将来、英語に関係する仕事に就きたいと思っている方、あるいは現在、すでに英語業界に携わっている方にとって、英語業界の将来性は大いに気になるところですよね。
そこで、英語業界の全体の市場規模を再確認しながら、現状を振り返りつつ、将来の展望についてまとめてみました。
コロナ禍によって英語業界全体が逆風にさらされたのは、周知の通りです。果たして今後の英語業界には、どのような未来が待っているのでしょうか?
目次
1.英語業界の現在の市場規模
語学業界の市場規模を表す統計としては、矢野経済研究所の市場動向レポートが高い評価を受けています。2022年の4月から7月にかけて調査された最新版によると、2021年度の語学業界の総市場規模は、前年度比1.2%増の7,820億円でした。
この統計は語学全般を含むため、英語業界だけの数字ではありません。しかし、語学業界の大半は英語が占めるため、英語業界の動向とほぼ一致すると考えられます。
とはいえ、8,000億円弱の市場といわれても、感覚をつかみにくいですよね?
そこで、コロナ禍に売上を伸ばした家庭用ゲーム市場と比べてみることにします。巣ごもりが続くなか、ゲーム市場が活況を呈したことは、よく知られています。
家庭用ゲーム機といえば、SwitchやPS4がすぐに思い浮かびますよね。それらのハードとソフトを合わせた家庭用ゲーム市場の規模は、ゲーム総合情報メディア「ファミ通」の発表によると、2022年度で前年比3.7%増の3,748.2億円とのことです。
売上が絶好調の割りには、市場規模は案外小さいと思いませんか?
ゲームは身近な存在でもあり、コロナ禍で活況を呈していると聞くと、さぞかし市場規模も大きいだろうと思いがちですが、実は英語業界の市場規模の半分にも達していません。
こうして比べてみると、英語業界の市場規模が極めて大きいことがわかります。英語業界は、およそ8000億円を誇る巨大なマーケットなのです。
2.英語業界の全体構造
英語業界は主として3つのグループに分けられます。語学スクール・学習教材・周辺ビジネスの3つです。
(1)語学スクール 市場規模 約3,020億円
語学スクールは英会話スクールが大半を占め、成人向け外国語教室市場と幼児・子供向け外国語教室市場、さらに就学前の幼児を対象とするプリスクール市場の3つが存在します。
市場規模は成人向け外国語教室が1720億円、幼児・子供向け外国語教室が900億円、プリスクールが400億円です。
プリスクールとは、英語のみで教育や保育・託児を行う幼稚園や保育園、託児所のことです。
近年では「パーソナルトレーニング型」と呼ばれる英会話スクールがシェアを伸ばしています。
なお、オンライン英会話スクールはeラーニング市場に分類されるため、ここではカウントされません。
(2)学習教材 市場規模 約1,800億円
ここには書籍教材市場を中心に、eラーニング市場や通信教育市場が入ります。このところ勢いを増しているのはeラーニング市場です。
eラーニングとは、パソコンやタブレット、スマートフォンを使い、インターネットを利用して学ぶ学習形態のことです。
オンライン英会話市場は、ここに属します。オンライン英会話の市場規模は245億円です。コロナ禍によってeラーニング市場の規模は急拡大しましたが、現在の市場規模は語学スクールに、まだまだ及びません。
(3)周辺ビジネス 市場規模 約3,100億円
英語の資格試験を対象とする語学試験市場、留学エージェント等を対象とする留学斡旋市場、通訳や翻訳に関わるビジネスを対象とする通訳・翻訳ビジネス市場の3つが、ここに属します。
市場規模は語学試験が340億円、留学斡旋が90億円、通訳・翻訳ビジネスが2,680億円です。
以上が英語業界のおおよその構造です。
3.英語業界の魅力・ポテンシャルとは?
英語業界の強みは、「英語」そのものに極めて大きなニーズが存在することです。
世界では今、グローバル化とオンライン化が急ピッチで進められています。この2つはもはや世界的な潮流であり、その流れが変わるとは考えにくい状況です。
グローバル化とオンライン化は、英語の重要性を際立たせました。
ことにコロナ禍に世界規模でオンライン化が進んだことによってグローバル化が加速した影響は大きく、もはや英語は世界の共通言語としてなくてはならないものになっています。
グローバル化に対応するには人材をグローバルにするよりなく、各企業からは「英語ができる人を採用したい」との需要が常に高い傾向にあります。
その背景として、日本経済全体が縮小に向かっていることをあげられます。
人口減少によって国内だけのビジネスが成り立たなくなりつつある今、これまで国内を中心に事業を展開していた企業の多くが、海外進出を目指しています。
法人による従業員研修も含めたビジネス英語に対する需要は、確実に高まっています。また、グローバル化に備え、企業全体で社員に一定以上の英語力を求める企業も増えています。
英語を使って働くことが当たり前となる将来は、間近に迫っているといえそうです。
それにともない、幼児や子供への早期英語教育の取り組みも活発化しています。
英語業界には社会人向けと子供向けの、それぞれの教育市場が存在するだけに、今後の市場拡大を大いに期待できる状況になっています。
さらに英語業界にとって追い風となっていることは、現在の市場には取り込めていない潜在的な顧客が、まだまだ無尽蔵ともいえるほどに眠っていることです。
たとえばdmm.comが調査した「ビジネスパーソンの英語・会話学習に関する実態調査(20歳から49歳のビジネスパーソン885名を対象)」によると、現在英語を勉強している人とは別に、「英語学習の必要性を感じているけれど、勉強していない人」が、それ以上に存在するとしています。
(参考URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000053.000002581.html)
こうした潜在的な英語学習者を取り込むことで、英語業界の市場規模は現在の2倍以上に跳ね上がり、2兆円まで膨れ上がるとの指摘もなされています。
しかも、英語のニーズが求められているのは日本国内にとどまりません。非英語圏の国であれば、グローバル化にともない高い英語力を必要とされている事情に変わりありません。
英語業界の魅力のひとつは、日本国内だけではなく、世界の市場を相手にビジネスができることです。
英語学習に関しては、まだ市場の大多数を奪うほどの画期的なサービスは誕生していません。ですが、もし、日本で大成功を収める英語学習システムが誕生したならば、世界の市場を取り込めるかもしれません。
国内での成功が、やがては世界を相手にした大きなビジネスへと発展する可能性を秘めているのです。非英語圏の30億人を潜在的な顧客として抱える英語業界の市場規模は、莫大といえそうです。
こうした縦方向の市場拡大とは別に、英語業界のもうひとつの魅力は、横方向への展開を期待できることです。なぜなら英語ビジネスで成功を収めたならば、そのノウハウを英語以外の言語に適用できるからです。
グローバル化にともない必要とされている言語は、なにも英語だけに限りません。中国語やスペイン語、フランス語などの需要も高く、巨大な市場が広がっています。
英語業界での成功によって横展開ができたならば、さらなる業績を望めます。このように英語業界には、今後の発展が望める要素がさまざまに詰まっています。
4.英語業界の今後・将来性
英語業界の市場規模は2018年度までは成長トレンドを描いていました。矢野経済研究所の市場動向レポートによると、2018年度まで年を追うごとに市場規模が拡大していたことがわかります。
しかし、前年度比102.3%の8,866億円を記録した2018年を境に、市場規模は下降に転じました。2019年度のレポートでは、前年度比1.2%減の8,762億円になり、市場規模は縮小しています。
この急転直下の原因となったのは、新型コロナウイルスによるパンデミックです。コロナ禍による感染拡大によって英会話スクールの休校が相次いだことで、英語業界は逆風にさらされました。
コロナ禍はさらに英語業界の周辺ビジネスにも多大な悪影響を及ぼしました。
語学試験の中止や延期がなされたことで語学試験市場が縮小に追い込まれ、企業活動が停滞したことにより、通訳・翻訳ビジネス市場も冷え込みました。
それ以上に深刻な影響を受けたのは留学斡旋業です。コロナ禍によって海外への渡航が閉ざされ、留学市場の規模は大きく縮小せざるを得ませんでした。
しかし、このまま英語業界の市場規模が縮小に向かうと見る専門家はまずいません。
コロナ禍によって一時的に落ち込みはしたものの、既述のように英語学習のニーズは増大しているだけに、市場は早晩、回復すると見られています。
実際のところ2021年度は、前年度比1.2%増と上昇に転じています。
コロナ禍が収束に向かっていることは、英語業界にとっての追い風です。
コロナ禍が落ち着いたことを受け、海外事業の拡大に乗り出す企業が相次いでいます。グローバル化とオンライン化が進んだことにより、代理店を探すのではなく、自社で社員を海外へ派遣する動きが目立ってきています。
このような背景を受け、英語業界では講師を企業に派遣したり、どこからでもオンラインで学べる利便性の高いサービスを提供するなど、社会人向けの英会話サービス拡充を急いでいます。
また、コロナ禍は市場規模ばかりでなく、英語業界の構造にも大きな変化をもたらしました。コロナ禍によるオンラインへの移行が、それです。
5.コロナ禍によるオンラインへの移行
コロナ禍によって外出が規制され、自宅で過ごす時間が長くなったことを受け、オンラインによる英語学習ニーズが急拡大しました。ことに特需ともいえる活況を呈したのは、オンライン英会話です。
オンライン英会話の需要は、英会話スクールの休校が相次いだ時機に急激に高まりました。このような動きに対抗するために、英会話スクールの多くは非対面型レッスンの提供を始めました。
オンライン英会話レッスンはもちろん、ライブ配信サービスやAIを用いた英会話アプリの開発・提供などにより、コロナ禍がもたらした新たな生活様式に対応しようと努めています。
このように、順調に成長していた英語ビジネスはコロナ禍によって一時的に足止めされたものの、eラーニング市場の成長がグンと加速したことにより、バランスを保てたといえそうです。
オンライン化は世界的な潮流であり、今後も、この流れが変わるとは考えにくいものがあります。
リアルでの学びの場がなくなることはありえないものの、今後も英語学習のオンラインへの移行が大幅に加速していくと予測されています。
オンラインシフトは、英語業界にだけ起きている特異なことではありません。社会全般のあらゆる業界に押し寄せています。
実はオンライン化により、英語スキルはより重要性を増しています。
たとえばオンライン会議だとコミュニケーションできる要素が英会話だけになるため、リアル会議に比べて、より高い英語力を求められます。英語スキルが高くなければ、対応できません。
アフターコロナの時代にもグローバル化とオンライン化は進みます。同時に英語力はますます重要度を増し、そのニーズはより強固なものとなり、英語業界全体に好循環をもたらします。
英語業界発展の基盤は、ますます強化されたといえそうです。
6.英語業界とAI翻訳
AIは英語業界のeラーニングの分野において、大いに活用されています。
しかし、AIの急激な進化そのものが英語業界の発展を阻害するとの声も、最近ではよく聞かれるようになりました。
AI翻訳が目覚ましい進化を遂げている今、やがては英語力など不要になる時代が来るのではないかとの心配がそれです。
近年では小説や歌詞、エッセイなどのオリジナルテキストを自動生成するChatGPTが公開され、これまで人でしか対応できないと思われていたクリエイティブな領域にまでAIが足を踏み入れたと話題になっています。
果たしてAIの進化によって翻訳という作業も、AIの独壇場に様変わりするのでしょうか。
結論からいえば、英語通訳の需要がAI翻訳に完全に置き換わることはありえない、と多くの識者は指摘しています。
海外旅行で使う程度の英会話であれば、AI翻訳で代替可能になる時代は、すぐそこまで迫っているものの、ビジネス英会話ともなると内容が複雑であり、なおかつ複数人が同時に話すこともあるため、AI翻訳では対応できないためです。
また仮に進化のスピードがより増すことで、ビジネス英会話にも完全に対応できるAI翻訳が誕生したとしても、人にしかできないことがあります。
それは、信頼関係を築くことです。ビジネスにおいて互いに正しく内容を伝え合うことは当然のことです。でも、それ以上に大切なのは信頼関係を築くことです。
機械では信頼を築けません。信頼関係を築くのは、あくまで人と人です。そのために重要なことは、自分の言葉で話すことです。
英語を用いてコミュニケーションを図るためには、自分の言葉で話す必要があります。
ですから、AI翻訳がどれだけ進化したとしても、英会話がいらなくなる未来はありえないと考えられています。
AIによって英語学習の効率が上がることを期待できるだけに、AIの進化は英語業界の発展を促すものの、けして発展を阻害するものではない、といえます。
7.まとめ
ここまで、英語業界の現状と将来性について見てきました。英語ニーズの高まりとともに順調に市場規模を拡大してきた英語業界ですが、コロナ禍によって一時的に縮小へと向かいました。
しかし、コロナ禍が落ち着いたことにより、再び市場規模は拡大へと向かっています。
コロナ禍によって英語業界の構造そのものにも変化が訪れ、オンライン英会話に代表されるeラーニング市場の規模が急激に膨れ上がりました。
英語業界全体から見れば、規模的にはまだ小さいeラーニング市場ですが、今後もさらなる成長が見込まれています。
結局のところ、英語に対するニーズがますます強くなっている現状を見る限り、将来的に英語業界全体の市場規模は拡大へ向かうものと期待されています。
今回のデータを見てあなたはどう思いましたか? よかったらコメントで英語業界のこれからについてご意見ください。