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プライドをズタズタに引き裂かれた通訳の仕事
インド人研修生の通訳が終わりに近づいて来た頃、他の派遣会社から
「今、短期で通訳のお仕事をされてるんですよね?K子さんは通訳の経験が既におありですので、来月から〇〇社でイギリス人駐在員の通訳をして頂けませんか?」
という話が来ました。
そのポジションは残業や国内出張が多く、まだ小さい子供がいる自分には厳しかったので、とりあえず1ヶ月だけ担当させてもらう事にしました。
就業先の方が「1ヶ月だけだから、わざわざ面接する必要はないです。」とおっしゃったので、私は面接試験を受けることもなく、またもや通訳の仕事を得たのでした。
単なるラッキーなだけでここまで来た自分です。秘書の仕事を得た時も、実力が無いのに運が良いだけで採用されました。そして今回も運の良さだけで通訳の仕事を得ました。
しかしその後には必ず地獄が待っています。これが私のパターンです。。。
今回の地獄は、「通訳の内容が高度すぎる(自分にとっては)」というものでした。
そして初日・・・
いきなり30人以上の日本人&外国人の前で前に立ってプレゼンの通訳をさせられ、しどろもどろになって、先輩に「代わるから。」と言われ、ものの5分もしないで交代になりました。
以前のインド人研修生の通訳の時は、日本人技師の大森さんが温厚な方だったので、私が多少間違おうが、訳すのに時間がかかろうが「いいよ。いいよ。」と辛抱強く待っていてくれました。
しかし今回はそうは行きません。
毎日毎日地獄しかありませんでした。
もちろん、私が下手くそなのが原因なのは分かっています。しかし「通訳とはなんて厳しい世界なんだ。」という事を実感する日々でした。
だからと言って私がふさぎこんでいたかと言うと、決してそうではありません。
つらい日々でしたが、楽しさも感じていました。普段、話者は自分が話した後、通訳のために時間を基本的には取ってくれないので、ほぼ同時通訳状態の事が多いのです。
そのため最初は「話者Aの話を訳しながら、話者Bの話を聞くなんて絶対に無理だ!」と思っていました。しかし場数を踏むと1週間程度で話しながら聞く、ということが出来るようになっていたのです。
アラフォーの自分でも訓練すれば、能力が身に付くんだなぁ、と実感した出来事でした。このように自分の成長が見える、というのは嬉しいものです。
ハッタリでもいいから堂々と・・・
また精神力がものすごく鍛えられました。皆の前で「何を言っているか分からない。」と言われたり、けなされたりしても、自分はその後も1時間以上通訳を続行しなければならないのです。
しょんぼりしてふさぎ込んでいる場合ではありませんでした。気持ちを強く持って立ち向かって行くしかないのです。
又いくら自分の英語に自信が無いからと言ってオドオドしていても何も良いことは無い、と学びました。堂々とした態度が大切なのです。オドオドしていると、話が始まる前から勝負に負けたも同然です。
その上周りの人からバカにされます。自信があろうが無かろうが、「今の自分の英語力でいいのだ。これで勝負してやる!」という気合が絶対に必要なのです。
後は「他人と比べない」という事も大切です。
私の周りには通訳歴10年のベテラン通訳さんや、外国に長い間住んでいた通訳さんなどが結構居ました。その方々は当然英語が上手ですし、会話の技術もあります。
その方々に混じって通訳をする際に「どうせ私はへたくそで、みんなは上手だから。」などと四六時中思いながら仕事したって良いパフォーマンスは絶対に出来ません。
自分なりに最高のパフォーマンスが出来ればいいのです。他人は他人です。他人に嫉妬したって自分の英語がうまくなるわけではありません。自分のことに集中することが大切です。
反面教師になった出来事
また逆に、自分より英語が出来ない人に優越感を見せたり、バカにしたりするのも危険です。
私は以前、ある屈辱的な体験をしました。
17年前、英語の実力が英検3級程度だったころ、アメリカに短期間ホームステイをしていました。そこに高校時代からの友人が私を訪ねて遊びに来ました。
彼女はアメリカ在住4年でしたから、英語は当然、私より出来ました。ホームステイ先の家族と私で、彼女を空港に迎えに行った時の事です。
私はショックで頭が真っ白になりました。その後も彼女はホストファミリーとスタスタと駐車場まで歩いて行き、私は一人寂しくみんなの後をトボトボと付いて行きました。
あの時のつらさは今でも忘れられません。彼女は「自分は英語が出来るんだ。白人とだって対等に渡り合えるんだ。」という事を私に見せつけたかったのでしょうが、私を完全に無視してまで平気でそんな事が出来る彼女の人間性に疑問を持ちました。
その後1週間位、彼女と一緒に過ごしましたが、四六時中「私はあなたより英語が出来るのよ!」という態度で私に接して来たので、それからは疎遠にしています。
そして私は将来、英語が出来るようになっても、絶対にこんな人間にだけはならないようにしよう、と誓い、この時の出来事を反面教師にしています。
周りと自分を比べるのはやめた方が精神的にも良いです。
通訳業務をやめて、役員秘書に、そして再び・・・
このように通訳の仕事に毎日励んでいた私でしたが、元々短期の契約だったため、トータル7か月で通訳業務は終了しました。
終了の挨拶に通訳の先輩の所へ行ったところ、私が実力不足で首になったと思った先輩は「これで分かったでしょ。通訳の仕事はあなたのようなごまかしの英語力じゃ務まらないってことが。」と言いました。
私はそれを聞いてとてもショックでしたが、本当のことなので何も言い返せませんでした。それから1年半、その言葉を忘れたことはありません。
その言葉があったからこそ、英語の勉強を続け、TOEIC935点を達成することも出来ました。
短期の通訳業務を終了した後、ある外資系企業に縁があり、そこで役員秘書をしていました。
なぜ「していました。」と過去形なのかというと、この連載を始めた時はまだ決まっていなかったのですが、先日、長期で通訳業務に就くことが決まったからです。
秘書の仕事は退職して、今後は社内通訳として勤務することになります。「あと1か月の命だとしたら、自分は何をするだろう?」と自問した結果、「やはり私は通訳がしたいんだ!」と答えが出たからです。
今後厳しい道のりになる事は分っていますし、また周りから「何を言っているかさっぱり分らない。」と言われたり「実力も無いくせに。」と言われる事でしょう。
しかしこのまま楽な道に居ても、何の成長も無く時間をつぶすだけです。私の人生の目標は「英語が出来る人になる。」です。この目標を達成するため精進あるのみです。
皆さんも英語が出来る人になるまでには、つらくて涙を流したり、悔しくて夜眠れない事が何回もあるでしょう。私には300回以上(かそれよりもっと)そんな経験があります。
それを乗り越えて英語の勉強を続けていれば、英語が出来る人になれるだけでなく、人間的にも大きな人になれ、精神的にも強くなっている事でしょう。
最後に・・・
私は企業に派遣されて社員の皆さんに英会話やTOEICを教える仕事もしていますが、その際に生徒さんに必ず言うことがあります。
「英語は細く長く続けた人が必ず勝つ!」
という事です。
「3ヶ月で英会話ラクラクマスター」や「1ヶ月でTOEIC200点アップ」は、本のタイトルとしては実在しても、現実には有り得ません。
その代わり、しつこくあきらめずに長年英語を勉強し続けてさえ居れば、絶対に英語は出来るようになります。「太く短く」ではなく「細く長く」です。
私自身、TOEIC440点から始まり、935点に到達するまでに約16年かかっています。
その間半年以上、英語を全く勉強せず「もういいや、英語なんて出来なくたって、問題なく生きていけるし。」と思ってテキストを全部捨てたり、「TOEICで高得点を取らなくたって、実際に英会話さえ出来れば問題ないんだからTOEICの勉強をするのはやめる。」と現実逃避して3年以上TOEIC受験から逃げたりしました。
しかし「だめだ。やっぱり英語から逃げてはいけない。私は英語が出来るようになりたいんだ!このまま年を取って死ぬのだけはイヤだ。」と思い直して、結局は英語の勉強を続けています。
皆さんも途中で休むことはあっても、英語の勉強を永久にやめてしまうのだけは阻止しましょう。
長く続けてさえいればきっと出来るようになります。地道にコツコツが英語学習の王道です。
これで連載は終了となります。合計8回の連載を読んで下さり、誠にありがとうございました。
K子