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アフターコロナ#03 日本でも始まっている監視社会化 未来はユートピアかディストピアか?

前回は、中国・韓国・台湾で推し進められている「新型コロナ封じ込めに成功した監視・統制テクノロジー」について紹介しました。

今回は、デジタル監視システムを導入した国々の成功を目の当たりにした欧米各国や日本もまた、監視・統制テクノロジーを新型コロナ対策として取り入れる動きを強めている実態について追いかけてみます。

ウィズコロナの影響を受け、世界の主要国が軒並み監視社会化へと舵を切り始めています。

国家による監視システムの強化は、感染者や感染が疑われる人たちの行動を把握し、国民の安全を守るうえで極めて有益です。

しかし、その反面、国家による国民の監視が強まることには大きな懸念が寄せられています。歴史を見れば明らかなように、緊急時に導入された制度や体制は、危機が去ったからといってすぐに排除されるものではないからです。

つまり、監視社会が常態化する恐れは十分にあり得ると言うことです。

来るべき監視社会に向けて、私たちはどのように対応していけばよいのでしょうか?

まずは現状を正しく知ることから始めましょう。

1.高まる「自由より安全を!」の声

アフターコロナ
これまで欧米や日本を中心とする民主主義国では、社会の効率性とプライバシーを天秤にかける議論が繰り返されてきました。

その結論は各国とも、さほど変わりません。監視・統制テクノジーを取り入れることで社会全体の効率性が上がるとしても、個人に関する過度なデータ収集を許すとなれば自由や人権を失う恐れがあることが懸念され、個人情報の監視を拒絶する世論が形成されていました。

つまり、民主主義国において社会の効率性とプライバシーを天秤にかけると、後者の方がはるかに重かった、ということです。

ところが、ビフォーコロナではネガティブに捉えられていた個人情報の監視が、ウィズコロナの時代にあっては価値観が逆転し、欧米を中心に肯定的に受けとめられることが多くなってきました。

欧米の世論が大きく逆方向に振れたのは、新型コロナによる犠牲者が止まらず、対応に苦慮するなか、前回紹介したように中国・韓国・台湾などが監視・統制テクノジーを取り入れることで、コロナを鮮やかに封じ込めるという成功例を目の当たりにしたからです。

これまで「自由」こそが正義であり、人権を守れと声高に叫ぶ人々の多くは、中国で進められているような監視システムを目の敵として批判してきました。

しかし、ウィズコロナの時代が到来したことにより、皮肉な結果が訪れます。

新型コロナの感染拡大を防ぐうえで、彼らが批判してきた監視・統制テクノロジーが功を奏してしまったからです。

このことは欧米の人々の価値観に大きな変化をもたらしました。人権とプライバシーの観点から「国家による個人の監視」について拒否感を露わにしていた人々から、「監視」という言葉がもつネガティブな響きが次第に薄れてきたことは間違いありません。

終息が見えないコロナ禍に喘ぐなか、自由よりも安全を求める声が世界的に高まっています。個人の自由が制限されようとも、感染のリスクを減らすほうが大切と考える人々が明らかに増えています。

そうした世論に押されるように、平時とは異なる強制的な措置が「非常事態」の名のもとに次々と実施されているのが、現在の状況です。

ロックダウンにしても同様です。ビフォーコロナの時代には、都市を封鎖して個人の自由を制限する強硬措置が、まさか民主主義の国で実行されるなどと考えた人は、ほぼいないことでしょう。

民主主義国において自由と人権に背を向けるロックダウンを実行できたのは、都市を封鎖してでも感染のリスクを減らしたいと願う世論が構築されたからこそです。

同様のことが監視・統制テクノロジーでも起きています。国家が個人を監視することで感染リスクを減らせるのであれば、甘んじて受け入れようとする世論が次第に固まりつつあります。

防疫対策の一環として、「国家による国民の監視」は確実に進んでいます。

2. 世界で広がる監視強化の取り組み

監視社会・アフターコロナ・テクノロジー
*イメージ写真

新型コロナ対策として各国が競って導入しようとしているのが、スマホで持ち主の位置をリアルタイムに把握し、追跡するシステムです。

ウィズコロナ下で、このような監視システムは急速に拡大しています。VPN情報サイトで知られる TOP10VPN の調査によれば、4月の時点ですでに23カ国がスマホを利用した追跡を行っているとしています。

さらに、近いうちに導入に踏み切ることを決めている国は、かなりの数に上ります。

ここでは、自由や人権に対する意識が最も高いといわれる欧州各国の状況を見てみます。

その1.デジタル監視はロックダウンと同じ効果!?

新型コロナによる被害が甚大な欧州各国でも、携帯電話を使って個人の行動を追跡する動きを強めています。

その過程において注目されたのが、「感染追跡アプリが普及することで新型コロナの感染抑制にどれだけの効果があるのか」を、英国オックスフォード大学の研究チームがシミュレーションしたことです。

その結果、ロックダウンを解除した後に流行の第2波が襲ってきたとき、スマホユーザーの80%(全人口の56%)が追跡アプリをダウンロードして利用すれば、ロックダウンとほぼ同等の封じ込め効果があると発表されたのです。

携帯電話の位置情報に基づくデジタル監視を活用するだけで、ロックダウンと同様の効果が期待できるとの見解は衝撃的でした。

ロックダウンすることなく新型コロナの封じ込めが可能なのであれば、平時と同じように経済を回せます。

現在、1929年に起きた世界大恐慌を上回る規模の恐慌が懸念されるなか、経済を通常運転に戻すことは各国にとっての最重要課題です。

デジタル監視の導入によって経済活動が担保されるのであれば、各国の政府が急いで取り込もうと動くのも無理はありません。

国民にしても、再びロックダウンに入ることで強制的に行動を制限され、仕事を奪われることと、デジタル監視を受け入れることで、ほぼ通常通りの市民生活が送れることのどちらかを選べと言われたならば、大半は後者を選ぶことでしょう。

EUでは2018年に厳格なプライバシー保護法制である「一般データ保護規則(GDPR)」が施行されたことからもわかるように、個人情報の保護に関しては世界で最も厳しい立場をとってきました。

しかし、吹き荒れるコロナ禍は個人情報保護の壁をいとも簡単になぎ払いました。国家も国民も、デジタル監視を強化する方向へと歩み寄っています。

その2.国家と巨大企業の対立

欧州で目立っているのは官民共同の監視プロジェクトです。その中心となっているのは、グーグルとアップルです。

当初、欧州ではドイツ・フランスを中心にイタリア・スペイン・ベルギー・スイス・オーストリア・デンマークの8カ国が集まり、一般データ保護規則に準拠した接触追跡アプリを共同で開発する予定でした。

ところが足並みがそろわず、計画は暗礁に乗り上げています。各国がひとつになれなかったのは、情報の取得方法をめぐって対立したためです。

携帯電話の位置情報を活用して感染者と接触した人を探し出すアプリには、政府がすべての情報を中央サーバに集めて管理する「中央管理型」と、情報をユーザーの携帯電話にとどめたままマッチングを行う「分散型」の2つがあります。

ドイツ・フランスなどが目指したのは中央管理型です。中央管理型にしても分散型にしても、それぞれにメリットとデメリットがあります。

中央管理型のメリットは、各国政府の公衆衛生当局が情報を直接取得できるため、濃厚接触者を把握した上で的確に対処できることです。

コロナ禍のような非常時に求められるのは「強い政府」です。コロナ以前は政府があまり国民生活に干渉しない「小さな政府」が求められてきました。

しかし、新型コロナが猛威を振るうなか、ロックダウンや非常事態宣言をはじめとする国家による統制力こそが、今は必要とされています。また、補助金にしても政府に頼らざるを得ません。

国民を感染から守るためにも国家の力がもっとも反映されやすい中央管理型を、ドイツとフランスは目指したのです。

ところが、これに異を唱えたのがグーグル・アップル連合です。グーグルとアップルはモバイルOSにおいて圧倒的なシェアを誇ります。

アイルランドの調査会社「スタットカウント」によれば、モバイルOSの世界シェアにおいてグーグルのAndroidが72%、アップルのiOSが27%を有しています。2社を合わせると、実に 99%以上を独占していることになります。その力は絶大です。

どのようなアプリを開発するにしても、グーグルとアップルの協力は不可欠です。2社が認めなければ、アプリのリリースさえできません。

グーグルとアップルは世界のシェアを奪い合うライバル同士ですが、デジタル監視アプリの開発については歩調を合わせています。中央管理型を廃し分散型を推し進める方針を共に堅持しているのです。

この動きに、欧州各国は次々に応じました。中央管理型にはプライバシーの問題が残るとしてスイスやベルギーなどは分散型を選択し、早々にドイツやフランスと袂(たもと)を分かっています。

グーグルとアップルの切り崩しにより、今や欧州では政府主導による接触者追跡アプリに分散型を採用することが主流になっています。

国家がいくら中央管理型を推進したくても、グーグルかアップルのどちらかがデータの引き渡しをかたくなに拒絶すれば、計画を断念せざるを得ません。

中央管理型を計画していたドイツも、アップルが情報の引き渡しを事実上拒否したため、4月下旬にはやむなくグーグルとアップルが進める分散型の採用へと方向転換を遂げました。

その結果、現在、欧州にて中央管理型の追跡アプリを目指しているのは、フランスとイギリスだけになっています。

中央管理型は国家が国民の情報を握れるため、国家主導による監視社会が到来するリスクを伴います。分散型は国家に情報を渡さないため、国家権力による監視社会化を未然に防ぐことができます。

このことだけに着目すれば、「分散型が安全で中央管理型が危険」という判断が成り立ちます。

しかし、現実はそれほど単純ではありません。分散型は民間企業であるグーグルやアップルの影響力が肥大化することを意味するからです。

分散型によって国家による国民情報の一元管理は防げても、特定の民間企業が国家に代わって情報を握ることには、国家権力による監視とは別のリスクが潜んでいます。

グーグルとアップルはOSレベルで個人の情報を吸い上げているだけに、なにかに再利用するかもしれません。

国境をもたないデジタル・テクノロジーの世界では、巨大企業が国家と渡り合うことも十分に可能です。

もっとも巨大IT企業にしても、端から国家と全面的に対立することなど考えてはいません。中央管理型が採用されることによって、彼らの影響力が低下することを避けたいだけです。

分散型によって影響力を維持し続けたうえで国家と提携する方が、より多くの見返りを期待できます。

吸い上げたユーザーの情報が莫大な金銭的価値を生むことは、現代の常識です。巨大IT企業は一様に、ユーザーの監視に力を注いでいます。

国家による監視社会化ばかりを警戒していたところ、いつのまにか民間企業が主導する監視社会になっていた、なんてこともあり得ます。

実際のところ、いわゆるGAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)などの巨大IT企業はユーザーのビッグデータの収集と解析を積極的に進めています。

そのことを広く世界に知らしめたのは、アメリカ国家安全保障局 (NSA) および中央情報局 (CIA) の元局員であったエドワード・スノーデンです。2013年にスノーデンはNSAによる国際的監視網(PRISM)が存在することを暴露し、その証拠となる重要書類を公開しました。

NSAによる国際的監視網については以前から噂にはなっていたものの、荒唐無稽な陰謀論のひとつとみなされていました。

ところがスノーデンの内部告発によって、本当に実在することが白日の下にさらされたのです。

GAFAがユーザーのデータを収集しては様々な解析を行っていること、それらの情報がアメリカ政府に引き渡されていたことも、暴露されています。

私たちがソーシャルメディアで行っている活動のすべては、GAFAをはじめとする巨大IT企業や、それらの企業と手を結んだ国家に筒抜けになっていることは、間違いなさそうです。

その意味では私たちが気がつかない間にビフォーコロナの時代から既に、世界は監視社会化していたといえそうです。

その3.日本でも始まっている監視社会化

監視社会化の波が押し寄せているのは欧米ばかりではありません。日本もまた確実に、監視社会化に向けて突き進んでいます。

日本では3月末に内閣官房・総務省・厚生労働省・経済産業省が連名にてNTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの携帯電話会社と楽天・ヤフー・グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップルの大手IT企業に対し、新型コロナの感染拡大を防止するために各社が保有するスマートフォンの位置情報や移動履歴・検索履歴などの統計データを提供するように要請しています。

今回要請されたのは、あくまで統計データであるため、個人が特定されるような「個人情報」には該当しません。しかし、「今後必要となった場合には、データの提供を追加的に要請する可能性もある」とし、個人情報の提供にも含みを残しました。

これらの統計データの提供を受け、政府は6月にも新型コロナの感染追跡アプリを始動させるとしています。

アプリのインストールは、もちろん任意です。このアプリを利用すれば無線通信機能を使うことにより、一定時間以上近い距離にあったスマホ端末同士が記録されます。アプリが動いている間は、いつどこへ行こうとも、この機能が作動しています。

誰かがPCR検査で陽性が判明すると、AIは感染者の近距離にて一定時間以上留まっていたスマホ端末をピックアップし、対象者のスマホに警告を発する仕組みになっています。

この技術は、保健所が感染経路を特定するための作業にも用いられます。これまで聞き取り調査だけでは感染経路が不明のまま解明できない事例が多く発生していましたが、感染追跡アプリを利用することで感染経路を正確に特定できる期待が高まっています。クラスター潰しにおいても、有効活用されることでしょう。

ただし、十分な精度を確保するためには、すべてのスマホ端末の 70%の参加率が必要とされています。

実際にどの程度の普及率になるのかは不明ですが、5月上旬にNHKとLINEが共同で実施したネット調査によると、「個人データを使った行動管理や制約に協力可能か」という問いに対して、肯定的に「とても思う」「思う」と答えた人が61.3%を占めました。

国民が感染追跡アプリを受け入れる素地は、十分にできあがっているといえるでしょう。

今は緊急事態宣言も明け、新型コロナの脅威が遠ざかりつつありますが、コロナ禍の恐怖が再び忍び寄る事態となれば、感染追跡アプリのインストール率は飛躍的に高まることが予想されます。

さらに、日本においても監視カメラを新型コロナ抑止策として活用する可能性は十分にあります。

日本ではまだ、中国や韓国で行われているような監視カメラを利用したコロナ対策は行われていません。

しかし、その技術はすでに国内に蓄えられています。顔認証システムにおいて中国とロシアがシェアを競い合っていますが、実は日本の民間企業もその一角に食い込み、世界をリードしています。その企業とは NECです。

NECはロンドン警視庁やアメリカのアービング警察、オーストラリア連邦警察など、70カ国以上に顔認証システムをすでに販売しています。国内においてもセブンイレブンやローソンにて、NECの顔認証システムの導入が始まっています。

日本政府がNECの顔認証システムを採用すれば、中国や韓国と同様に監視カメラを有効活用した新型コロナの封じ込めが実現します。

平時においてはプライバシーや人権の観点から慎重論が多い顔認証システムですが、ウィズコロナの時代は感染リスクを減らし、安全を確保する方が優先される傾向にあります。

国家が国民の人権を大幅に制限する緊急事態宣言の発令を、国民の側から「早く出せ!」とけしかけたのは記憶に新しいところです。感染が再び流行する事態となれば、顔認証システムを備えた監視カメラの活用を求める世論が沸き起こることも、十分にあり得ます。

自粛警察がはびこるなど「自粛」という名の相互監視を強めてきた日本にも、監視社会化の大波は確実に忍び寄っているようです。

3.監視社会が切り開く未来とは

スマートフォン

その1.進化する防疫システムが救う命

ここまで見てきたように、新型コロナを封じ込めるうえで監視・統制テクノロジーは有益です。先に紹介したように、国民の大半が感染追跡アプリをインストールすれば、ロックダウンをしなくてもロックダウンを行ったときと同様の効果が見込めます。

さらに近い将来には感染追跡アプリなどの監視ツールは、より一層の進化を遂げ、「生体監視」に対応することが確実視されています。

スマホで脈拍や体温を測定できるアプリは、すでに実用化されています。今後はさらに精度が高まり、24時間ずっとモニタリングを可能にするリストバンドなども普及していくことでしょう。

たとえばウエストバージニア大学が開発したスマートリングは、体温・睡眠パターン・活動量・心拍数など多数のバイオメトリクスデータをモニタすることで、自覚症状が出る3日前からウイルス感染を警告できるとしています。

関連リンク:スマートリングが取得する生体情報で無症状コロナ感染者を早期発見、ウエストバージニア大学が開発

新型コロナに感染しても数日は無症状のため、本人が感染したことに気づくことは、まずありません。ところが新型コロナの怖いところは、一部の患者が症状を自覚した直後から急速に重篤化することです。もはや手がつけられない状態まで悪化するスピードがやたらと早いため、救えない命が数多くあります。

しかし、生体監視を行うスマートリングやリストバンドを国民の大半が装着することにより、体内で起きている微妙な変化を察知したうえで警告が発せられるため、本人に自覚症状がなくても逸早く感染したことに気づけます。

早めに的確な処置を受けることにより、多くの人命が救える可能性があります。

感染追跡アプリに加えて体内監視の情報も政府が管理する可能性は十分にあります。そうなれば、今とは比較にならない早さでクラスターの発生を確認できることでしょう。

このように監視・統制テクノロジーを有効に活用することで、感染の広がり具合を正確に把握し、感染の連鎖を断ち切ることができます。

進化する防疫システムは確実に、数多くの命を救うことになると期待されています。

その2.全国民監視がもたらす恐怖

監視・統制テクノロジーが感染症から国民を守ることに大きく貢献することは間違いありません。しかし、だからといって監視の強化が国民を幸福にするのかといえば、そうとは言い切れない面があります。

アフターコロナの世界が監視社会化することへの警鐘は、すでに多くの媒体でなされています。なかでもネット上で最も注目されているのが、世界的ベストセラーとなった『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』を著したイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの寄稿した「新型コロナウイルス後の世界 ― この嵐もやがて去る。だが、今行なう選択が、長年に及ぶ変化を私たちの生活にもたらしうる」と題した論文です。

アフターコロナの監視社会化を考えるうえでハラリの論文は、土台としての役割を果たしています。

論文のなかでハラリは、生体監視などの監視の強化が感染症から人類を守るうえで役立つことにふれた後に、国家による全国民監視がもたらす恐怖について具体的に語っています。

ぜひとも思い出してもらいたいのだが、怒りや喜び、退屈、愛などは、発熱や咳とまったく同じで、生物学的な現象だ。だから、咳を識別するのと同じ技術を使って、笑いも識別できるだろう。企業や政府が揃って生体情報を収集し始めたら、私たちよりもはるかに的確に私たちを知ることができ、そのときには、私たちの感情を予測することだけではなく、その感情を操作し、製品であれ政治家であれ、何でも好きなものを売り込むことも可能になる。

(略)

全国民がリストバンド型の生体情報センサーの常時着用を義務づけられた2030年の北朝鮮を想像してほしい。もし誰かが、かの偉大なる国家指導者の演説を聞いているときに、センサーが怒りの明確な徴候を検知したら、その人は一巻の終わりだ。

新型コロナウイルス後の世界 ― この嵐もやがて去る。だが、今行なう選択が、長年に及ぶ変化を私たちの生活にもたらしうる」より引用

ハラリは「皮下監視」が、その人物の本性を見抜くことを見通し、独裁国家がそれを思想の統制にも利用できることに警告を発しています。国家権力をもつ側がその気になれば、体制を維持する上で不都合な人物をモニタリングによって見つけ出しては、容易に排除することも可能になります。

監視・統制テクノロジーそのものに罪はありませんが、それを運用する側のもくろみによっては、天使のツールにも悪魔のツールにもなり得るということです。

少し前にはSF小説や映画のなかにしか出てこなかった監視テクノロジーが今や現実のものとなり、感染症対策という大義名分を得て、全国民の監視へと裾野を広げようとしています。

SF作家ジョージ・オーウェルが近未来の監視世界を描いた『1984』は、もはや絵空事ではありません。

進化した監視・統制テクノロジーは、『1984』で綴られた全国民の監視を、いともたやすく成し遂げることができます。

ビッグブラザーによる監視と支配を現実のものにするテクノロジーを、人類はついに手にしたのです。

【 『1984』とは・・・ 】

イギリスの小説家G.オーウェルの逆ユートピア小説。1949年刊。1984年の架空の超大国オセアニアにおける、全体主義的支配の様相を描いた著者晩年の作品。権力集中が自己目的化した党による大衆(プロレ階級)支配、支配手段としての恒常的な戦争状態の維持、半ば神格化した指導者ビッグ・ブラザー崇拝、個人生活の監視、思想統制を目的とする言語の簡略化、党の無謬(むびゆう)性を証明するための歴史の書きかえなど、あらゆる支配機構が内包する危険性が未来小説の形で提示される。

株式会社平凡社『世界大百科事典 第2版』より引用

4.アフターコロナの世界はユートピアかディストピアか?

その1.全体主義化する世界

先に紹介したハラリの論文では、アフターコロナの世界において、民主主義国に代わって全体主義を推し進める国々が増えることを懸念しています。

Wikipedia では「全体主義」を次のように説明しています。

全体主義(ぜんたいしゅぎ、イタリア語: totalitarismo, 英: totalitarianism)とは、個人の全ては全体に従属すべきとする思想または政治体制の1つである。この体制を採用する国家は、通常1つの個人や党派または階級によって支配され、その権威には制限が無く、公私を問わず国民生活の全ての側面に対して可能な限り規制を加えるように努める。

政治学では権威主義体制の極端な形とされる。通常は単なる独裁や専制とは異なり、「全体の利益を個人の利益より優先する」だけではなく、個人の私生活なども積極的または強制的に全体に従属させる。全体主義の対義語は個人主義、権威主義の対義語は民主主義である。

全体主義:wikipedia より引用

歴史上に現れた全体主義国の象徴と言えば、アドルフ・ヒトラー総統が率いたナチス・ドイツです。

ナチスほど過激ではないにしても、アフターコロナの世界には全体主義を掲げる国が増える可能性があると、ハラリは警鐘を鳴らしています。

たしかにウィズコロナの時代には、これまで民主主義国が至上の価値としてきた「自由」や「人権」を制限せざるを得ませんでした。

個人の権利や利益よりも社会全体の利益が優先され、個人の幸福を犠牲にしてでも全体の幸福を画すことこそが正義とされています。

民主主義から全体主義へと転じる兆しは、たしかに芽生えていたといえるでしょう。

ウィズコロナの時代は、まだ始まったばかりです。これからパンデミックの第2波、第3波が世界を飲み込むことは、避けられないとみられています。

そうなれば世界は、国家による統制力をますます必要とするに違いありません。全体主義が必要とされる時代は、すぐ目前に迫っています。

これまで見てきたように、新型コロナの脅威を目の当たりにした多くの国において、監視社会化への移行が静かに始まっています。日本とて、けして例外でないことは、すでに紹介したとおりです。

私たちにとって最悪なのは、全体主義と監視社会という組み合わせが、現実のものになることです。

新型コロナに感染するリスクを極度に抑え込んだユートピアを目指していたはずなのに、いつのまにかディストピアに暮らしていたことに気がつき、愕然とするような未来だけは避けたいものです。

では、SF小説『1984』のようなディストピアになることを避けるためには、どうすればよいのでしょうか?

その2.自分で考え、行動することが世界を変える

私たち一人ひとりにできることなど、そうは多くないように感じるかもしれません。個人のささやかな思惑など、国家がパンデミックの危機感から全体主義化し、なおかつ監視社会化していく流れのなかにあっては、あまりに無力です。

しかし、社会全体の方向性が変わるのは、一人ひとりの小さな思惑が次第に集まり、やがて奔流となって流れ出すからこそです。

だからこそウィズコロナの時代に生きる私たちは、今こそ立ち止まって考えてみる必要があるといえるでしょう。

なにより大切なことは、一人ひとりが自分で考え、行動することです。

人は複雑な状況に取り込まれていると、単純な答えに飛びつきがちです。ワイドショーのコメンテーターが発する科学的なエビデンスを無視した主張に対しても、何度も繰り返されているうちには、それが唯一の正解のように感じられることは、けして珍しくありません。

ひとつの見解を盲信することには、常に危険が伴います。テレビで繰り返される主張を鵜呑みにするのではなく、まずは疑ってかかり、自分自身でしっかり調べ、考えてみることが必要といえるでしょう。

自分で立ち止まって考えることなく、誰かの意見にただ流されるのであれば、それはディストピアの到来を手招きしているも同然です。

自分で考えて行動する力が衰えてしまえば、「自由」や「権利」を確実に手放すことにつながります。

ウィズコロナの時代は、常に新型コロナの脅威にさらされながら生きるよりありません。恐怖は往々にして人の理性を奪います。

それでも私たちは、いま目の前にある恐怖から逃れることばかりを優先するのではなく、アフターコロナの時代を見据えて考え、行動することを求められています。

アフターコロナの世界がユートピアなのか、それともディストピアなのかを決めるのは、ウィズコロナの時代である現在の選択にかかっています。

アフターコロナシリーズ
ドン山本
ドン山本
タウン誌の副編集長を経て独立。フリーライターとして別冊宝島などの編集に加わりながらIT関連の知識を吸収し、IT系ベンチャー企業を起業。

その後、持ち前の放浪癖を抑え難くアジアに移住。フィリピンとタイを中心に、フリージャーナリストとして現地からの情報を発信している。

監修サイト:日本とフィリピンの第二次世界大戦

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著者

ドン山本
ドン山本
タウン誌の副編集長を経て独立。フリーライターとして別冊宝島などの編集に加わりながらIT関連の知識を吸収し、IT系ベンチャー企業を起業。

その後、持ち前の放浪癖を抑え難くアジアに移住。フィリピンとタイを中心に、フリージャーナリストとして現地からの情報を発信している。

監修サイト:日本とフィリピンの第二次世界大戦

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