この記事では英検準1級・1級の取得を目指すビジネスマン(以降ビジネスパーソン)へ、英検を社会人になって受けるメリット、勉強方法、出題形式、試験対策、更にはおすすめ参考書などをご紹介。
英検合格に必要な情報を、全て網羅してお伝えします。
1. ビジネスパーソンにとっての英検の意義
英検というと、中学生や高校生の時に学校で受験した方が多いと思います。また、高校を卒業してから大学・専門学校の在学中に就職対策として受験した方もいるでしょう。
学校を卒業して就職してから英語資格を取るといえばやはりTOEIC LRを受験する方が多く、特に就職してから何年も経っていると(学生ばかりの受験会場でこんなおじさん/おばさんがいたら恥ずかしい)等と思ってしまうかもしれません。
しかし、英検はビジネスパーソンの方にとっても大きな意義のある資格です。
現実の受験者・合格者のデータを見ても、2級以下では受験者・合格者とも学生が圧倒的に多いのですが、準1級では受験者・合格者とも社会人が4割以上、1級では受験者・合格者とも社会人の方が多いのです。
また、1級は以前年2回実施だったのが3回に増えましたが、年3回になって以来の年間受験者が25,000人前後、合格者が2,500人前後という傾向は意外に変わっていません。
つまり、英検1級に合格する学生の絶対数は年間1,000人を超えるかどうかなので、「子供や学生の資格」などということはいえないわけです。
確かに、渉外業務等で英語が使えるレベルとなると、大学受験のように英検準2級や2級で有利になるというわけにはいかず、最低準1級、できれば1級レベルの英語力は必要となります。
その意味で、準1級未合格の方はまず、準1級取得を目指すことをお勧めします。
ここで「まず準1級」と言いましたが、近年の英検はライティング・面接に対する比重が大きくなっているので、「その先・その上」を見据えて準1級を目指すことによってかなり高い実用英語力が身につきます。
最近の1級合格者でもある英語講師の方が「準1級と1級の差は求められる語彙力だけだ」とコメントされていましたが、語彙力の「語彙」を、認識語彙プラス運用語彙(知っているだけでなく自分の言葉として使うことができる語彙)ととらえればその通りかもしれません。
過去問や市販の対策教材等を見ても、習得できる総合的な英語力を比較すれば、TOEIC LR 900点よりも準1級のほうが高いといえるくらいです。
また、2016年から国際標準のCSE(Common Scale for English)スコアが英検に導入されました。
これにより、3級以上の級では合格不合格にかかわらずパート別と合計のCSEスコアが表示されるほか、合格最低点のCSEスコアを起点としたスコア(点数)差を表す「英検バンド」も表示されることになっています。
CSEスコアと英検バンドを目安にして上の級合格までの距離を推測したり、TOEICやTOEFL iBTその他の資格との比較やCEFRレベルの判定も可能になっています。
準1級でいえば合格点は2304点(1次1792点、2次512点)ですが、満点は3000点です。これに対して1級合格最低点が2630であるため、2630以上であれば1級の合格レベルと重なります。
また、CEFRレベルも1級がB2-C1、準1級がB1-B2であるところ、CSEスコア2630以上であればB2と判定されます。
あくまで「それより上を目指す」ことが前提にはなりますが、同じ準1級合格でもCSEスコア次第では1級やIELTS7.0以上などの上級資格取得が早期に可能なレベルまで到達していることになります。
もちろん、履歴書にCSEスコアを記入することができます。
また、英検は受験者が多いために実施会場も多く、受験料も2020年度時点で従来型英検の準1級が8,400円・1級が10,300円、コンピュータ形式CBTの準1級が7,400円で、TOEFL iBTやIELTSがどちらも25,000円を超えるのと比較すればかなり安いというメリットもあります。
また、TOEICに関しては受験者の多いLRのほかに、ビジネスに必要なスピーキング・ライティング能力を測るSWテストもあります。
内容的にはビジネスパーソンに非常にお勧めなのですが、受験者が少なく受験地が限定されることや、LRと別に受験する必要があるため受験料を合計すると高くなってしまうこと、一般的な認知度があまり高くないこと等の問題があります。
なお、英検CBTの検定料については、高校3年時の英検準2級以上の資格が一般入試の英語の得点に加算される等の優遇措置をとる大学が増加していることから2020年度に値下げされています。
1級は従来型英検のみ受験できますが、準1級はCBTによる受験も可能です。
英語力が必要となっている、あるいは英語を使う仕事に就きたい(転職も含めて)ビジネスパーソンには、比較的安い受験料で仕事に活かせる4技能を習得できる英検1級・準1級を取得することをお勧めします。
2. なぜ英検を取得することがビジネスパーソンにとって有益か(WHY)
ここで、特にビジネスパーソンにとってなぜ英検準1級以上を取得することが有益となるか、より具体的に説明します。
就職・転職・昇進に役立つ
以前から、専門分野や業務実績を持つ人が準1級以上を取得していれば、多かれ少なかれ就職・転職・昇進に有利になっていました。
さらに近年のCSEスコア導入により、英語力を測る資料としての客観性が増したことで、特に準1級のCSEスコア高得点と1級は評価されるようになったといえます。
英検準1級以上を受験する人の多くは、TOEIC LRのスコアを所持していると思います。TOEIC LRでビジネス英語の読解・リスニング力を証明できることに加えて英検準1級・1級の取得によって、TOEIC LRで測定されないライティング・スピーキングのスキルを英検で証明することが可能です。
ビジネスパーソンとして必要な4技能をバランスよく身につけることができる
筆者個人的には、このことが英検準1級以上を取得する一番のメリットといえます。
中でも、社会問題や国際的な問題に対して自分の考えを論理的に述べる(書く・話す)能力を身につけることができます。
これは受験者が圧倒的に多いTOEIC LRの学習だけでは通常身につかないスキルです。
また、普段からスピーチやライティングで社会問題に対する自分の意見を筋道立てて述べる練習をしていると、リスニングやリーディング(インプット学習)の時にもアンテナが鋭くなります。
英検のリスニング・読解問題の英文に対してもそうですが、仕事で出会う英文に対しても内容や趣旨・言い回し等を意識できるようになります。
これによって、生きた英語を「自分で使うための素材」として取り込むことができるようになるわけです。結果的にリスニングや読解の能力もアップするので、4技能がバランスよく身につくことになります。
また、CSEスコアが導入されて以来の英検では、筆記試験での設問の数や所要時間の多少にかかわらず4技能に対して同等のスコア配分をしています。
1級でいえば、一次試験の大問1-3は設問が41個ありますが、これで測定するリーディングの配点は850点です。
時間はかかるものの形式は1問だけの大問4や、30分間27問のリスニング試験、所要時間10分の二次試験もすべて850点です。このことから、従来の英検に比べるとライティングとスピーキングに対する評価や重要度が高くなっているといえます。
これに対応するためにライティングやスピーキングの能力を上げる必要があることも、確実な4技能習得を可能にしているといえます。
ビジネスパーソンとして必要な幅広い教養を身につけることができる
級によって内容の違いはありますが、特に準1級と1級では語彙・読解問題・リスニング・ライティング・面接全分野にわたって、TOEICで素材となっているような日常会話や一般ビジネス英語に比べると、高度とはいえないまでもアカデミック寄りの英語が使われています。
前述したようにライティングや面接のスピーチの対策学習を通して社会問題や国際問題の背景やさまざまな見解を知ることができます。
これと並行して語彙やリーディング・リスニングの過去問等に取り組むことで現代社会のさまざまな問題を英語で吸収し、理解できるようになります。
3. どのようなことを勉強すべきか(WHAT)
それでは、英検を受験すると決めたら具体的にどのような勉強をすればよいでしょうか。
ここでは準1級・1級について述べます。いずれの級を受験する場合でも、最初に過去問にざっと目を通し、試験でどのような形式でどのような内容の問題が出ているかを知った上でそれに対応するための勉強をすることが得策です。
そこで、級別にまず出題形式を説明したうえで、分野ごとの対策について一通りの提案をさせて頂きます。
なお、本サイトではまず準1級を目指すビジネスパーソンを念頭においていますが、CSEスコア・英検バンドの判定次第では直後や同年度内の1級受験も可能になるため、1級対策についても同程度の割合で提案させて頂きます。
準1級を目指す方
準1級の出題形式
A 一次試験
一次試験では90分間の筆記試験と約30分間のリスニング試験が行われます。
[筆記試験]
設 問 | 設 問 形 式 |
大問1(語彙問題) | 短い文や会話文を読んで空所に入る適切な語句を選ぶ |
大問2(読解-空所補充) | 長文を読んで空所に入る適切な語句を選ぶ |
大問3(読解-内容一致選択) | 長文を読んでその内容に関する質問の正しい答えを選ぶ |
大問4(英作文問題) | 指定されたトピックについて120-150語で作文する |
[リスニング試験]
設 問 | 問題数 | 設 問 形 式 |
会話の内容一致選択問題 | 12 | 合計70-80語程度の会話とその内容に関する質問を聞いて、印刷されている選択肢の中から内容に合致する答えを選ぶ。会話と質問は1度だけ読まれる。 |
文の内容一致選択問題 | 12 | 150語程度のパッセージとその内容に関する質問を聞いて、印刷されている選択肢の中から内容に合致する答えを選ぶ。英文と質問は1度だけ読まれる。 |
Real-Life形式の内容一致 選択問題 |
5 | 設定されたsituationを読んでから90-100語程度の放送を聞いて正しい答えを選ぶ。状況を説明した文と質問・選択肢は印刷されている。英文は1度だけ読まれる。 |
B 二次試験
二次試験の流れは以下のようになります。約8分間、面接委員と1対1の個人面接が行われます。
入室・挨拶 | 入室して面接委員に”Hello.”等挨拶する |
着席・受験票確認 | 着席・氏名と受験票確認後、”How are you?” 等簡単な会話をする |
ナレーション準備 | 面接委員から4コマのイラストが印刷された「問題カード」を渡され、1分間の準備期間が与えられる。 |
ナレーション | 問題カードに指定されたワードを使用してイラストについて2分間ナレーションする。 |
質疑応答 | 面接委員が4つ質問をする。最初の問題のみカードを見ながら答えることができる。 |
ジャンルごとの対策の立て方
A 語彙問題(筆記試験大問1)
[形式]
25問あります。単語補充問題が21問、句動詞補充問題が4問です。
[時間配分の目安]
10分
[難易度・対策等]
TOEIC LRで高難度とされる語彙や、大学受験の英語難関校・学科の試験で求められる語彙とだいたい一致します(だいたい7000-9000語レベル)。
ただ1級に比べると範囲は限定されるので、過去問最低6回分の選択肢全部とパス単(旺文社)・キク単(アルク)などの準1級対策単語集、大学受験の難関校対策単語集などでカバーすることはできます。
過去問以外の単語集の選択はもちろん自由ですが、個人的にお勧めの単語集として「30日完成 例文でまるごと覚える合格できる単熟語」(山上登美子/Geoffrey Tozer先生著・アスク出版)があります。
この単語集のように音声付きの自然な会話やストーリーの中に出てくる単熟語を覚える形式で学習することは語彙力はもちろん、4技能向上に効果的です。
準1級対策に限らないのですが、単語を覚えるときはその発音と日本語訳を見て終わりではなく、必ず例文ごと覚えるようにしてください。
さらに英和や英英辞書で細かなニュアンスまでおさえておくことで、認識語彙(読んで/聞いてわかる語彙)としてだけでなく運用語彙(会話やライティングで使う語彙)とすることができます。
準1級の語彙問題で出されるレベルの語彙は、さらに上を目指すために運用語彙にすることが望ましいです。
B 読解問題(筆記試験大問2・3)
[形式]
Part 2は文章2つに対してそれぞれ空所補充問題が3問ずつあります。
Part 3は問題セットごとに文章が長くなり、3問目はかなりの長文となっています。
Part | 小問 | おおよその語数 |
2 | 26-28 | 220-230 |
2 | 29-31 | 220-230 |
3 | 32-34 | 320-330 |
3 | 35-37 | 400 |
3 | 38-41 | 500-520 |
[時間配分の目安]
Part 2 15分以内
Part 3 20分以内 合計35分以内
[難易度・対策等]
Part 2は穴埋め問題ではありますが、空所の前後だけ読んでも解くことはできず、文章を最初から少なくともその空所の後の文までは読んで理解していないと正解できない問題になっています。
Part 3は内容合致問題ですが、問題の選択肢の英文が結構長く、問題の選択肢まで先読みすると時間を取られてしまうのであまりお勧めしません。最初に問題の質問部分だけをすばやく読む→読み取れたキーワードを頭において文章を読む→質問と選択肢を読んで答えるという手順が適切といえます。
Part 2の方は文章を読む途中で問題を解くという作業が入るため、同じ長さで空所のない文章を読むよりは時間がかかるのはやむをえません。ただ、その後のPart 3の文章読解に費やす時間を考えると、問題1セット3分以内で解けるようになっておきたいところです。
Part 3は明らかに読解スピードがものをいいます。本番形式で解く場合、全文を読む速度の目安は1問目が1分20秒以内、2問目が1分40秒以内、3問目が2分以内と考えてください。
過去問最低6回分と予想問題数回分を解くことで形式に慣れることはできます。構文把握力に自信がない場合は大学受験の難関大対策の長文読解の参考書を1冊学習することをお勧めします。
C ライティング問題(筆記試験大問4)
[形式]
印刷されている英文の指示に従い、与えられたトピックについて120-150語で作文します。内容や文章構造に対して「自分の意見を支える論拠は2点」「導入→主要部→結論」のような指示が英語で出されています。
また、解答用紙の枠からはみ出している部分は、内容の優劣にかかわらず採点対象となりません。
配点は16点(CSEスコア750点)で、内容・構成・語彙・文法の4観点4点満点ずつで採点されます。合格点はおおむね11点(CSEスコア69%≒518点以上)とされています。
[時間配分の目安]
45-50分
[難易度・対策等]
準1級で一番難しいのは、このライティングテストといえるでしょう。おさえるべきポイントが4つ表記されていることや、文字数が1級の6割程度である点で1級のライティング問題よりは取り組みやすいとはいえます。
しかし、1級のライティング問題同様、二次試験と違ってトピックを選ぶことができません。
また、直前の読解問題に時間を使ってしまうと時間不足で書ききれなくなったり、うっかり枠内からはみだして書いてしまい書き直そうと消している時に時間切れ・・等、時間の問題がつきまといます。
対策としては、やはり過去問から取り組むのが一番です。ただ、最初から自力で作文しようとすると挫折するおそれがあります。(自力でできれば問題ないのですが)
そこで、最初は3-4回分くらい、問題を見て書くべき内容をおおざっぱにイメージした上で、ストラクチャや流れ、言い回しを意識しながら模範解答を音読することをお勧めします。
これによって書き方のパターンらしきものがつかめてくるはずです。
また、ライティング問題への解答練習は二次試験の質問の2問目-4問目に対する応答にもつながるので、模範解答の音読はその意味でも必要といえます。
市販の過去問集で1問に対して解答例が複数ある場合は、内容的に自分がより同意できると思える方を選んでもよいし、両方を音読・分析してもよいと思います。
次の段階では、過去問の残りの回や市販の模試、ライティング対策本などで「時間がかかっても自力で書く」練習を5-6問やってみましょう。この段階でオンライン添削指導を利用すると効果的です。一次試験の直前に、模擬問題で時間内に書ききる練習をしましょう。
D リスニング問題
[形式]
全部で29問あります。Part 1は日常生活的な内容の男女の会話を聞いて質問に答える問題です。選択肢は印刷されていますが、質問は音声のみで印刷されていません。
Part 2は一般教養的な内容のパッセージの音声を聞いて1パッセージあたり2問の質問に答える問題です。Part 1と同様、選択肢は印刷されていますが質問は印刷されていません。
Part 3は問題用紙に印刷されているsituation(あなたが置かれている状況)を読んで放送を聞き、印刷されている質問に答える問題です。
[難易度・対策等]
Part 1がTOEIC LRのPart 3と類似の問題形式ですが、近年のLRのPart 3に比べるとトータルの語数が少ないです。
Part 2も形式はPart 4と似ています。パッセージの内容は大学のキャリアアドバイザーのアドバイスのように学生向けの内容、テーマ史のような一般教養的な内容が多いですが、商店のセール広告のようにTOEICと類似している問題もあります。
Part 3の形式には特に慣れる必要がありますが、TOEICのPart 7のダブルパッセージ問題の片方のパッセージを音声にしたような感じといえるかもしれません。
いずれも、語彙レベルは読解問題と同程度なので過去問最低6回分と予想問題集、その他の市販の直前模試で形式に慣れておけば対応できるはずです。
なお、TOEICのように問題文の先読みができるかどうかが気になるところですが、Part1と2は質問が印刷されていないため選択肢だけを見ても「何を問うているか」がわかりにくいです。
Part 2の場合は同一のパッセージに対して2問あるので厳しくはなりますが、Part 1と2は音声を聞くことに集中したほうがよいと思います。Part 3はsituationと同時に問題を読んでおきましょう。
E 二次試験対策
二次試験は38点満点中、Narration15点、Q&A 20点、attitude3点の3項目で採点されます。合格基準の素点は回によって異なりますが、CSEスコアでいうと750点満点中69%以上となっています。
その後の関連質疑応答も含めて、主要部分は4コマのイラストを見て2分間ナレーションを行うことといえます。単純に計算すると、1コマあたり30秒ほどナレーションすることになります。
さらに、イラストのトピックに関連して受験者の意見を求める質問2問と、これに限らない社会生活上のトピックに対する意見を求める質問2問が出題されます。
4問の質問と応答は実質4分半前後の間で行われるので、受験者が実際に応答する時間は1問あたり30秒~40秒です。視覚に頼れない2問目以降の質問に対しては結論と理由1つ、合計30ワードくらい話すことが現実的な目標になります。
対策としてはまず、このような時間配分を頭におきながら過去問(試験1回あたり2パターンのイラストと質問)2セットくらい練習することをお勧めします。一度自力でやってみてから模範解答を読むとナレーションや応答の仕方で必要なことがわかってくると思います。
一次試験のライティング対策で社会的なトピックに対して自分の意見を述べる練習はかなりやっているので、一次に合格した二次試験受験者の方には2問目以下の応答は少し易しく感じるかもしれません。
ただ、何を聞かれるかがその場にならないとわからないことや、ワード数が少なくてよいかわりに30秒程度という短い時間で確実に応答しなければならないという点に難しさはあります。
自習やオンラインレッスン等で模擬問題の2分間のナレーション練習と、質問に時間内に応答する練習を5問程度はやっておきましょう。
なお、主要部分の形式が一次試験のライティングとかなり異なるので一次試験の日以前にどの程度対策を進めておけばよいかについては見解が分かれるところです。
筆者としては一次試験のライティングで高得点が取れる人はほぼ二次試験に合格できると見込んでいるので、一次試験の前はライティング対策に時間を割き、ライティングに自信がついてきた時点で1,2回分対策しておけば十分だと思います。
準1級の先の目標として1級を目指す方/現時点で1級を目指す方
1級の出題形式
A 一次試験
一次試験では90分間の筆記試験と、約30分間のリスニング試験が行われます。
[筆記試験]
設 問 | 設 問 形 式 |
大問1(語彙問題) | 短い文や会話文を読んで空所に入る適切な語句を選ぶ |
大問2(読解-空所補充) | 長文を読んで空所に入る適切な語句を選ぶ |
大問3(読解-内容一致選択) | 長文を読んでその内容に関する質問の正しい答えを選ぶ |
大問4(英作文問題) | 指定されたトピックについて120-150語で作文する |
[リスニング試験]
設 問 | 問題数 | 設 問 形 式 |
会話の内容一致選択問題 | 10 | 日常の様々な場面における会話を聞いて印刷されている選択肢から内容に合致する答えを選ぶ |
文章の内容一致選択問題 | 10 | 短い説明文5本が放送され、それぞれについて印刷されている内容一致の4択問題に答える |
Real-Life形式の内容一致選択問題 | 5 | 実生活に関するアナウンスや指示文が放送され、印刷されているsituationに合致する内容を選ぶ |
インタビューの内容一致選択問題 | 2 | 3分-3分半程度のインタビューが放送され、印刷されている内容一致の4択問題2問に答える。放送中のメモ可 |
B二次試験
二次試験の流れは以下のようになります。約10分間、ネイティブスピーカーと日本人の2人の面接委員と2対1の面接が行われます。
入室・挨拶 | 入室して面接委員に”Hello.”等挨拶する |
着席・受験票確認 | 着席・氏名と受験票確認後、”How are you?” 等の簡単な応答や、簡単な自己紹介をする。 |
トピックカード受け取りとスピーチ考案 | 面接委員から5つのトピックが書かれたカードを受け取る。トピックを1つ選び、1分間の準備期間が与えられる(メモ不可) |
スピーチ(2分間) | 面接委員の指示に従ってスピーチする。途中で2分間経過した場合、言いかけていた文のみ言い終えることができる。 |
質疑応答(4分間) | スピーチの内容やトピックに対するそれぞれの面接委員の質問に答える。 |
ジャンルごとの対策の立て方
A 語彙問題(筆記試験大問1)
[形式]
準1級同様、長めの1センテンスの単語補充問題21問+句動詞補充問題4問の25問あります。
[時間配分の目安]
10分以内
[難易度・対策等]
問われる単語の語彙のレベルは10000語-15000語といわれています。他方で、各センテンスは空所の単語以外はそれほど難しい語彙や構文が使われていないので、その単語の知識があるかどうかで正解できるかどうか決まってしまいます。
その後の長文読解問題やライティング問題の時間配分を考えると、TOEICのPart 5並みのスピードで進める必要があります。
語彙問題対策というと王道はパス単やキク単なのですが、過去問の選択肢から繰り返し出題されていることを考えると、個人的にはまず過去問の出題単語を覚えることをお勧めしたいです。
1級の場合市販の過去問は旺文社の6回分だけなのですが、まずこの6回分の選択肢の単語/動詞句全部を覚えましょう。1回あたり4×25=100個なので、600個覚えておけば必ず繰り返し出題される単語が出てきます。
もちろん、最初から単語集のような覚え方をするのではなく、問題を解いてからで大丈夫です。
さらに、同じ旺文社の予想問題集でも同様に選択肢全部覚えるようにしておくと良いでしょう。この時点でパス単等を見ると、実質8割くらいは知っている単語ということになりえます。
ただ、1級の場合は語彙問題以外でも難度の高い単語がよく出てきます。また、ライティングや二次試験では、目安として準1級の8000語レベルの語彙をすべて使えるレベルの運用語彙力が求められます。
これを考えると、単に大問1で点を取るという目的にとどまらない幅広いボキャビル学習が必要になります。
語彙の上限を上げるにはネイティブ向けのボキャビルのペーパーバックがお勧めです。Norman LewisのWord Power Made Easyや30 Days To A More Powerful Vocabulary、主に英語圏の高校生向けの1100 Words You Need To Know等は時間がかかっても確実に役立ちます。
B 読解問題(筆記試験大問2・3)
[形式]
問題形式自体は準1級と同様で、空所補充のPart 2と内容一致の4択問題のPart 3から成ります。設問の配分も同じです。
ただし、やはり1級の読解問題はより長く、語彙レベルも高くなります。問題セットごとのおおよその語数は以下の通りです。
Part | 小問 | おおよその語数 |
2 | 26-28 | 350 |
2 | 29-31 | 350 |
3 | 32-34 | 500 |
3 | 35-37 | 500 |
3 | 38-41 | 800 |
[時間配分の目安]
Part 2 15分以内
Part 3 25分以内 計40分以内
[難易度・対策等]
解答テクニックはだいたい準1級と同様でよいと思います。語彙のレベルは上がりますが、挿入句が多いことを除けば構文自体は準1級の長文問題とそれほど変わりません。
長いセンテンスが多いため、主語部分と述語部分をすばやく認識する必要があります。各文の述語部分となることが多いのは動詞なので、語彙としてのレベルを問わず「動詞」の語法やコロケーションに強くなっておくと読解スピードも速くなります。
旺文社の過去問や予想問題を時間配分を意識しながらこなすほか、日頃から英字新聞の特集記事等で500ワード以上の長文を読む等の積み重ねも大切です。
C ライティング問題(筆記試験大問4)
[形式]
与えられたトピックに関して200-240語で作文します。
内容や文章構造に対して「自分の意見を支える論拠は2点」「導入→主要部→結論」のような指示が英語で出されていることや、枠内をはみ出して書かれた部分は採点対象とならない点は準1級と同じです。
ただし、準1級と異なりおさえるべきポイント(キーワード)の指示はありません。
素点の配点は32点で、内容・構成・語彙・文法の4観点それぞれ8点満点で採点されます。合格点の素点は25-26点といわれています。
[時間配分の目安]
50分以内
[難易度・対策等]
筆記試験では一番難しいパートといえます。長文問題の読解に時間を取られて時間不足になるおそれは準1級以上にあります。
トピックを選ぶことができない半面、二次試験のスピーチと内容・分量がかなり重なるのでライティングが得意になれば一石二鳥です。
最初は模範解答2,3回分の音読から始めて、パターンを把握したらできるだけ多くのテーマで作文する練習をしましょう。
また、やはり本番での時間との戦いも想定に入れる必要があります。本番では大問4に50分取れれば理想的ですが、最悪30分くらいしかなくても、テーマが予想の範囲内であれば200語は書ききれる可能性が十分あります。
「自分で考えた英文を必死で書くスピードが1分あたり何語程度か」といったことも練習して把握しておくとよいでしょう。
個人的には、英検1級に挑戦する一番の意義はこのライティングの対策段階にあると思っています。
Dリスニング問題
[形式]
Part 1-3の形式自体は準1級のPart 1-3とそれぞれ同様です。Part 4は1級独自のパートで、おおむねゲストの仕事に関するインタビュー(語数合計約400語)を聞いて4択問題2問に答える形式です。
[難易度・対策等]
Part 1の会話はTOEICのPart 3に近いビジネス英語的な内容のものが多いこと、Part 2の文章は200ワードを超えること、Part 3のアナウンスも170-180語と長くなるだけでなく数字が多く出てくること、Part 4では2分以上にわたる長いインタビューをメモを取りながら集中して聞く必要があること等、準1級よりはかなり難しくなっています。
全体的にTOEICのリスニングセクションよりも難易度は高いといえます。
過去問と予想問題集を一通りこなすことは必須です。また、本番では100分間の筆記試験の後に行われるため、集中力を維持することも必要になります。
普段から、あえて仕事などで疲れた状態で1級のリスニング問題に取り組んだり、早朝等の眠い状態でCNNやAFNのニュースを集中して聴くなど、コンディションが良くない時でもこのレベルのリスニングに対応できる力をつけておく必要もあるといえます。
E 二次試験対策
ネイティブスピーカーと日本人の面接委員との10分間の面接での発話や態度すべてが採点対象となります。
具体的には、
1.Short speech
2.Interaction (質疑応答の対応の様子)
3. Grammar and Vocabulary (発話された語彙と文法的正確性)
4. Pronunciation (発音)
の4項目がそれぞれ10点満点で採点されます。合格基準のCSEスコアは850点中602点(71%以上)となっています。
面接の主要部分はやはり、その場で与えられたトピック5題の中から1つを選んで2分間スピーチすることです。内容の論理性や明確さが一番大切ですが、ワード数と合格率が比例することは否定できません。200語を目標に、最低180語くらいは話しきれるようにしたいです。
スピーチそのものの対策については内容・分量とも、実質一次試験のライティング問題と重なります。また、その場で出題されるとはいえ、ライティング問題と違ってトピックを選ぶことができます。
なので、ライティング対策が進んできたら二次試験も想定して「1分間で構成して、超速で作文して2分間で音読する」というような練習をしておくと有効です。
一次試験が終わってからは二次試験に特化したスピーチ作成・発話の練習とともに、これに対する質問と応答を用意しておきましょう。
また、最初の挨拶の後に簡単な自己紹介をすると、面接委員の先生がかなり興味を示すこともあります。
二次試験ではスピーチが主体とはいえ、実はスピーチの内容以外の配点の方が高くなっています。特に、「会話を継続させようとする姿勢」つまり面接委員に聞かれたことに一生懸命答えようとする姿勢は高く評価されます。
逆を言えば、スピーチが上手くできたと思っても、その後予想外の質問を受けてしどろもどろになったりすると合格点に達しない可能性があります。
この後の項目で後述しますが、スピーチ以外の部分は自習だけでは厳しいので、オンラインレッスン等で面接の練習を3回程度は行っておきましょう。
4. 具体的にどのような勉強方法があるか(HOW)
次に、どのようなリソースを使って勉強すればよいか、お勧めの方法をご紹介します。
これについては、準1級と1級で大きな差はないので同一の項目にさせて頂きます。
自習
準1級・1級とも、単語・読解・リスニングに対してはほとんど自習で対応することができます。スクール等を利用するとしても、自習中心の勉強の中でどうしても対応しきれないものだけに絞ったほうがよいでしょう。
現実的には、自習だけでは厳しいのは一次試験のライティングと二次試験対策になりますが、これについて指導を受けるだけでもかなりの労力を費やすことになります。
ビジネスパーソンの方が限られた時間を有効に使うためにも、ライティングと面接の指導を受ける以外は自習でのりきりましょう。
自習には絶対欠かせない過去問集についてですが、市販で入手できる過去問集のうち1級は旺文社の「過去6回全問題集」に限定されてしまいます。
アマゾンで最新版ほか、前年度やその前の年度までは入手できる可能性が高いです。メルカリ等のフリマサイトで購入する手もあります。
その他の予想問題や対策書も、1級は選択肢が少ないので1冊1冊が貴重です。それでもやはりレベルが高度なので、沢山買ってもこなしきれません。合格者の声を聞いても、過去問と単語集以外は一次試験・二次試験1冊ずつくらいを利用して合格できた方も多いようです。
定評あるプロ指導者の植田一三先生の本もお勧めできるのですが、1級で個人的にお勧めの本は以下が挙げられます。
・旺文社「予想問題ドリル」
・ジャパンタイムズ「最短合格!英検1級英作文完全制覇」
・アルク「完全攻略!英検1級二次試験対策」(2020年9月刊行)
準1級は過去問集・対策書とも選択肢がかなりあります。過去問は旺文社の過去問ほか、学研プラスの「学研英検シリーズ」では5回分+チェックテスト1回、教学社の「赤本シリーズ」では9回分の過去問を解くことができます。
個人的に、解説は学研の過去問が丁寧で学習しやすく感じましたが、過去問で形式慣れすることの大切さを考えると赤本シリーズや、旺文社の過去問を前年度まで揃える等してもよいと思います。
予想問題・対策書は選択肢が多すぎるくらいです。単語集は語彙問題対策のところでご紹介した「合格できる単熟語」が、1級の4技能基礎固めとしても使えるのでお勧めです。
準1級の勉強に3か月以上の時間を取れる方はライティング対策・二次試験対策2冊ずつと語彙・読解対策それぞれ1冊ずつは学習することをお勧めします。
やる気はあるけど分野別に問題集をやるほどの時間が取れない方の選択肢として、澤泰人先生著「英検準1級神速マスター」があります。これは大学受験向けの有名な「ALL IN ONE」の準1級版という感じです。わずか400の例文に、準1級攻略に必要な4150もの語句が詰め込まれています。
この例文の理解だけでなく、聴き取りや日本語訳を見て英訳し直すことまでできるようになれば過去問以外の読解問題対策本は必要ないかもしれません。
もちろん、効率よく勉強するためにジャンル別にYouTube等で攻略法の解説動画を見ることもお勧めです。特に、過去問の最適学習法の動画やお勧め参考書の動画等は早い段階で見たほうがよいです。
ただし、YouTubeの発信者の英語レベルはまちまちなので、自分がどのレベルを目指すかによって取捨選択する必要はあります。
ぎりぎりで合格できればよいのか、1級でいえばCEFRのC1レベル=CSEスコア3000以上のように高いレベルを目指すのか等の目標の違いによって、参考にすべき動画(発信者)は違ってきます。
とはいえ、二次試験の合格体験談や一次試験の時間配分など、初めて受験する場合に気になる情報は複数のソースから仕入れた方がよいです。
あまりそのような情報の仕入れに時間を取りすぎることはお勧めできないですが、短時間のYou TubeやTwitterの英語系アカウントの英検関連ツイートなどは気が散らない程度にチェックしておいたほうがよいといえます。
関連記事:英検準一級対策アプリ【21選】おすすめのリスニング・リーディングアプリは?
スクール
準1級だけを目指す方には費用のかかるスクールは特に必要ないかもしれません。対面指導のスクールに通うことをお勧めするのは、短期間でどうしても1級に合格したい方です。
本サイトでは特定のスクール・特定のサービスとの提携はありませんが、渋谷にある専門塾「テソーラスハウス」や植田一三先生の「aquaries」ほか、予算や通いやすさ等条件に合ったスクールを選んで主体的に利用すれば一発合格が可能です。
関連記事:東京・大阪【おすすめ英検対策スクール7選】3級〜1級まで
オンラインレッスン
ビジネスパーソンにとって、特にライティングと二次試験対策の頼りになるのはオンラインレッスンといえます。
テソーラスハウスのオンラインコースや「ベストティーチャー」ほか、英検対策のオンラインコースを実施しているスクールは数多くあります。
準1級・1級とも、添削指導や面接レッスンの回数を選べるところが利用しやすいと思います。
その他
準1級・1級のライティング問題対策に限り、通信添削講座があります。今はオンライン添削が主流ですが、本番と同じ手書きの作文を赤字で添削してくれるところもあります。
選択肢は多いですが、Fruitful Englishや英語試験ライティングセンター等、英文添削サービスに特化している機関は利用価値が高いと思います。
5. 英検の勉強法に関するよくある質問
たとえば、日本育ちの英語が得意な高校3年生であれば2級に合格できる可能性は高いですが、準1級となると英語難関大学を目指していても合格できる可能性が高いとはいえません。
語彙も難しいと感じるはずですし、ライティング・面接が壁になりやすいです。日本育ちの英語学習者の場合、単純な学習時間でいうと2級は2500時間程度ですが、準1級は最低3500時間程度必要といえます。
また、現在の準1級に合格するまでの過程で話す・書く能力も含めて相当高い英語力が身につくので、その意味でも役に立つといえます。
少なくとも2016年以降の準1級に合格した方が「全然話せない」という状態は考えにくいです。ただ、本人の目標や理想が非常に高く(同時通訳者になりたい等)、例えばぎりぎりで準1級で合格した段階ではその目標や理想とのギャップが大きいということは言えます。
また、難関大学に合格したけれども普段英語を話す機会がない大学生が、受験英語の延長でなんとか合格するというケースもあることはありえます。
ライティングや二次試験対策を十分行った上で、おおむねCSEスコア2500以上で合格したような方の場合は「話せない」などということは考えられません。
1級はまだ難しく思える方でも、できるだけ高い得点で準1級に合格するという気概を持って準1級を取得することをお勧めします。
しかし、英字新聞やTIME等一定の教養のある英語話者が接するとされているメディアでは1級の語彙問題に出てくる語彙は日常的に使われています。
これを日本語に置き換えていえば、決して漢検1級に出るようなマニアックな語彙ではなく、新聞や一般向けの教養書で使われているレベルの漢字語彙がこれにあたります。
また、英検1級の語彙レベルは最高でも15000語程度といわれていますが、大人の英語ネイティブスピーカーの認識語彙は通常、30000語はあるといわれています。
この中には俗語表現や幼児語も含まれるので単純に「倍以上」ということはできないですが、英検1級の問題に出てくる語彙がすべてわかったとしても大人のネイティブにはまだまだ足らないということです。
簡単な換算表を示すと以下の通りです。
英検 | TOEIC | TOEFL iBT | IELTS |
118-120 | 9.0 | ||
115-117 | 8.5 | ||
110-114 | 8.0 | ||
970-990 | 102-109 | 7.5 | |
1級 | 870-970 | 94-101 | 7.0 |
820-870 | 79-93 | 6.5 | |
準1級 | 740-820 | 60-78 | 6.0 |
ただし、独立して通訳者として仕事を得るにはさらに1年以上の業務経験や訓練が必要と考えた方がよいでしょう。外資系企業では英語力以外の能力(ITスキル、プレゼン能力等)も必要となりますが、社会人として業務経験がある方であれば外資系企業に転職できる可能性は高いといえます。いずれの場合も、英検1級と同等以上の英語国際資格を1つ以上併有することが望ましいです。