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留学マナビジンセブ島留学【特集】フィリピンの政経と歴史わずか半年でフィリピンが激変!?ドゥテルテ大統領は2016年にどんな功績を残したのか?

わずか半年でフィリピンが激変!?ドゥテルテ大統領は2016年にどんな功績を残したのか?

ドゥテルテ政権2016年の総括と2017年の展望

2016年はフィリピンのドゥテルテ大統領が、良きにつけ悪しきにつけ世界中から注目されました。米紙フォーブスによる「2016年世界で最も影響力のある人物」ランキングにおいても、ドゥテルテ大統領は70位に選ばれています。

フォーブスのこの企画は毎年行われていますが、フィリピンのような小国の大統領がランクインするのは、珍しいことです。

また、CNNは「2016年のアジア圏内における勝者と敗者」を昨年末に発表しましたが、「今年の偉大なる勝利者」に選ばれたのは、ドゥテルテ大統領でした。

>>The winners and losers in Asia in 2016:CNN

ドゥテルテ大統領が選ばれた理由として「良いか悪いかは別として、フィリピン国内に留まらずに世界中に影響を与え、物事を根底から覆すヒントを与えた」としています。

ドゥテルテ大統領について語るとき、多くのシーンで「良きにつけ悪しきにつけ」という枕詞がつくのは、世界中で共通しているようです。

そのイメージが作られたのは、ドゥテルテ大統領の就任直後から実行された麻薬撲滅戦争をめぐって賛否両論にわかれたことと、オバマ大統領や国連に向けた暴言の数々が問題になったからです。

しかし、当たり前ながらドゥテルテ大統領は、麻薬対策や外交ばかりをしているわけではありません。ドゥテルテ大統領が就任して以来、フィリピン国内ではさまざまな政策が実行され、確実に変化が生まれてきています。

そこで今回は、フィリピン国内のソーシャルニュースメディアとして人気が高い rappler に掲載された記事から、「ドゥテルテ政権、2016年の功績」を翻訳して紹介します。

rappler は長らくドゥテルテ大統領を批判する立場をとってきたメディアですが、この記事については、「珍しくrapplerがドゥテルテ政権を評価している」といったコメントが多く寄せられています。

「ドゥテルテ政権、2016年の功績」では、かなり細かな政策にまで踏み込んだうえで、ドゥテルテ政権が行った事実を、ありのままに報告しています。

記事を引用しながら、簡単な解説とともに紹介しましょう。なお、グレーで囲った部分がrappler の翻訳記事です。

ドゥテルテ政権2016年の功績

ドゥテルテ政権は、政府職員の官僚主義撤廃から薬物撲滅運動、農作物適地図作成まで、就任後数か月ですでにいくつかの公約を果たしたと報告しています。

フィリピン、マニラ – 2016年は、政府にとって本当に変化の年だったのでしょうか?

政府が発表している年次報告書には、薬物撲滅運動や海外フィリピン人労働者たちへの支援など、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が行ったことが記載されています。それを見ながらみなさん自身で判断してみてください。

またドゥテルテは、2016年中に軍のキャンプを22回、そして警察のキャンプを4回訪問しました。

以下の実績は、最近のニュース記事で補足してあります。

その1 麻薬撲滅への取り組み

http://edition.cnn.com/specials/asia/philippines-drugs-war

薬物撲滅運動
  1. 1,007,153名の薬物使用者と密売人が自首
  2. 12月30日時点で、42,978名の使用者と密売人が逮捕される
  3. 2016年10月7日時点で、73名の政府職員が違法薬物取引に関わった疑いで逮捕される
  4. 12月30日時点で2,166名の薬物使用者が警察の公務中に殺害される
  5. 違法薬物の密売と密売人の活動を撲滅する政府のキャンペーンとして、プロジェクト「Tokhang(ビサヤ語で「近づいて話す」の意味)」のもと、警察が5,868,832世帯を訪問、自首と更生を勧める
  6. ヌエヴァ・エシハ州フォートマグセイに大型薬物依存治療・更生施設(Mega Drug Abuse Treatment and Rehabilitation Center)開設。厚生省が運営
  7. 2016年11月末時点で関税当局が12億6,600万ペソ相当の違法薬物を押収(9億3,330万ペソ相当のシャブ、3億1,470万ペソ相当のコカイン、1,700万ペソ相当のエクスタシー)
  8. フィリピン国家警察の特別チームを結成、従来の警備に替わりニュー・ビリビッド刑務所を警備
ぬぐえないフィリピン国内の温度差

ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅戦争は、世界の耳目を集めました。警察が職務の執行中に、容疑者が抵抗したためにやむを得ず殺害した薬物使用者は、昨年末で2,166名にのぼることが公表されています。

警察によって公式に発表された2,166名という人数については、疑問を投げかけるメディアも数多く存在します。

この数字には、民間人による薬物使用者の殺人がカウントされていないからです。警察官以外の民間人による殺害を含めると、その数は6,000人を超えています。

これに対して政府は、「民間人による薬物使用者の殺人を奨励しても、認めてもいない」としており、これらを麻薬撲滅戦争による死者としてカウントするのは公正ではない、と反発しています。

それでも事実上、民間人による薬物使用者の殺人が黙認されていることは、多くのフィリピン国民によって認識されています。

日本をはじめ、フィリピンの国外からこのような状況を見ると、明らかに異常なものを感じますが、フィリピン国内はきわめて穏やかです。

その理由として、大多数のフィリピン国民にとって、殺人は身近でないことがあげられます。

たとえばマニラでは麻薬関連と思われる殺人事件が、一晩で6~8件も発生し、むごたらしい遺体の写真がネット上でばらまかれています。

日本でもこうした殺害事件が、たびたび報道されています。そうした報道に接すると、フィリピンがいかにも無法地帯と化しているようにも思えますが、現実は異なります。フィリピン国内は、ドゥテルテ大統領就任前と変わらない平穏を保っています。

日本人在住者からは、むしろ警官の数が街中に増えたことで、強盗やレイプが減り、治安が高まっているとする声もあがっています。

殺人事件が増えていることはたしかですが、普通に生活していて実際に遺体を目にすることは、まずありません。殺害事件はマニラ郊外に集中しているせいもあり、マニラ中心部はいたって平和です。

殺人事件は増えているけれども、それを実感できないことによる温度差が、ドゥテルテ大統領の支持率の高さにも表れています。ほとんどのフィリピン人にとって、殺人はけして身近な問題ではないからです。

もし、街を歩けば簡単に遺体が目につくような状況であれば、さすがに80%を超える支持率はありえません。

どれだけ道義的に理を説かれても、もしも周辺に死があふれている状態であれば、人はそれを受け入れられません。人は理性よりも、感情によって動くからです。

しかし、貧困者があふれる村では、死は日常にあふれています。貧困者ばかりのある村では、住民の3割が麻薬に手を出していたという統計もあります。

都市部と貧困者の多い地域によって、麻薬撲滅戦争に対する温度差がかなり異なることに注意を向ける必要があるでしょう。

ドゥテルテ大統領は昨年9月に、麻薬撲滅戦争を6ヶ月延長すると宣言しています。

2017年も引き続き麻薬に関する厳しい取り組みが続くのか、それとも終息へと向かうのか、世界中が注目しています。

その2 経済への取り組み

経済
  1. ドゥテルテ政権の「社会経済10の議題」を、国際・現地ビジネスグループ、国外の組織や政府などに提示
  2. 税制改正案(加速度と算入のための税改革案)を議会に提出。これは、富裕層納税者や企業からは歳入を確保しながら、多くのフィリピン人に納税義務を免除するもの
  3. 経済開発局が17の主要なプロジェクトを承認
  4. 汚職対策として、関税当局がCCTVのオンラインストリーミングを開始
  5. 関税当局が、米・燃料・偽ブランド品やたばこなど、13億ペソ相当の密輸品を押収
  6. 2016年12月時点で、関税当局の歳入目標4,090億ペソの93.3%を回収済み
治安回復が呼び込む海外投資

ドゥテルテ政権誕生前は、ドゥテルテ大統領が経済に対してどのような取り組みを行うのかを不安視する世論が強まりました。しかし、就任後に発表された「8つの基本政策」により、アキノ政権による経済政策の基本方針を受け継ぐことがはっきりしたため、2016年のフィリピン経済は順調に成長しました。

2016年1~9月の実質GDP成長率は前年同期比7.0%となり、2015年同期の5.7%を上回っています。ドゥテルテ政権に入り、経済についてはアキノ前大統領の頃よりも好調な滑り出しを見せています。

麻薬対策と外交上で飛び交う暴言にばかり注目されがちなドゥテルテ大統領ですが、経済においてはポイントを確実に重ねています。

アキノ前大統領のもとで、フィリピン経済は高度な成長を遂げました。フィリピンの安い労働力と高度な英語能力を活かしたBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)企業の誘致に成功したのは、アキノ政権の功績です。

BPOとは、自社の業務プロセスを外部企業に委託することです。 欧米企業が経費を節減するために、コールセンターを中心にフィリピンに移す動きが加速しています。

ドゥテルテ大統領は前アキノ大統領の路線を受け継ぐとともに、税制の改革による経済格差の解消を目指しています。

さらに注目されているのは、急速に高まりつつある治安です。手段に問題があるとしても、ドゥテルテ大統領はすでにダバオ市長時代に、麻薬撲滅に関する過激な政策を実行することで、ダバオの経済を建て直すことに成功しています。

ドゥテルテの施政のもと、フィリピンで最悪の治安といわれたダバオ市を、フィリピンでもっとも治安のよい街に作り替えました。

治安がよくなったことで海外からの投資も増えました。アキノ政権の功績として数えられるBPO企業の誘致にしても、そのほとんどはダバオ市への誘致であり、ドゥテルテの市長時代の功績でもあるのです。

周辺諸国に比べてフィリピンへの海外からの投資が少ない一番の原因は、フィリピンのもつ治安の悪さです。強盗やスリなどの犯罪率は欧米よりも低いものの、殺人の件数ではフィリピンは群を抜いています。

「国連薬物犯罪事務所」が世界各国の犯罪についての統計調査を発表していますが、2012年のデータによると、人口10万人当りの殺人事件の発生数は、日本が0.3人、イギリスが1.0人、アメリカが4.7人に対して、フィリピンでは8.8人となっています。

BPO企業の誘致でも証明されたように、労働力が安く、なおかつ国民の労働意欲が高く、英語に堪能な人が多いフィリピンは、海外から工場を移す際の最適な候補地です。

ところがあまりにも治安が悪いために、製造業などの大型工場がフィリピンに作られることはほとんどありませんでした。そのため現在のフィリピンは、第二次産業が空洞化しています。

ドゥテルテ大統領が現在すすめている麻薬撲滅戦争は劇薬であり、一歩間違えると政権そのものが崩壊する危険性を秘めています。しかし、その反面、治安が周辺諸国並みに高まれば、海外からの投資が盛んになると期待されています。

治安回復により海外からの工場誘致に成功すれば、大量の雇用が生まれ、フィリピンの抱える経済格差を解消できます。

仕事さえあれば、多くの貧困者が貧困から抜け出せるからです。

フィリピンにとって、治安と経済は深く結びついています。麻薬撲滅戦争の成否が、2017年のフィリピン経済の鍵を握っています。

その3 汚職の追放と官僚主義撤廃

http://anticorruptiondigest.com/news-topics/rodrigo-duterte/#axzz4WjspAj4Q

政治の透明性・汚職の撲滅
  1. 情報の自由についての大統領令に署名
  2. 大統領府通信局が、情報の自由に関するポータルサイトを開設、2016年12月22日現在で312件のリクエスト
  3. 185の省庁および政府所有もしくは政府監督企業のうち、130(70%)が、それぞれの情報の自由マニュアルを作成
  4. 市民クレーム対応ホットライン(8888)開設
官僚主義撤廃
  1. 営業許可や免許が1枚の書式、5か所の署名と最大5段階の手順で完了するよう、1,419の市と自治体(全体の87%)が手順を統一。これは内務自治省主導で行われた
  2. 内国歳入庁が、不動産や株に必要な納税証明書の登録手順を、3~5日に簡素化を開始。
  3. 納税促進のため、クレジットカード、デビットカードまたはプリペイドカードでの支払い方法、そして支払いセンターも追加された
多極化がもたらす汚職追放

フィリピンの官僚と政治家の腐敗ぶりは、徹底しています。役人の腐敗については、東南アジアではどこへ行っても少なからず問題とされますが、フィリピンはそのなかでも際立っています。

たとえば、区役所にて車関係の許認可を与える部署の幹部ともなると、毎日多大な賄賂(わいろ)が舞い込みます。なにせ袖の下を通さないと、簡単な許認可さえなかなか降りてこないため、なにをするにしても賄賂が幅をきかせます。

車関係の許認可というささやかな利権さえ賄賂次第という状況ですから、さらに大きな利権が絡むと、膨大な人数と金銭が動くことになります。こうして汚職の構造が生まれます。

ドゥテルテ大統領が就任前から「殺してやる」と宣言していたのは、薬物使用者ばかりではありません。「腐敗した官僚や警官は皆殺しにする」と語っていました。

汚職はまさに、治安の悪さと並ぶフィリピンの病理です。ドゥテルテ大統領が、政財界の支援を受けたアキノ前大統領陣営を大統領選で打ち破ることができたのも、フィリピン国民の多くが「ドゥテルテであれば本当に汚職を正せるかもしれない」、と期待したからこそです。

フィリピンの歴代大統領は、汚職をなくすことを選挙前に公約として掲げました。しかし、本当に汚職を追放できた大統領はいません。

なぜなら歴代大統領は少なからず、フィリピンの既得権益を一手に握っている財閥のバックアップを受けていたからです。アキノ前大統領もまた、フィリピン経済に巨大な力を及ぼすコハンコ財閥の出身です。

汚職の追放は、さまざまな権益を握るエリート層にとって、好ましいことではありません。エリート層が社会を自由に操ることができるのは、汚職の構造があるからこそです。

これまでの財閥の息のかかった歴代大統領には、エリート層の聖域に踏みいることは許されませんでした。しかし、ドゥテルテ大統領は違います。

財閥の出身でもなく、財閥から多額の資金提供を受けていないドゥテルテ大統領は、フィリピンにはじめて誕生した財閥の影響を受けない大統領です。だからこそドゥテルテ大統領は、貧困者が絶対多数を占めるフィリピン国民からの絶大な支持を受けているのです。

ドゥテルテ大統領が反米親中に傾いた外交を展開していることも、汚職の追放に強く絡んでいます。

財閥がフィリピンで力を行使できるのは、彼らがアメリカの上層部と密につながっているからです。フィリピンが対米従属の政治を続ける限り、財閥の力が弱まることはありません。

財閥の握る利権の多くは、アメリカの上層部の利権にもつながっています。フィリピンは1946年にアメリカの支配から脱して独立しましたが、宗主国としてのアメリカの影響は、財閥を通して今も活きています。

つまり、アキノ前大統領がすすめた対米従属の政治を続ける限り、フィリピンの政治と経済は財閥の支配から抜け出せない、ということです。

そこでドゥテルテ大統領は、対米従属から中国とロシアにすり寄る多極化を目指しています。

アメリカによる単独覇権の構図が、2016年から大きく揺らいでいます。

アメリカとの橋渡しをしてきたのは財閥ですが、相手が中国やロシアとなると財閥の力はもはや及びません。中国やロシアとの交渉におけるキャスティングボードを握るのは、ドゥテルテ大統領自身です。

財閥の独占する権益を剥がし、真の意味での民主化を進めることができるかどうか、2017年はまさに正念場となることでしょう。

なお、ドゥテルテ政権となり、小役人による汚職が減っていることもたしかなようです。

たとえば、以前はフィリピンでは、空港職員などが銃弾を荷物に紛れ込ませる犯罪が頻発していました。銃弾が見つかったことを盾に、多額の賄賂を要求する犯罪です。

空港でこれに引っかかると、たいていの旅行者はパニックに陥り、係官の言うままに金銭を手渡してしまいます。

しかし、ドゥテルテ政権になってからというもの、この犯罪の報告はひとつもなされていません。

フィリピンの治安が回復されつつあることは、こうしたことにも明らかに現れています。

その4 外交:反米親中へ向けてサイは投げられのか?

https://philnews.ph/2016/10/14/duterte-xi-jinping-might-discuss-south-china-sea-issue-official-visit/

外交
  1. 外務省が、ソマリの海賊にハイジャックされたオマーンの船員のうち、5名のフィリピン人の開放を確認
  2. 外務省が、ASEAN2017でフィリピンが議長を務めるために支持を得ることを支援。外務省の支援によりロドリゴ・ドゥテルテ大統領はASEAN各国8か国を訪問
  3. ドゥテルテは中国と日本を訪問
  4. ドゥテルテは、ペルーで開催されたアジア太平洋経済協力(Asia-Pacific Economic Cooperation)の首脳会談に出席
南沙諸島をめぐる米中との駆け引き

仲裁裁判所が否定した中国の九段線 http://www.bbc.com/news/world-asia-34671504

2016年に注目されたのは、南シナ海をめぐる中国とフィリピンの対立の行方でした。前アキノ政権では、南シナ海における中国の海洋進出に対して、ASEAN諸国のなかで最も強い抵抗を示しました。

フィリピンは1991年のピナツボ火山の噴火によって、米軍が駐留するクラーク基地が使用不能に陥ったことをきっかけに、アメリカとの基地協定の延長をしないことを決め、米軍をフィリピンから撤収させました。

以来、フィリピンは対米自立に向けて歩き出していました。しかし、米軍の撤収を狙い澄ましたかのように行動を起こした中国によって、フィリピンが実効支配していた南沙諸島のミスチーフ礁を、強引に奪われてしまいました。

フィリピンはこれに激しく反発し、前アキノ政権下において、アメリカの掲げた中国包囲網に乗るように米軍のフィリピン再駐留を認め、軍事面における対米従属の姿勢を明らかにしました。

ドゥテルテ政権に移って間もない昨年の7月12日に、2013年に前アキノ政権が海洋法調停機関に提起していた南シナ海に関する仲裁裁判所の判決が下りました。判決はフィリピン側の言い分を全面的に認め、中国には南沙諸島に領有権を主張する法的根拠がないと断じました。

もとより判決に拘束力はないものの、有利なカードを手に入れたことはたしかであり、ドゥテルテ大統領が中国とどう対峙するのかが注目されました。

アキノ政権であれば間違いなくアメリカと協調しながら、中国への圧力を強めたことでしょう。ドゥテルテ政権も同じようにするだろうという大方の予想を、ドゥテルテ大統領は鮮やかに覆しました。

南沙諸島を巡る問題については、中国が望む二国間協議で進める意向を示し、その見返りとして多額の資金援助を中国から引き出すことに成功しました。

その一方でアメリカとの対決姿勢を露わにした暴言を繰り返し、米軍のフィリピンからの撤退を求める発言さえしています。

これに対してアメリカは、冷静に対処しようとしています。ドゥテルテ大統領はマスコミ向けに過激な反米姿勢を打ち出していますが、それはあくまで国内向けであり、アメリカ政府に直接通達しているわけではありません。

ドゥテルテ大統領の暴言が派手なパフォーマンスに留まっているうちは、アメリカは静観する姿勢を崩さないだろうと見られています。

ドゥテルテ大統領はこれまでフィリピンがとってきた反中の姿勢を改め、逆に反米へと舵を切ったようにも見えます。その真意については、現在のところ不明です。

小国の生きる知恵として、ふたつの陣営のそれぞれから有利な資金援助を引き出すための方便に過ぎない、とする見方もあります。

アメリカ離れが起きた政治的な理由

フィリピンの軍事力は、軍事分析会社グローバル・ファイヤーパワー(Global Firepower)の発表した「世界の軍事力ランキング2016年版」によると、世界第40位です。

世界的に見てけして弱い軍隊ではないものの、中国の海軍力とは比較になりません。一国だけで中国と対峙するような軍事力は、フィリピンにはありません。

フィリピンはインドネシアやマレーシアとの軍事同盟を模索していますが、三カ国併せたとしても、中国に対抗するのは至難の業です。

では、アメリカが助けてくれるのかと言えば、これも疑問です。実際のところ、南沙諸島にあるふたつの島が中国の軍事力によって奪われた際も、アメリカはなにひとつ助けようとはしませんでした。

フィリピンがずっと求めていたのは、フィリピンが領有する南沙諸島の島が、フィリピンとアメリカとの防衛条約の範囲内である、とするアメリカの言質です。

日本の尖閣諸島に対してはアメリカは、日米安保条約の範囲内であることを明言しています。だからといってもちろん、実際に尖閣が中国に奪われた際にアメリカ軍が動いてくれるかどうかはわからないものの、言質があることで中国の暴走を抑える効果があることはたしかです。

フィリピンはずっと、アメリカの言質を求めてきました。しかし、アメリカはあいまいな態度を崩そうとはしませんでした。

こうしたことからも、フィリピンのなかにアメリカへの不信感が蓄積されています。いざというときに守ってくれないのであれば、アメリカに従属する意味はありません。

このことは他のASEAN諸国にも共通しています。インドネシアにしてもマレーシアにしても、すぐ近くに存在する中国の軍事力の脅威から無縁ではいられません。

フィリピンが中国との対決姿勢を続けることで軍事的な緊張が高まるよりも、親中へと路線を変更しつつある今のほうがASEAN諸国にとっては歓迎すべきこと、という空気があります。

米中の戦争に巻き込まれるよりは、中国との経済活動を推し進め、経済的に甘い蜜を吸った方がよいと考えるのは、やむを得ない面があります。

アメリカはトランプ大統領になり、中国による南シナ海の人口島建設を阻止すると宣言しています。アメリカが中国包囲網を本格的に築くとなると、地政学からいってもフィリピンを取り込む必要があります。

今年に入り、安倍首相がフィリピンをはじめとするASEAN諸国を回っているのは、こうした思惑を受けてのことかもしれません。

ドゥテルテ大統領の舵取りひとつに、米中二大国の明暗が託されています。

ドゥテルテ政権:その他の2016年の功績

http://anticorruptiondigest.com/anti-corruption-news/2016/10/17/rodrigo-duterte-the-donald-trump-of-the-philippines/#axzz4WjspAj4Q

ドゥテルテ政権のその他の功績について、rappler の記事を紹介します。

海外出稼ぎフィリピン人労働者に対する支援
  1. マンダルーヨン市のフィリピン海外雇用庁に、海外フィリピン人労働者に対するサービスセンターが開設。2016年12月7日までに219,697名が利用
  2. 中東での原油価格下落に伴い移動を余儀なくされた10,233名の海外フィリピン人労働者に対し、4億5,510万ペソの緊急支援金を給付。そのうち2,401名は政府の本国送還プログラムを利用
  3. 休暇を取る海外フィリピン人労働者に海外雇用証明書を免除。旅行税やターミナル使用料免除もまた検討中
交通機関
  1. 渋滞に対応するシステム合理化のため、運輸省が省庁交通協議会を招集。協議会には、マニラ首都圏開発庁(Metro Manila Development Authority)、フィリピン国家警察・高速道路パトロールグループ(PNP-Highway Patrol Group)、陸運事務局(Land Transportation Office)、陸上交通許認可規制委員会(Land Transportation Franchising and Regulatory Board)が含まれる
  2. 401台の無登録車両を押収
  3. 6,883台の違法駐車車両を牽引・押収
  4. 5,738の露店商人を立ち退き
  5. 自動車運転免許証の有効期間を3年から5年に延長
  6. 2016年1月から10月までに申し込みがあった自動車運転免許証は、メトロ首都圏にある
  7. 36の陸運事務局免許センターで受取可能
  8. ドゥテルテ政権発足以来、ラグラグ-バラ(空港などで銃弾を荷物に紛れ込ませる犯罪)の報告なし
  9. ニノイ・アキノ国際空港で、パイロットは5分以内に離陸しない場合列の最後に回されるというルールを徹底したところ、飛行機定時出発率が、47%から78%へ大幅改善
  10. ニノイ・アキノ国際空港から利用者をマカティやロハス・ブルバードへ運ぶため、21台のメルセデス・ベンツ社製のバスを導入
労働
  1. 施設や企業に対する労働・雇用庁の立ち入り検査で、2,531名の労働者がENDO(契約終了)システム化での就労を強いられていることが判明、是正した
  2. 海事産業局(MARINA)申込書を最大でも3日で手続きする期限を導入

https://www.youtube.com/watch?v=5cb_MSaoRAQ

テロリスト対策
  1. フィリピン軍(AFP)は、アブ・サヤフグループに対し大規模な軍事作戦を597回行った
  2. 94名のアブ・サヤフグループメンバーを殺害、21名が自首、17名の身柄を拘束
  3. アブ・サヤフのリーダー、ネルソン・ムクタディル(Nelson Muktadil)、ブラウン・ムクタディル(Braun Muktadil)と副リーダーのモハメド・セッド(Mohammad Said)を、軍事作戦中に殺害
  4. バンサモロ・イスラム自由兵士(Bangsamoro Islamic Freedom Fighters)とマウテ・グループに対し、フィリピン軍が44回の戦闘活動を行った
  5. 戦闘により、50名(バンサモロ・イスラム自由兵士もしくはマウテ・グループのメンバー)を殺害
  6. 9月に発生したダバオ市での爆発から32日後、3名の容疑者を逮捕
  7. 海賊行為、身代金目的の誘拐、テロリズム、付近の海域で起こる多国間に渡る犯罪対応のため、マレーシア、インドネシアとの軍事協力の強化を約束した同意書に署名
  8. 暴力事件が多発したため出された国家非常事態宣言に合わせ、ダバオ、セブ、カガヤン・デ・オロ、ジェネラル・サントス、メトロ首都圏を軍関係者がチェックやパトロールを行い安全確認
健康
  1. 保険医療省が、シャリフ・アグアックのマギンダナオ州病院に初めてCTスキャンを導入
通信
  1. 情報通信技術省(DICT)、電気通信委員会(National Telecommunications Commission)と通信会社が、異なるネットワーク間での音声通信の料金を2.50ペソに統一することに同意
法秩序
  1. 緊急通報用電話(911)運用開始

http://www.businessinsider.com/philippines-rodrigo-duterte-high-popularity-but-dissent-exists-2016-10

農業
  1. 農地改革と土地紛争についての方針策定および決定最高機関である大統領農業改革協議会が、10年ぶりに再編成
  2. 農地改革省が、セブでは50名、ソルソゴンでは35名、西ミンドロでは175名、ブキノドンと北ラナオで300名の農民に土地所有証明書を配布
  3. 農地改革省が、5,586の農地改革受益組織を支援
  4. 農地改革省が、北コタバト、バニシランにある4,070万ペソのゴム加工工場を譲渡
  5. 農地改革省が、2,865の共益サービス施設を農民に譲渡
  6. 農地改革省が、19億ペソ相当の貸付金を516名の農業組織に貸与
  7. 農務省が2016年12月1日に農業適地で色分けした地図の運用を開始。土壌の性質、標高、給水量、降雨パターン、危険度、気候変化に対する脆弱性などを考慮した上で、特定の地域でどの農作物が最もよく成長するか見ることができ、政府や投資家に役立つと考えられる
  8. 農務省漁業水産資源局(BFAR)が、10,632名に5,581の刺し網と10,271の釣り具を支給
  9. 漁業水産資源局が、12,484名に5,315万匹の幼魚、3441,388キログラムの海藻の芽、3,155セットの海藻養殖設備を支給
教育
  1. 教育省(DepEd)の代替教育制度プログラムの一環として学校に通っていない600,000名の若者が適正認証と同等プログラムに合格、高等学校または大学への進学資格が与えられる
  2. 教育省が、マドラサ教育プログラムの資金をイスラム教の生徒がいる公立学校に使用する際のガイドラインを発表
エネルギー
  1. エネルギー省が、26,321戸の住宅をエネルギー供給へ接続。このうち、2,662戸は通電の優先地域と見なされていた
  2. エネルギー省が、フィリピン・エネルギー計画2016-2030を更新。国内全域の通電に向け、短期、中期、長期的目標を定める戦略を設定する計画である
  3. 414メガワットのサンガブリエル天然ガス工場と、97メガワットのアビオン天然ガス工場の2つの主要工場が運営開始
環境
  1. 環境天然資源省(DENR)が、該当する工業基準に準拠していることを確認するため41の鉱山を監査。このうち、10が工業一時中止、20が中止勧告、11が合格基準に達した
  2. 環境天然資源省がホットラインを開設(固定電話は#3367、携帯電話は0917-868-DENR or 0917-885-DENR)
公共事業と道路
  1. 公共事業・高速道路省のプロジェクトに関して報告、質問、提案をするためのホットラインを開設。テキストの場合は2920、固定電話の場合は(02)165-02
気象
  1. 科学技術省(DOST)が、271の気象観測所を新設
  2. 科学技術省が、ザンボアンガドップラー気象レーダーシステムを導入
社会保障
  1. 天災被害者に対し、910万ペソ相当の義援金を支給
  2. 台風ラウィンで影響を受けた27,052世帯に、1億3,530万ペソ相当の緊急避難支援金を支給
観光
  1. 観光省とミス・ユニバース協会が、フィリピンをミス・ユニバースの開催国とする覚書に署名
  2. 2016年10月時点で、訪問観光客が11.65%増加
貿易と産業
  1. フィリピン投資委員会に登録された2016年1月から11月までの投資額が、2015年同時期と比べて35.5%増加
  2. 貿易産業省、内務自治省、情報通信技術省が、営業許可証の手続きを3日に短縮する共同覚書回覧に署名
和平プロセス
  1. バンサモロ移行委員会結成のための大統領令に署名
  2. モロ・イスラム解放戦線との会合を4回開催
  3. 和平交渉に参加できるよう、モロ・イスラム解放戦線議長、ヌル・ミスアリの逮捕状を6か月間停止
  4. 国民民主勢力との和平交渉
  5. 軍と新人民軍との停戦
台風ヨランダからの復興
  1. 台風ヨランダで影響を受けた8,000世帯のうち49%、3,965世帯を、タクロバンの再定住地へ移動

ドゥテルテ政権:2016年の功績についてのまとめ

https://www.youtube.com/watch?v=RdlR9AqaBAY

フィリピンで人気のソーシャルニュースメディア rappler の記事を翻訳するとともに、解説を加えながらお届けしました。

こうして並べてみると、ドゥテルテ政権になってから半年ほどの短い期間にもかかわらず、さまざまな政策が実行されていることがわかりますよね。

暴言による派手なパフォーマンスと、麻薬撲滅戦争のイメージばかりが先行するドゥテルテ大統領ですが、フィリピン国内は目覚ましい速度で変化しようとしています。

これまでの、旧宗主国であるアメリカ一国だけに従属する姿勢を改め、中国やロシアとの接近をはかる多極化外交も、麻薬撲滅戦争による急激な治安回復も、一部の勢力だけが牛耳るフィリピンの支配構造を根元から変えるとともに、フィリピン経済を発展させようとする意図をもって行われていることは、間違いないでしょう。

大きな変化を遂げようとすれば、その分、揺れ戻しも大きくなります。ドゥテルテ大統領の思い切った改革が成功するか否か、2017年もフィリピンは良きにつけ悪しきにつけ、世界中から注目されそうです。

マナビジン編集部
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マナビジン編集部チームでは「英語が伝わる楽しさをより多くの方へ」をモットーに英語学習や英語を使ったキャリアに関する情報発信を行っています。

引き続きお楽しみに!

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