「英単語って、やっぱり覚えなきゃいけないのかな」
英語を勉強していると、多かれ少なかれこのことで試行錯誤しますよね。
たとえばTOEICや英検など、英語の資格を取る必要に迫られているとすれば、どうしても一定の単語は覚える必要があります。
一方、今すぐに英語の資格を取る必要に迫られてはいないけれども、仕事で同僚や上司、取引先とのやり取りに英語が必要になっている場合、英語をもっと話せるようになりたいと思うのはもちろんですよね。
ただ、そのためには単語も覚える必要があるか?というのは迷うところだと思います。
今回は、ビジネスパーソンのための英単語についてお話ししていきます。
1. ビジネスパーソンは英単語をどこまで覚える必要がある?
この件で、時々「ネイティブは単語を覚えたりしなくても英語話せるのだから、本来は単語を覚える必要はない」というようなことを言う人がいます。
これについては、そもそも「単語を覚えたりしていない」という前提が間違っているので信じるべきではありません。極端な話、単語を覚えることをしていないとすると、その人は小学校レベルの教育すら全く受けていないということになります。
日本育ちの人が日本の小学校から高校までに学校で漢字を始め、国語の授業や(英語は除くとしても)それ以外の科目でどれだけの日本語の言葉を習って覚えたかと考えれば、少なくとも英語圏の人はそれと同等の英語の語彙(単語やフレーズ)は学習しているわけです。
実際は学校の宿題でかなりの量の本を読むことになるので、量的には日本育ちの人の日本語語彙よりも多くを身につけているといえるかもしれません。
一般的な大人の英語ネイティブの認識語彙が3万語以上といわれるのも、普段仲間内やSNSで使うスラングから学校で習う語彙までの幅がそれだけ広いからといえます。
さらに、古くから英語ネイティブ向けのボキャビルのペーパーバックもたくさん出版されています。
その人が使う言葉や理解できる言葉の範囲が組織での評価や昇進の可否を左右するともいわれるくらいなので、高校生以上のネイティブでも「単語集」のような本を勉強することが推奨されているわけです。
なので、仕事でネイティブと会話するとなれば、まったく単語を覚えなくてもよいというわけにはいかないでしょう。
ただどうしても、「単語だけ覚えても会話やライティングで実際に使えないと意味がないのでは」という疑問がつきまとうと思います。
理想をいえば、英語の情報にアクセスするためには10000語レベルの難しい単語も最低「認識語彙」(文章を読んだり音声を聞いたときに理解できる語彙)としては身につけたほうがよいです。
しかし、忙しいビジネスパーソンがそのレベルの単語を覚えることに多くの時間を割くのは現実的ではありません。
そこで、10000語レベルの単語を覚えるとしても1日に長くて15分程度にして、ひとまずお勧めなのは「極力、その単語を使えるようになる覚え方をする」ことです。言い換えれば、運用語彙を増やす勉強をすることです。
詳しくは後述しますが、目安として英検準2級~2級中心・一部準1級レベル、TOEICのレベル別対策本でいうと700点レベルくらいの単語を「一応知っている」だけでなく、会話で使えるようになることを目指しましょう。
この目的での単語学習は単語帳めくりのような方法ではなく、実質的に作文や会話表現を身につける学習と同じ感じです。なので、単語帳めくりに比べると手間はかかりますが、一度覚えると忘れにくいし、知識を増やすことを超えた4技能向上につながります。
2. ビジネスパーソンに必要な英単語とレベル
それでは、どのような単語を優先的に学習すればよいでしょうか。
端的に言うと「中学~高校で習うレベルの動詞」です。
英検で言うと3級以上、準2級と2級を中心に、準1級の一番基本的な動詞くらいまでです。
なぜ動詞なのかというと、英語の構造上、動詞が文(つまり話者が言いたいことの一まとまり)の中で「中心」あるいは「軸」になるからです。
なお、あくまで筆者個人の方法論の中での理屈なのですが、ここでいう「中心」は文の中で一部分だけであるのに対して「軸」は複数あってもよいと考えます。
英語の文の構造は学校で習う「5文型」に分かれますが、この中で一番重要な文型(英語の基本文型)はSVOです。
一番わかりやすい例が、”I love you.”ですね。
この文でいえば、動詞loveが文の軸になっているのもわかりますよね。
そして、仮にloveという動詞をそれまで知らなかったので覚えようと思ったとします。
日本語で「愛している」「大好きである」というような意味だと知ると、反射的に「誰が何を愛する、みたいな例文を知りたい」と思いませんか?
つまり、loveの主語や目的語など、loveという動詞の前後の言葉を合わせた「使い方」を知りたくなる、ともいえます。
動詞の場合は、その使い方のことを「語法」と呼びます。
SVO文型で使うとか、あるいはto不定詞や動名詞も取る(その動詞の後に持ってくることができる)とか、「愛している」の意味では目的語にyouみたいな「人」だけを取るとか、主語は・・みたいな話が動詞の「語法」の要素になっているわけです。
何を言いたいかというと、動詞を覚えるということは、その動詞の語法や例文も覚えることを含むということです。
言い方によっては「語法や例文を覚えなければ動詞を使えるようにはならない」ともいえますが、ポジティブに言えば「動詞を身につければ例文もどんどん覚えられるし、文法を使いこなす力も身につく」ということになります。
さらに、その動詞の例文の中で動詞の主語や目的語、動詞の後のto不定詞で使う別の動詞など、芋づる式にいろいろな単語や語句をセットで覚えることができることになります。
それゆえに、動詞を優先的に学習することは一番効率が良いわけです。
また、いわゆる「派生語」は、ほとんどの場合「動詞」の派生語です。名詞や形容詞、副詞はある動詞の派生語になっているもの先に覚えると効果的です。
もちろん、名詞や形容詞、副詞等も覚えていく必要があります。動詞以外の言葉を覚える場合は、必ず例文を見てその文の中の動詞とその言葉との関係を把握しながら、動詞とセットで覚えましょう。
3. ビジネスパーソンの英単語の覚え方
中学~高校で習うレベルの動詞を優先的に学習するということに納得して頂けたとしまして、では具体的にどのように覚えていけばよいか、やり方をご紹介します。
覚え方のコンセプトは「動詞であるか否かを問わず、動詞にフォーカスする」ことです。
このことが単語学習の時短と効率アップにつながります。
動詞フォーカス単語暗記法の手順
まず、だいたい英検2級から準1級頻出くらいまでのレベルで、文章や会話の中で単語を覚える形式の単語集を1冊用意します。
TOEIC700-730レベルのものでもよいですし、英検2級対策と準1級対策を両方用意しても結構です。
個人的にお勧めできるのは「例文でまるごと覚える合格できる単熟語」(山上登美子先生他1名著・アスク出版)の英検2級版と準1級版です。
また、単語集ではないのですが、400個程度の文章で1500以上の単語を覚える超高密度な速習書「神速マスター」シリーズの2級と準1級(澤泰人先生著・実務教育出版)も、この目的には適しています。
文章や会話の中で単語を覚えることをお勧めするのは、単語だけや例文1つだけで覚えようとするのに比べてその単語を使う状況が記憶に残りやすいからです。
さて、文章の中で「動詞にフォーカスして」単語を覚える場合、2通りのパターンがあります。
A 動詞にマーカーを引いて動詞を覚える
B 動詞にマーカーを引くが、覚えたい単語が別にある
① 動詞を覚える場合
・動詞が1つの文
たとえば、会話文の中にI caught a slight cold. (私は軽い風邪をひいています/風邪気味です)という文があったとします。
この文の動詞はcaught (catchの過去形:ここでは「感染性の病気にかかる」という意味)なので、caughtにマーカーを引きます。
I caught a slight cold.
そして、マーカーを引いた動詞catchのこの意味での使い方を辞書で調べます。
ジーニアス英和など、多くの辞書では「感染性の病気にかかる」という意味のcatchはSVO文型で使われるという表示があるはずです。
先の文でいえばIが主語Sでcaughtが動詞V、a cold(風邪)が目的語Oというわけです。
覚え方としては、動詞caughtをこの文の「フォーカス」と捉え、caughtからみた主語がIでa coldが目的語というように文の構造をイメージします。
この頭の中での作業を一瞬でも行うことが、単にcatch a cold =風邪をひくと覚えるよりも記憶に残りやすくなり、会話で頭に浮かびやすくなるはずです。
・動詞が2個以上ある文
たとえば、先の文に少し内容を追加して動詞が2つになるとします。
I caught a slight cold and sneeze sometimes. (風邪気味でくしゃみが時々出ます)
この文の動詞はcaughtとsneeze (くしゃみが出る)なのでこの2つにマーカーを引きます。
I caught a slight cold and sneeze sometimes.
そして、新たに出てきた動詞sneezeを辞書で調べます。
この文は、構造的には「SVOの文に接続詞andでつながれたSVの節がくっついている」
形なのですが、それぞれの動詞を「フォーカス」と捉えることで文型や文の構造もわかりやすくなります。それによって、単語も例文も記憶に残りやすくなります。
② 覚えたい単語が別にある場合
・動詞が1つの文
たとえば、先の元の文で、覚えたい単語が形容詞slight(軽微な)だったとします。この場合、最初にslightの意味を確認したら、動詞caughtにマーカーを引きます。
そして、一瞬でよいのでこの文の中でのcaughtとの関係を考えてください。
といわれると、caught(catch)とslightは関係ないんじゃないの?と思われるかもしれません。
確かにslightはcaughtを直接修飾する関係にはありません。しかし、caughtの目的語のa cold「風邪」を修飾して「軽微な」という意味を付加しているということができます。
このように、ある文の動詞とそれ以外の言葉の間には、必ず関係性を見つけることができます。複雑な文の場合でも同じことが言えます。
多少面倒な作業にはなりますが、単にslight=軽微なと覚えるよりも、具体的な文の中での使い方を覚えやすくなるので実際の英会話の中でも頭に浮かびやすくなるはずです。
・動詞が2個以上ある文
たとえば、先の文のslightがなく、かわりにa coldの後にand have some feverを追加した以下のような文があり、覚える単語がfever(熱)だったとします。
まず、feverの意味を確認してから、動詞caughtとhaveにマーカーを引きます。
I caught a cold and have some fever.
そしてfeverと動詞caught・haveとの関係を考えてください。
このうちhaveとの関係はわかりやすいと思います。動詞と目的語の関係ですね。
caughtとの関係については難しく感じますが、次のように考えることができます。
この文で覚える単語がfeverである場合は最低、動詞―目的語の関係にあるhaveとの関係だけ把握できればよいですが、あえてcaughtとの関係も考えることもできるわけです。
このように、例文の中での動詞に注目することで動詞を覚える場合は文の構造を理解しながら例文ごと覚えることができます。
また、形容詞等動詞以外の言葉を覚える場合も、動詞との関係性で覚えられるので覚えやすくなるとともに会話で頭に浮かびやすくなります。
関連記事:暗記が苦手な人向け【英単語の覚え方】効率的な6ステップ学習
4. 英単語学習に関するよくある質問
記憶力に自信がないので、英単語がなかなか覚えられません。
その単語を使った作文練習やスピーキング練習をやったりすればほぼ覚えられるのですが、基本的にある単語を2,3回繰り返し音読したり音声を聞いたりしただけで覚えられる人のほうがずっと少ないです。
TOEIC900点レベルの人が短い文章を暗唱しようとして20回、30回と音読や音声リピートを繰り返しても、ある単語が口から出てこないということもよくあります。
3でご紹介した方法で単語を含む例文を覚えると記憶に定着しやすくなるはずですが、忘れても決して記憶力が悪いわけではありません。覚えなおすことが一番大切です。
伝統的な単語記憶法は意味がないんですか?
このような疑問を持たれる方は多いと思います。そこで、いわゆるetymology(語源)ベースの記憶法について述べさせていただきます。
これは、接頭辞や接尾辞が共通する単語をまとめて覚えるやり方です。昭和時代からベストセラーだった「でる単(試験に出る英単語)」を始め、多くの英単語集で採用されています。
接頭辞はex-とかpre-等おおまかな意味を付加するものや、ped-(足の)等特定の意味を付加するものがあります。
接尾辞も同様に名詞の-tionや-ment、形容詞の-fulのように特定の品詞の語尾についておおまかな意味を付加するものと、-phobia(恐怖症)のように特定の意味を付加するものがあります。これらをまとめてetymology(エティモロジー)と呼びます。
筆者も学生の時、でる単や、etymology基軸で書かれた英語話者向けのペーパーバックでたくさんの単語を覚えました。ペーパーバックで覚えた”introverted”(内向的な)とか”acrophobia”(高所恐怖症)という単語が米国人に通じた時はうれしかったです。
etymologyベースの単語集やペーパーバックは、楽しく読み進めながら覚えることができれば取り入れたほうがよいです。
しかし、その本が無味乾燥で詰め込みの受験勉強のように感じてしまうとか、英語のペーパーバックを読み通すのは挫折しそうだとすれば、必ずしも取り入れなくてもよいといえます。
ただ、強いて言えば、上記のpedo-や-phobiaのように特定の意味を付加する接頭辞や接尾辞は覚えやすいし、それらで構成する単語も面白いものが多いのでまとめて覚えることをお勧めします。
会話や文章の中で動詞から覚えていくとすれば、動詞の数は何個くらい覚えればよいでしょうか?あるいは使える動詞は何個くらいあればよいですか?
これはその方が目指すレベルにもよるのですが、仮にTOEIC730程度を想定した場合、単語1個でカウントすれば認識語彙としては1200~1300程度、運用語彙としては1000個くらいが目安になります。
ただし、動詞の中にはgoとかmakeのように単語1つに対して句動詞がたくさんあるものが少なくないし、基本動詞の句動詞は運用語彙にすることが望ましいです。そのため実際使いこなせるようになりたい「動詞と句動詞」を1つ1つ数えるとすれば2000以上にはなると考えてください。