みなさん、こんにちは!
本記事をお読みの方の中には、「出版翻訳者になりたいけど、どうすれば、なれるのか判らない!」という方々がいらっしゃることでしょう。
そこで、どのような経緯を経て、筆者が出版翻訳者としてデビューすることが出来たのか、その道のりをみなさんにお話ししさせていただきます。
みなさんのお役に立つことが出来れば幸いです!
私が、どのようにして出版翻訳者になれたのか?
私は、翻訳・通訳専門の学校に通ったわけではなく、実地で実力を磨いていったいわゆる叩き上げの人なので、そうした学校を卒業することによって、実際に出版翻訳の仕事が紹介されるかどうかは存じ上げません。
ただ、一つ頭に入れておかなければならないことは、どんなに英語力がズバ抜けていようと、どんなに華やかな経歴があろうと、無名の新人をいきなり書籍の翻訳者に抜擢するような冒険をする出版社はまずないだろう、ということです。本が売れなくなったと言われている昨今ではなおさらです。
また、もし仕事を紹介されたとしても、最初は下訳からスタートするのではないでしょうか。そして、その仕事ぶりが「先生」に気に入られたら、また仕事を回してもらい、下積みを積んでいく、というパターンだと想像しています。
では、叩き上げのルートを取った私は、どのようにして出版翻訳者へとこぎつけたのでしょうか?
出版翻訳者への道
1.「オールラウンドプレイヤー」最強説
叩き上げである私はいきなり出版翻訳者になったわけではなく、それまでさまざまな分野の翻訳を行なってきました。
自身の経験からハッキリ断言できるのですが、今振り返ってみると、どのような分野の翻訳も翻訳者というキャリアにとって決して無駄にはなっていない、ということです。
これまでのキャリアの中で、特に自分にとって大きな転機になったと感じるものがいくつかあるのですが、最初の転機は海外の不動産投資会社で、財務事務の職に就いたことです。
実を言うと、不動産投資にも、財務事務にも、全く興味がなかったのですが、派遣会社の勧めで面接を受けたところ合格したので働き始めた、というのが正直なところです。
しかし、興味がない分野というのは、自分にとって「弱点」でもあるわけですから、その企業で働いている間、自分の弱点である「財務」「不動産」の部分をしっかりカバーすることが出来たのです。
ここでの経験は、後に大きく活かされることになりました。
私のメインの仕事は、財務報告書の翻訳と『ニュースペーパークリッピング』と言って、地元のメジャーな新聞と、財務系新聞の2紙から、重要な記事をピックアップし、翻訳することなどでした。
この業務が、自然と英字新聞と経済紙を読む訓練になっていたのです。
この会社で、財務系・不動産系の英語を、しっかり身に着けることが出来ましたし、会社が購読する日本の経済誌を読むことで、そうした分野のライティングのスタイルを吸収することも出来ました。
話が脱線しますが、この企業で働いたことのメリットは他にもあり、ニューヨークのダウンタウンの中でも、私が最も美しいと思うオフィスビルのひとつで働くことが出来たうえ、デスクがパーティションで区切られているのですが、そのスペースは、日本ではありえないようなゆったりした広さで、しかも日本ならば、部長クラスが使うような立派なデスクと、後ろにふんぞり返れるようなハイバックチェアーで仕事をする恩恵に恵まれたことです。
また、私がこの職に応募した時の倍率は20倍以上で、MBA取得者を差し置いて、ポジションを獲得したことが出来たのも、大きな自信に繋がりました。
ですので、出版翻訳者になりたい方への1つ目のアドバイスは、キャリアの初期では「私は、○○の専門家になる」という風に視野を狭めずに、オールラウンドプレイヤーを目指した方が、その時のスキルや経験が後々役に立つ、ということです。
一見遠回りのように見えるかもしれませんが、プロとしてデビューする前の段階においては、「○○専門家」よりも、「全部ひと通りこなせるオールラウンドプレイヤー」の方が、翻訳者としてのキャリアにプラスになり、重宝がられ、従って、チャンスも拡大する、ということです。
2.チャンスは「突然」やって来る!
財務や不動産の英語とその翻訳にひと通り慣れてきたところで、次のチャンスはやって来ました。求人情報で、地元のビジネス情報紙の記者の募集記事を見つけたのです。
「面白そう!」ピンときた私は、迷わず応募しました。
面接を受け、テストライティングにもすんなり合格し、すぐに仕事の依頼をいただけるようになりました。
この時、「産業翻訳は、経験ないし・・・」「新聞記事なんて、ハードル高そう・・・」なんて尻込みしていたら、キャリアを積む貴重なチャンスを逸していたでしょう。また、不動産投資会社で新聞記事の翻訳を続けていたことで、準備も十分整っていたのです。
この時、主幹から翻訳・執筆能力を買われた私は、一面記事を全て任されるようになっただけでなく、インタビュー記事や芸術のレビュー記事も担当するようになり、仕事の幅が一気に拡がりました。
また、この会社を通じて、契約書の翻訳や政府刊行物の翻訳の仕事などの依頼もいただけるようになりました。
この数年後に、講談社さんから英語本を出版させていただけることになったのですが、この時の記者の経験が、出版決定に際し大きな決め手になったのです。
というわけで、「チャンスが来たら、迷わず掴む」これが、2つ目のアドバイスです。さらには、チャンスが来たらチャンスを活かせるレベルまで能力を高めておく必要があります。
チャンスが来たらとにかく掴むことで、私は運を切り拓いてきました。誰が、誰に繋がっていて、どんな運を運んで来てくれるかは、その時には判らなくても、さまざまな人が見えない糸で繋がっているものです。
翻訳に限らず勇気をもって一歩踏み出すことで、どんなミラクルが起こるか判らない!それが人生の面白いところ。
3. 運命的なご縁が、さらに大きな転機に!
留学先の学校で仲良くなった友人に誘われ、ホテルのクリスマスパーティーに行ったのですが、その時『運命的な出逢い』があり、その人と親友になりました。
なぜその出逢いが運命的だったかというと、彼のお父さんがカウンセラーをしており、その方とのご縁により、出版翻訳者としての道を歩むきっかけになったからです。
彼のお父さんが、私に1冊の本を勧めてくれました。本のタイトルは、「Conversation with God」。ご存知の方も多いかと思いますが、精神世界の分野における名作と称される、世界的ベストサラー「神との対話」です!
一読した私は、本の素晴らしさに感動し、「この本を翻訳したい!」と、すぐに原著出版元にコンタクトを取りました。
しかし、「既に日本で出版することが決定しており、日本の出版社とも契約済み」という返事でした。この時、諦めきれなかった私は日本の出版社にもコンタクトし、訳者が決まっているかどうかを確認したと記憶しています。
その時点では、まだ日本で出版されていなかったものの既に出版社が決定しており、訳者の候補者も選定に入っていたのです。
この作品は大ヒット確実だと確信していたので、先を越されていたことがとても悔しかったのを覚えています。
しかし、これを機に、私の心に火が点き、『ヒット作発掘』の作業を始めることにしました。
まだ日本未出版で、版権が空いていて、しかもヒットが見込めそうな優れた作品をリサーチすることにしたのです。
私は、じっくり本を選べる地元の書店に通い、地道にこの作業を行ないました。
「ドブ板戦術」の収穫は・・・大!
いくつか作品を選んだ私は、シノプシスと企画書を作成して、日本に一時帰国し、いくつかの出版社に打診することにしました。
これは、企画の「持ち込み」と呼ばれています。
今は、なんでもメールや郵送で済ませられる時代ですが、私は敢えて、アポなしで出版社を訪問することにしました。いわば「ドブ板戦術」ですね。
現在はこの社会情勢ですから、正直お勧めできる方法ではないかもしれません。私も当時は若さゆえの度胸と厚かましさがあったから出来ました。
もしかすると、「常識のない人」というレッテルを貼られてしまう可能性もありますが、人によっては、「そこまでして海外からわざわざ会いに来てくれたんだから、会ってあげよう」という、度量の大きい方々もいるのです。
それに、実際に会って本人が伝えた方が、本の良さを十分にアピールすることが出来ますし、自分の人となりを知ってもらうことによって、信頼度も高まると判断したのです。
意外に思われるかもしれませんが、実際、ほとんどの出版社の方が快く迎え入れてくれました。塩をまかれたりはしませんでした。笑
その収穫ですが、二社から翻訳本出版の契約を取り付け、さらに一社からは英語本出版の契約を取り付け、別の一社からは、ベストセラーシリーズの英語本のコンテンツを寄稿するご依頼をいただいたのです!
一方、これまでメールあるいは郵送で企画書を提出して出版が決定したのは、0件です。
ドブ板戦術の効果、おそるべしです!しかも、そのうちの一社は編集長が力のある方で、私の企画を継続的に通してくれたので、同出版社からは良作を立て続けにリリースしていただけました。予想だにしなかった大収穫です。
同業界の翻訳家の権威である某先生も、自叙伝を読む限り、おそらく最初は持ち込みでスタートしたと思われます。
原稿を持ち込みすることのメリットは、自分が惚れ込んでいる作品なので、本の良さが判っており、自信をもって推薦できる点と、それだけ訳出にも熱が入る点です。
一方、持ち込み原稿のデメリットを挙げますと、当時と違って現在は、持ち込みを歓迎しているところは少ないだろうということです。
また、かつては、世界的なヒット作を持ち込みすることによって、その本を翻訳することも可能でしたが、現在では世界各国に「ベストセラー青田買い」のエージェントがいて、海外でヒットしそうなものは、既にエージェントがツバをつけていて、各出版社に先手を打って売込みをかけているので、出版社からお声がかからない限り、そうした作品の翻訳の仕事が回ってくる可能性は低いのではないか、ということです。
とはいえ、あなたに「ハリーポッター」のような超メガトン級の秘密兵器があれば、話は別です。出版社の方から、「是非ウチから出してください!」とお声がかかるでしょう!
ハリーポッターの翻訳者は、たしか原著者に直接コンタクトして、翻訳・出版する権利を取り付けたという経緯だったと記憶しています。ご存じの通り、シリーズ物で、しかも爆発的ヒットとなり、一気にスターダムにのし上がったのですから、出版翻訳者を志す人にとっては夢のある話ですよね。
もしあなたが同じように、「絶対自分が翻訳したい!」という作品があるなら、この翻訳者のように、行動力を発揮して、著者に直接掛け合うのも良いでしょう。
結果は保証できませんが、ダメモトです。失うものはなにもありません。
「あなたの本が大好きです!」と、情熱をもって訴えられたら、悪い気はしないでしょうし、心を動かされる人もいるでしょう。
最後までお読みくださり、ありがとうございます!
この続きをお楽しみに!
まとめ
2. 土台をシッカリ固めるために、キャリアの初期はオールラウンドプレイヤーを目指す!
3. 行動力と情熱で、道を切り拓く!
4. 持ち込みで出版翻訳を目指すなら、ヒット作を自分の力で見つける!
5. 気に入った作品が見つかったら、原著者・エージェント・出版社に掛け合ってみる!