いすゞの新型ジプニー

ジープニーの魅力

フィリピンで庶民の足といえば、なんだと思いますか?

日本を代表する交通機関といえば、鉄道や地下鉄を真っ先に思い浮かべることでしょう。でもフィリピンは、日本とは違って鉄道網が発達していません。フィリピンでの庶民の足といえば、なんといってもジープニーです。

ジープニーとは一定の路線を巡回する乗り合いバスのことです。停車場は基本的にないため好きなところで乗れて、好きなところで降りられます。乗車したいときには、走っているジープニーをタクシーのように呼び止めることが一般的です。

ジープニーにはオープンになっている後方から乗り込みます。車内には左右に対面のベンチシートがあり、16~30名ほどが乗車できます。

ジープニー後ろから
https://www.pri.org/stories/2015-01-15/philippines-built-tricked-out-popemobile-jeepney-pope-francis-visit

ジープニーの一番の魅力は、なんといってもその料金の安さです。マニラ首都圏では8ペソ、セブでは7ペソで乗ることができます。日本円にしてたったの16~18円です。

タクシーに比べるとかなり格安なため、市民の足はもっぱらジープニーなのです。

市内であれば、それぞれの路線ごとにジープニーを乗り継ぐことで、ほとんどの場所に行くことができます。もともとの料金が安いため、乗り継いでもたいした金額にはなりません。

ただし、路線の知識も含め、乗り方と降り方にはコツがいります。たとえば降りる際、場所によってはきちんと停車してくれないこともあります。そんなときは、のろのろ運転のジープニーから車道に飛び降りることになるため、慣れてないとそれなりの危険にさらされます。

ちなみにいったん停車したとしても、日本のバスの感覚で降りる際にもたもたしていると、降りる前にゆっくりと走り出すのはデフォルトです。

そのため、外国人観光客がジープニーを利用することはまれです。フィリピンに留学している若い世代の方は、挑戦してみても面白いかもしれませんよ。
セブ島のジプニーの乗り方・降り方・ルート攻略

ジープニーがフィリピン庶民にとっての代表的な交通機関であることは、「学校や職場までどのくらいのところに住んでいるの?」と聞いてみると、よくわかります。

そんなときフィリピンでは、ジープニーの乗り換え数で答えること多いからです。現地のフィリピン人であればジープニーの乗り換え数を聞くことで、おおよその距離を測ることができるようです。

ジープニーが引き起こす大気汚染

http://expatmedia.net/2017/05/02/deal-signed-take-philippine-jeepneys-off-roads/
http://expatmedia.net/2017/05/02/deal-signed-take-philippine-jeepneys-off-roads/

フィリピンをはじめて訪れた人は、ジープニーの車体の派手な装飾に目を見張ります。日本ではヤンキーかと間違えられるほど超ど派手なデザインが施されたジープニーが何台も公道を駆け抜けていく様は、フィリピンならではの光景です。

ちょっとしたことですぐにクラクションを鳴らすのも、ジープニーの特徴の一つです。ど派手な装飾でけたたましくクラクションを鳴らすジープニーが公共の交通機関であることに、底抜けに陽気なフィリピンらしさが宿っています。

すべてのジープニーの装飾があまりにもきらびやかなため、ともすると逆にすべて一緒くたに見えてしまいがちですが、ジプニーの装飾は車体ごとにまったく違います。オーナーがそれぞれに工夫を凝らしており、すべてのジープニーが世界にひとつしかないデザインになっているのです。まさにジープニーは、オーナーの自己表現の場といえるでしょう。

ジープニーはもともと第二次世界大戦後に、フィリピンに駐留していたアメリカ軍から払い下げられたジープを改造して作られたものです。“Jeep”という単語と、北米で乗合タクシーを意味する“Jitney”をかけ合わせて“Jeepney”と呼ばれるようになりました。

米軍が引きあげるにあたり、大量のジープはそのままフィリピンに残されました。このジープをなんとか公共のために利用できないかと考え出されたのがジープニーです。

ジープの魅力は、そのあり余る馬力にあります。そこで馬力を活かすために車体を拡張して、収容人数を増やしたのです。

改造のついでに、外観は色彩豊かに装飾されることになりました。ど派手にすることで、道路を走っていればすぐに乗客したい人の目につきます。こうして鮮やかな色彩とともに、キャラクターなどのオリジナリティあふれる絵やメッセージを描いた個性的なジープニーが誕生したのです。

当初はジープがなければ作れなかったジープニーですが、現在ではジープに限らずクルマのエンジンさえあれば、ジープニーの車体を丸ごと鉄板から造り上げることができます。

現在走っているジープニーのほとんどは、主に日本製の中古トラックのディーゼルエンジンに、フィリピン製のステンレスボディや中古部品を組み合わせて作られたものです。

そのため、エンジンは日本製とはいえ、ジープニーはフィリピンで唯一の国産車とも言われています。日本製の中古エンジンを積んだジープニーは、フィリピン全土で10万台以上走っているといわれています。

日本製の中古エンジンがジープニーに転用され、フィリピンの人たちの主要な交通機関になっていると聞くと、日本人としてなにやら誇らしげな気持ちにもなるのですが、実は喜んでばかりもいられません。

問題は、まだ排ガス規制のされていなかった時代の日本製の中古エンジンが大量に使われていることです。そのためジープニーは走るたびにすさまじい量の黒鉛をまき散らしています。このことがフィリピンの大気汚染の元凶になっているのです。

振り返れば数十年前の日本でもクルマから吐き出される排気ガスなどが光化学スモッグを招き、大きな社会問題となりました。

環境への配慮がなされていない日本の中古エンジンが海を越えてフィリピンに渡ったこととで、フィリピンでもまた深刻な大気汚染を招いています。となると、これを解決するのは日本に課せられた責任といえるでしょう。

そんななか、entrepreneur.com.ph に興味深い記事が掲載されていました。日本を代表するトラックメーカーであるいすゞ自動車が、ジープニーの製造に乗り出したとのことです。

この記事を翻訳のうえ紹介しましょう。

日本のトラックメーカー、現代版のジープニー製造へ

以下、entrepreneur.com.phに掲載された記事の翻訳です。

いすゞが公開した新型ジープニー
いすゞフィリピンの発表した新型ジープニー PUV近代化に向け、フィリピン人のドライブに大きな革新

パサイ市SMXコンベンションセンターでのいすゞフィリピンのトラックフェストには、2017年4月20日から23日にかけて開催されるトラックショー用の11台の重・中・軽量のトラックが展示されています。 すべての車両が貨物用に設計されているなか、1台だけ異彩を放つトラックがありました。それはジープニーです。

このディスプレイには、フィリピン国内最大手トラックメーカーである日本のディーゼルエンジン製造会社「いすゞ自動車」の現地企業が、フィリピンで最も人気のある公共交通手段の新しい形を発表する狙いがあります。

いすゞのNHRプラットフォームモデルに搭載されたジープニーの試作品は、いすゞフィリピンの認定サプライヤーであるセントロ・マニュファクチャリング社によって設計され、建設されました。

いすゞは、陸上交通料金規制委員会(LTFRB)が提案している公共事業車両(PUV)近代化プログラムのために、より効率的かつクリーンな新しいタイプのジープニーを発売する予定です。

このPUV近代化プログラムでは、公共車両の排出ガスや安全性、路上運転性能の基準の厳格化を目的としています。これが実際に運用されると、基準を満たさない何千もの旧型ジープニーが廃止される可能性があります。

いすゞフィリピンのマーケティング部課長ジョセフ・バウティスタ(Joseph Bautista)氏は、「政府は、輸送システムの近代化を目指しているため、我々はジープニーの代替品・ミニバスなどを供給したいと考えています」と話し、同社が2018年か2019年までに新しい車両ラインを立ち上げる計画だと語りました。

「政府は、公共事業車両近代化プログラムの車両構成の最終確認作業を行っています。 今はまだ仕様について議論している段階です」とバウティスタ氏は話しました。

いすゞはさらにバスの供給も計画していますが、試作品はまだ展示されていません。 「バスの場合、政府が策定する仕様に基づいて、現地の製造会社と協力して開発が行われることになるでしょう」と同氏は付け加えました。

このいすゞフィリピンの新型ジープニーは、重量3,800キロ、積載量2,325キロで、従来のジープニーより12%多い貨物を運ぶことができます。 いすゞフィリピンのジープニーはまた、積載能力・エンジン・タンク・出力・トルクにおいてもアップグレードしています。

いすゞの新型ジープニー横から
「新型ジープニーは、排出ガス・安全性・路上走行性の規制を満たすように設計されており、また乗り心地の快適さも改善されています」とバウティスタ氏は指摘しています。

いすゞフィリピンは国内最大のトラックメーカーとして知られており、昨年は重・中・軽トラックの販売台数が36%増の6,079台に達しました。

( 翻訳 Nina )

参照元:
http://www.entrepreneur.com.ph/news-and-events/japanese-truck-maker-to-build-modern-version-of-the-jeepney-a1673-20170421?ref=home_featured_big

以上、「日本のトラックメーカー、現代版のジープニー製造へ」の記事を翻訳の上、紹介しました。

いすゞフィリピンが新たに販売を開始するジープニーは、排出ガスに配慮されています。排出ガスについてはまもなく法的な規制がかかる可能性が高いため、そうなると現在のジープニーの大半は引退せざるをえなくなります。

もちろんすぐに強制的に廃車に追い込まれるとは考えにくいため、何年間かの期限を設けて次第に排ガス規制をクリアするジープニーへと切り替わっていくことになるでしょう。

その際は、いすゞフィリピンの手がける新型ジープニーがスタンダードになっているかもしれません。

日本製の中古エンジンが引き起こした大気汚染を、日本製の新型エンジンが救うという図式が見えてきます。これでようやくフィリピンの大気汚染も軽減されそうです。

もっとも、いすゞフィリピンのジープニーが普及したとしても、車体をど派手に装飾する伝統はきっと受け継がれるに違いありません。

深刻な渋滞が巻き起こす経済的損失

マニラのエドゥサ通りでの大渋滞
http://radyo.inquirer.net/7922/commuters-group-umaasa-na-magkakaroon-ng-pagbabago-sa-deployment-ng-hpg-sa-edsa

安さと便利さゆえに庶民の足として活躍しているジープニーですが、大気汚染と並び、もうひとつの問題を抱えています。

それは、交通渋滞を招いていることです。ジープニーのデメリットの双璧を為すのが、大気汚染と交通渋滞なのです。

どこでも乗り降りできるのがジープニーのよいところではあるものの、それは同時に交通の要所でクルマの流れを妨げるため、渋滞が起きる大きな原因になっています。

マニラ首都圏に足を運んでみれば、ジープニーの数がいかに多いことかすぐにわかります。「ちりも積もれば山となる」の例えのごとく、一台一台のジープニーが交通の流れを妨げることで、にっちもさっちもいかない大渋滞へとつながっています。

マニラ首都圏の渋滞は深刻です。どこへ行こうとしても交通渋滞に巻き込まれるため、どのくらいの時間で目的地に着くのか、さっぱり予定が立ちません。

かつては渋滞と言えばバンコクが有名でしたが、バンコクでは渋滞解消に向けて様々な取り組みがなされています。高速道路網が整備され、水上バスが充実し、BTSや地下鉄が次第に拡大しており、渋滞緩和に貢献しています。

その結果、スワンナプーム空港からバンコク都心までタクシーで1時間見ておけば、まず間違いなく到着できるほどに改善されています。

ところがマニラはバンコクとは対照的に、まったくといってよいほどインフラ整備が進んでいません。

メトロマニラを縦断するロハス通りと環状道路のエドゥサ通りは、まさにマニラの大動脈ですが、戦前に完成されたものに過ぎません。戦後からかなり経つにもかかわらず、未だにロハス通りとエドゥサ通りを越える大きな道路は造られていないのが現実です。

マニラ首都圏の主要鉄道であるLRT(マニラ・ライトレール)とMRT(マニラ・メトロレール)にしても、全長わずか50キロ程度に過ぎません。鉄道の周囲には貧困者がスラムをつくっているため、スピードも本数も増やせない状況にあります。

かつてフィリピン経済が「アジアの優等生」と呼ばれていた頃は、フィリピンのインフラ整備は周辺国よりも進んでいました。ところが相次ぐ財政の失敗によりフィリピン経済は失速し、次々に周辺国に抜かれていきました。それと同時にインフラ整備においてもまた、周辺国に追い抜かれる状況が続いたのです。

タイをはじめとする周辺国がインフラ整備にいそしんだ1980年代から2000年初頭にかけてフィリピンでは革命が起き、さらに相次ぐクーデター未遂が起き、政治的混乱が続きました。そのため、インフラ整備から完全に取り残されてしまいました。

インフラ整備が遅れ渋滞が引き起こされることで、フィリピン経済は大きな損失を被っています。国家経済開発庁(NEDA)の推計によると、マニラ首都圏の渋滞で毎日30億ペソ(1ペソ2.3円として69億円)、年間でおよそ1兆ペソ(2.3兆円)の経済損失が生じていると発表されています。莫大な損失額です。

このことはフィリピン経済の国際競争力を低下させる要因の一つになっています。

アキノ前大統領もフィリピン経済最大の課題として交通インフラの整備をあげていましたが、なぜか就任中には本腰を入れて取り組まなかったように見受けられます。

ところがドゥテルテ大統領になり、マニラ首都圏のインフラ整備が一気に進もうとしています。

日本が請け負ったフィリピンの鉄道計画

https://fr.wikipedia.org/wiki/M%C3%A9tro_l%C3%A9ger_de_Manille
https://fr.wikipedia.org/wiki/M%C3%A9tro_l%C3%A9ger_de_Manille

現在、マニラ首都圏ではLRT(マニラ・ライトレール)がバクララン駅からルーズベルト駅までの路線とレクト駅からサントラン駅までの路線とあわせて2路線、MRT(マニラ・メトロレール)がタフト・アベニュー駅からノース・アベニュー駅までの1路線を、それぞれ運行しています。

また、フィリピン国鉄(PNR)もトゥトゥバン駅からレガスピ駅までの28.1kmを結び、30分~1時間ヘッドで通勤列車を運行させています。

しかし、2320万人を超える人口を抱える大都会の鉄道網があわせて4つの路線しかないようでは、明らかにキャパシティが不足しています。

しかもその使い勝手は、東京の鉄道網や地下鉄に慣れていると、この上なく不便です。

たとえばフィリピンでは路線ごとに運賃が独立しています。そのため、乗り換えるたびにいちいち切符を買い求めなければなりません。

さらに問題なのは路線を変える際、共通の駅がないことです。路線を変えるたびに、異なる駅まで移動しなければなりません。つまり、こういうことです。

乗り換えのために電車を降り、自動改札を出て階段を降ります。そこから乗り換え先の駅まで500mほど歩きます。駅に着き、階段を上り、切符を買うために行列に並びます。そうしてようやく乗り換え完了です。フィリピンの炎天下のなか、公道を歩いたり階段を上り下りするのは、はっきり言って疲れます。

ぜひ一度体験してみてださい。これはなにかの罰ゲームかと、きっと思うことでしょう。

路線を変えるたびに入場時にセキュリティチェックを受けることも、日本の鉄道とは異なります。日本では電車に乗る際にセキュリティチェックがないため、チェックのために長蛇の列に並ぶことには不快感が募るかもしれません。

しかし、鉄道を利用する際にセキュリティチェックを受けることは世界の常識でもあります。セキュリティチェックのない日本のほうが、むしろ異常といえるかもしれません。

それでもフィリピンの鉄道でセキュリティチェックを受ける際には、どんよりとした不快感がこみ上げてきます。これには駅の薄暗さも影響しているようです。薄暗い空間には、それだけで妖しい雰囲気が漂っています。

運賃が安いことはありがたいものの、フィリピンの鉄道の利便性には大きな問題があるようです。

渋滞緩和のためには庶民の足が、ジープニーから鉄道へと切り替わることが必要です。鉄道の利便性を高めることが、フィリピンにとっての今後の課題といえるでしょう。

その一環として現在進められているのが「南北通勤鉄道事業」です。

「南北通勤鉄道事業」とは、マニラ首都圏の北方にあるブラカン州の州都マロロス市からマニラ市ツツバンまでの通勤線区間(約38km)を整備する鉄道計画のことです。

http://www.geocities.jp/emikoabe50/subway/tearoom/futurej1.htm
http://www.geocities.jp/emikoabe50/subway/tearoom/futurej1.htm

LRTとMRTの3つの高架鉄道の運行地域はマニラ首都圏内のみです。その総距離も50kmにとどまっており、大都会マニラの鉄道網としては寂しい限りです。

マニラ首都圏が発展するとともに、近接するブラカン・リサル・カビテ・ラグナの各州を加えた地域で構成される「メガマニラ圏」も急速に発展してきました。これらの地域はマニラ首都圏のベッドタウンとして機能しています。

しかしマニラ首都圏とこれらメガマニラ圏の都市をつなぐ鉄道が整備されていないため、人口と経済活動がマニラ首都圏に集中するよりなく、交通渋滞が起きています。つまり、マニラ首都圏とメガマニラ圏の都市を鉄道で結びさえすれば人口の大幅な移動が期待できるため、渋滞緩和につながるのです。

マニラ首都圏への一極集中を緩和するためにも、メガマニラ圏へと広がる鉄道網の整備が早急に求められていました。されど問題は、フィリピンには鉄道網を広げるだけの資金を調達する余裕がないことでした。

そこで名乗りを上げたのが中国政府です。当初、マロロス市から首都圏マニラ市ツツバンまでの区間の鉄道整備を請け負ったのは中国政府でした。中国政府は無償資金協力による支援を提案したため、フィリピンは諸手を挙げて受け入れ、建設が開始されました。

ところが中国側は当初の約束を守りませんでした。事業計画のずさんさが表面化し、工事は度重なる中断に追い込まれたのです。

両国間の契約にも不備、あるいは不法な疑いがあることが判明しました。はじめは無償資金協力のはずだったのに、フィリピン側にも相当な負担が生じることがわかり、当時のアキノ大統領の決断によりこの計画はついに凍結されることになりました。

中国がいったんは受注して頓挫した鉄道計画を受け継いだのは日本です。中国が建設途中で放置していった柱などをすべて撤去することから、新たな「南北通勤鉄道事業」がスタートしました。

2015年11月には、安倍首相とアキノ大統領の間で2,419億9,100万円を限度とする円借款貸付契約が調印されました。この支援規模は、過去に日本が行った円借款のなかでも最大です。

日本の協力により、フィリピンの鉄道計画は大きく前進しようとしています。

ドゥテルテ大統領が推し進める地下鉄プロジェクト

マニラの地下鉄のイメージ

ドゥテルテ大統領は周辺国に遅れをとったインフラ整備に本腰を入れて取りかかりはじめました。なかでも、もっとも力を注いでいるのが地下鉄プロジェクトです。

フィリピンよりもGDPが低いベトナムでさえ、ハノイとホーチミンですでに地下鉄建設が始まっています。このところの経済成長著しいマニラに地下鉄ができても、そろそろよい頃でしょう。

実はマニラでも早くから地下鉄計画はありました。日本からJICA(国際協力機構)がすでに事前調査を実行し、どのくらいのコストが必要になるかを試算しましたが、その額があまりにも莫大だったため、アキノ政権下では棚上げとなっていました。

フィリピンにとってマニラに地下鉄を走らせることは、単なる夢に過ぎなかったのです。

ところがドゥテルテ大統領の指示のもと、封印されていた地下鉄プロジェクトが復活し、ついに動き出しました。

フィリピン国家経済開発庁によるとマニラに地下鉄を建設する計画は、インフラ整備優先順位の上位に来ているとのことです。

計画では首都圏ケソン市からタギッグ市までに13~15駅を設け、全長25キロメートルを31分でつなぐ地下鉄が整備される予定になっています。この地下鉄が開通することで、1日あたり35万人の利用客が見込まれています。

ドゥテルテ政権では地下鉄ができることで、渋滞を解決する糸口になると見ています。

地下鉄プロジェクトの着工は2020年の予定で、運行開始は2024年となる見通しです。

夢と思われていたマニラに地下鉄を通すプロジェクトが実行段階に移されたのは、日本政府による支援が決まったからです。

今年1月にフィリピンを訪問した安倍首相はドゥテルテ大統領と会談し、政府の途上国援助(ODA)と民間投資をあわせ、今後5年間で1兆円規模の官民支援をすると表明しています。

地下鉄プロジェクトの事業費は43億ドル(約4775億円)と見込まれています。JICAが進めている事業可能性調査が9月にも完了する見通しのため、その結果を待って実行に移されることになります。

もちろん日本が行うのは資金援助ばかりではありません。世界最高峰と目される日本のトンネリング専門技術が、マニラ首都圏の地下鉄建設にいかんなく発揮されます。

日本とフィリピンの間の正式な調印は、安倍首相が今年11月に東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の関連会合に出席するためにフィリピンを訪問する際に、ドゥテルテ大統領との間で交わされる予定になっています。

フィリピンのインフラ整備は地下鉄だけに留まりません。トゥガデ運輸長官によると、ドゥテルテ政権下では今後3年間にインフラ整備を軸とする経済政策として総額3兆6千億ペソ(8兆3千億円)を投資するとのことです。

まさに国家をあげての大きなインフラ整備です。

ペルニア国家経済開発長官は、地下鉄計画の他にも2つの大きなインフラ整備が計画されていると発言しています。ひとつは、首都圏とルソン地方パンパンガ州のクラーク・グリーンシティを結ぶ高速鉄道整備計画です。もうひとつは、マニラ市トゥトゥバンとラグナ州ロスバニョス町を結ぶ通勤線整備計画です。

事業費は前者が19億ドル、後者が26億7400万ドルの予定です。地下鉄プロジェクトと合わせてこの3つの事業が、フィリピンのインフラ整備の基盤になります。

また、マニラ首都圏の混雑を緩和するために、パンパンガ州クラーク特別経済区にニュー・クラーク・シティーを設けることも発表されました。その先駆けとして運輸省は、6月までにクラークに移転することを明らかにしています。

フィリピンは今、大型インフラ整備事業がいくつも同時進行しており、マニラ首都圏は活気づいています。これらのインフラ整備事業は、ドゥテルテ大統領の任期中に終了することを目指すとされています。

大きなインフラ建設は、その国の経済をおおいに活性化させます。インフラ建設作業には大量の雇用が生まれるため、地域の経済全体が潤うからです。

ペルニア国家経済開発長官によると、ドゥテルテ政権下のインフラ建設計画により2017年には10万人、2018年には82万人、2019年以降2022年までは毎年100万人以上の雇用が生まれるとしています。

これだけ大規模な雇用が創出されれば貧困対策にも確実に効果が出ると、ペルニア国家経済開発長官は自信のほどをのぞかせました。

大型の公共投資が行われることで働き口が増え、貧困の解消につながることが期待されています。

貧困対策もさることながら、物資や人の移動が鉄道網によってスムーズになり、渋滞が緩和されることで、フィリピンに計り知れない経済成長がもたらされようとしています。

インフラ整備の黄金時代に向けた布石

http://www.myusefultips.com/dutertenomics-economic-banner-of-duterte-administration/#sthash.95XGU6yf.dpbs
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100万人の雇用を目指すインフラ整備を中心とする経済政策は、「ドゥテルテノミクス」と銘打たれました。

今後3年間で予定されているインフラ投資のうち、6割強が交通分野に振り向けられます。その他にも洪水対策や通信網の整備が拡充されます。

「これでドゥテルテ大統領はインフラ事業の黄金時代を築いたとして歴史に刻まれるだろう」と政権幹部たちは言い切っています。

フィリピンにとってインフラ整備は長年の課題でした。歴代大統領はなんとかインフラ整備を進めようとしてきましたが、その過程で生じる汚職、手続きが複雑すぎること、そしてなによりも資金が不足しているために、先送りせざるをえませんでした。

インフラ整備のたびにつきまとう汚職の構造は、フィリピンにとってまさに病巣でした。

フィリピンの最小の行政体はバランガイです。バランガイは日本でいうところの村や区にあたります。インフラを整備しようとした場合、まずはバランガイから要請が出され、地方自治体の政治家を通して国政レベルの政治家へとあがっていきます。

フィリピンの場合、汚職はこの過程で必ずと言ってよいほど生じます。地方自治体の政治家がまず見返りを求め、次に国政レベルの政治家も同じように見返りを求めます。

さらに管轄の関係省庁の職員もそれぞれに見返りを求めるため、ひとつのインフラ整備に着手するだけでも相当複雑なことになります。

また、利権が絡むことで事業の一時差止めの裁判などが起きると、裁判官までもが見返りを求めるという際限ない汚職のループに陥ります。

ところがドゥテルテ大統領の登場により、この汚職のループが断ち切られようとしています。ドゥテルテ大統領の強力なリーダーシップのもと、上からのダイレクトな伝令により、政治家の汚職を飛び越えて行政が進むようになったからです。

それを象徴するのが、「ダイヤル8888」です。「ダイヤル8888」とは、市民からの苦情に対応するための電話番号サービスです。賄賂(わいろ)を要求されるなど汚職にさらされたり、公共サービスに不満をもった人が「ダイヤル8888」に電話をかけると苦情センターにつながります。

苦情センターはドゥテルテ大統領と個人的に親しい関係にあるレオンシオ・エバスコ内閣官房長官の指揮下にあります。

ドゥテルテ大統領は「政府機関・職員がダイヤル8888を通じて寄せられた苦情に対して即座に対応できなかった場合は、処分の対象となる」と明言しています。

麻薬撲滅戦争でも断固とした姿勢を崩さないドゥテルテ大統領の伝達だけに、政府機関や職員に対する効き目は抜群です。

実際のところ、ダイヤル8888に電話を入れることで、行政が動き出す事例は数多く報告されています。たとえば橋梁の補修工事が半年間以上放置されているといった苦情を入れたところ、三日以内に工事が再開されて短期間のうちに作業が完了した、といった具合です。

ダイヤル8888は日本でいうところの「目安箱」のような働きをしていると思ってよいでしょう。もともとはドゥテルテ大統領が市長を務めたダバオ市で機能していたサービスです。

余談ですが、ダイヤル8888とともに緊急通報用電話番号として911が設けられました。ダイヤル911は日本の110番や119番に該当するものです。911の画期的なことは、これが全国共通の番号とされたことです。

信じられないことに、フィリピンではこれまで緊急時の通報用電話番号が地域によってバラバラでした。地方ごとに電話番号が異なるため旅先で緊急事態に遭遇した際は、いちいち電話番号を調べる必要があったのです。

ダバオ市で使われていたダイヤル911とダイアル8888が全国共通となったことで、フィリピンの行政サービスは著しく向上しました。

ことにダイアル8888の効果は大きく、汚職に手を染めにくい環境が次第に整いつつあります。

ドゥテルテ大統領はなぜ大がかりなインフラ整備を実現できるのか?

http://www.philstar.com/allure/2016/11/06/1640790/presidential-visit-japan
http://www.philstar.com/allure/2016/11/06/1640790/presidential-visit-japan

麻薬撲滅戦争をめぐる動きばかりが目立って報道されるドゥテルテ大統領ですが、経済政策においても精力的に取り組んでおり、歴代大統領にできなかったことを現実化しようとしています。

汚職追放を含め、なぜ歴代大統領に為し得なかったことを、ドゥテルテ大統領は実行できるのでしょうか?

前アキノ大統領から受け継ぎ好調を維持しているフィリピン経済が、ドゥテルテ大統領の背中を押しているという背景もありますが、それ以上に大きいのはドゥテルテ大統領自身のもつイメージです。

口は悪いものの、弱者には一貫して優しく寄り添い、不正は絶対に許さないという強さを兼ね備えています。ときどき予測できない暴走はするものの、そこには私心がなく、純粋にフィリピンという国家のために誠を尽くしています。

真偽はさておき、そのようなイメージが確立しているため、ドゥテルテ大統領はフィリピン国民の心をしっかりとつかんでいます。

そのため、暴言を吐くことで同じようなキャラクターと捉えられるアメリカのトランプ大統領が30%台まで支持率を下げていることとは裏腹に、ドゥテルテ大統領の支持率は80%前後に高止まりしています。

高い支持率はドゥテルテ大統領のリーダーシップを不動のものにしています。

財閥や特定団体の支援を受けていないことも、ドゥテルテ大統領の人気に拍車をかけています。思い切ったインフラ整備に踏み切れるのは、利権を巡る財界人や政治家とのしがらみがないからこそです。

たとえば前アキノ大統領の時代に地下鉄計画が進まなかった理由として、「当時の次期大統領候補の一人がジープニー業界のボスだったためだ」とする説があります。客を奪われることを恐れてジープニー運転手たちが強く反対したために、彼らの利益を代表する次期大統領候補が強硬に抵抗し、地下鉄計画が暗礁に乗り上げたとする噂です。

大きな資金が動くプロジェクトには、既得権益の思惑が絡むことが当たり前です。特定のバックボーンをもたないドゥテルテ大統領だからこそ、思い切ったプロジェクトを自由に進められる強みがあります。

さらに清く正しいイメージばかりでなく、政治的手腕においても卓抜していることは間違いありません。

いくらフィリピン経済が絶好調でも、「インフラ事業の黄金時代」を築くためには、莫大な資金を用意しなければなりません。イメージだけでは資金は集まりません。

不足する原資は外国からの支援を充てるよりありませんが、そこでもドゥテルテ大統領はしたたかな政治手腕を発揮しています。日本からは官民あわせて1兆円の経済協力を取り付けるとともに、中国からも経済支援を引き出しています。

4月29日にマニラで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議において、議長国フィリピンに対して「南シナ海での中国とフィリピンの仲裁判決を取り上げるべきだ」とする声が複数の国からあがりました。

南シナ海に対する中国の領有権主張や人工島の建設などが国際法に違反するとして、フィリピンがオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴した裁判は、フィリピンの言い分を全面的に認め、中国の主張に法的根拠がないと断じました。

南シナ海で中国がくり広げている軍事進出の脅威にさらされているASEAN加盟国は、中国を非難する仲裁裁判を利用することで、中国に対抗しようとしました。

しかし、フィリピンは取り合いませんでした。ドゥテルテ大統領は中国からの経済支援を得るために、南シナ海での領有権の主張を控えたのです。

ドゥテルテ大統領は2016年10月に中国を訪問した際に北京で習近平国家主席と会談し、総額240億ドル(約2兆6000億円)の経済支援を取り付けています。その際、南シナ海問題を「棚上げ」することが取引の材料に使われたと噂されています。

中国が推し進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議に出席するため、ドゥテルテ大統領は5月14日に北京を訪問します。習近平国家主席との二回目の会談も予定されています。

4月29日に行われた会見でドゥテルテ大統領は、「一帯一路」に関する国際会議に出席することで中国から新たな支援を引き出したい、と表明しています。

その一方で6月には日本を訪問し、安倍首相と会談する予定です。日本と中国の間で巧妙に立ち回りながら、両国から経済支援を取り付けようとしていることは明らかです。

したたかさは政治家にとって欠かすことのできない資質といえるでしょう。

ドゥテルテ大統領のもと、フィリピンの経済はますます成長していく気配を濃厚に漂わせています。

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