前回の記事はこちら
→TOEICの解き方を変えれば、スコアも英語力も獲得できる!(2)
TOEICを受ける目的はさまざま
こんにちは。TOEIC講師の澤田です。
この記事をお読みになっている皆さんは、何らかの形でTOEICに興味があるのだと思いますが、その目的や勉強法はさまざまではないでしょうか。
「会社から何点取るように言われたから」という人もいれば、「英語の勉強をしているので、実力アップの証明として受けたい」という人もいます。
また、「とにかくスコアだけ取れればいい」という人もいれば、「同時に英語力も付けたい」「英語が使えるようにもなりたい」と考えている人も少なくありません。
勉強法においても、音読やシャドーイングなど、口を使った語学的なトレーニングを取り入れている人もいれば、ひたすら問題集を解くことに徹するという人もいるでしょう。
僕はこれまで、「スコアアップ」と「使える英語」を同時に獲得する方法やその大切さについてブログやSNSなどで発信してきましたが、この記事では、「とにかくスコアだけ取れればよい」というスタンスに対しても、あえて批判的な立場を取らず、より多様な考え方を認めるような方向で話を進めていきたいと思います。
TOEICに対する3つのスタンス(姿勢)とは?
TOEICに対するスタンス(姿勢)は、次の3つに集約されると思います。
2. TOEICでスコアアップを目指しながら、使える英語も身につける(長期間じっくり)
3. TOEICの勉強はほとんどせずに、英語力を伸ばす(結果的にTOEICのスコアも上がる)
僕が学習者として取っていた姿勢は3番で、指導者としては2番(1番と3番の考え方も一部取り入れながら)ですが、一般的には1番がもっとも多いというのが現状だと認識しています。
割合としては、個人的な経験則ですが、1が80パーセント以上、2が1~3パーセント、3が5~10パーセントくらいではないでしょうか。
つまり、僕が提唱している「スコアアップと使える英語を同時に目指す」というスタンスがもっとも少なく、「英語力を上げることにフォーカスする」がその次に少なく、「スコアだけ伸ばせればよい」という考え方が大多数なわけです。
なぜこのような状況になっているのでしょうか?
「スコアだけ上がればよい」という発想になるのはなぜか?
TOEICの勉強をしている社会人の方々は、会社から高いスコアを取るように求められていることが多く、「なるべく短期間で、手っ取り早くスコアアップだけしたい」と考えている人がほとんどだと思います。
実際、仕事で英語を使うわけではなく、英語の必要性もそれほど感じてはいないけれど、会社の指示に従って、嫌々勉強しているという人も多いですし、澤田塾の生徒さんにも一部そういう方もいます。
このようなタイプの人は、英語が好きなわけでもなく、英語学習に対するモチベーションも元々高いわけではないので、スコアだけ上がればよいと考えるのも当然です。
残念なことですが、「目標スコアを取って、この苦痛から解放されたい」=「英語学習を早く止めたい」という声すら聞かれます。
社会人に限らず、入試やクラス分けテスト、進級の条件としてTOEICのスコアを求められている高校生や大学生も同じような考え方になるかと思います。
自分の目的とタイプにあったスタンスを選ぶ
3つのアプローチの中で、どれがもっとも良い、あるいは自分に向いているかという判断は皆さんそれぞれにお任せしたいと思います。
もちろん僕がブログや澤田塾で提唱してきたのは2番目のアプローチですが、多様な目的や考え方、ニーズに応じて、どのアプローチを取る人に対しても有益な情報を提供できるよう、あえてニュートラルな立場から考察していきます。
また、どれか1つに絞らずに、2つのアプローチを組み合わせても構いません。スコアアップを最優先にしながら、英語を使えるようになるための努力も少しだけするとか、平日は英語力を上げるための努力をし、週末だけTOEICに特化した勉強をするという手もあります。
今回、上記の目的別、タイプ別にTOEIC学習者を大きく5つのタイプに分けました。
ポイント1「大学入試で英語が得意だったかどうか」
まず社会人の方の場合(大学生も同様)、「大学入試で英語が得意だったかどうか」というのが、スタンスを決める上で重要なポイントです。
「大学入試で出題される英文法を一通りやっていて、長文読解も得意だった」という人と、「受験英語でも文法が苦手で、長文読解も嫌いでした」という人とでは、スタート地点で相当な差があります。
もちろん、その後、大学時代や社会人になってからの努力によって多少は変わってきますが、高校時代と大学入試の時点での英語力は一つの大きな指標になります。(大人になってから、英文法の学習を一通りやり直した方は別です)
このバックグラウンドの違いを無視して、全ての人のTOEIC学習を同じように語ることはできません。
澤田塾でも、前者のタイプの生徒さんは、500~600点くらいからスタートして比較的短期間で700~800点くらいまで行きます。しかし、後者のタイプの生徒さんは、学生時代の積み上げが少ないこともあり、成果を出すまでに時間がかかることがあります。
また、英語に対する苦手意識が強かったり、英語を記憶することにアレルギーがあったりすることもあり、途中で挫折してしまう人も多いようです。
さらに重要なことに、受験英語が苦手だったという方は、「問題で正解するための勘」が養われていなかったりするため、そもそもテストで結果を出すのが得意ではないということがあります。
例えば、定期テストでいつも80~90点だった高校生と平均点ギリギリだった高校生、センター試験で180点以上取っていた高校生と120点くらいだった高校生とでは、英語力の違いだけでなく、得点力、つまりテストで点数を取る能力が違うわけです。
TOEICでスコアを取ることだけを考えた場合、前者のタイプの人は元々テストで高得点を出すのが得意なので、どのアプローチで勉強してもスコアが上がります。
ですが、後者のタイプの人は、「試験で結果を出す」=「問題で正解する」ことが苦手なため、英語力を上げるアプローチだけでは、肝心なスコアアップが達成されにくい場合があります。
したがって、「大学入試で英語が得意だったかどうか」という問いに対してNoな方は、スコアアップだけが目的である場合には、問題演習を優先する1番のスタンスがもっとも合っていると言えます。
当然、英語力を上げるための努力も同時に行う必要もありますが、まずは「問題で正解する」勘を養うことが優先課題になります。
逆に、学生時代に英語の成績が良く、テストで点数を取るのが得意なタイプの人は、2番や3番のアプローチによって英語力を上げながら、TOEICでも結果を出すことが十分可能です。
僕が3番のアプローチによって、英語力だけでなく、TOEICのスコアも劇的に伸ばせたのは、元々受験英語の偏差値も高い方で、テストで点数を取るのは比較的得意だったということが大きいように思います。
とりわけリーディングセクション(中でもパート5)においてこの傾向が強いようです。
ポイント2「留学や海外で暮らした経験があるか」
海外経験があるかどうかは、特にリスニングセクションの取り組み方において、大きなポイントになります。
例えば、1年以上留学した人の多くは、特に対策しなくても、リスニングセクションでは400点以上取れることがよくあります。
450点以上取るとなると、パート3と4の解き方を変えたり、試験慣れしたりすることが必要になるかもしれません。ですが、すでに英語を聞き取る力があるので、リスニング力自体は大幅に上げなくてもよいというのは、大きな違いです。
澤田塾でも、1年間留学して帰ってきた高校生を指導することがありますが、彼らは耳が良いため、シャドーイングなどの音声トレーニングも難なくこなすことができ、リスニング対策は比較的スムーズに行きます。
ですので、TOEIC学習以前にどのような取り組み方で英語と関わってきたかというバックグラウンドは非常に重要です。
しかし、このようなバックグラウンドのない方は、「そもそも英語が聞き取れない」という時点からのスタートになるので、TOEIC以前の問題として、まずは英語が聞こえる体質になるための努力をしなければなりません。
当然、リスニングセクションで結果を出すのにかかる期間も長くなります。
逆に、英語が聞こえないにもかかわらず、根本的な問題には対処せず、ただひたすらリスニングの問題演習だけをしても、スコアは頭打ちになってしまいます。
ですので、英語が聞こえる耳を作るために、シャドーイングや音読などの音声トレーニングも学習に取り入れる必要があります。
目的別、タイプ別のスタンスと勉強法の組み合わせ
ここまでは、TOEICに対する目的(「スコアだけ伸ばせればいい」vs「使える英語も身につけたい」)と、どのタイプに属するかを判断する上で重要なポイント(「受験英語が得意だったか」、「海外経験があるか」)について解説しました。
ここからは、そのうち最も割合の多い2つタイプの人たちにとって最適なアプローチを詳述していきます。
1.「スコアだけ伸ばせればいい」&「受験英語は苦手だった」&「海外経験ナシ」
TOEIC学習者の中で1番多いのは、おそらくこのタイプの人たちだと思います。
このタイプの方は、基本的な文法の知識に穴があり、品詞の区別(形容詞vs副詞、前置詞vs接続詞)や準動詞(不定詞、動名詞、分詞)という概念(=名詞、形容詞、副詞になる)などをしっかり理解されていないことが多いのが特徴です。
また、英語を読むことに対してアレルギーがあり、意味を取るのに四苦八苦するため、読むスピードが極端に遅くなりがちです。(まれに、「テキトー読み」で、単に左から右に目を動かしているだけで、読むスピードは速いが、内容はほとんど理解していないという人もいます)
当然、受験勉強でも単語暗記が苦手だったため、スタート時の語彙力も低い傾向があります。また、TOEIC以前に知っていなければならない単語が欠落している場合もあります。
(例えば、explainの意味が言えない、differentとdifficultの区別がつかない)
したがって、リーディングセクションでスコアアップするためには、文法、読解、語彙の全てを底上げしなければいけません。
これらの3つを同時に鍛えるのに最適な教材として、「ALL IN ONE」をお勧めします。
TOEICの問題演習だけをしていると、文法の大事なポイントや全体像が見えにくいですが、同時にこの教材を使っていけば、文法、語彙、読解のバックボーンを築くことができ、TOEICの勉強の効率も良くなります。
リスニングに関しては、受験英語をしっかりやった人とそれほど差がありませんが、海外経験がある人や国内でもリスニング学習をしてきた人と違い、そもそも「英語が聞こえない」という人が多いので、問題演習だけでなく、英語が聞こえるようになるための訓練(発音矯正、音読、シャドーイングなどの音声トレーニング)も行う必要があります。
このようなタイプの人は、リスニングの問題演習をたくさんやっても、スコアは上がっていきません。多少は問題に慣れて上がりますが、英語を聞き取る力が同じままであれば、300点台前半くらいでスコアは頭打ちになるはずです。
「急がば回れ」という気持ちで、音声トレーニングもしっかり行うことが重要です。
音声トレーニングについては、これらの記事を参考にしてみてください。(私のブログに詳しく掲載してあります。)
2.「スコアだけ伸ばせればいい」&「受験英語は得意だった」&「海外経験ナシ」
TOEIC学習者の中で2番目に多いのは、おそらくこのタイプの人たちだと思います。
このタイプの人は、受験英語の勉強によって、TOEICに必要な文法知識はすでにある程度身に付いているので、パート5の基本的な文法に関する問題はほとんど落としません。
大学入試レベルの英文を読解できるベースがあるので、パート7の文章を読んで、「難しい」とは感じないが、読むスピードが遅いため、リーディングセクションを最後まで解き終わらない人は多いと思います。
リーディングセクションでは、時間配分に関する戦略をしっかり立てるだけで、解ける問題数が増え、スコアが上がることがあります。パート5は14分、パート6は6分、パート7のダブルパッセージは25分、シングルパッセージは30分のように、時間を決めて解く練習をすることが重要です。
時間配分に関しては、こちらの記事を参考にしてみてください。
→「TOEIC最強の時間配分」
加えて、英文を読むスピードを上げる必要があるので、時間を測りながら読む訓練をするとよいでしょう。英文の総語数÷かかった秒数×60で、wpm (words per minute)=1分間に読んでいる語数を算出することができます。
パート7の読解スピードを上げる方法や解き方については、下記の記事を参考にしてみてください。
受験英語が得意だったとしても、リスニングは苦手で、そもそも「英語が聞こえない」という人が多いのではないでしょうか。
そのような場合には、リスニングの問題を解くだけでは根本的な解決策にならず、スコアも頭打ちしてしまいますので、やはり英語が聞こえるようになるための訓練(発音矯正、音読、シャドーイングなどの音声トレーニング)も行う必要があります。
3.「スコアだけ伸ばせればいい」&「受験英語は苦手だった」&「海外経験あり」
このタイプの人たちは、リスニングはある程度できますが、文法の知識が欠如していることが原因で、リーディングセクション(特にパート5)を苦手としていることがよくあります。
ただやみくもにTOEICの問題を解くだけでなく、最初に基本的な文法事項をざっと眺めておくと、よりスムーズに問題演習を行うことができます。
そこで、TOEICに出る文法事項の全体像を把握するのに役立つ教材として、「TOEICテスト650点突破!文法講義の実況中継」をお勧めします。
この教材を1回ざっと読んで、特にTOEICによく出る文法の基本知識を確認した上で、問題演習をすると良いでしょう。さらに、問題演習を積んだ後で、もう1度この教材を読み返して、重要なポイントを再確認することで、知識と理解を定着させることができます。このように、最低2回は読むようにしたいです。
リスニングに関しては、海外経験があって、英語を聞き取ることが得意な人の場合は、パート3と4の解き方を変えるだけで大幅にスコアアップする可能性があります。
→TOEIC(トーイック)の解き方を変えれば、スコアも英語力も獲得できる!(1)
4.「スコアだけ伸ばせればいい」&「受験英語は得意だった」&「海外経験あり」
受験英語が得意だった(=難関大学に合格している)人が、海外留学や駐在などを経験すると、すでに800点以上のスコアを持っている場合がほとんどです。
このような人たちには特にアドバイスすることもないかもしれませんが、なかなか900点以上取れないことに悩んでいるということもあります。
実際、このようなバックグラウンドの方は、実用英語の習得を目指していることが多く、「TOEICのスコアだけ上がればよい」とは思っていないかもしれませんが、逆に、「TOEICは点数を取るためだけのもので、使える英語を学ぶ手段ではない」という、割り切ったスタンスでTOEICに取り組んでいる人もいらっしゃいます。
900点以上を取るためには、大きく次の3つのアプローチがある
2.英検準1級と1級を先に取る
3.「スコアだけでなく使える英語も身につける」というスタンスに変える
1番は、とにかく問題傾向に慣れ、リーディングセクションを最後まで解き終わるためのスピードを身につけるために、経験値を積むのが狙いです。
このようなアプローチを実践するための模試や参考書はたくさんあるので、評判の良いものを次から次へと購入して、「解きまくる」とよいでしょう。
このアプローチでは、とにかく「量をこなす」ことが重要です。
1ヶ月で1冊をじっくりやるのではなく、1ヶ月で5冊とか10冊とかをやるイメージです。もちろん、時々、過去にやったものを復習としてもう一度やってみるのも効果的です。
また、2番のアプローチによって、英検1級を取れる英語力をつけることができれば、TOEICの問題は簡単に感じるようになり、結果的に、900点が取りやすくなることがあります。
ですが、TOEICと英検では傾向が違う(TOEICはとにかく問題量が多い)ので、感覚を忘れないようにするためにも、TOEICは定期的に受験し続けた方が良いと思います。
最後に、3番のアプローチ(「スコアだけでなく使える英語も身につける」というスタンスに変える)によって、TOEICからより多くを吸収し、英語力を底上げすることで、900点を目指すこともできます。
このアプローチについては、以下のタイプの人向けの勉強法として詳述しています。
5.「スコアだけでなく使える英語も身につけたい」&「受験英語は得意(苦手)だった」&「海外経験あり(ナシ)」
受験英語が得意だった、苦手だったに関わらず、また、海外経験の有無に関わらず、「スコアだけでなく使える英語も身につけたい」という方は、ぜひ僕のブログ「本当に役立つTOEIC勉強法」や当サイト「マナビジン」で紹介している勉強法を実践していただければと思います。
これは、僕が澤田塾での指導で実践している「スコアアップと使える英語は両立できる」という理念を体現したアプローチであり、「TOEICで高いスコアを取ると同時に、英語を使えるようになる(話したり、書いたりできる)」ことを目指しています。
澤田健治