AIスピーキングテストの現状については、前回の記事で紹介しました。今回は、さらに深掘りし、AIスピーキングテストが英語教育業界に大きな衝撃をもたらしつつある事実についてレポートします。
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中学・高校で浸透し始めるスピーキングテスト
「話す」力を評価する動きが加速
最近になり、高校や大学の受験においても英語のスピーキング力を測ろうとする動きが活発化しています。
もともと学校での英語教育は「読む・書く・聞く・話す」の4つの技能を活用することにより、コミュニケーション能力の育成を図ることを目的としてきました。
ところがこれまで、「話す」力だけは受験の対象から外されてきました。なぜなら入試はペーパーテストが中心だからです。
「読む」「書く」力は、ペーパーテストで十分に測ることができます。「聞く」力も、入試中に音声を聞かせさえすればペーパーテストで測れます。
しかし、「話す」力だけはペーパーテストで測る術がありません。
そのため、入試で実際に問われるのは「読む・書く・聞く」の3技能に限られ、「話す」力は事実上、除外されてきました。
その代わり、大学入学共通テストでは民間の資格・検定試験の結果を情報提供する仕組みを導入しています。公立高校入試でも、大阪や福井などごく一部の地域で教委が指定する資格・検定試験の結果を評価する取り組みが行われています。
ただし、いずれもペーパーテストの点数のほうが、はるかに高く評価されています。
そうした学校教育の延長として、「読む・書く」力はそこそこあっても、「聞く・話す」力がない日本人が大量に生まれる結果となりました。
昨今のグローバル化する世界のなかで、「このままではいけない」とする風潮が高まってきました。英語教育の改革が叫ばれ、現実に文部省が英語力を強化する方向へと舵を切ったのは周知の事実です。その一環として、すでに小学校から英語教育が始まっています。
入試においても、従来とは異なり、話す力を採点しようと動き始めました。
東京都が入試にスピーキングテストを導入!どう変わる?
話す力を可視化するといっても、課題は山積みです。なにをもってスピーキング力を測ればよいのかは、やはり難しい課題です。目に見えない「話す力」を試験科目として導入することに反対する教職員も数多くいます。
そこに風穴を開けたのが東京都です。いろいろと問題があることはわかっているものの、東京都は他の自治体に先駆けて、受験におけるスピーキングテストの実施に踏み切りました。
2022年度の都立高校入試から、いよいよ実際にスピーキングテストの結果が英語の点数に反映されます。
公表された実施内容によると、受験生はヘッドセット付きのタブレット端末から出題を聞き、解答音声を録音する方式でスピーキングテストが行われます。
出題は都教委が監修していますが、実施団体は民間の資格・検定試験実施団体から公募して決定されました。選ばれたのは進研ゼミでおなじみのベネッセコーポレーションです。
ベネッセコーポレーションではAIスピーキングテストに対応していないため、採点を行うのは、あくまで人です。ですから、東京都が行うのは「AI」スピーキングテストではありません。
それでも公立校の入試に「スピーキングテスト」が導入されることの意味は、歴史的にも大きな決断といえます。。
ただし、人が採点することに対しては教員や有識者から公平性が保てるのかと、疑問の声が上がっています。
ベネッセコーポレーションは大学入学共通テストで新たに導入される国語と数学の記述式問題においても、その傘下の学力評価研究機構を通して61億円で受注していました。
しかし、学生アルバイトが採点することが明らかとなったことで公平性の確保が疑問視され、導入が見送られた過去があります。
では、東京都の英語スピーキングテストは誰が採点するのでしょうか?
東京都教育委員会によると、受託したベネッセコーポレーションでは「フィリピンにいる専任の常勤のスタッフ」が採点すると明かしている、とのことです。
スタッフの詳細が気になるところですが、教育委員会は「国籍に関してはお答えできない」と回答しています。
はっきりとはわからないものの常識的に見て、フィリピン人が採点を担うと考えられます。
都立高校の受験者数は約8万人です。毎年、1点2点の差が、受験生の人生を大きく左右しています。
果たしてそのような重責を、日本の学校教育とは関係がないフィリピン人に預けてよいものかどうか、今後も議論が続きそうです。
学習塾がAIスピーキングテストを導入するのは必然
東京都によるスピーキングテストの実施を受け、もっとも対応に苦慮しているのは、実は学習塾です。塾としても早急にスピーキングテスト対策を行う必要に迫られました。その対策の中心になっているのは、模擬試験のようにスピーキングテストを実施することです。
受験する側にしてみれば、自分のスピーキング力がどの程度のものか見当もつきません。スピーキングテストを受けることで弱点を補強したいと思うのは、誰しも同じです。
一方、塾としてはコストをかけることなく、敏速にスピーキングテストを受けられる環境を用意しなければなりません。
そうなると、塾がAIスピーキングテストを導入するのは必然といえます。コストも安く、パソコンかスマホがあれば、いつでもどこでも気軽に受けられ、テストに要する時間は20分前後、結果はわずか数十分ですぐに出るとあっては、採用が広がるのも当然です。
すでに多くの有名塾がAIスピーキングテストを取り入れる動きを見せています。
これにより、塾に通う生徒の大半は必然的にAIスピーキングテストを体験することになります。
その結果として、東京都の学校教育の現場では、まだAIスピーキングテストが導入されていないにも関わらず、生徒の間では急速にAIスピーキングテストが浸透しています。
今後、東京都に続いて他の自治体も、続々とスピーキングテストを採用すると予想できます。なぜなら、スピーキング力を強化することは、国の方針だからです。
つまり、これからはスピーキング力の数値化が当たり前になる、ということです。これまではタブー扱いされてきたスピーキング力の数値化が、一気に解禁となるわけです。
人が採点をする限り難しい正確性と公平性の担保を、AIを用いることで難なく解決できるからです。あえてコストの高い人力を採点に用いる意味はありません。
塾が学校教育に率先してAIを採用し、生徒の多くがAIスピーキングテストに慣れ親しむにつれて、入試の際にもAIスピーキングテストを導入する動きは加速すると考えられます。
AIスピーキングによって、英会話スクールが受ける影響とは?
良い英会話スクールと、そうでないスクールの差が顕著になりる
スピーキング力が数値化されることにより、英会話スクール業界にもこれまでにない激しい競争が起こると予想されます。
実は教育業界のなかで、これまで最も熾烈な争いをしていたのは、中学や高校などの学校や予備校・塾などです。
なぜなら受験という明確なゴールがあるため、その結果は常に比較の対象にされてきたからです。たとえば、どの学校が東大何人、どの予備校や塾が何人と、はっきり数値化され、比べられてきました。
その年度の有名校への合格率によって、次年度の入学者数が大きな影響を受けることは常識でした。
だからこそ各校は、一人でも多くの生徒を有名校に送り込むことに、生き残りをかけて血眼になって取り組んできたのです。
このような数値化による競争は、これといってはっきりしたゴールを設定しにくい英会話スクールやオンライン英会話、留学関連サービスには、これまで見られなかったことです。
しかし、今後は学校や予備校・塾にかかわらず、英語教育に関連するあらゆるサービスにおいて、過酷な競争が始まるかもしれません。
AIスピーキングテストが普及することで、従来までは目に見えなかったスピーキング力が数値化され、簡単に比較できるようになるからです。
たとえば入学時など、英会話スクールやオンライン英会話などのサービスを利用する前にAIスピーキングテストを受けてもらい、数ヶ月から1年後など一定の期間の後に再度受けてもらうことで、どれだけ実力が上がったのかをスコアとして確認できるようになります。
半年間、「Aという英会話スクールに通うことで100点上がった」、「Bというオンライン英会話スクールを受講することで150点上がった」というように、スコアはなんの遠慮もなく、数値として結果を残します。
そうしてサービスごとに受講者による平均点をあぶり出していけば、どのサービスを使えば効果が上がるのか、はっきり数値として示せる、ということです。
英会話スクールを「何となく続ける」という行為自体に、多くの人が違和感を抱くようになるはずです。
AIスピーキングテストによって、もしかしたら英語教育業界のあり方が、根本から変わるかもしれません。
口コミベースから成果ベースになる
TOEIC関連の塾は別として、英会話関連サービスの善し悪しを判断するには、これまでは「口コミ」がすべてでした。webを見れば、どのサービスでも口コミを目立たせていることが、ひと目でわかります。
では、口コミが本当に正確な評価を反映しているのかと言えば疑問が残ります。口コミがまったくないよりはあったほうがましとは言えるものの、そもそも悪い評価を載せる業者がいるはずもありません。
口コミのなかには、真新しいものもあれば、数年前のものも含まれています。でも数年前の口コミを掲示されても、無意味です。数年前と今では、まったく状況が異なるのですから。
もっと極端なことを言ってしまえば、お金を払って口コミを書いてもらうことも、ごく一般的な手口です。もちろん、それは英語教育業界にかかわらず、家電製品や生活用品など、あらゆる口コミに共通することです。
「口コミを投稿してもらえば500円キャッシュバックします、サービス品を提供します」といったやり方は、アマゾンでもよく目にします。
つまり、残念ながら口コミはたいていの場合「当てにならない」ということです。
しかし、AIスピーキングテストのスコアは、けして嘘をつきません。スコアを買うことなど、できるはずもありません。
最新のスコアを比較すれば、そのサービスを利用することで自分の英会話力がどの程度上がるのかを、ある程度見通せます。
これまでは、どのサービスを利用すればよいのか迷うばかりだったものが、スピーキング力が数値化されるだけで、ずいぶんと風通しがよくなるものです。
近い将来、英会話教育に関わるサービスはすべて、口コミベースから成果ベースへと移り変わる可能性は高そうです。
留学関連サービスも大きく変わる
留学関連サービスにおいても、同じことがいえます。AIスピーキングテストによる数値化のおかげで、大きな枠でいえばフィリピン留学とアメリカ留学のどちらが効果的なのかも、はっきりと見えてきます。
もちろん、単純にスコアの伸びを比較するだけに留まらず、留学前のスコアによって初心者・中級者・上級者に分け、それぞれのレベルごとにスコアの伸びを比較することもできます。正確な統計さえ取れれば、さまざまな角度から分析できます。
これまで、初心者レベルであればフィリピン留学、中級者以上であればアメリカ留学の方が成果が上がりやすいと指摘されてきましたが、それが本当かどうかも、スコアを分析すればはっきりします。
もっと枠を狭めれば、語学学校ごとの優秀さも、目に見える形で比較できます。
そうなると、スコアがあまり伸びていない学校は淘汰される可能性が出てきます。誰だって成果が出ない学校に行きたくないのは、同じことです。
仮に語学学校がAIスピーキングテストを避けようとしても、無理があります。語学学校がどれだけ嫌がっても、留学エージェントがAIスピーキングテストを導入すれば、それぞれの学校の良し悪しが必ず見えてくるからです。
AIスピーキングテストによって、留学関連サービスも大きく変わることになりそうです。
まとめ
ここまでAIスピーキングテストの今後影響について考えてきました。
AIスピーキングテストが普及することにより、英語教育に関わるあらゆるサービスにおいて口コミベースから成果ベースへと転じる未来が見えてきます。
現在はAIスピーキングテストの価格がそれなりに高い(約5000円前後が多い)ため、多くの人が気軽に活用するまでには至りませんが、おそらく今後はサービスが増えて価格もどんどん下がってくるはずです。
もしかしたら2年後、3年後には1回あたり1000円程度で受けられるようになっているかもしれません。
そうなれば、AIスピーキングテストは英語業界で当たり前になり、オンライン英会話、英会話教室、海外留学のそれぞれの効果が浮き彫りになるはずです。
・英語を身につける側の私たちとしては、このAIスピーキングテストを、英語力を伸ばすための一つのツールとして、定期的に利用していくことが良いと思います。
現在の勉強が英会話力を鍛えるのに役に立っているのかがわかるためです。
気軽に受けるなら、レアジョブのプロゴス、ビジネスのVERSANT、ネイティブキャンプのチボックスなどでしょうか。
・英会話スクール側としては、自社でAIスピーキングテストを開発したり、AIスピーキングテストの導入を今後検討する必要性に迫られるはずです。
・学校法人も、こういったAIスピーキングテストをいち早く導入することで、保護者向けへのよいPRになったり、受験対策につながると思われます。
いずれにせよ、AIスピーキングテストが英語教育のあり方を根本から大きく揺さぶっていることは間違いありません。
今、AIスピーキングテストによって戦いのゴングが打ち鳴らされています。
今後の展開に、要注目です。