私が初めてした英語関係の仕事は、翻訳業務。
前回の記事にちょっと書きましたが、地元のハローワークで「英会話が出来る人募集」という求人を見つけました。
当時TOEIC550点で、とても自慢できる点数では無かったのですが、「英語関係の仕事がしたい」という一心で応募したところ、応募者が自分しかおらず面接を通過してしまい、仕事を始めることになりました。
こんな事は東京などの都会だったらあり得ない出来事かもしれませんが、今から13年前のイナカでは十分にあり得る出来事だったのです。
皆さん、ここで疑問が湧くかもしれませんね。
「TOEIC500点台で翻訳の仕事なんて出来るの?」と。
結論からいうと、場合によっては出来ます。
翻訳と言っても、事務がメインで翻訳が少々の英文事務や、TRADOSという翻訳のソフトを使って翻訳する方法があるので、一からコツコツ辞書を引いて文を訳すのだけが翻訳ではないのです。
実際の業務内容
例えば私が初めて携わった翻訳業務では、普段は購買業務の補助(伝票の記入や数字の入力など)をしながら、たまに発生する和訳と英訳をこなす、というものでした。
また海外からビジターが来た際には簡単な通訳もしました。購買業務と翻訳業務は半々の割合でした。ですからそこまで高度な英語力は求められなかったのです。
それよりも事務経験があり、英語も多少出来ればいい、という位置づけだったのです。ですから私は合格することが出来たのでした。
このような仕事はTOEICの点数が500,600でも始められます。初めて英語関係の仕事をする方にはオススメです。ここで経験を数年積んでから本格的な翻訳に挑戦するという道もあります。
余談ですが、14,5年前には英語関係の求人と言えば、TOEIC900以上必要な通訳か、700以上必要な翻訳しかありませんでした。
しかし2,3年前から、500程度あればいい貿易事務や、600程度が必要な営業事務などが増えてきました。
これは明らかな変化です。英語関係の仕事に就きたいと思っている人には朗報だと思いますし、企業側も時代の変化と共に求人の内容を変えてきているのですね。
英語関係の仕事が多様化してきている良い傾向だと思います。
更に余談ですが、14年くらい前の派遣会社の英語力テストというのは信じられないほど適当でした。(というかテスト自体がありませんでした)。
私が初めて派遣会社に行き英語関係の仕事を紹介してもらった時のことです。自己申告で「TOEIC770点です。」と言っただけで、スコアシートの提出も英語の実力テストもありませんでした。
「えっ、これでいいの?」と唖然とした事を覚えています。
これではTOEICの点数を水増しして申告しても、本人以外誰も分かりませんよね?全ての派遣会社がそうだったとは言いませんが、だいぶ適当だったのは事実です。
これには理由があります。派遣会社のコーディネーターさんは、基本的に英語が全く出来ない方がほとんどなので、実際に英語で話してみての英語力の判断が出来ません。
ですから履歴書上のTOEICの点数が重要視されるのです。(というかTOEICでしか判断出来ないのです)。しかし4年前にその派遣会社に再登録に行ったところ、ネイティブによる英語のテストがありました。
電話でネイティブからの質問に答える、というものでした。「やっとちゃんとテストをするようになったのね。」とその時思いました。
なぜ田舎の工場で翻訳業の仕事が出てきたのか?
さて、私が初めて携わった翻訳業務の仕事に話を戻します。その会社は田舎にある工場で規模が150人程度、従業員ほぼ全員が地元採用のアットホームな環境でした。
会社名も「◯◯製作所」というありふれた名前。
しかし突然、欧州のある企業に買収され、急に横文字の会社名になり、いきなり外資系企業になったという経緯がありました。(こんな事が実際に起こるんですねー。)
外資系企業の仲間入りをしたとは言え、中身は急には変われませんが、外資系になった事により、英語のメールや英語の文書のやりとりが発生し、それに対応するために私が第一号の翻訳業務担当として採用された・・・というわけなんです。(ちなみにパート)。
パートとは言えども結構責任は重く、全ての部署の英語関係の書類を全て自分一人で翻訳するという羽目になりました。。。。
仕事内容は特殊でした。
例えば来週海外からビジターが来るという場合、私がする仕事はまず工場見学で説明する文章を英語にする事でした。
「◯◯の工程を説明します。」を「I will explain ◯◯process.」というように英訳するのです。ここまではめずらしくない仕事内容だと思うのですが、英訳した文にカタカナでルビをふるというおまけが付きました。
そうです。せっかく英訳しても日本人のお偉いさん達が英単語を読めないので、カタカナで読み仮名をふるのです。「アイル エクスプレイン ◯◯ プロセス」と言う風に。
これが結構時間がかかりました。また「せっかく読み仮名をふっても、これを話し言葉にした時に、外国人に通じるのだろうか?」という不安が常につきまといました。しかし上司の命令ですからやるしかありません。
結局、通じたかどうかは不明でしたが、上司は「お陰でちゃんと英語が話せたよ。」と毎回満足気でしたので、成功だったのでしょうね。
きっとその上司は態度が堂々としていて声が大きくハキハキしているので、カタカナ英語でも通じたのでしょう。
それ以外にも、英語のメールが外国から来たから日本語に訳してくれだの、英語で電話がかかって来たので対応してくれだの、パンフレットを英語に訳してくれだのという依頼にこたえて、英語の何でも屋として一人で奮闘していました。
監査の通訳は暗記で乗り切った
そんな中でも私が一番印象に残っている仕事と言えば、監査での通訳です。
「1ヶ月後に監査で外国人が来る。その時に◯◯工程の説明をするから、そこで通訳をして。ほんの3分程度だから。」と上司に言われたのです。
TOEIC550点の私に通訳なんて出来るわけありません、とは言えず、何とかやるしかありませんでした。考えた挙句、◯◯工程の説明文を前もって教えてもらうことにしました。
その説明文を英語に訳して全部暗記し、流暢に言えるまで練習しました。猛練習の甲斐があり、本番では完璧に英語を話すことが出来ました。
周りにいた人は「通訳してる」と思ったかもしれませんが、正確に言うと通訳ではなく、暗記したものを披露しただけだったのですけどね(笑)。
不思議なもので「英語が出来る人が自分しか居ない」という状況だと、頼る人が誰も居ないせいか、火事場の馬鹿力を発揮して頑張る事が出来てしまうのでした。
他の従業員の皆さんは英語が少ししか出来ない私でも、「すごいね〜」と言って尊敬の念を持って接してくれるし、非常に楽しい環境でした。
その頃の自分は英語は大して出来なかったでしょうが、英語に携わる事が楽しくて楽しくて仕方がない時期でした。
また通常はパートという形態は正社員の補助でしかなく、何かを率先して成し遂げたり、充実感を感じる仕事をするという機会は少ないと思うのですが、私の場合は英語という武器があったせいか、毎日がとても充実しており、仕事内容も満足できるものでした。
また社員さんからいじめられたり、蔑まれたりという事が一切なく、みんな親切にしてくれました。
また上司も「〇〇さん(私)は翻訳の仕事があるから、雑用頼まないでね。」とみんなに言ってくれたので、誰も私に雑用は頼みませんでした。
この時私は「英語という武器があれば、周りから見下されたりバカにされずに済むんだ!」という事を身をもって体験したのです。
以前事務員として働いていた時には感じた事のない優越感でした。
英語という武器が無い時には、理不尽ないじめにもたくさん遭遇したからです。この経験により私は「今後も自分の身を守るためにもどんどん英語を勉強してTOEICの点数を上げるんだ!」と強く決意しました。
様々な形での応用
更に上司に頼まれて、昼休みに社員さんに英語を教えることもしました。
15名程度でしたが、英語が中学卒業レベルに達していない生徒さん達に4ヶ月間英会話を教えました。自分で教材を手作りし、生徒さんが楽しく続けられるように工夫していたのを覚えています。
この時の経験が後の英語講師、TOEIC講師へと繋がっていくとは、この時は想像もしていませんでしたが。。。
また海外からのビジターが来た際に、工場見学の通訳もしました。
この時は、入社から1年半経過しており、日々の猛勉強が実ってTOEIC770点になっていたせいもあり、前もって日本語文を教えてもらわなくても、何とか英語が口から出るようになっていました。
更に社内の文書の翻訳に携わっていたお陰で、専門用語や技術用語が完全に頭に入っていたのです。ですから自分が翻訳した分野ならば、通訳するのもそんなに難しくありませんでした。
この時、「自分が話した英語が通じる快感って何て素晴らしいんだろう。そして人が話す英語を理解出来るのって何て素敵なんだろう。周りからも感謝されるし尊敬の眼差しで見られる。通訳って本当に理想の職業だ!」と盲目的に思ってしまうのでした。(後に通訳の仕事を本格的した際に、この盲目的な感情は吹き飛ぶのですが・・・)。
この経験は強烈でした。この快感が忘れられず、以後私は英語に携わる仕事を次から次へと経験することになるのです。
改めて考えてみれば、翻訳とはとても地味でつらい作業です。英語力はもちろんですが、根気が無いと出来ない仕事です。
正直言って読解があまり好きでない私には苦痛です。しかしこの頃の自分は、翻訳が楽しくて仕方がありませんでした。
だからこそ家に資料を持ち帰り、少しでも質の良いものを提出しようと、無給で頑張る事が出来たのです。
今では翻訳をこんなに楽しめませんし、苦痛の方が大きいです。しかしこの時の自分には苦痛を吹き飛ばしてしまう熱意があったのですね。
皆さんに是非お伝えしたいことは、「多少の英語力の不足やTOEICの点数の不足は、あなたの熱意で克服できる。だから興味がある英語の仕事に挑戦してみよう!」ということです。
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