ら律していることは、台湾と中国や韓国との大きな違いです。

国民に寄り添うことを第一義とする台湾政府の打ち出す新型コロナ対策は、国民の厚い信頼を勝ち得ています。

台湾の国民は、スマホの位置情報を国家に監視されていることを十分に理解しています。

なにせ台湾では、中国や韓国のように防疫のための専用アプリをインストールする必要さえありません。

すでに国民すべての位置情報を政府の管理するデータベースに蓄積できるシステムができあがっているため、アプリを介す必要がないからです。アプリなしでも、必要な情報は国民の携帯に自動的に届きます。

たとえば2月7日にダイヤモンド・プリンセス号が台湾に寄港した際は、感染が疑われる乗客らが立ち寄った場所を知らせるSMSのアラートが、近くにいた国民の携帯に一斉に届きました。

指定のURLをクリックすると、時間経過とともに克明に記された対象者の行動履歴と足取りを示した地図が表示され、接触した可能性を自分で細かくチェックできるようになっていたのです。

こうした情報が、対象者と近距離に居合わせた国民の携帯のみに届くシステムになっています。

国民一人ひとりの位置情報を政府が正確に把握していなければ、実現できないシステムであることは説明するまでもないでしょう。

それでも国民は政府が防疫のために個人情報を活用しているだけであり、他に悪用されることはあり得ないと、政府を信頼しています。

民間団体「台湾制憲基金会」が5月18日に発表した最新の世論調査によると、蔡英文総統の支持率は72.6%となり、就任後でもっとも高い数字を記録しています。

このような高い支持率は、防疫に真摯に立ち向かう政府の姿勢が国民の共感を呼んでいるからこそです。

陳時中厚生労働相は土日も休むことなく毎日記者会見を開き、国民への説明責任を果たしました。しかも、記者会見に制限時間を設けることなく、記者からの質問が出尽くすまで丁寧に答える姿勢を貫いています。

役人が用意した文書を事務的に読むのではなく、ときには感染者を思いやり涙まで浮かべる鉄人大臣の言葉は、国民感情に寄り添うものでした。

世論調査では、政府の防疫に対する満足度は91.7パーセント、陳時中厚生労働相への満足度は94パーセント弱という高い数字が出ています。

国民の信頼に支えられることで、台湾の監視システムが機能しているのだといえるでしょう。政府は国民を監視していますが、国民もまた政府を監視しています。

もし、政府が防疫という目的を外れ、恣意(しい)的に国民を弾圧するような動きに出れば、台湾国民はけして黙ってはいないでしょう。

信頼できる政府だからこそ、国民は監視システムや国民番号制を受け入れ、理解と協力を惜しまない関係が築かれているのです。

「国家存亡の瀬戸際に立たされている」との台湾特有の危機意識が国民に共有されていることも、政府への絶大な信頼につながっています。

中国は台湾を自国の一部であると主張し、いざとなれば武力侵攻も辞さないことを言明しています。現政権は、そうした中国の脅しに屈することなく台湾は独立国であると宣言し、独立を守る姿勢を堅持しています。

蔡英文政権の示した独立国であることの矜持(きょうじ)は、台湾国民一人ひとりの思いを代弁するものです。

国民の寄せる政府への信頼感に支えられた台湾流の監視システムは、個人の尊厳を踏みにじることなく、国民の幸福を守るためにこそ活用されています。

民主主義国における監視・統制システムのあり方について、台湾はひとつの手本を示したといえるでしょう。

今後、日本が同様のシステムを新型コロナの防疫に導入するうえで模範とすべきなのは、韓国ではなく、台湾なのかもしれません。

今回は中国・韓国・台湾において、監視・統制テクノジーが新型コロナの封じ込めにどのように活用されたのかを紹介しました。

次回は欧米や日本にも、ウィズコロナを合い言葉に監視社会化の波が押し寄せている実態について追いかけてみます。

参照リスト———–

新型コロナ対策「接触追跡アプリ」が迷走する理由
中国の都市、進む監視社会 カメラ設置率上位独占 英社調査
拡がる顔認証・顔認識 — 中国が進める監視社会の現状
中国の「監視社会システム」が実はビジネスを安定・高速化する理由
中国で感染症抑止を理由に導入される社会信用システムと健康コードに潜む危険性。健康状態をスマホ経由で掌握し、行動追跡・制限も可能
【中国】コロナで携帯契約が大幅減?工情省が説明
一帯一路の成長でアメリカが警戒する「デジタル・シルクロード」における中国の戦略
世界に拡大する中露の監視システムとデジタル全体主義
ロックダウンが解除された中国・武漢では、人々が「ヘルスコード」で管理される“新たな日常”が始まった
感染リスク表示アプリ、中国で広まる 入館や入店に必要
欧米からも注目を集める中国の社会監視システムの実像〜THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2019 TOKYO
<新型コロナ>感染者の監視・追跡に各国躍起 ハイテク駆使して封じ込め
韓国式大量検査は徴兵制の賜物…新型コロナが揺さぶる「自由」の価値
韓国のコロナ対策を称える日本に欠ける視点
コロナと徴兵制 韓国や台湾の封じ込めから日本は何を学べるか
徴兵制~韓国の軍隊制度
世界的に突出した「韓国のコロナ検査」のウラで…
日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(4)軽症者の隔離・管理対策:「生活治療センター」
韓国版マイナンバー 身元、思想、宗教、預貯金まで把握可能
コロナ対策で浮かび上がる「監視社会」韓国 個人情報をここまでさらしてよいのか
韓国では徹底した監視でコロナを抑制…監視社会は実現可能?
韓国の住民登録番号(PIN)制度について
2019年02月号連載 研究員コラム 国連電子政府ランキングに基づく電子政府の進捗度と経済成長及び財政収支との関係性の分析
台湾コロナ防疫成功のなぜ① ドラマのような監視システムに驚愕
台湾の新型コロナ対策、米医療雑誌『JAMA』で紹介される
台湾、自宅隔離者の遠隔監視を強化 接触者や渡航歴ありなど2000人超
新型コロナ感染者の接触者追跡データ 本当に欲しがっているのは誰?
あなたを見張る携帯アプリ? 感染防止の効果は疑問
アベノマスク騒動を尻目に。台湾「Eマスク」システムの快進撃
台湾人が「位置情報監視」でも怒らない深いワケ コロナで浮かび上がった政治への意識の差
台湾がコロナ「優等生」になった理由。閣僚に医師出身、デジタル化の一方で強まる監視
蔡総統、20日に2期目就任 新型コロナ対策で追い風―支持率7割以上・台湾
コロナ禍で強化される監視カメラや顔認証、ドローンを利用したリアル監視。感染拡大防止とプライバシーの狭間
朴正煕:wikipedia
中華人民共和国国家衛生健康委員会:wikipedia
Alipay:wikipedia
テンセント:wikipedia
WeChat:wikipedia
天網:wikipedia
顔認識システム:wikipedia
朝鮮戦争:wikipedia
電子政府:wikipedia
陳時中:wikipedia
蔡英文:wikipedia

ドン山本
ドン山本
タウン誌の副編集長を経て独立。フリーライターとして別冊宝島などの編集に加わりながらIT関連の知識を吸収し、IT系ベンチャー企業を起業。

その後、持ち前の放浪癖を抑え難くアジアに移住。フィリピンとタイを中心に、フリージャーナリストとして現地からの情報を発信している。

監修サイト:日本とフィリピンの第二次世界大戦

1コメント

  1. 中国発表のデータを信じてるのですか?
    いまだに武漢市民は、なぜ自由に北京に入れないのですか?

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