少子化が進むなか、多くの私立学校からは「年々入学者の定員数確保が難しくなってきている」との声が上がっています。大半の学校は「生徒募集」を深刻な課題として掲げており、学校間の生徒獲得競争は激しさの一途をたどっています。
生徒数を確保するために、学校側は「進学実績を伸ばす」「大学と提携する」「校舎設備の充実を図る」などの対策をとっていますが、思うような成果には結びついていないようです。
そこで、近年注目されているのが「特色あるプログラムを用意して他校との差別化を図る」対策です。この場合、どのようなプログラムを用意できるのかに、学校の存続がかかっているといえるでしょう。
数あるプログラムのなかでも、多くの私立学校が力を入れて取り組んでいるのが「英語教育」です。英語教育は海外留学や海外研修と結びつきやすいため、生徒募集にも大きく貢献することが知られています。
今回は海外で語学学校を展開し、かつ国内で唯一「グローバル英語教育プログラム」を60校以上の学校に提供している、株式会社ジージー社長の平田利行氏に、「学校の差別化」を図る方法について、うかがってみました。
株式会社ジージー
代表取締役 平田 利行
■プロフィール
大阪府出身。大学卒業後、大手飲食チェーンに就職。ベンチャーの飲食会社に転じ、新規出店等のマネジメントに携わる。会社員時代に旅行で訪れた韓国で、留学エージェントの仕事と出会い、独立。株式会社ジージーを設立し、代表取締役に就任。フィリピンへの英語留学サポートを中心に業績を伸ばす。2012年、セブ島に直営の語学学校「IDEA CEBU」「IDEA ACADEMIA」を設立、教育事業にも力を入れる。
2000年〜2005年 飲食サービスやブライダル系サービスの大手からベンチャー企業を渡り歩き、サービス事業のビジネススキルや新規出店等のマネジメント業務に携わる。
2006年 株式会社ジージーの前身となる個人事業グローバルリンクスジャパンを設立
2010年 法人格として「株式会社ジージー」を設立・代表取締役に就任
2011年 フィリピン・ダバオに語学学校「IDEA DAVAO」を開校・School Chairmanに就任
2012年 フィリピン・セブに語学学校「IDEA CEBU」を開校・School Chairmanに就任
2015年 フィリピン・セブに語学学校「IDEA ACADEMIA」を開校・School Chairmanに就任
教育機関及び法人専門のオンライン英会話「TOP ESL」をローンチ
2018年 タイバンコクにオーナーとして、法人格GG Thailand Ltd. を設立
2019年 マルタに法人格Goemon Group Ltd.を設立・代表に就任
2020年 オンラインリモート留学・e-グローカルプログラム「ClassLive」、AIアセスメントテスト「AI Speaking」をローンチ
現在、私立の学校法人(中学、高校、大学)の60校以上、複数の自治体へ、グローバル英語教育サービスを提供し、生徒集客に大きく貢献している。
目指すはグローバルリーダーの育成
*以下敬称略
斉藤 平田さん、本日はよろしくお願いいたします。まず初めに平田さんが代表取締役を務める株式会社ジージーの企業理念を教えていただけますか?
平田 一言で表せば、国境を越えたグローバルリーダーの育成です。世界を見たり、体験することに留まるのではなく、世界で活動し、まさに世界を動かせる人材を輩出したいと願っています。
斉藤 そこに英語教育はどのように絡んでくるのでしょうか。
平田 その国ごとに様々な歴史と文化を背負っています。それぞれ価値観が異なる人々がコミュニケーションを図る上で必要となるのは、共通言語です。
現在は英語が世界共通の言語としての役割を負っているため、世界で活躍するためには英語力が必須となります。ことにコミュニケーションのためには、英会話する力を養う必要があります。
ですから、できるだけ早い時期に英会話力を身につけられる教育環境を整えることが大切です。
ただし、英会話力は世界で活動するためのツールに過ぎません。そこから一歩抜け出す英語教育が必要だと感じています。
斉藤 一般的には英会話のスキルを身につけること自体を最終目標に据える教育が行われていると思いますが、平田さんはそれだけではダメだと考えているのでしょうか?
平田 そうです。繰り返しになりますが、英語はコミュニケーションツールのひとつに過ぎません。大切なのは「英語を使って何をするのか」です。
英語を学ぶ時点で、生徒さんにはそのような総合的な視点をもっていただきたいと思っています。そうして英語をきっかけに世界を知ることで、日本だけに限定するのではなく、自分の可能性を世界という大きな枠のなかで見出していただきたいですね。
斉藤 平田さんが今回、学校と提携して行おうとしていることも、その一環なのでしょうか?
平田 はい、そのためにオンライン英会話とグローバル体験の教育を併せて提供しています。
現在、学校ではGIGAスクール構想が推し進められています。小中学生の生徒一人ひとりに一台のPCを割り当て、全国の学校に高速大容量の通信ネットワークを整備することが「GIGAスクール構想」の目指すところです。
これが実現すれば、オンライン英会話は全国の学校で導入されるかもしれません。
となると、差別化を図るためにはオンライン英会話のみに頼っているわけにはいきません。そこにプラスαを加える必要があります。そのひとつの提案が、グローバル体験です。
斉藤 なるほど、具体的な「グローバル体験」については、後ほどうかがいたいと思います。ここからは日本の英語教育についての現状や問題点などを聞かせてください。
曲がり角にある日本の留学事情
斉藤 まず英語教育を語る上で、「留学」は欠かすことのできない重要なキーワードです。平田さんはセブ島にて語学学校を経営し、自らも留学エージェントとしての活動もされていますが、ここ最近の日本の留学事情については、どのようにお考えですか?
平田 少し前まで日本の留学市場は、年を重ねるごとに、ずっと右肩上がりを続けてきました。その間に、留学のイメージもかなり変わりました。
*こちらは少し古いが、2014年までのデータ(JAOSより)。徐々に盛り返してきていることがわかる。
*同じグラフの調査データがJAOSから上がってきていないが、JAOSによれば、2019年の調査及びJASSO等の統計をもとに日本人の年間留学生数をおおよそ20万人と推定している。
以前は留学と言えばオーストラリアやカナダへワーキングホリデーに行ったり、高校留学や大学進学でアメリカなどへ正規留学するイメージでしたが、そのあと主流となったのが語学留学です。
斉藤 語学留学の市場は次第に活気づき、2017年に盛り上がり始めましたよね。
平田 私や斉藤さんが関わっていたフィリピン留学が、2017年を皮切りに徐々に世界に認知され始め、2019年には、ある程度天井を突きました。
斉藤 2019年に天井に達した理由は、なんでしょうか?
平田 結論としては、留学をする人たちの世代が変わったことが、大きな原因だと思います。
これまでは大学生とか20代の人が多かったけれども、次第に若年化したことで、もうちょっと専門の留学をしていく段階を迎えたことが、2019年にはっきりしてきた、ということです。
そうしたことは海外の留学事情を見てみると、普通に起きていることが、よくわかります。
斉藤 たとえば、どういうことですか?
平田 たとえば、イタリア人がマルタに行って語学留学をするのは小学生・中学生のときです。その後、高校生になったらイギリスやアイルランドの高校に行きます。そうして大学生になったら、アメリカの大学に行くのか、UKの大学に行くのかという選択肢になることが一般的です。
この流れを日本も追うことが、今後は普通だろうなと思います。
斉藤 同じことは韓国でも起きていますよね?
平田 韓国も同じです。台湾も、中国も同じ道をたどっています。日本だけ語学力が低いがゆえに遅れていたわけです。
そういうことは、フィリピン留学をする日本人の数の推移だけを見ていてもわからないけれども、世界サイドから日本の留学事情を見ると、はっきりしてきます。
というのも、日本だけフィリピン留学する年代が著しく高いんです。
他国からの留学生は10代〜20代前半が多いことに比べ、日本人留学生の平均は20代後半がどの学校でも普通。中には30代平均の学校もあります。
つまり、それだけ英語レベルが顕著に低いことを表しているんです。
この現状を見ると、やはり日本はまだ遅れているんだなぁと、思わざるを得ませんでした。語学留学が伸びてきたところで、日本もようやく世界の標準的な流れに追いついてきたのかなと感じたのが、2019年でした。
斉藤 そうなると、日本の留学事情は今後、どう変わっていくのでしょうか?
平田 これからどうなるかと言えば、語学留学する人の年齢がどんどん落ちてきます。たぶん語学留学する人の数としては、ある程度横ばいが続くんです。
でも片や、違うところでの留学、たとえば専門留学とか進学とか、そこが伸びてきます。
小・中・高で語学留学を行い、高校生くらいからは「体験」が加わってきます。たとえばインターンシップであったり、STEAMコース(科学・技術・ものづくり・芸術・数学の領域を重視する教育方針)であったり……。
さらに、あと4、5年のうちには高校留学が、今の倍ぐらいまで増加するのではないかと予想しています。それで、大学生の頃にはある程度英語が話せる状態になり、海外の大学に進学するというルートが大きく開けてくるのが、多分5、6年後です。
斉藤 でも今はコロナの影響で、世界的に留学が難しくなっていますよね。
平田 そうですね。流れとしては日本の留学事情が、いま説明したように動いていくことは間違いありませんが、コロナによって一旦止まってしまったのが現在の段階です。このままでは日本は常に、留学というカテゴリーにおいて世界に遅れた状態が続くことになるでしょう。
斉藤 なるほど。世界と比較すると日本の英語力は決して上位とは言えませんし、アジアの中でも優等生とはいえない現状があると思います。
*EF EPI世界英語能力指数ランキング2020年によれば、日本は55位。
*アジアの中でも決して順位が良いわけではない。
合わせてチェックしたい:なぜフィリピン人の英語力は日本人よりも高いのか? 世界英語能力指数ランキングに見る格差
上位国は非ネイティブ圏ながら、元々英語を当たり前に話す環境にある国か、海外留学が盛んな国が多いですね。
海外留学が盛んかどうかは、その国の英語力を図る、一つのバロメーターかもしれません。
そうなると日本人の英語力はいつまで経っても低いままでしょうから、日本の留学事情が世界各国の標準レベルに追いつくように努めなければいけない、ということですね?
平田 そうなんです。弊社はその一助となるべく、今後主流となるであろう新しい留学の形を先取りして、各学校への提供をすでに始めています。
隣の国、韓国に見る「日本の英語教育の未来」
斉藤 平田さんはご自身の韓国への留学、韓国留学のエージェント、更にはセブ島での語学学校(韓国人が多数留学している)を通じて、数十年、韓国の英語業界を見てきていらっしゃいます。
そこでお伺いさせてください。
お隣の韓国の留学事情を見てみると、日本の5年か10年ほど先を歩んでいるように感じます。しかし、私の韓国人の友人いわく、「韓国人は英語が出来る人はできるが、できない人は全くできない。日本人が思うほど英語ができる韓国人は多くないよ。」と、2極化しているそうです。
この原因は何だと思われますか?
平田 それは、韓国国内の産業に問題があるのだと思います。
斉藤 どういうことですか?
平田 英語を話せるようになった韓国人の選択肢は、主に二つあります。一つは、海外の会社に就職することです。そうすれば高収入を約束されますからね。こちらが本命となる目標なのでしょう。もう一つの選択肢は、国内にある4大企業のどこかに就職することです。
斉藤 サムスン・ヒュンダイ自動車・SK・LGの4大財閥企業の売上げは、韓国のGDPの50%以上を占めています。韓国にある世界的な大企業といえば、この4大企業に限られるでしょうね。
平田 給与にしても、その他の待遇にしても韓国内の4大企業、および海外の巨大企業はずば抜けています。やはりみんな、こうした世界的な企業に入りたいわけです。
そのためには学歴プラス語学力が、絶対的に必要です。
しかし、現実には手が届かないために、それら最高ランクの次のボリューム層の企業に就職しようと思うならば、それほど高い英語力は必要ないんです。
英語が絶対に必要とされる企業と、英語ができてもできなくても大して評価されない企業の落差があまりにも大きすぎることが問題です。その中間に位置する企業が、韓国内には存在していないわけです。
斉藤 日本国内の企業群とは、かなり違いますね。
平田 日本だと大きな企業があり、その次に第二グループがあり、さらに第三グループ、第四グループがあり、それなりに世界と繋がるビジネスを展開しています。
どのグループに属していようとも英語力に応じた評価が下されるため、英語力を身につけておいて無駄になることはありません。日本の中小企業群の層は厚いため、英語力を活かせる企業はいくらでも見つけられます。
斉藤 なるほど、つまり韓国は日本とは違い、英語力を必要とする企業が4大企業など、ごく一部に限られるため、多くの人にとって英語は必要ない、というわけですね。だから英語を学ぼうとするモチベーションも下がってしまうと……。
平田 だって普通の企業に就職した場合、英語力はもう必要ないですからね。転職しようとしても横にずれていくだけですから、やはり英語力は必要ありません。
斉藤 逆に韓国でエリートを目指す場合は、幼少の頃から英語力を身につけるための教育が必須になるみたいですね。
平田 その通りです。だから韓国では留学の若年化が、どんどん進んでいます。エリートを目指す場合、海外留学に行かせることは基本中の基本です。
小学校低学年、あるいは幼稚園の終わりぐらいに、お母さんと娘だけが海外に出て1年間ほど暮らし、軽く英語脳をつくってから帰ってくることが、普通にあるんです。
斉藤 幼少の頃から始まる英語教育に乗り遅れると、エリートになることは、もう無理そうですね。
平田 そうですね。韓国人の英語力は、はっきり二極化しているように感じます。
斉藤 そう考えると日本の留学事情は韓国よりもかなり遅れているわけですから、今後が心配ですね。さらにコロナ禍で立ち往生しているわけですし……。
平田 でも、ある意味、このコロナでチャンスをつかんだはずなんですよ。
斉藤 どういうことですか?
コロナで日本はチャンスになった?
平田 コロナ禍によってネット化が世界的に進んだことにより、日本もグローバルになるためのチャンスをつかんだといえます。
斉藤 コロナ以前と以後を比べると、英語力をもつ人の年収が上がったとの統計が出ています。
source:https://www.daijob.com/uploads/pdfs/4f2719-46bb-abb6e.pdf
世界がネットで結ばれたことにより、多くの中小企業の商圏が海外へと広がったことが原因のようです。海外の企業と取引をする場合は英語力が必須となるため、英語力に優れた人材に対する評価が軒並み上がったのだと思われます。
平田 少子高齢化が危惧されるなか、日本の中小零細企業も国内の商圏だけを相手にしていたのでは、いずれ立ちゆかなくなると言われてきました。それでも旧態依然とした日本経済は、なかなか世界を商圏とする方向へシフトできずにいました。
ところがコロナという災厄に見舞われたことにより一気にネット化が進み、計らずも世界市場へと躍り出ることになりました。ピンチをチャンスに変えるためにも、この機会を逃すことなく、グローバル化を推し進めるべきです。
斉藤 日本の中小企業が世界と繋がることのメリットは大きそうですね。
平田 もちろんです。今までの日本人は、語学留学やワーキングホリデーに行き、そのあと英語を使う仕事に就きたいなぁと悠長なことを言っている人が多かったわけですが、ここに来て大きく変化し、日本も韓国と同じように、優良企業に就職したければ英語力を身につけることが当然、という状況になってきています。
韓国よりも幸いなのは、日本は経済大国のため、企業群のピラミッドがしっかりできていることです。
斉藤 超一流企業への就職が難しい方でも、それ以外の企業でも英語力を活かせるチャンスがある、ということですね。
平田 そうそう。トップ企業はもちろん中小企業でも、海外のグローバル市場に進出しなければいけないと、みんなわかっています。
日本だけに留まることなく、アジア各地やヨーロッパ、アメリカのマーケットをつかまないと、10年先、20年先の展望が見えてこないわけだから、グローバル化に向けた戦略をつくるよりありません。
そうなると英語力を備えていなければ、話になりません。つまり、日本では英語力を必要とする企業の受け皿が多いため、英語力を身につけさえすれば、その能力を活用できる機会は無限にあるということです。
斉藤 国内の中小企業の多くがグローバル化の方向へ舵を切るとの予測は、多くの経済誌でも為されています。英語力をもった人材は、今後ますます活躍の場を広げそうですね。
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