こんにちは!
本記事では、これから翻訳家(翻訳者)として本格的に活動していきたい方、あるいは翻訳家として活動している方で、さらに飛躍していきたい! という方のために、そのためのコツをお伝えしていきます。みなさんのお役に立つことが出来れば幸いです!
まずは、ざっくりと本記事の執筆者の経歴をご紹介いたします。
筆者は、マルチな分野で10年以上にわたり翻訳・通訳・執筆をしてきました。これまで10作品を超える訳書を手掛けてきましたが、そのうち5作品がロングセラーとなり、全作品の総発行部数は、約20万部となっております。
先生と呼ばれる方々のゴースト翻訳者としてもいくつか作品を手掛けており、それらはいずれも概ね作品として高い評価を得ています。また、ありがたいことに、形而上学の分野でパイオニアと位置付けられている先生からも、翻訳についてお褒めの言葉を頂戴しております。
まず、「翻訳とは何か」ですが、翻訳は、受験や学校で英文を訳す作業とは、まるっきり異なる作業です。
学校英語や受験の英文和訳が完璧に出来るからといって、必ずしも翻訳者に向いているとは限りません。翻訳は「センス」「感性」を要する仕事だからです。
特に、文芸書には、それが言えます。
誤訳をしない高度な英語力が必要なのはいうまでもありませんが、それ以上に重要な要素があるのです。というわけで、次項目から具体的にご説明していきますね。
翻訳を始める前の準備編
1.翻訳者として一番重要な適性はなにか?
意外に思われるかもしれませんが、翻訳者としてもっとも重要な能力は「日本語力」です。
もちろん、卓越した英語力は最低条件ですが、日本語を書くセンスが同じくらい重要なのです。
以前、ある企業で英語を話せるスタッフの面接を担当したことがありますが、スピーキングがペラペラでリスニングが完璧でも、翻訳・通訳が全く出来ない応募者がいました。
彼女たちは帰国子女だったため、日本語でアウトプットするという訓練をしておらず、英語が理解できても、それを適切な日本語としてアウトプットする能力が欠如していたのです。
従って、どんなに英語が出来ても、翻訳という作業において日本語力がいかに重要かが理解できると思います。
さて、日本語力を磨くための方法ですが、新潮文庫の100冊に選出されているような名作、良書、経済誌、ニュースなど、いろんなジャンルの本をとにかく多読することです。
その時に選ぶコツは、自分が読んでいて著者のセンスの良さが感じられるもの、文章が判りやすいものです。
下手な文章は読むとクセがうつりますので、そうした作品はNGです。誤字脱字は論外です。
文章の上手い人とは、言葉選びのセンスが良い、読んでいて心地よい、リズムが良い、論理的といったところがポイントになります。
様々な本を多読していると、「この人巧い!」という自分の好みの作家やジャーナリストに出逢えると思いますので、そうした人の作品を徹底して読んでいるうちに、そのスタイルが自分の中に融合していきます。
すると、それが翻訳の作業にも活かされてくるのです。
2.成功している翻訳家・上手い翻訳家の作品を読むこと
次に、自分が翻訳する分野で成功している方、訳出が上手いと思う方の作品を読みます。
これは、どの単語をどのように訳出しているかを参考にするためです。
技術翻訳は除外しますが、翻訳というのは単なる和訳と異なり、「正解」はありません。筆者は、特に形而上学と言って、目に見えない世界のことを表現する分野の作品を主に手掛けてきたので、なおさら適切な表現を学ぶ必要がありました。
原著と比較すればどの単語をどのように訳出したかなどが明確に判りますが、自分が専門とする分野であるなら、原著を読まなくてもある程度見当はつくでしょう。
また、人気の翻訳者は、原文を訳出するにとどまらず、あたかも新たな作品を生み出すかのように独自の表現をプラスしていることもありますので、その辺も参考になります。
3.専門書などの場合は、関連書からキーワードを調べること
なんらかの専門書の場合、どの英単語がどの日本語に対応しているかを調べる必要があります。
技術翻訳もそうですが、専門書の場合、日本語が完全に一致していないと完全に誤訳となってしまったり、意味は合っていても読者に正確に伝わらないこともあるので要注意です。
筆者も専門的な本を訳す際には、関連書を数冊購入し、該当するキーワードについて、どの単語がなんという日本語に該当するかを調べてから、訳出作業に入ります。
4.どんな英文でも絶対訳せるという、能力が必要
翻訳の仕事をしていると、特に契約書などに見られますが、一つの英文が、5、6行にわたるような難解な文章に出くわすことが良くあります。
原著者がミスしている場合を除いて、翻訳者として誤訳は絶対に避けなければなりません。
従って、長文読解については、どんな文章でも誤訳せずに訳せるように訓練して、能力を磨いておくことが重要です。
読解力に自信のない方は、英文標準問題精講(原仙作・中原道喜共著)で、基礎力をつけることをお勧めします。この参考書が問題なくスラスラ解けるようになれば、だいぶ自信がつくでしょう。
実際の翻訳における7つのコツ!
1.文章は直訳しない!
英語と日本語は文化も起源も全く異なる言語ですので、そのまま直訳したのでは文章として成立しないことが多々あります。
翻訳する際に肝心なことは、文章を直訳せずに、その英文をいったん『概念』として自分の頭にインプットし、「日本語なら、どう表現するのが適切か?」を考えて、アウトプットするということです。
例えば、「You can’t do this.」という会話文があったとして、これをそのまま「あなたには、これが出来ない。」と訳出して、コンテキストから考えて成立するかどうかを考えるのです。
もしかしたら、「今さら、そんなことされちゃ、困るよ!」と訳出する方が、しっくりくるかもしれません。
後者の訳出は、学校英語では確実に不正解となるわけですが、翻訳ではベストになり得るのです。
2.訳出していて、辻褄の合わないところは、そのまま放置しない!
文章を訳出していると、前後のコンテキストから辻褄が合わない文章に遭遇することもあります。そのような時は放っておかずに、必ず解決します。訳者がおかしいと感じるということは、読者も必ずおかしいと感じるはずなのです。
そのような場合には、原因は大きく分けて二つ考えられます。
一つは慣用句やスラングのケース。
単語が文字通りの意味で使用されておらず、かつ自分がその慣用句やスラングを知らない、ということです。
学校でどんなに慣用句を学んでいても、海外生活がどんなに長くても、慣用句やスラングを全て把握しているとは限りません。そのような表現に出くわしたら、ネットでその表現を調べてみるとほぼ答えが見つかるでしょう。
もう一つのケースは、原著者がミスをしている場合です。
原著者がミスしている場合には、どう訳出すればコンテキストにマッチするかを考えて、どのように間違えたのかを推測して訳出します。
なお、ベテランの訳者でも誤訳していることがあり、そうした箇所は原書を読まなくても、「ここは、○○の慣用句を直訳してしまったので、誤訳になってしまったんだ」などと気づくことがあります。
3.憑依型翻訳とは?
どの本にも、その著者独自のエネルギーというものがあります。ふんわりした柔らかいエネルギーだったり、ユーモアのあるエネルギーだったり、愛のあるエネルギーだったり、論理的で頭の切れるエネルギーだったり。
これは私個人のポリシーですが、訳出する際には翻訳文も原著者と同じエネルギーを保つようにします。このやり方は、役者でいうところの「憑依型」翻訳と表現できるでしょう。
その方が、原著の良さが活かされると感じるからです。
「ですます調」か、「だ・である調」かなども、原著者のエネルギーが固い感じか、柔らかい感じかなどによって決めています。
4.意訳・超訳を心掛ける
これは、項目の1と関連していますが、筆者は誤訳にならないギリギリの範囲で、可能な限り意訳しています。言い換えるなら、超訳しようと試みます。
その時のポイントは、『いかにすれば、原著の良さが最大限に伝わるか』これをベースにすることです。
どこまで意訳出来るか、超訳出来るかが、そのまま翻訳者の力量に反映しているとも思いますし、それが翻訳者としての腕の見せ所であり、翻訳という仕事の醍醐味でもあります。
とはいえ、そのままスルスル訳すだけで面白く仕上がる本もあり、その場合はそのまま訳してOKです。
5.文章を書くうえで最も重要な事とは?
某大手企業の英訳の仕事を引き受けた際、英訳するうえで条件を一つ指定されました。その条件とは、「誰が読んでも、絶対に他に解釈のしようがない文章にすること」というものでした。
これは、そのまま和訳の翻訳にも当てはまります。
ジャーナリストの立花隆氏が、「頭の良い人は、誰が読んでも判る文章を書き、頭の悪い人ほど、判りにくい文章を書く」と述べていましたが、これはまさに正鵠を射た表現です。
訳出をひと通り終えたら全体を読み直しますが、その際、誰が読んでも、他に解釈のしようがないくらい、判りやすい文章であるかどうかを確認しましょう。
6.翻訳文にさらに磨きをかけるための作業
訳出してみて、日本語として不自然な場合は文章の順番を入れ替える、一つの文章をいくつかに切り分ける、言葉や表現を適宜継ぎ足す、といった配慮をします。
読者が読むのはあくまでも日本文であって、原文の正確な和訳を求めているわけではありません。なので、誤訳はNGですが、日本語として自然であるかどうかを重視します。
7.訳出している時のエネルギーにも配慮する
エネルギーというと目に見えないものなので、怪しいものという方もいらっしゃるかもしれませんし、そんなものは目に見えないから、読み手には判らないだろうと思うかもしれませんが、読者は文章だけでなく、そこにあるエネルギーをも感じ取るものです。
焦って訳しているか、気持ち良く訳しているか、イヤイヤ訳しているか、そうしたものは、読み手に潜在的に伝わっています。
訳が上手いか下手かだけでなく、それが読んでいて心地良いかどうかも読者は潜在的に感じとっているのです。
ベストセラーを連発していて、ファンが多い売れっ子の翻訳家は、やはり訳している時のご本人のエネルギーが良いので、読み手も心地良くなり、「この訳者の作品をもっと読みたい!」という気持ちが湧いてくるものです。
なので、作業する時には自分のエネルギー状態をなるべく心地良いものにすることも大切です。
まとめ
いかがでしょうか?
翻訳家として重要なポイントを余すところなくお伝えいたしました。
最後に、下記におさらいとして要点をまとめますね。
1. 日本語力を高めるために多読する!
2. 成功している翻訳家の作品を読む!
3. 専門書の場合は、事前に関連書からキーワードをチェック!
4. 長文読解力を磨く!
【実際の訳出におけるコツ!】
1. 文章は直訳しない!
2. 辻褄の合わないところは、放置しておかない!
3. 原著者のエネルギーを保持するよう心掛ける!
4. 意訳・超訳にトライしてみる!
5. 誰が読んでも他に解釈のしようがないくらい、判りやすい文章にする!
6. 文章の入れ替え・切り分け・追加で、翻訳文に磨きをかける!
7. 作業中のエネルギーにも配慮する!
上記のポイントをクリアーできれば、優秀な翻訳家として評価される可能性が高まりますので、ぜひ実践してみてくださいね。
最後までお読みくださり、ありがとうございます!