私は2019年1月から約1年半、バンクーバーのスターバックスで働いていました。働き始めてから4ヶ月目にはスーパーバイザー(時間帯責任者)を任されるようになり、カスタマーサービスを中心に資材管理や発注などの役割も担いました。
英語での接客や同僚とのやり取りなどを通して、海外と日本では求められている英語力が根本的に違うということに気付きました。今回はそれぞれの違いを分析しながら、実用的な英語力を身に付けるためにできることを紹介していきます。
1. TOEICのスコアが高くても、海外でコミュニケーションが取れない?
私が働いていた職場には、私以外にも日本人が何人かいました。面接で話を聞くと、元英語の先生だったとか、TOEICのスコアが800点以上という、日本で言えば「英語力が高い」人も何人かいました。
しかし、そういった人の中には、そもそもの採用にすら至らなかった人もいます。なぜかというと、レジュメ(履歴書)の英語力と、実際の面接での英語力の差が大きすぎたからです。
例えば、面接で「これまでの経験を通して、自分で感じる強みや弱みはどんな所だと思う?」という質問がありました。
しかし、その質問の内容を理解するところから難航してしまったり、聞き取れていても、自分の言葉で伝えられず口ごもってしまったりすることが多かったのです。
TOEICのスコアは高得点。日本では英語に携わる仕事をしていた。こういったキャリアを持つ人でも、実際にカナダで働こうとすると、現地でのコミュニケーションが成り立たないことがよくありました。
その人たちは日本で「英語力がある」と言われていた人たちです。それがどうして、海外で働く時に全く生きなかったのでしょうか。
それは、日本と海外で求められる英語力が異なるからです。
2. 海外で求められる英語力とは
①完璧な英語でなくてもコミュニケーションとして成り立たせる力
1つ目は、完璧に英語を理解していなくても、コミュニケーションとして成り立たせる力です。
私がバンクーバーのスターバックスで採用されたばかりの当時の英語力は、そこまで高くありませんでした。TOEICやIELTSといった英語力を認定する試験も受けたことがありませんでしたし、語学学校には通っていましたが、中級レベル程度の英語力でした。
それでも、無事に採用されて、その後はスーパーバイザーになれたのは、完璧な英語ではなくても、コミュニケーションを成り立たせる力があったからです。
もちろん、採用された後もIELTSを受験したり、語学学校を卒業してからも独学で勉強したりという努力もありました。しかし、努力や勉強以上にコミュニケーション能力といった部分が大きくかかわってくると言えます。
スターバックスの採用面接では、私も自分の強みと弱みについて質問されました。その際に、抽象的に自分を形容する単語が出てこなかったので、自分の強みや弱みを具体的に証明できるエピソードを話しました。
エピソードであれば、難しい形容詞を使わなくても、過去にあったストーリーを単純な文法で表現できますし、より具体的に”私”という人間について理解してもらいやすいと考えたからです。
文法や単語は間違えた部分も多く、決して完璧と言える回答ではありませんでしたが、”私”という個人を知ってもらうことには十分つながりました。相手に伝わる英語を話せる力が、海外では特に求められます。
②英語における想像力や洞察力
2つ目は、英語における想像力や洞察力です。
これは、語学学校でIELTSコースを受講している時に、担当の講師から教わったことです。
特に日本人は、英語で分からない単語や文法があると辞書を使いたがるそうです。確かに、日本では一般的な電子辞書を持っているのは、私の語学学校では日本人だけでした。
講師の彼曰く、実際の英語でのコミュニケーションの中で「ちょっと今の単語の意味が分からなかったから調べさせて」なんてやり取りはない。会話はどんどん進んでいくし、その一瞬で理解してレスポンスしなければならない。その時に必要なのが想像力と洞察力だというのです。
相手の話した言葉の中に知らない単語があったとして、それを前後の文脈から推測して考える力。「相手が言いたいのはおそらくこのことではないか」という想像を働かせる力です。
そうすることで、自ずと単語の意味も理解でき、相手の文章によって単語の使い方も理解できるという、英語学習に非常に役立つやり方を学びました。
これは、英語学習に限らず、海外の日常生活で求められる英語力とも言えます。
私たちは一生日本人で、ネイティブスピーカーにはなれません。英語の感性を磨くのにも時間がかかります。それを補うためにも、英語での想像力や洞察力を高めることで、相手とのコミュニケーションをより豊かなものにすることができ、自分自身の英語力を底上げすることにもつながります。
③知っている英語の知識の応用や発展ができる力
3つ目は、知っている英語の知識の応用や発展ができる力です。
海外では、難しい単語をひたすら並べて話すことよりも、相手に分かりやすい言葉で端的に表現することが好まれます。だからといって、単純な英文法の繰り返しで会話をすると、幼稚に見られます。
そこで必要なのが、知識をどう応用、発展できるかということです。
いわゆるネイティブスピーカーのように、TPOに合わせて言い回しを変えたり、豊かな表現ができることが最終目標です。英語の知識がどんなにたくさんあったとしても、それをどう応用し、海外で使えばいいのかまで理解していないと知識を活かすことはできません。
これは感覚的な英語力なので、個人での勉強で身に付けることは難しく、私もバンクーバーで1年半暮らしただけでは理解しきれない部分がたくさんありました。単語や文法は知っていても、応用や発展といったアドバンスなことは、できるようになるまでに時間がかかりそうです。
3. 日本で求められる英語力とは
一方で、日本で求められる英語力とは何なのでしょうか?
①英語をどの程度インプットできるか、英語の知識量
1つ目は、英語をどの程度インプットできるか、英語の知識量です。
日本で英語力が求められるのは、受験や英語の認定試験といった英語の知識量を判断するシーンがほとんどです。実際的なコミュニケーションで必要になることは少ないので、ひたすらインプットし、そのインプットした英語の知識量を証明できれば「英語力がある」とみなされます。
②テストや英語力の認定試験で高スコアが出せる力
2つ目は、テストや英語力の認定試験で高スコアが出せる力です。
1つ目に挙げた内容と関連してきますが、日本で求められる英語力とは、英語の知識量。さらに、それを証明するためのテストや認定試験で高スコアが発揮できる力も大切です。
試験に出てくる単語や文法を覚えて、その対策を効果的に行えば、試験で高スコアを出すことができます。そうすれば、日本で求められている「英語力」はクリアしたことになるでしょう。
③ビジネス英語ができること
3つ目は、ビジネス英語ができることです。テストや英語力の認定試験以外で、日本で英語力が求められる場面はビジネスシーンでしょう。英語でプレゼンテーションや交渉、海外の顧客とのスムーズなやり取りができることです。
ここまで来ると、一気にレベルが上がります。英語の知識量やインプットだけではなく、TPOに合わせた英語表現ができることや、応用力も必要です。ビジネス英語ができるということは、海外でも十分通用する英語力を持っていると言えます。
ビジネス英語ができることが、日本の英語力で求められる最高峰だと思われがちですが、果たしてそうなのでしょうか。
私は海外で働いていましたが、正直ビジネスシーンで英語での交渉やプレゼンテーションができるかと言われると、まだまだ勉強不足なところが多いです。それでも、バンクーバーでは英語力を評価され、スーパーバイザーを担うことができ、海外の友達とのコミュニケーションも全く困ることなく、楽しむことができました。
ここでも日本と海外で求められる英語力の違いを見ることができます。
4. 実用的な英語力を身に付けるためにできること
日本、海外問わず、実用的な英語力を身に付けるためにできることがあります。
①分からない単語に出会った時に前後の文脈から意味を推測する
1つ目は、分からない単語や文法を辞書を使わずに、前後の文脈から意味を推測することです。
実際、海外の人と英語でコミュニケーションを取る時に、相手の言った言葉の意味が分からないからといって毎回辞書を引く人はいませんよね。だからといって分かったフリをしてその場をやり過ごすのも、コミュニケーションとは言えません。
つまり、分からない単語にフォーカスするのではなく、相手の言わんとすることを理解しようとすることが大切だということです。
海外で英語を第二言語として学ぶ私たちに求められているのは、”英語を理解すること”以上に、”相手が言いたいことを理解すること”です。分からない言葉に出会った時に前後の文章や大筋の流れから意味を推測してみると、相手の言いたいことがよりクリアに見えてきます。
②英語での説明が難しい時に、自分が知っている単語や表現を使って伝える
2つ目は、英語での説明が難しい時に、自分が知っている単語や表現で伝えることです。
英語で状況や物事を説明する時に、言葉に詰まってしまったりどう表現すればいいか分からなかったりすることはよくあります。適切に当てはまる単語が出てこない時に、まず自分が知っている単語や表現で言い換えられないか考えてみましょう。
英語でいうsynonyms(同義語、類義語)のレパートリーを増やすことです。そうすることで、ボキャブラリー豊富な英語表現ができるようになりますし、より具体的なイメージを持って会話することができます。
③英語の知識のインプットは大切!それをアウトプットできる場所を見つける
3つ目は、英語の知識のインプットは大切で、それをアウトプットできる場所を見つけることです。
英語を話すためには、最低限の知識が必要です。なので、単語や文法を覚えることはとても大切です。
しかし、それだけに偏ったり、たくさん知識があることに満足していても、それを実際に活かして発揮できる環境がなければ、本当の意味で英語を自分のものとして定着させることはできません。
インプットした文法や単語を使ってエッセイや日記を書く、オンライン英会話などを利用してネイティブスピーカーと話す機会を持つなど、アウトプットできる場所を見つけましょう。
④スピーキングの練習ができる仲間や友達と、テーマを決めて話し合う
4つ目は、スピーキングの練習ができる仲間や友達と、テーマを決めて話し合うことです。
やはり、海外で求められるスピーキング力まで自身の英語力を高めるためには、実際に会話することが鍵になります。
しかし、ただ日常会話をするだけなら、暗記した定型文をリピートするだけになってしまいます。そこで必要なのが、自分の意見を英語で表現できる会話力を身に付けることです。
なんでもいいのでテーマを決めて、それについて話し合う。好きな映画、今はまっていることなど身近なトピックから、自分の国や世界で起こっている問題や英語学習についてなど、なんでもいいです。定型文ではない、自分の意見が求められるような話題について、できるだけ長く話すトレーニングをしてみましょう。
⑤完璧な英語を追求しない。基礎をしっかり固める
5つ目は、完璧な英語を追求せず、基礎をしっかり固めることです。
カナダで働いて、海外で役立つ実用的な英語力を身に付けるためには、完璧な英語を追求しないことが、完璧に近い英語につながる近道なのだということに気付きました。
日本人は英語の発音が日本語訛りであることを気にしたり、単語や文法といった表現を間違えることに引け目を感じたりしがちです。
しかし、海外で働いていて、私の英語の発音が日本語訛りだとか、文法が間違っているとかで相手から注意されたり、笑われたりしたことは一度もありません。
完璧でなくても、十分に海外で働き生活することは可能です。
大切なのは完璧な英語であることよりも、コミュニケーションを成り立たせたり、相手の言おうとしていることを理解できる洞察力、想像力といったもっと基本的なことです。
もちろん、完璧な英語を話せるようになるのが最終目標です。
しかし、基本的な英語や基礎を固めることをおろそかにしては、そこを目指すことも難しくなります。ひとつひとつ、順を追ってステップアップしていくことが、実用的な英語力につながります。
5. まとめ
TOEICやIELTSのスコアは、あくまでもその人の英語力の断片的な部分を数値化しただけのものです。
スコアが高いからといって、海外で求められている英語力を持っている証明にはなりません。必要なのは、基本的な英語力の理解と、それを応用し活用できる力や、英語における想像力や洞察力といったものです。
インプットとアウトプットのバランスをとりながら英語学習を進めることで、日本でも海外でも通用する英語力を身に付けることができます。