なぜリスニングのレベルアップが必要なのか?
大学入試のセンター入試(共通テスト)や公立高校入試でもリスニング試験が実施され、誰でもスマホで無料の英語音声を聞くことができるようになった現在。「なぜ英語の勉強にリスニングが必要か」などと疑問に思われることはまずなくなったと思います。
しかし、これほど英語の音声にアクセスしやすくなった今でも、英語のリスニングに苦手意識を持っている方は非常に多いと思います。
YouTubeやNetflix等の英語音声動画を楽しむとか、リスニングテストで高得点を取るというような目的に限らず、英語を話せるようになるためにもリスニングのレベルアップは不可欠です。
なぜなら、英語を話せるようになるためには英語を聞き取れることが前提だからです。赤ちゃんが言葉を耳で聞いて少しずつ話せるようになっていくという本来の言語習得過程をみても、「聞き取れない言葉は話せない」というのは真理です。
ただ、英語を母国語としない私たちが、毎日1日中英語を聞いていたらリスニングがネイティブ並みになって流暢に話せるようになるかというと、それは無理です。
その時点で上級レベルの英語力がある方は別ですが、初級者の方が英語を聞き流し続けても、それだけではごく簡単な言い回ししか覚えられません。
赤ちゃんが生活の中で母語の言葉を覚えられるのは、常に「状況」が存在していて、それに合わせた言葉がけをしてもらえるからです。幼児向けの本がほとんど絵本なのは、文字はまだ読めなくても絵を見ればだいたいの状況がつかめて、文字部分(お話)を読み聞かせてもらえれば理解できるからといえます。
英語を聞き流すことで音声に慣れる効果が期待できるのは、TOEICでいえば最低700点以上のレベルの方です。
これは初級者の方の話に限らないのですが、一番大切なのは短い時間集中して聴くことと、聴いた音声を声に出してリピートすることです。
・・というような話はこれまで何度も聞いたことがありますよね。
実は、これまで日本人学習者の英語リスニング上達法として提唱されてきた方法に、あるアイディアをプラスすると英語の音声がより聞こえるようになります。言いかえれば音声にめりはりがつき、頭に残りやすくなります。
それによって、集中して聴くことやリピート練習も楽しくなり、会話での再現につながります。
その「アイディア」とこれを踏まえたリスニング上達法を提案させて頂きます。
動詞にフォーカスすると世界が変わる!?
あるアイディアとは、「動詞にフォーカスする」ことです。すなわち、音声の中で使われた動詞を頭に残しながら聴くことです。
しかし、動詞を聞き取ろうとするとほかの言葉が耳に入らなくなってしまうのでは?と思われるかもしれません。
動詞にフォーカスする、というのはもちろん、動詞だけを聞き取るということではありません。音声が流れてくる中で動詞を聞き取れたら、それを少し頭に残しながら聴き続ける感じです。
ピアノに例えていうと、親指でドの音を押さえたまま他の指で他の鍵盤を弾くようなイメージです。このドの音が動詞にあたります。
これを音声だけで実践するのは結構難しいですが、ラジオ英会話でいうテキストのようなスクリプトがあれば、スクリプトの英文の動詞にマーカーを引いておいてそれを見ながら聴くと実践しやすいです。また、頭の中で「動詞に色がついた英文のイメージ」ができる効果もあります。
なお、ここでいう動詞はbe動詞以外の一般動詞で、句動詞(come onとかrun acrossのような、動詞+副詞の句)を含みます。
ある文が一般動詞を含まない場合はYes, I do.のような短い応答か、比較的短い文で形容詞が述語になっている場合が多いです。後者の場合は述語の形容詞を動詞のように頭に残しながら聴いてください。
1.動詞にフォーカスしたリピーティング
リピーティングとは、音声の再生を1センテンスずつ止めて、聴いたセンテンスを声に出してリピート(復唱)することです。1つ1つのセンテンスを正確に聞き取れている必要があるので、音声の英文の難易度に比例してリピーティングの難易度も上がります。
動詞にフォーカスしたリピーティングでは、聴いた音声の動詞に頭の中で色をつけるイメージでリピートします。
たとえば、Don’t put off until tomorrow what you can do today. (今日できることを明日に延ばすな)という文を聴いたとしたら、動詞にあたるput offとdoを頭の中でカラーにする(あるいはそこにマーカーを引く)イメージを作ります。
この例では関係代名詞が入っていて動詞が2個ありますが、最初のうちは I missed you! (会いたかった)のような短い文だけでもよいのでこれを実践してください。
これを I missed you! のイメージにするだけでも全然違ってきます。
2.動詞にフォーカスしたディクテーション
ディクテーション(書き取り)は聴いた内容を文字で書くことです。リピーティング以上に、文法的なこと(動詞の形や冠詞aやtheがあるかないか、名詞の複数形など)が理解できている必要があります。
そのため、リピーティングに比べると負荷は高いですがリスニング学習を4技能すべてにつなげる非常に有効な方法です。
I missed you! のような短い文であれば1回聞いただけで書きとることができますが、この場合でもmissという動詞が聴きとれるかどうか、現在形でなく過去形であることをわかっているかどうかが問われます。
ちなみにこの文で仮にmissが現在形だと「あなたがいなくて寂しい→会いたい」という意味になります。つまりmissedとmissでは状況が違ってしまうので、この文の前後の内容もわかっている必要があります。
また、最初の例文のように関係代名詞が入っていて10語くらいある文だと1回聞いただけで書きとることは難しくなります。語彙の難易度によっては上級者でも3回くらい聞かないと全文書きとることはできなかったりします。
動詞にフォーカスしたディクテーションは書きとった英文の動詞にマーカーを引くか、色鉛筆で囲むだけです。リピーティングよりも実践しやすく、ディクテーションの効果をさらに高めるので、短い文でも実践していただければと思います。
ビジネスパーソンにお勧めのリスニング教材
1.YouTube 実業界の有名人のスピーチ・講演
少し難易度が高くなりますが、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ等実業界の有名人のスピーチや講演は一番お勧めです。
個人的にお勧めなのはサイモン・シネックのゴールデン・サークル理論の動画です。早口ですが、それほど難しい言葉は出てきません。強調すべきところをしっかり強調してくれるので早口の割には聞き取りやすいです。何より内容が面白いです。いわゆるビジネス英語のリスニング力を鍛えるのに最適な動画の1つといえます。
これらの動画は、すべてリピーティングしたりするのはさすがに大変なので、はっきり聞きとれたところや印象に残った個所をリピートするだけでも結構です。
関連記事:Youtubeで学ぶ海外著名人【成功哲学・マインドセット】おすすめ動画15選
2.NHKラジオ英会話
1日に数回放送されています。1回15分の続けやすい長さです。平日夜は21:45からです。最近はビジネス英語基礎編のような内容になっていて、取り組みやすさと実用性を兼ね備えています。時間中はできる限り集中して聴くことが大切です。また、できる限り毎回聴きましょう。
まず、テキストの会話文の動詞にマーカーを引きます。(赤字になっている行は別の色で囲むとよいでしょう)
講師の先生の指示に従って音声をリピートするときに頭の中で動詞に色をつけ、テキストで単語や構文を確認したりエクササイズに取り組んだりしましょう。その後で再び音声を聴いて全文をしっかり理解しましょう。
関連記事:英検1級講師が教える【NHKラジオ講座】5つの英語勉強法
3.TOEICのリスニングセクション
TOEICの問題は1回解いて終わりでは非常にもったいないです。リーディングセクションも含めて全体がビジネス英会話力に直結しますが、リスニングセクションでは音声とトランスクリプションをフル活用しましょう。
教材としてはまず公式問題集やパート別問題集のPart 1のナレーションと、Part 2の質問+正解肢の応答のリピーティングがお勧めです。
動詞にフォーカスしながら耳で聞いてリピート⇔動詞にマーカーを引いたトランスクリプションを見ながらリピートを繰り返します。
Part 1・2では物足りなくなってきたらPart 3の会話のリピーティングにトライしましょう。やはり動詞にフォーカスしながら耳で聞いてリピート⇔動詞にマーカーを引いたトランスクリプションを見ながらリピートを繰り返します。
Part 3は会話の1文1文が結構長いので、トランスクリプションの英文の動詞にマーカーを引く作業が特に大切になります。
リスニング学習で気をつけたほうがよいこと
字幕付き動画
洋画を見ている時、字幕を読んでいたために俳優の英語の台詞が記憶に残らなかったことがあると思います。
DVDのように字幕が調整できる場合は字幕なしか英語字幕が望ましいのですが、YouTube等で、日本語字幕付きで字幕を調整できない動画を見る場合、字幕を見るのは一瞬だけにしましょう。
1秒でも長すぎで、0.5秒くらいです。読んでしまうと英語が進んでしまうし、読んでいる間の英語が頭に入ってこなくなってしまいます。
英語字幕を見る場合も、あくまで聴き取りの補助にしてください。英語の場合は日本語のように一瞬で認識するのは厳しいですが、字幕を読んでしまうよりは音声を聴いたほうがよいです。
ただ、繰り返し見ることにして1回目は字幕に頼り、2回目からはオフにするか一瞬見るだけにするというのはお勧めできます。
シャドーイングについて
他技能アップにつながるリスニングのやり方を読まれた時、「シャドーイングは違うの?」と思われたかもしれません。
シャドーイングは音声を止めずに、0.5秒くらいの時間差でリピートしていくので確かに英語を英語のまま理解する能力や発音の向上につながる学習法です。
しかし、かなりハードルが高いやり方なのも事実です。通訳養成スクールでは日本語のニュースのシャドーイング練習もやるのですが、日本語でも瞬時にその言葉を理解できなければついていけなくなってしまいます。
自分がシャドーイングできるかどうかを知るには、TOEICのPart 1の音声やラジオ英会話のスキット英文の音声(最初に通して流れる時)のシャドーイングをやってみてください。
これに何とかついていけるようでしたら、ラジオ英会話テキストやTOEICのPart 1あるいはこれより易しいレベルの教材のシャドーイングはお勧めできます。
しかし、自分の声が邪魔になったり聞き取れない単語が次々に出てくるようでしたら、少なくともその時点でシャドーイングを取り入れることはお勧めできません。
シャドーイングにトライする場合、動詞にフォーカスするのはリピーティングよりも難しくはなりますが、逆に音声を聴いた瞬間に「XXっていう動詞だ」とわかると楽しくなると思います。
関連記事:リスニング力上がる【リピーティング・シャドーイング】英語勉強法
同時にいろいろな音声や動画を視聴したほうがよいか、1つに絞るべきか
結論から言えば、リスニングに苦手意識のある間は極力、同じ音声(それも1分以内の短いもの)を完全に理解できるまで繰り返し聞いた方がよいです。
YouTubeや様々なアプリで気軽にいろいろな音声や動画を視聴できるので、同時にいくつか視聴したほうが音声への慣れも速くなるのではないかとも思えます。
しかし、たとえばディズニーの映画の動画を見て英語の台詞がほとんど聞き取れない段階では、ほかの動画をいろいろ見てもリスニング力向上にはつながりません。
現時点で初級レベル(TOEIC500点未満)の方は、ビジネス系の教材はひとまず置いておいて、たとえば中3の教科書の音声を暗記できるまで繰り返し聞いた方がよほど効果があります。教科書の例でいえば全文でなくても、1ページ1トラックとして3・4トラック暗記するだけでも結構です。
中学生の英語なんて、と思われるかもしれませんが最近の中学の英語教科書は内容的にも面白く、いろいろ工夫されています。また、中3になると文法的にも関係代名詞やthat節、動名詞や現在分詞などが出てきます。
教科書の会話や文章を音声で覚えることでかなり自然な会話ができるようになります。
教科書のトラックを動詞にフォーカスして完全に理解できるまで繰り返し聞き、それができるようになったらもう一度同じディズニー映画を見てみましょう。かなり聞き取れるようになっているはずです。
関連記事:ディズニープラスで英語学習!英語字幕機能、おすすめ作品、解約方法などをNetflixと比較
1日のうちリスニング学習にどのくらい時間を取ればよいか
これは、その方が「ながらリスニング学習」ができるかどうかによります。
「ながらリスニング学習」とは、家事をしながらとか移動中に音声を聴くことです。ここで気を付けなければならないのは、ほとんどが聞き流し状態になってしまうようだと「ながらリスニング学習ができる」とはいえないことです。
流れている音声がほとんど聞き取れる(易しいものだけでも)ようでしたら、ながらリスニング学習時間を作ることができることになります。それによって、細切れでも1日最低1時間くらいはリスニング学習にあてることができることになります。
これが難しい場合は、リスニング学習に集中できる時間を作ることになります。しかし学習の密度は高くなるので、20~30分でも3か月後には相当な成果が出るといえます。
目標設定
直近のTOEICスコアが500点未満の方
文法や単語の知識が不足しているので、中学-高校レベルの英文法参考書で基礎力をつける必要があります。文法や単語の学習でも音声を利用しましょう。先に挙げた中3の教科書ほか、市販の中学英語のやり直し教材や高校レベルの文法書は音声が付属しているものがほとんどです。
半年くらいは例文を音声で聞いてリピーティングしながら文法の基礎固めをしたり、英検3級-準2級の音声付き単語集で単語を覚える学習を中心にしましょう。
なお、高校レベルの体系的な英文法参考書の目次を見て頂くとわかるのですが、実は英文法では「動詞そのものの項目」(to不定詞、時制など)や「動詞と密接に関連する項目」(5文型、仮定法など)が大半を占めています。リスニングの本題からははずれてしまいますが、文法も動詞にフォーカスすると効率よく学ぶことができます。
目標設定としては、当初は厳しく感じるかもしれませんが「3か月以内にTOEICのリスニング模試問題で495点中300点」あるいは「3か月以内に準2級のリスニング問題が全問正解できる」「半年以内にTOEICの公開テストで600点取得」等がお勧めです。
同・500―650前後の方
このレベルでも中学・高校の文法や単語の知識がまだ不足している場合が多いです。主に高校レベルの音声付き文法書や、ALL IN ONEのような文法にフォーカスしつつ4技能に対応する音声付き参考書を3か月以上かけて詰めることをお勧めします。
目標設定としては「3か月以内にTOEICのリスニング模試問題で350点以上」「3か月以内に英検2級のリスニング問題は8割以上正解できる」「半年以内にTOEICの公開テストで700点」等がお勧めです。