こんにちは!
これまでは、出版翻訳者になるまでの過程や秘訣と、番外編として企業やフリーランサーの翻訳者として活動する際のコツについて述べてまいりました。
今回は、翻訳者としての実力をつけたい!という方のために、私がどのようにして、翻訳者としての英語の実力を磨いていったかをご案内します。
みなさんのお役に立つことが出来ましたら幸いです!
翻訳者としての実力をつける方法
【基礎編】超重要!
1.辞書なんてどれも同じでは?
あなたは大事な翻訳の仕事を、ネットの英〇郎で済ませていないでしょうか?
英〇郎は、これはこれで便利ですし、ちょっとした翻訳ならこれで用が足りるでしょうが、重要な仕事の翻訳には英〇郎では役不足です!
特に書籍の翻訳などでは、辞書の1番目ではなく、8番目くらいの語義の意味で著者が単語を使っている可能性もありますので、辞書は必須です。
ところで、あなたは下記のように思っていないでしょうか?
〇辞書は、言葉の定義をまとめたものなので、どれも内容は同じ。
〇辞書の内容は、全て正しい。
いずれも、ブーッ!不正解です。
まず、辞書は定義をまとめているので、内容が同じだと思っているかもしれませんが、書店で辞書をいくつか比較していただくとお判りの通り、辞書は使い勝手から、機能から、どれも違うのです!
翻訳に限らず英語のプロとして仕事をしたいなら、あるいは英語力を着実に養いたいなら、良い辞書は不可欠なのです。
結論として、どれがお勧めかというと、大修館の「ジーニアス」です。
その理由とは、以下の通りです。
2.可算名詞・不可算名詞が明確に記載されていること。
3.自動詞・他動詞が明確に記載されていること。
4.イディオム・例文が豊富であること
また、みなさん辞書による各単語の定義は、全て正解だと思っているでしょう。
私もそう思っていましたが、海外でTVを観ていてある単語の意味を○○と認識していました。その後、念のため自分の認識を確認するために、辞書で調べたところ、ニュアンスが違っていました。
そこでネイティブに確認したところ、やはり辞書が間違っていたことが発覚したことがありました。とはいえ、英語本来の意味に一番忠実なのが、ジーニアスです。また、2と3は、ノンネイティブには特に重要な機能ではないでしょうか。
この辞書でもカバーしきれないこともあるかもしれませんが、技術文書でない限り、ほとんどのことはこの1冊で用が足りる、とても頼もしい辞書です。
2.参考書
英文法解説(金子書房)
これまで、文法、文法と、繰り返し強調してきましたが、帰国子女、インターナショナルスクール出身など、幼少期に英語環境にいない限り、日本人にとってやはり文法は必須です。
英語は、文法に則って論理的に構築する言語だからです。
日本語では、主語が抜けていたり、語順が間違っていたりしてもなんとか通じるものですが、英語では、完全に意味が異なって解釈されてしまう可能性もあります。
私がどうやって文法を身につけたかというと、タイトルにある通り、英文法解説(金子書房)を活用しました。ただ、これにざっと目を通したり、判らないところを参照する、という使い方では不十分です。
これを、巻頭の冠詞から通読していくのです。この本の内容を、自分の中に全てインストールするのが目的です。
英語をマスターすることに本気なら、苦痛ではないでしょう。笑
その際、重要なところにアンダーラインを引いたり、暗記用のペンを使ってテスト形式にしてもいいでしょう。章毎に小テストがありますから、それもこなし、間違ったところは、数日後にもう一度やり直し、正解するまで繰り返します。
英文法の鬼と化すまでこれを続ければ、怖いものなし!こうすることによって、英文を読み解く力だけでなく、英作文力も同時に身につけることが出来ます。
英文標準問題精講(旺文社)
英文法解説で、シッカリ力をつけたら、今度は力試しで、英文標準問題精講(旺文社)を解いていきましょう。
ジーニアス、英文法解説、そしてこの英文標準問題精講は、翻訳者を目指す人にとって、3種の神器といったところです。
この標準問題精講を推奨する理由は、例文が格調高いことです。フィッツジェラルド、スタインベック、ハクスレーなど、名だたる文豪の作品から引用していますので、彼らの文章に慣れていくことで、どんな文章が高尚なのか、センスが良いのか、という感覚が自然と養われると同時に、長文読解力が身につくのです。
様々な英文に接していると気づいてきますが、ネイティブだからといって、みんながみんな文法に則った文章を書くとは限りません。
ですので、英語の実力をつける段階では、洗練された文章を素材にして学ぶことが大切です。
英文法と長文読解に関しては、この2冊を徹底的にやっておけば盤石です。確実に実力がつきます。こちらも、やりっぱなしにしないで、正解するまで繰り返します。
新・基本英文700選 (駿台受験シリーズ)
別記事で述べましたが、和訳だけでなく、クオリティの高い英訳が出来れば、仕事の幅がグンと広がります。英訳というと、要は英作文の能力になりますが、和訳同様、英訳も意訳しないと、中学生が試験で書いたような文章になってしまいます。
この新・基本英文700選は、日本語の概念をどうすれば英語らしく意訳できるかの参考になるでしょう。
【応用編】
1.ディクテーション
ディクテーションは、リスニング力をつけるうえで有効とよく言われますが、それだけではなく、英語力を総合的に高めるうえで、大いに役立つので、とてもお勧めです。使用素材でお勧めなのは、映画とニュースです。
映画
映画のディクテーションはボキャブラリーを増やし、イディオムや用法を学べるうえ、自然な発音が身につくという大きなメリットがあります。
Not yetの発音が、「ナット イエット」ではなく、「ナッチェット」になるということを肌で掴むことが出来ます。
リスニング力が向上するのでTOEIC等の試験対策にもなりますし、通訳の面でも助けになります。とはいえ、正解が判らないと話になりませんので、スクリプト(スクリーンプレイ)が販売されているものに限定されます。
ディクテーションの方法ですが、まずはDVDで映画を観ながら、台詞をパソコンにタイプしていきます。ひと通り終わったところで、あるいはキリのいいところで、答え合わせをしていきます。
知らない単語や用法が出てきたら辞書で確認し、専用の単語帳のようなものを作成して、それらをリストアップしていきます。
これだけで、大分英語力がアップします。
あとはこれらの仕上げとして、シャドーイング(真似をしてリピートすること)もすれば完璧です。
英語力の向上が目的なので、映画の舞台(テーマ)は、オフィス、恋愛、スクール、政治などがいいでしょう。
ファンタジー、オカルト、戦争といったテーマは、娯楽としては良くても、教材としては不向きです。
ニュース
企業あるいはフリーランサーで仕事をしていると、時事関係の仕事を受注する機会もあるかもしれません。
その時には、ニュースのディクテーションの経験が大いに役立ちます。
ニュースは、現在はネットで海外のニュースを動画でディクテーションすることも出来ますし、TVの2カ国語放送でディクテーションをしても良いでしょう。
この場合は、ネットの英語ニュースによって答え合わせが出来ますので便利です。
この時も、判らなかった単語や用法は、辞書で確認しておくのをお忘れなく。こうすることで、ボキャブラリーをどんどん積み上げていくことが出来ます。
2.ニューズウィーク、英字新聞のリーディング
リーディング力を高めるには、読み応えのある、ずっしりした英文を読むことです。軽い会話文や絵本のような英文を読んでも実力をつけることはできません。
私はリーディング力をアップさせる目的で小説なども読みましたが、それよりも、ニューズウィークや英字新聞などの堅い英文を読む方が力がつくと感じました。
最初にこうしたお堅い文章に慣れておけば、他の英文はどれも容易に感じられるからです。
しかも、新聞などは誤植やミスが許されないため文法はしっかりしていますから、信頼できるのもポイントです。
3.留学:学校選びのコツ
英語の実力を養ううえで、海外に留学して、英語を学んだ方が手っ取り早いのでは?と考える人もいるでしょう。
これは、条件付きで「イエス」というのが、個人的な見解です。
というのは、海外に留学してもまったく英語が上達しなかったという人と、大きく飛躍する人と二つに分かれるからです。
大きく飛躍するためには、まず、ある程度英語力を高めておくことが、一つ目の条件です。
二つ目は、最適な学校を選ぶことです。
私は、留学1か月後にTOEICの模擬試験を受けたのですが、留学前に785点くらいだったのが、たった1ヵ月で860点くらいまでアップしたと記憶しています。
留学先の学校が、素晴らしかったのです。
留学前に、その都市にある学校の中でどこが一番「厳しいか」をポイントに選びました。
私が選んだ学校は、日本人がマネージメントをしている学校でしたので、きめ細かなカリキュラムが組まれており、スクール内は母国語厳禁で、一言しゃべる毎に罰金というシステムが導入されていました。
また、毎日課題が出されました。課題の中には、1ページ英語で日記を書くというものがあり、翌日には、担任の先生が赤ペンで添削してくれます。
資金を投入して留学するのですから、そのくらい真剣でなければ、意味がないわけです。
優れた教師陣の指導と独自のカリキュラムのお蔭で、3か月後のTOEIC本試験では、910点まで伸びました。
ですので、真剣に学ぶ姿勢があるのでしたら、海外に留学して集中して学ぶのもアリだと思います。
また、私が予期せず翻訳者としての道を歩むことになったのも、海外に留学したのが、最大のきっかけであったと確信しています。
そこで出逢った人たちや人脈によって、運が拓かれていったからです。
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【訳出する際のマル秘テクニック集】門外不出!
仕事で翻訳する際には、意訳するのは勿論のこと、様々な工夫を凝らすことが必要となってきます。
英語と日本語は完全に異なる言語ですので、ただ訳しただけでは、不自然になってしまうことが多々あるからです。
下記は、私が訳出の際に使っているテクニックです。
1.くどい表現は、思い切ってカットする
これは、原文の著者ご本人の書き方のスタイルによりますが、訳すと「綺麗な顔立ちをした美しい女性」みたいな、くどい文章になってしまうことがあります。あるいは、同じ意味の文章が繰り返されていることもあります。
こうした時には、思い切って不要な表現をカットすることです。
日本人は性格上、誤訳をすまいと、律義に全てを残そうとしますが、重複箇所をカットする方が作品のクオリティが上がる時には、思い切ってカットします。
2.同じ言葉・表現の繰り返しを避ける
キーワードは別として、たとえ著者が同じ単語を繰り返し使用したとしても、同じ言葉あるいは表現が頻出しますと読み手は飽きてきますので、別の言葉に変えるなどして、同じ単語のリピートは避けるようにしましょう。
特に、ある単語に対して○○という訳語を充てるのを習慣にしている場合、気づかないうちに同じ言葉を連発してしまう可能性がありますので、別の表現に変えます。
3.主語・人称代名詞は、出来るものはカットする
英語では、主語や人称代名詞は必須ですが、これを訳出すると、日本語としては不自然なことがあります。
コンテキストによっては、
「私、ちょっとお店に行ってくるね」「私のリンゴが無くなった!」が不自然で、
「ちょっとお店に行ってくるね」「リンゴが無くなった!」の方がしっくりくることも多いです。
これまでの試験や学習の経験から、主語や代名詞を必ず訳すのが習慣として身についていますが、これらをカットすることでより自然な文章になることがありますので、確認してみましょう。
4.主語と述語を交換してみる
英語でも倒置法を使用するパターンがありますが、訳した際、主語と述語を交換した方がバランスが良くなったり、おさまりが良くなったりする場合があります。
5.品詞を変えてみる
これは誤訳にならない範囲で、という条件付きですが、品詞を変えることで、より自然で読みやすい文章になることもあります。
6.見た目の美しさに配慮する
二つの独立した漢字の単語が、あたかも4字熟語のように連なっていて、しかも句読点がないと、どこで切れるのかが判らず読みにくいですし、漢文のように見えてしまいますので、どちらか一方を平仮名に変えるなどの工夫をします。
7.難解な単語は、平易な表現に変える
どうしても代用できない場合は別として、訳語が普通の人が聞いたこともない言葉や表現である場合は、平易な表現に置き換えます。
とはいえ、平易な表現のみですと、それはそれで知性が感じられませんので、適度に難しい雰囲気の言葉も採り入れます。
8.英語をそのままカタカナにしておいた方が良いこともある
ご存じの通り、英語がそのまま日本語として使われている単語が沢山あります。
例を挙げますと、Meetingをわざわざ「打ち合わせ」と訳さなくても、そのまま「ミーティング」としておいた方が自然な場合がありますので、そうした場合は敢えて訳出せずにカタカナのままでキープします。
9.律儀に訳す必要があるか?
英語では、3つ以上の物を並べて言う際に、例えば「apples, oranges and bananas」と表現しますが、これを、「リンゴ、オレンジ、“そして”バナナ」と訳す必要があるでしょうか?
必要ないですよね?
前述の通り、私たち日本人はつい律儀に訳す習性がありますが、翻訳の際にはこうした細部にこだわらない方が、より自然な訳文になるケースが良くあります。
10.論理性に配慮する
原文をそのまま訳すと、文章の論理性が成立しないことがあるかもしれません。
こうした箇所をそのまま放置しておくと、読者が消化不良な気分に苛まれたり、作品自体の価値が損なわれたりしてしまいかねません。
そうした時には、文章の順番を入れ替えたり、別々の文章をドッキングさせたり、接続詞を入れたりすることで解消させられないか試してみましょう。
11.英訳の際には、修飾語の位置に配慮する
修飾語・修飾節の位置によって、どの語あるいは節を修飾するかが決まるわけですが、これの位置が間違っていると、完全に誤訳になってしまうので、英訳の際にはくれぐれも気をつけましょう。
これは、ネイティブの文章でも判りにくいことがあります。
12.カタカナの日本語が、全て英語でないことに、注意する
カタカナの日本語は、全てが英語由来とは限りません。
例えば、ノルマ、シュークリーム、カルテは、それぞれ、ロシア語、フランス語、ドイツ語となっています。
こうした語は、そのまま英語に訳しても、通じないので注意しましょう。
以前、日本の企業から依頼されて、英会話の教材のレコーディングの仕事を引き受けたというアメリカ人に会ったことがありますが、「このシュークリーム(靴クリーム)を食べませんか?」という例文があったそうで、吹き出してしまってなかなか録音できなかったそうです。
その企業は、「シュークリーム」が英語では靴クリームだと気づかずに、そのまま例文にしてしまったというわけです。
まとめ
● 翻訳者として成功を目指す方へのヒント
1.辞書のクオリティが重要!:お勧めは、大修館のジーニアス
2.文法は、英文法解説でみっちり学ぶ
3.長文読解は、英文標準問題精講を解けるようする
4.英訳は、新・基本英文700選でセンスを養う
5.さらに実力を伸ばすためには、映画・ニュースのディクテーションが効果的
6.ニューズウィーク・英字新聞のリーディングでさらに力をつける
7.留学するなら、学校選びが成否の分かれ道
8.翻訳のコツ
くどい表現は、思い切ってカット
同じ言葉・表現の繰り返しを避ける
主語・人称代名詞は、出来るものはカットする
主語と述語を交換してみる
品詞を変えてみる
見た目の美しさに配慮する
難解な単語は、平易な表現に変える
英語をそのままカタカナにしておいた方が良いこともある
律儀に訳さない
論理性に配慮する
英訳の際には、修飾語の位置に配慮する
カタカナの日本語が、全て英語でないことに、注意する