少子化が進むなか、多くの私立学校は「生徒募集」を深刻な課題として掲げており、学校間の生徒獲得競争は激しさの一途をたどっています。
そんななか、近年注目されているのが「特色あるプログラムを用意して他校との差別化を図る」対策です。
数あるプログラムのなかでも、集客がうまくいっている多くの私立学校が力を入れて取り組んでいるのが「英語教育」です。
今回は海外で語学学校を展開し、かつ国内で唯一「グローバル英語教育プログラム」を60校以上の学校に提供している、株式会社ジージー社長の平田利行氏に、「学校の差別化」を図る方法について、うかがってみました。
シリーズ第二弾です!
日本の英語教育の、ここが問題!
*以下、敬称略
斉藤 留学市場の動向をつかんだところで、現在の小中高の学校のなかで英語教育がどのように行われているのか、そして今後どうあるべきなのかについて、聞かせてください。
平田 まずは小学校で英語教育が始まりましたよね。小学校3・4年生から新学習指導要領がスタートしました。
ここからスタートして高校卒業時までに覚える英単語数が、3000から5000くらい増えるんです。英単語を5000語知っていれば、普通は絶対に話せるんですよ。
学習指導要領自体は、すごく良くできているんです。教材を見てみると、こちらもすごく良くできています。小学生のときに、もうちゃんと外国語体験もできますし……。
斉藤 英語力を付けるためにはインプットとアウトプットをバランスを考える必要がありますが、そのあたりはどうあるべきだと考えていますか。
平田 学習指導要領だと、小学3-4年で外国語体験や活動、5-6年で外国語科になって、少しアカデミックに入っていく。中学生はこれまで高校でやってきたことをやることが前提となっています。
そして、高校生である程度完結を目指す必要がありますよね。皆さんご存知の通り、インプットがある程度ないとアウトプットはなかなか伸びません。そのため、まず小学校では体験、英語の構造知る必要があります。
中学校でコミュニケーションの基礎となる表現をつけます。ここはあくまでインプットですが、大事なのはこの時点でアウトプットにあたるキャッチボールを開始することです。
高校では構造を理解して、論理的会話でコミュニケーションする、つまりアウトプット中心の学習です。
斉藤 なるほど、文部省が英語教育に力を入れ始めたこともあり、今後の展望はけして悪くはないですね。この通りに進むのであれば、今後、日本人の英語力はかなり底上げされるはずですが……。
平田 そこが問題なんです。このような英語教育が現実にできればよいのですが、現状はそれができないといいますか、成立しない実情があるわけですよ。
斉藤 どういうことでしょうか?
平田 要は学ぶものが多すぎて、英語教育にそれほど時間を回せないわけです。これでは学習指導要領にあるような英語教育を行うことは無理です。
いろいろなところで議論になっていますが、たとえば「受験に古文や漢文はいるのか?」ってことです。古文や漢文を学んでも、その後の人生に役立つかと言えば、大いに疑問なわけです。
そうであれば、今のように受験で大きなウエイトを割くのは無駄ではないか、と指摘する声もあります。義務教育にしても高校にしても、学ぶべき教科を根本的に見直す必要があると感じています。
斉藤 そうしますと、ただでさえ英語の時間が少ないのに、さらに学校がオンライン英会話を授業に取り入れようとしても無理がありますよね。
平田 私立は自由がききますが、公立は難しいでしょうね。公立でオンライン英会話をやる場合は、特別活動の時間に入れることが一般的です。
でも、年間で10時間とか20時間くらいまでしか確保できないわけです。ここに一生懸命オンライン英会話を詰め込んだところで「年間20回、1日25分、これで英語ができるのか?」といったら、できないですよ。
小学生・中学生・高校生いずれの段階においても、学ぶべきことが多すぎるために忙しく、理想的な英語教育を施すことができないという現実があります。結局のところ、日本の場合は学校での単元化と受験制度に大きな問題があるのだと思います。
極端なことを言ってしまえば、受験がなくなれば学校はその呪縛から解かれて、じゃあもういいや、この教科は要らないやと言える段階になると思うんですよ。学習指導要領が悪いという人もいるけれども、学習指導要領は概要に過ぎませんから、こんな感じで進めていけばよいですよ、と書かれているだけです。
ただ、それを実施しようと思っても、あまりにも他の教科の単元が多すぎるために、手が回らないわけです。受験があるから、これは絶対にやっておかなければいけないと詰め込み、それをやり切るのにいっぱいいっぱいなんです。ですから、英語教育にしても好きなことを学ぶにしても、受験がなくなればすべてが解決します。
斉藤 う~ん、とはいえ受験制度をなくすのは、さすがに難しそうですね。
平田 たとえば海外の大学は、入るよりも卒業する方が難しい仕組みになっていますよね。でも日本は入る方が難しい。これを逆転させないといけないというのが、今の日本の教育界の抱える課題であるように思います。
成果を出す学校教育機関はどんなことを行っているのか?
斉藤 今、お話しいただいたような教育環境のなかで、それでもすでにオンライン英会話を取り入れている中学・高校は、まさに最先端の英語教育を行っているといえるでしょうね。たとえば、平田さんがクライアントとしてもっている学校では、オンライン英会話を何時間ほど、やっているのでしょうか?
平田 たとえばですけど、私立高校でゼロ限目という時間を利用して、毎日オンライン英会話を25分やっています。
斉藤 学校はオンライン英会話にどんなことを期待しているのでしょうか?
平田 これまでは学校で英語を勉強して、それをアウトプットする機会を海外に行くことで補ってきたわけですよ。だけど、2週間海外に行ったところで、英語を話せるようにはならないわけです。
それを3回、4回続けても、やはり話せるようにはなりません。そこでオンライン英会話を導入することで、英語コミュニケーションの機会を作る。ということですね。
斉藤 オンライン英会話をやってから海外研修に行けば、英語を話せるようになると……。
平田 やってから行く場合とやらないで行く場合を比べれば、オンライン英会話をやってから海外研修に行く方が、英語力は倍近く伸びますよ。
でも、流暢に英会話ができるようになるかといえば、そこはやはり難しいですね。現在の海外研修は、2週間とか4週間の短い期間に、さまざまな予定を詰め込みすぎています。
せっかくだから貴重な体験をあれこれさせてあげたいという先生の想いもわかるんだけれども、いろいろなことをやるから、いっぱいいっぱいになってしまっています。これでは、英語を話せるようにはなりません。だから極論から言えば、ターム留学をもっともっとやったらよいのになと思うんですよ。
斉藤 ターム留学とは、何でしょうか?
平田 1学期とか2学期を留学にあてることです。たとえば3ヶ月間、海外で過ごさせるとか。
斉藤 それは、すごく良さそうですね。
平田 そう。しかし、ターム留学の障壁となっているのが、受験と単位制です。
斉藤 ターム留学を実際に行っている学校はあるのですか?
平田 実施している学校はあります。夏休みとかを利用させて行かせるんですよ。でも、それは子供たちが可哀想です。せっかくの夏休みの半分以上、あるいは全部を使って留学するわけですからね。
斉藤 夏休みだけでは足りませんから、正規の授業も大きく遅れそうですね。
平田 1ヶ月半ほど学習が遅れます。だから、そこは留学中に自習とかを組み込み、帰ってきてからも補講を受けたりして、なんとか間に合わせるわけです。そうした現実を見ると、受験と単位制に囚われすぎているなぁと感じます。
だって、3ヶ月間、しっかりと有意義にやって帰ってきた後に、オンライン英会話とかで継続学習をさせたなら、英語力は大きく伸びますよ。でも、現実にはそんな余裕はありません。
斉藤 そんななかでも新しいことにチャレンジしている学校もあるかと思いますが、どんなことをしているのでしょうか?
平田 新しいわけではないけれども、1年間ニュージーランドに行かせている高校もあります。学年で行くから何百人と行くわけですよ。先生も一緒について行きます。それで現地で国語とか社会とか、普通に授業が行われています。
斉藤 そんな学校もあるんですね。逆に、そのような差別化した教育を行っていかないと私立高校は今後、どうなると思いますか?
平田 なにもしない私立高校は、生徒獲得競争に、もう間違いなく勝てなくなるでしょうね。グローバル教育が全てではないけれども、少子高齢化でこれからどんどん生徒の数が減っていくのに、何の特徴も、何の戦略もない学校は生き残れません。
斉藤 生徒数が減少に向かえば、学校も淘汰され、学校数が減っていくのは自然な流れですよね。
平田 そうなると思いますよ。さらに既存の学校は、今後、新たなライバルを迎えることになります。
斉藤 新たなライバルと言いますと?
平田 これまでは公立か私立かという選択肢が大半だったじゃないですか。でも新たにN高みたいな通信制の学校がドーンッと来ているわけですよ。私立校は特に、そちらに学生の比重が寄ってしまうという大きな危機感を持っておかないといけません。
公立校は統合が進むでしょうが、そこは公立ですから心配には及びません。ただ、やはり私立は相当本気で取り組まないと、競争に勝てなくなります。
斉藤 通信制高校は、今後伸びてきそうですか?
平田 N高は今、2キャンパス目をつくっています。さらに、N中学みたいなものもつくっていたりとか。堀江貴文さんが主催するゼロ高は、まだそこまで大きく生徒数を伸ばしていませんが、存在感は抜群です。
斉藤 こうした新興の通信高に生徒を奪われると。
平田 そうですよ。通信は、「子供たちのやりたい学習をもっとさせてあげられる」という機能を持ってしまっていますからね。
斉藤 それは通信高ならではの強みですね。
平田 自分のやりたいことをもっとやっていかないといけないよと幼い頃から教えていたら、必ずそちらに行くじゃないですか。
でも現状は受験があるために、その流れが阻害されています。今後、受験制度が見直され、自分がやりたいことの比重を多くしても大学に入る際の障害にならない状況ができてくれば、通信高を選ぶ生徒が確実に増えてきます。
そうした流れに対抗するには、学校の特色をどんどん作っていかないと、もう完全に淘汰されるだろうなと思います。
斉藤 生徒を集めたいのに集まらないという恐怖感は、多くの学校が切実に感じていることでしょうね。
平田 そうです。だから、最近は立命館とか近畿大学付属のように大学へのエスカレーションをつくっておく、学校法人も増えました。これも一つのアイデアだと思います。
斉藤 なるほど。でも平田さんは、そのような方法ではなく「グローバル人材を育てる教育の手伝いをしたい」ということですね。グローバル人材の育成こそが学校の特色の一つとなり、多くの生徒を引き寄せることができると!
平田 そんなに偉そうなことはいえないけれど、先生たちの力だけでは難しいなと思っていることでも、私たちを使ってもらえばいろいろな海外と繋がることができるため、子供たちに多くの体験を提供できます。
グローバル人材の育成という価値観を共有できるのであれば、ぜひ私たちに声をかけていただきたいですね。