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留学マナビジンセブ島留学【特集】フィリピンの政経と歴史【ドゥテルテ対カトリック⑤】人口増加はどこまで進む?政府とカトリックの壮絶な戦い

【ドゥテルテ対カトリック⑤】人口増加はどこまで進む?政府とカトリックの壮絶な戦い

シリーズでお届けしている、ドゥテルテ 対 カトリックの第五弾。

前回は、人口増加によるフィリピン急成長とその果ての貧困問題についてお話ししました。それを踏まえて今回は、人口抑制法を巡るフィリピンとカトリックの争い、リプロダクティブ・ヘルス法の是非について話をしていきたいと思います。

ドゥテルテ大統領とカトリック教会との対立はどうなっていくのか。

1.人口増加を抑えるための政府とカトリックの戦い

1-1.人口抑制法をめぐる駆け引き

マナビジン
https://www.newsdeeply.com/womenandgirls/から引用

フィリピンの歴代政府にとって、人口を抑制することは早急に取り組まなければならない課題でした。フィリピンに背負わされた十字架とも言える貧困をなくすための抜本的な改革としては、農地の開放と支配層の握る権益を緩める必要があります。

しかし、それらの改革を一朝一夕で為せない現状において、貧困の連鎖を断ち切るための有効な手段は人口を抑制する以外にありません。

人口の増加率を抑えることが、フィリピン経済の健全な成長を促します。このことは一見すると、人口ボーナス理論と矛盾するようですが、実はそうではありません。

人口ボーナスは単に人口が増えさえすれば受け取れるものではありません。人口ボーナスはあくまで働く世代の割合が、子どもと高齢者の数に比べて増えていくことで、経済成長が後押しされる現象を指します。

ところが、次から次へと子供が生まれている場合は総人口に占める子供の割合が高くなるため、その分働く世代の割合が減少してしまいます。人口増加率があまりにも高いと、いつまで経っても人口ボーナスを受け取れないのです。

つまり、人口ボーナスは人口増加率が減少することで、はじめて受け取れるということです。その意味でもフィリピン政府は、なんとしても人口増加率を抑える必要がありました。

人口を抑制する方法としては、避妊政策と産児制限政策があります。歴代政府は人口を抑制するための法案を何度もつくってきましたが、その度にカトリック教会によってつぶされてきました。

フィリピンは政教分離の国ですが、少なくとも人口抑制法をめぐる動きを見る限り、政教分離がまともに機能しているとはとても思えません。

人口抑制法は、フェルディナンド・マルコス大統領が1960年代に出生率と人口増加を抑制する政策を打ち出したことにはじまります。

1990年代にも、フィデル・ラモス大統領やジョセフ・エストラーダ大統領が人口を抑制する政策を推し進めようとしましたが、カトリック教会の抵抗にあい、人口抑制法を成立させることができませんでした。

「避妊も中絶も殺人であることに変わりはない」とする神学理論を盾に、カトリック教会は人口抑制法に反対するキャンペーンをくり広げたのです。

人口抑制法をめぐるフィリピン政府とカトリック教会の対立は世界の関心を集め、2012年8月には国連がフィリピン政府に対して、フィリピンの貧困問題を改善するために法案を可決するように求めました。

1-2.リプロダクティブ・ヘルス法を巡る攻防

マナビジン
https://www.greenphillyblog.com/news/から引用

カトリック教会による抗議行動が激しさを増すなか、アキノ前大統領のもと、2012年12月についに人口抑制法である「リプロダクティブ・ヘルス法(生殖に関する健康・権利の法律 = Responsible Parenthood and Reproductive Health Act of 2012)」が議会を通り、大統領の署名によって成立しました。

この法案が議会を通過するだけでも、たいへんでした。当初は285人の議員のうち185人ほどが支持していると見られたため、議決されるのは時間の問題と考えられていました。ところが11月25日に行われた投票では議員の多くが欠席しました。

131人の出席しか得られなかったため、結局法案は承認されませんでした。カトリック教会の反対があまりに強いことを恐れた議員の多くは、採決に参加することを避けたのです。

翌年5月に行われる議会選挙が足かせとなりました。選挙の際、カトリック教会の協力が得られないとなると、再選は難しくなります。そこで多くの議員は、国益よりも保身を優先しました。それは、これまでも人口抑制法が議会で可決されなかったことと同じ構図です。

それでもベニグノ・アキノ3世の強力なリーダーシップのもと、14年間に渡り議会で足止めされていた「リプロダクティブ・ヘルス法」はついに承認されました。

人口抑制法が可決されたのは、フィリピンでは画期的なことでした。1960年代から家族計画や人口抑制のための運動を進めてきた人々にとっては、まるで革命が起きたかのような勝利の瞬間でした。

法案の成立を阻みたいカトリック教会は、前アキノ大統領を「破門」する可能性があるとまで宣言し、圧力をかけました。

カトリック信者にとってカトリック教会から「破門」されることは、天国への門を閉ざされることを意味します。「破門」はカトリック信者にとって、もっとも重い罰です。

世界の歴史を振り返ると1077年、神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世が雪が降りしきるなか、カノッサ城門にて教皇に破門の解除を願った「カノッサの屈辱」と呼ばれる事件がありました。

ときの権力者に「破門」をちらつかせて教会の要求を認めさせることは、中世の時代にカトリック教会が何度もやって来たことです。それがまさか、21世紀を迎えてリアルタイムに再現されるとは思いませんでした。

しかし、アキノ前大統領はカトリック教会の圧力に屈することなく、政治生命をかけて法案を成立させたのです。アキノ前大統領は「慢性的な貧困などの経済的問題を解決するために、人口抑制法は必要不可欠である」と述べています。

「リプロダクティブ・ヘルス法」の中身ですが、けして過激なものではありません。

政府の予算内で、全国の保健センターにて貧困層に向けて避妊具を無料、あるいは低価格で提供すること、公共の保健機関に家族計画に関する情報やサービスの提供を義務付けること、公立学校では10歳以上の子供たちに性教育を行うこと、などが定められています。

カトリック教会の教えによって戒められていた避妊が、政府によって法制化され保障されたのです。

避妊によって妊娠が減れば中絶も減少に向かいます。これでフィリピン女性の人権も向上すると、2013年からの実施を期待されていたのですが……。

カトリック教会の抵抗は止みませんでした。

「リプロダクティブ・ヘルス法」は倫理的に問題があり、罪深いものであると批判し、信者に反対するように求めたのです。「避妊は中絶と同じ」という従来からの態度を、カトリック教会は改めようとしませんでした。

アティエンザ元マニラ市長も、カトリック教会を支持する一人です。アティエンザ氏は熱心なカトリック信者として知られています。

アティエンザ氏がマニラ市長だった時代は、貧しい家族がマニラの公衆衛生施設で避妊を受けられないようにしました。都市の保健所や病院が、必要な女性に避妊薬を与えることを禁じたのです。

アティエンザ氏は述べています。

「避妊の考え方は正しくありません。女性の子宮で生まれた人生は、全能者の創造によるものです。あなたの生殖器系が自然に機能するとき、それに干渉しないようにしてください」

カトリック教会と信者を中心に、「リプロダクティブ・ヘルス法」に対する反対運動が激化しました。「リプロダクティブ・ヘルス法」が成立してもなお、その是非をめぐってフィリピンの世論は二分されました。

民間調査会社ソーシャル・ウェザー・ステーション(SWS)の世論調査によると、10代の64%が法律を支持していると発表されています。

産業界も「リプロダクティブ・ヘルス法」を支持しました。フィリピン商工会議所やフィリピン雇用者連盟などの経済団体は、「持続可能で均整の取れた経済成長のため、人口抑制法の即時施行を求める」との共同声明を発表しています。

賛成と反対に世論が揺れるなか「リプロダクティブ・ヘルス法」をめぐる政府とカトリック教会の対立は、ついに最高裁にまで飛び火しました。

カトリック教会の支援を受けた団体が違憲だと訴えたことで、2013年3月19日、最高裁判所は「リプロダクティブ・ヘルス法」の施行の延期を求める命令を下したのです。

人口抑制法がやっと成立したと喜んだのも束の間、2013年1月から施行された「リプロダクティブ・ヘルス法」はカトリック教会の妨害が入り、すべては再び棚上げとなりました。

違憲の提訴をした弁護士のインボング氏は、「法律は家族の価値といったフィリピン文化を破壊するもので、政府が寝室に立ち入るのはお門違いだ」と「リプロダクティブ・ヘルス法」を批判しました。

たしかに、フィリピンの伝統的な文化は大家族制度を中心としています。「どれだけ貧しくても多くの家族に囲まれ、ともに暮らしていくことこそが幸せであり、それこそがほんとうの豊かさだ」とする世論もあります。

一方で、救いようのない貧困の連鎖がさまざまな悲劇を招いていることも、フィリピンの現実です。理想と現実の狭間で、フィリピンは揺れました。

この時期、カトリック教会で胎児の死体が相次いで見つかったことは、悲劇を象徴しています。

ケソン市の聖ポール教会の裏では六ヶ月の双子の胎児が見つかり、マニラのキアポ教会では果物のバスケットに隠された瓶のなかで胎児が見つかっています。キアポのサンタクルス教会でも、ケソン市の別の教会のトイレでも胎児が発見されました。

このことは「リプロダクティブ・ヘルス法」をめぐるカトリック教会への抗議とも言われていますが、カトリック信者である母親が、子供の魂を救えると純粋に信じて、教会の近くに胎児を置いていった面もあるようです。いずれにせよ、悲劇であることに変わりはありません。

1-3.最高裁による合憲判決

マナビジン
https://seesaawiki.jp/w/mamono_kousienn/d/から引用

2013年の議会選挙では、カトリック教会は候補者に対して「踏み絵」を実施しました。

「踏み絵」とは?
江戸時代、キリスト教徒弾圧に際して、その信者か否かを見分けるためにキリストやマリアの像を木または金属の板に刻み、足で踏ませたこと。そこから転じて、個人の思想・信条を探るために強制的に課する行為のこと。

カトリック教会は立候補の際、政治家に避妊・中絶・離婚・同性婚・汚職に関する姿勢を公開の場で明らかにするように求めました。

候補者に対し「リプロダクティブ・ヘルス法」に賛成か反対かをはっきりさせよ、と迫ったのです。

賛成すれば、カトリック教会からの応援や支援は受けられなくなります。フィリピン司教協議会会長のソクラテス・ビイェガス大司教は、「教会が候補者を支持して選挙に干渉することはないが、信仰の観点から、教会による福音の価値を考えた上で投票することが望ましい」と述べています。

候補者に踏み絵を迫ったことは、カトリック教会が政治家を事実上、脅したも同然でした。

メルビン・カストロ司祭は、「避妊薬は貧困への答えではない。避妊薬がないためではなく、仕事がないために人々は貧しいのだ」と語っています。

カトリック教会は内部の締め付けも強化しました。教会の指導者たちに対し、法律(リプロダクティブ・ヘルス法)を放棄し、人ではなく神に従わなければならないと呼びかけました。

しかし、選挙の結果はカトリック教会の思惑を大きく裏切るものでした。国民の8割の信者を抱えるカトリック教会の選挙における影響力は、教会が期待していたほどではありませんでした。

フィリピンでは強大な発言力をもつカトリック教会ですが、以前からささやかれていたように、選挙における影響力は神話に過ぎなかったことを図らずも証明する結果となったのです。

国会も地方選挙も、アキノ大統領の与党が大勝利を収めました。

もっとも、このときの選挙の争点が「リプロダクティブ・ヘルス法」に集中したわけではありません。それでも、カトリック教会が信者に暗に求めた「リプロダクティブ・ヘルス法」に反対する候補者への投票に、多くの信者が背を向けたこともまた、たしかなことです。

2014年4月8日、「リプロダクティブ・ヘルス法」が違憲にあたるかを審理していた最高裁の判決が下りました。政府の主張を認め、最高裁の判事全員が合憲の判決を下したのです。

ただし、反対派への配慮も見られました。

たとえば「リプロダクティブ・ヘルス法」では、家族計画に関する情報やサービスの提供を公的機関の職員に課しており、これを拒否する場合には罰則が適用される定めがありましたが、宗教上の理由によって拒否した場合に罰則を科すのは違憲と認定されました。

カトリック教会の指導者が主張していた8つの規定については「違憲」と判断されたことで、フィリピンのカトリック司教協議のオスカー・クルツ大司教は、「それほど悪くはない」と裁判所の決定を受け入れました。最高裁判決を尊重すると言明しています。

これで、2012年に14年間に渡る審議の末に採決された「リプロダクティブ・ヘルス法」が、ようやく実施されることになりました。

しかし、避妊と中絶を同じ罪と考えるカトリック教会の抵抗がやんだわけではありません。

「リプロダクティブ・ヘルス法」に反対する立場をとる国会議員のイラガン氏は、「裁判所の判決は闘争の終結ではない」と述べ、次のように続けました。

「予算は配分されなければならず、政府機関が実際にこの法律の規定を実施するかどうかを見極める必要がある」

彼女の予言めいた言葉は、「リプロダクティブ・ヘルス法」の最大の障害となって、後日、現れることになります。

2.避妊薬をめぐる新たな駆け引き

マナビジン

「リプロダクティブ・ヘルス法」は合憲とされたものの、フィリピンで避妊を認めさせることには相変わらず困難がともないました。

次の戦いのステージとなったのは、インプラントなどの避妊薬をめぐる攻防です。

インプラントとは、体の中にチップ(機械)を埋め込むことでホルモンをコントロールし、妊娠できないようにする仕組みを指します。現在、日本ではインプラントによる避妊は認められていませんが、世界中の多くの国で認められています。フィリピンも認可された国のひとつでした。

フィリピンの貧困層に属する女性の間で、インプラントによる避妊は人気がありました。なぜなら一度インプラントを埋め込めば、およそ3年間ほどその効果が持続するからです。

ビルなどの避妊薬の場合、定期的に購入する必要があります。貧困層に避妊薬を買う経済的な余裕などないため、もっぱら政府やNGOなどのボランティア団体による無料配布に頼っています。

しかし、数ヶ月に一度、避妊薬を受け取るために医療サービスや保健医療の提供元へ足を運ぶのはかなり大変です。田舎になると避妊薬を受け取るために、何時間も移動しなければなりません。

小さな子供を抱えての長距離移動は、想像以上にきついものがあります。移動のための交通費をひねり出すことさえ、難しいのが現実です。

でもインプラントであれば、一度埋め込んでしまえば3年後にまた手術を受けるだけで済むため、手間がかからず便利なのです。さらに、インプラントを埋めたあとで子供が欲しくなった際も、インプラントを取り出しさえすればすぐに避妊をやめることができます。

こうした理由から、貧困層の多くの女性が無料配布のインプラントを希望していました。そこで政府は、リプロダクティブ・ヘルス・プログラムの一環として、全国で約60万のインプラントを配布する予定でした。

ところが……。

「リプロダクティブ・ヘルス法」を阻むことに失敗したキリスト教系団体が次に目をつけたのが、こうしたインプラントを中心とした避妊薬の数々です。

インプラントなどの避妊薬が中絶に利用される恐れがあるとして、避妊や中絶に反発する団体から嘆願書が出されました。その運動の激化に伴い、避妊薬の是非をめぐって激しい争いが繰り広げられることになります。

もとより、話し合いでどうにかなる問題でもありません。決着は「リプロダクティブ・ヘルス法」が合憲か否かをめぐる争いに続いて、最高裁に持ち越されました。

判決が下ったのは、2015年6月のことです。結果は政府の期待を裏切るものでした。最高裁はインプラントの使用・製造・配給・販売・宣伝を一時停止する命令を下したのです。

その瞬間、フィリピンの貧しい女性たちがインプラントを手にする道は閉ざされました。

この判決により、未使用の薬剤2億6千万ペソ(約5億9千万円)が、使われないまま倉庫に眠り続けるよりなくなりました。

薬剤には使用期限があります。ほとんどの薬剤は2017年の後半に期限を迎えます。使用期限を過ぎた薬剤は廃棄するよりありません。こうして貧困層の女性に届けられるはずだったインプラントは、ただのゴミと化したのです。

せっかく「リプロダクティブ・ヘルス法」が成立したにもかかわらず、貧困層の女性にとって救いの手となるはずのインプラントが封じられるとは、フィリピン政府にとっても予期しないことでした。

避妊による家族計画を推し進めようとする政府にとって、さらに追い打ちとなったのは2016年の1月に行われた議会決議です。

避妊薬のために用意されていた予算は、議会を通過する際にカトリック教徒の議員たちの手によって廃止に追い込まれたのです。

政府といえども、予算がつかなければなにもできません。かくして「リプロダクティブ・ヘルス法」が成立した直後に、国会議員のイラガン氏が予言していたことが成就しました。避妊を推し進めるために必要な予算は、結局のところ配分されませんでした。

カトリックの思惑は政府の意向を無視するかのように、フィリピンの政治に隠然たる力を及ぼしたのです。

2-1.フィリピンからすべての避妊薬が消える!?

マナビジン
https://rmn.ph/fda-nagbabala-laban-sa-ilang-art-coloring-product/

最高裁による避妊インプラントの流通、および販売に関する一時的拘束命令のことをTROと呼びます。フィリピン保険省(DOH)はTROの解除を最高裁に求めましたが、2016年8月に棄却されてしまいます。

最高裁の態度はかたくなでした。さらに最高裁判所は、避妊に反対する家族財団フィリピンの申請に基づき、FDA(Food and Drug Administration = 食品医薬品局)がすべての避妊薬のライセンスの更新を中止するように命じたのです。

FDAの認可が下りなければ、その薬品をフィリピン国内で販売・配布することはできません。

すでに認可されている薬剤も認可には期限が設けられているため、その都度更新する必要があります。ところが避妊薬に関しては、最高裁の命令により一切更新が禁止されてしまいました。

そのため、新たに申請される避妊薬が認可されないのはもちろん、現在流通している避妊薬も期限を迎えた時点で、販売や配布は一切できなくなります。

この最高裁判決の意味するところは重大です。このままでは、やがてフィリピンからすべての避妊薬が姿を消すことになるからです。

実際のところ、ひと月が経過するごとにフィリピンから避妊薬が次々に消えています。人口委員会委員長のJuan Perez氏は、2018年までに避妊薬のうち4つだけが市場に出るのみになるとEsquire Philippinesのインタビューで語っています。

人口委員会がまとめた報告書によると、2020年までには唯一の避妊薬がコンドームだけになると予測されています。

しかし、Likhaan Women Healthのセンターの創設者であるJunice Melgar博士の予測はもっと早く、2018年早々には避妊薬を合法的に入手することができなくなると警告しています。

「1つも避妊薬が許可されず、貧困層であれ富裕層であれ、すべての女性が避妊薬にアクセスできない時が来る」

期限を迎えることで廃棄される避妊薬も相当な量にのぼります。保健長官パウィン・ユビアル博士はCNNフィリピンの取材に対して、「2018年に期限切れになると予想される避妊インプラントが40万個ある」と語っています。

本来は貧困層の女性に提供されるはずだったインプラントです。その虚しさをユビアル博士は「誰かがそれを飲まない限り、それは水ではありません」とたとえています。

インプラントを中心とする避妊薬をほんとうに必要としているのは、多くの子供を抱えたまま日々の食べるものさえ満足に入手できない最貧困層の女性たちです。

望まない子を宿した彼女たちが、非合法の闇の中絶を利用する実態については、先に紹介した通りです。

保健省(DOH)のスポークスマンを務めるEric Tayag博士は、「フィリピンの妊産婦死亡数は、妊娠中または出産中に毎日14人の女性が死亡していることを示しています。(避妊による)家族計画によって死亡の40%を防ぐことができるという科学的な考察もあります」と語っています。

まだ生まれていない胎児の生命を守ろうとするカトリックの思惑と、今生きている母親の生命を守ろうとする保健省の思惑が真っ向から対立しています。

国連のデータによると、避妊薬が無料配布された2015年には、妊娠中または出産中の死者が明らかに減っています。出生10万人あたりの妊産婦死亡率を比べると、2013年には129人だった数字が2015年には114人に減っています。

人口増加率にも変化が認められ、2010年の1.9%から2015年には1.7%へと低下しています。2015年に避妊薬が貧困層の女性に配られただけで、妊産婦死亡率と人口増加率ははっきりと改善されたのです。

しかし、避妊と中絶に反対するカトリック系団体の圧力により避妊薬が次々と消えていくなか、妊産婦死亡率も人口増加率も再び上昇に転じることが心配されています。

3.ドゥテルテに受け継がれた人口抑制のための取り組み

アキノ大統領の任期満了に伴う大統領選挙が2016年5月に行われ、国民の支持を受けてドゥテルテ政権が誕生しました。

ドゥテルテ政権でも、前アキノ大統領が手をつけた人口抑制のための政策が受け継がれています。人口を抑制することが、貧富の格差を解消して経済の発展を促すという基本的な考え方は、アキノもドゥテルテも一致しています。

ドゥテルテ大統領は2017年1月に行政命令に署名し、リプロダクティブ・ヘルス法の完全な実施を求めました。しかし、フィリピンでは政府の執行部と司法部門が同等の関係にあるため、大統領の執行命令が下ったからといって最高裁が下したTROを覆すことはできません。

三権が独立している以上、司法の下した判断は大統領といえども従うよりないのです。

ドゥテルテ大統領がTROに反対する立場を明確にしているため、地方でもこれに続く動きが加速しています。市民による要望を受け、一部の州ではTROの解除を求める決議が提出されています。

2017年の5月には、人口委員会がTROに反対する女性の署名30万を集め、最高裁判所に提出しました。しかし、今のところTROが解除される動きはありません。

避妊を求める多くのフィリピン女性の願いは、司法の現場には届きませんでした。まもなくフィリピンから避妊薬がなくなろうとしています。

そのことはフィリピンの女性たちから、避妊をするかしないかという選択肢が奪われることを意味しています。

果たしてカトリック教会の思惑通りに避妊を許さない社会ができるのか、それとも政府による人口抑制のための政策が功を為すのか、ドゥテルテ大統領の政治的手腕にすべてがかかっています。

ドゥテルテ大統領とカトリック教会との対立は、ますます深刻化しそうな気配を漂わせています。

ドゥテルテ大統領対カトリック教会の戦いを追いかけるシリーズの第一部を終了します。第二部は少し時間をおいたあとに、続ける予定です。

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ドン山本 フリーライター
ドン山本 フリーライター
タウン誌の副編集長を経て独立。フリーライターとして別冊宝島などの編集に加わりながらIT関連の知識を吸収し、IT系ベンチャー企業を起業。

その後、持ち前の放浪癖を抑え難くアジアに移住。フィリピンとタイを中心に、フリージャーナリストとして現地からの情報を発信している。

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