外国人と流暢に英会話できる姿にあこがれて英語の学習を始めてみたけれど、「長続きしない、いつのまにか挫折して断念してしまう」なんて声を、よく耳にします。
多忙な社会人が英語学習を続けることは、けして簡単なこととは言えないようです。
では、どうして継続できないのでしょうか?
その理由として、よく指摘されるのは、「英語力が上がっている実感をつかめないため、やる気がなくなってしまう」ということです。
実際のところ、いくら頑張って英語学習を続けたとしても、その成果をちっとも確かめられないのであれば、学習を進める意欲が徐々に鈍ってきて当然です。成果が得られるかわからないことを延々と繰り返すことは、苦痛以外のなにものでもないからです。
英語に限らず、なんらかの新しい言語をマスターするためには、それなりの時間と努力が必要です。ひとつの単語を覚えたり、文法を理解していく作業は、パズルの断片をかき集めることに等しく、パズルが全て埋まるまでは、なかなか達成感を得られないものです。
断片を集めることに疲れ、途中で投げ出してしまうことは、往々にして起こります。
でも、あともう少しでピースが全て埋まり、パズルが完成することがわかっていればどうでしょうか?
もし、あと2~3個のピースを集めればパズルが完成するとわかっていたならば、そのまま放置する人はほぼいないことでしょう。パズルの完成に向けて、俄然、やる気も出るはずです。
実は英語学習にも、まったく同じことがいえます。
今、自分で選んだ英語学習法で頑張っていても成果を確認できないだけに、「このまま続けていても本当に英語を喋れるようになるのだろうか」と不安に襲われることが、よくあります。
そこで、違う学習法に次々に手をつけてみたり、また元の学習法に戻ったりと、右往左往することも珍しくありません。
でも、あと数個のピースを埋めることでパズルが完成するように、今の学習法を続けることで程なく流暢に英語を喋れるようになるとわかったならば、途中で放り出す人はいないはずです。
では、英語学習において「もう少しで英会話を自由に操れるようになるよ」と教えてくれる便利なシグナルが、本当に存在するのでしょうか?
結論から述べましょう。シグナルはあります。
そのシグナルが出たか出ないかの判断は、自分自身で客観的に下すことができます。シグナルが出たと確かめられたならば、今の学習法を継続することで、淀みなく英会話ができるようになります。
逆に、ある程度の期間をかけて学習を続けてきたにもかかわらずシグナルが一向に出ない場合は、その学習法を継続するだけでは近いうちに英語を喋れるようにはならない、と判断できます。
今回は、英語脳を獲得する前に出されることが多い、あるシグナルについて紹介します。
1.上達を実感することは、なぜ難しいのか?
その1.英語学習にも訪れるブレイクスルーの瞬間
英会話の学習法は、巷にあふれています。英会話スクールへの通学や成果報酬型のコーチング式英会話スクールの活用、オンライン英会話やオンライン留学、聞くだけで英語が喋れるようになると掲げる各種英語教材など、多種多様な学習法が存在しています。
それぞれの学習法ごとにメリットとデメリットがあります。利用者の生活パターンや環境による違いも大きいため、どの学習法が最適なのかと一概に答えを出すことはできません。
ただ、一ついえることは「どのような学習法を続けたとしても、英会話のスキルが身についていると実感することは、なかなか難しい」ということです。
たとえば新しい英単語を一つ覚えたからといって、目に見えて上達することなどあり得ません。フレーズを覚えても、だからといって次の瞬間に英語がペラペラと口から出るはずもありません。
もちろん、学習法ごとに効率の善し悪しはあるものの、どの学習法であれ、費やした時間と努力の分量に応じて、英語力は確実に伸びているはずです。
しかし、人はできたことよりも、できなかったことに注意を向けがちです。常識的に考えれば学習を始める前に比べて、頑張って学習を続けてきた今の方が、より上達しているはずです。
ところが、上達の度合いを測る指標があるわけでもないため、客観的にスキルアップしたと自分で実感することができません。そのため、ちっとも進歩していないと悩む羽目に陥ります。
こうした悪循環を解消するためには、TOEIC・英検・IELTS・TOEFLなどの各種試験を受けてみるのも、一つの手です。それらの試験を受けることで、自分の英語力を客観的に知ることができます。
ただし、これらの試験を通してわかる英語力はリーディングとリスニングに限定されます。残念ながらスピーキングについて計る試験は、ありません。
英会話で最も重要なスピーキング力を客観的に計る術をもたないため、流暢に英会話をこなすという自分の夢に、今の時点で果たしてどのくらい近づいているのかがわからず、悩むことになるのです。
冒頭でもふれたように、今の学習法を続けることで本当に英語を喋れるようになるのかと不安に苛(さいな)まれることは、多くの英会話学習者に共通しています。
このことは何も、英語学習だけに限った話ではありません。他の語学であろうと趣味の世界であろうとスポーツであろうと、なにかをマスターしようとするときには、必ずと言ってよいほどつきまとう問題といえます。
実は人がなんらかの能力を身につけようとするとき、右肩上がりにどんどん上達を実感できることなど、まずありません。
人が新たな能力を身につけるときの成長具合は、シグモイド曲線を描くことが、今日では明らかにされています。
このシグモイド曲線を英語学習に当てはめると、横軸が学習時間、縦軸が習熟度合いを表します。
初めのうちは学習を続けても、その習熟度合いは緩やかです。昨日よりも今日の方が習熟度合いは確実にアップしていますが、その上昇幅があまりにも小さいため、実力がついたと実感することはできません。
どれだけ時間を費やして学習しても成果が得られない状況が続くため、本人にとってみれば長いトンネルに迷い込んだかのような気分に陥ることでしょう。この段階で「がんばっても成果が出ない」ことに嫌気がさし、学習を放り出す人も少なくありません。
ところが、それでもあきらめることなく学習を継続していると、突如として大きな変動期を迎えます。シグモンド曲線上の青色の点線で囲んだ部分が、それです。
あるときを境に、習熟度合いは急激に上昇します。
それ以前は成果を実感できずに悩んでいたことが嘘のように、突然、実力がついたと実感できるようになります。
つまり、英語学習におけるブレイクスルーが起きる、ということです。
ブレイクスルーのあとは再び緩やかな曲線に戻りますが、英会話の習熟度でいえば、すでに流暢に英会話が楽しめる段階に達しているため、もはや焦ることはないでしょう。ゆっくり確実にさらなるスキルアップを目指して、努力すればよいだけです。
シグモイド曲線から明らかなことは、「正しい学習を続けてさえいれば、ブレイクスルーの瞬間は必ず訪れる」ということです。
実際のところ、ある時を境に突然英語の聞き取りができるようになったり、淀みなく英文が口からほとばしるようになった経験を、多くの英会話上級者がしています。
今まで学習してきた断片が突然繋がりだし、ひとつの集合体として機能し出す時こそが、ブレイクスルーの瞬間です。
こうしたブレイクスルーが起きるのは、英語脳を獲得したときと考えられています。
その2.英語脳とはなにか?
これまでの学習の成果が一つに結実することで、新たに英語脳が作られます。英語脳が誕生することで、初めて流暢に英会話をこなせるようになるのです。
ですから、あなたが英語力を身につける上で、まず目指すべきは、英語脳を獲得することといえます。
「英語脳」とは一般的に「英語を話したり、読んだりするとき、日本語が介在することなく、直接英語で考えるように脳が働くこと」を意味します。
一見すると抽象的な言葉に思える「英語脳」ですが、実は脳機能学的にも「英語脳」が脳内に新たに作られることがわかっています。
脳機能学者として知られる苫米地英人氏の著した『1日10分「英語脳」の作り方』には、英語脳について次のように記述されています。
私たちの脳内には1000億個を超える脳細胞が集まっており、それぞれの脳細胞ごとに無数の突起を伸ばすことで繋がっています。これが、脳内の神経ネットワークです。
言語の習得は、これら脳神経ネットワークの働きによって達成されます。私たちは日本語を読んだり、聞いたりしたときに、なにか別の言語に置き換えることはしません。日本語を使って自由に思考を深めることができます。
なぜそんなことができるのかといえば、脳内の神経ネットワークの一部が日本語を学習し、日本語モードにチューニングされているからです。
日本語にチューニングされた脳内ネットワークは 8~13歳くらいまでに固定されるため、そこに新たに英語を詰め込もうとしても無駄です。
では、大人になってから英語をマスターする場合は、どうすればよいのでしょうか?
その答えは簡単です。私たちの脳内ネットワークには、まだ使われていない部分が大量に残されています。そうした、まだ使われていない脳内ネットワークに英語を学習させ、英語にチューニングさせればよいのです。
つまり、すでに持っている「日本語脳」とは別に、新たに「英語脳」を作るということです。
まだ固定されていない脳内ネットワークを用いるため、年齢は関係ありません。英語学習をすることで、何歳からでも新たに英語脳を作り出すことができます。
英語学習において最も重要なことは、「英語脳」を獲得することにあると結論しても過言ではありません。
私たちが英語を学習するということは、脳内ネットワークに英語を学習させていることと同義です。インプットとアウトプットを繰り返し、一つひとつの知識を吸収するごとに、脳内ネットワークは次第に英語にチューニングされていきます。
しかし、この段階では、まだ学習の成果を実感することはできません。
ところが学習を継続していれば、脳内ネットワークが英語にチューニングされる瞬間が、やがて訪れます。英語脳獲得の瞬間です。
『1日10分「英語脳」の作り方』苫米地英人著 より要旨抜粋
コップに水を注ぎ続ければ、やがてはあふれます。同様に英語脳を獲得した瞬間から、英語があふれ出します。それまで聞きとなれなかった英語が明瞭に英語のまま理解できるようになり、考えることなく英語が勝手に口から飛び出すようになります。
英語脳の獲得こそが、英会話を習得するためのひとつの目標であることは間違いありません。
今、あなたが取り組んでいる英語学習法が正しいかどうかの判断は、英語脳の獲得に近づいているか否かで、はっきりと下すことができます。
冒頭で述べた「もうすぐパズルが完成するよ」というシグナルとは、「脳内ネットワークの一部がまもなく英語にチューニングされますよ」と教えてくれるシグナルに他なりません。
英語脳について理解していただいたところで、そろそろ本題に入りましょう。英語脳の獲得が近いことを知らせてくれる、そのシグナルとは……。
2.英語で夢を見られれば、英語脳の獲得は近い!?
結論から述べましょう。英語脳の獲得が近いことを知らせてくれるシグナルとは、「英語で夢を見られる」ことです。
夢のなかで誰かが英語で話しかけてきたり、自分が英語で話しかけるなど、日本語ではなく英語に染まった夢を見られるかどうかです。
「英語で夢を見る」ことは、英語学習者にとってはポピュラーな話題です。英語上級者の多くが、実際に「英語の夢を見た」という体験談を残しています。
科学的にはっきりと証明されたわけではないものの、脳内ネットワークの一部が英語にチューニングされる直前になると、潜在意識が支配する夢のなかに、その兆候が表れると考えられています。
ですから、もし、あなたが英語で夢を見られたのであれば、英語脳がまもなく誕生すると思ってよいでしょう。逆に、ちっとも英語の夢を見られないのであれば、近いうちに英語脳が作られる可能性は低いと判断できます。
英語に限らず言語の習得と夢との関係については、現在も研究が進められており、いくつかの有名な論文が公表されています。そのうちの2つについて紹介しましょう。
まずは、フランス語の習得について、夢のなかでフランス語で話す夢を見た人と見ていない人に分けて言語力の伸びを観察したところ、明らかな違いが認められたと報告する研究です。
In the 1980s, the Canadian psychologist Joseph De Koninck observed that students of French who spoke French in their dreams earlier made faster progress than other students. And many people report dreaming in a foreign language after they’ve spent time studying one.
日本語訳)1980年代、カナダの心理学者Joseph De Koninckは、夢の中でフランス語を話すフランス語の学生は、他の学生よりも早く進歩したことを観察しました。そして、多くの人々が外国語で夢を見たと報告しています。
フランス語を話す夢を見た学生のほうが、フランス語の夢を見たことがない学生に比べて速いスピードでフランス語をマスターしたことが公表されています。
つまり、「外国語で夢を見ることと、その外国語の成長には相関があるのでは」という報告です。
一方、次のような研究結果もあります。
I dug around in the research and found one 1993 study, carried out by the dream researcher David Foulkes and colleagues, into how bilingual people dream. (half of them native German speakers who spoke English very well, half of them native English speakers who spoke German very well) (途中省略)The results, like dreams themselves, are hard to interpret (the clearest finding was that you could influence the language in the dream with the language spoken in the pre-sleep interview), but all the dreamers reported dreaming in both their languages.
日本語訳)私はその研究を掘り下げたところ、夢の研究者であるDavid Foulkesと同僚が行った1993年の研究の1つを見つけました。彼らの半分は英語を上手に話すドイツ語を母国語とし、それらの半分はドイツ語を上手に話すネイティブの英語を話す人)が研究室で眠りについた(途中省略)結果は、夢そのものと同様に解釈するのは困難です(最も明確な結果は、就寝前のインタビューで話された言語で夢の言語に影響を与えることができるということでした)が、すべての夢想家は両方の言語で夢を見ていると報告しました。
第2外国語を上手に話せる人を対象に、第2外国語の夢をどのような条件下で見るのかを確かめようとした実験です。
結果は「寝る前に使った言語が、夢の中の言語に影響を与える」というものでした。
この実験からは、英語漬けの環境に身をおくことで英語脳の獲得が早まるのではないか、との仮説を導けます。
言語の習得と、その言語の夢を見ることの関連性については、まだ研究が続けられている段階であり、確とした結論が導き出されるまで、もう少し時間がかかりそうです。
しかし、英語を学習する上で、英語で夢を見ることと英語脳との獲得に本当に相関関係があるのかどうかは、誰しも知りたいことでしょう。
そこで、マナビジンでは独自にアンケート調査を行い、この問題について検証してみました。
フィリピン留学をすることで英語を流暢に喋れるようになった人たち数十名を対象に調査をした結果、次のような結果を得ることができました。
フィリピン留学で英語ができるようになる人達は3ヶ月が非常に多いのは、語学学校オーナーや経験者たちの中では周知の事実です。加えて、たいていそういった方々は1日6時間〜8時間程度の授業(英会話)をやっています。
英検2級レベルの人が英語をスラスラと喋れる中級者レベルに到達するまで、およそ500時間に及ぶ英会話の学習が必要なことがわかります。
注目すべきは、学習を始めてから 300~400時間を経過したあたりです。
この直後に多くの人が、「英語をほぼ喋れない」状態から抜け出し「英語を喋れる」ようになっています。欧米留学の方々にアンケート調査をしても早い方だと2ヶ月目から、「自分が喋れていると気づいた」と答える方々もいました。
そして、この時期に英語で夢を見る人が多くいることがわかりました。
つまり、英語で夢を見始めた頃を境に英語力が急激に上昇する経験を、多くの留学生が共有している、ということです。
上の図においても、先に紹介したシグモイド曲線を見事になぞっています。初期は緩やかだったシグモイド曲線がブレイクスルーを迎え、急上昇を始めるのが 300~400時間のあたりです。
このことから、「ブレイクポイントにおいて英語で夢を見る現象が生じている」と推測できます。
今回はここまでです。次回はマナビジンで実施したアンケートについて、詳しく紹介します。英語で夢を見ることと英語力の間には、果たして関係があるのでしょうか?
次回の記事を読んでいただければ、その全貌がわかります。