皆さんは「山村留学」を知っていますか?
「子どものうちにさまざまな自然体験や経験をさせてあげたい」
「一人っ子だから異年齢の子ども達と一緒に生活体験をさせてあげたい」
「自然豊かな環境でのんびりと子どもらしく過ごさせてあげたい」
などのように考えるご家庭の選択肢の1つとして注目を集めているのが山村留学です。
「NPO法人全国山村留学協会(https://www.sanryukyo.net/new/)」によると、山村留学とは「自然豊かな農山漁村に、小中学生が一年間単位で移り住み、地元小中学校に通いながら、さまざまな体験を積む」活動です。
現在、国内の約60ヵ所の地域で山村留学が実施されていますが、実施団体によって受け入れ方式や受け入れ期間(長期、短期、夏・冬・春休み期間)、地域の特性にあった活動などの体験内容はさまざまです。
「生きる力」が重要視される今、親元を離れて自然の中で「生きる力」を育むことのできる山村留学に魅力を感じるご家庭も多いことでしょう。
それでは今回は、魅力あふれる山村留学の基本的な情報と最新の留学状況について詳しくご紹介します。
山村留学の基本情報
ここでは、山村留学の基本的な情報として、その成り立ちや2021年度の受け入れの状況や人気の留学先ランキングをご紹介します。
はじめに山村留学の成り立ちを見てみましょう。
昭和43年(1968年)、教員や父母、教育関係者が長野県で「育てる会(現在の公益財団法人育てる会http://www.sodateru.or.jp/)」を発足させました。
育てる会では、春・夏・冬休みを利用し一週間から十日以上、親元から離れて農家にホームステイしながら地域の体験プログラムに参加する自然体験キャンプ(短期山村留学)を実施しました。
その後、保護者から「1年間、育てる会に子どもを預けて自然豊かな環境の中でいろいろな体験をさせてみたい」という相談を受けました。
これに賛同した地元の人や学校教員、行政と試行錯誤して作り上げたのが、今回ご紹介する山村留学なのです。
昭和51年(1976年)、育てる会の教育実践活動として日本で初めて山村留学が実現されました。
現在は、小中学校の設置者である各市町村の教育委員会(一例:北海道教育委員会、長崎県教育委員会、鹿児島県教育委員会など)や、山村留学を実施する団体(一例:公益財団法人育てる会 http://www.sodateru.or.jp/)が山村留学を実施しています。
NPO法人全国山村留学協会の「2021年度版全国の山村留学実態調査報告書」によると、1976年に開始されてから2021年までの45年間で、延べ22,686 人の子ども達が山村留学を体験しています。
2021年度の報告では21都道府県の63市町村で実施され、参加者数は小学生が406人、中学生が274人、参加者総数は680人でした。
そのうち子どもだけで留学した参加者数は445人(約65%)、親などと一緒に留学した参加者数は235人(約35%)でした。
参加者の人数の推移を見ると2018年では小学生が380人、中学生が190人でしたが、2021年では小学生が406人、中学生が274人でした。小学生も中学生も増加したことが分かります。
全校各地で「山村留学」は実施されていますが、受け入れ人数が多い都道府県を見てみましょう。
ランキングと2021年度の参加者数と2020年度からの増減人数を紹介します。2021年度の第1位は鹿児島県(203人、9人増)でした。第2位は長野県(128人、10人増)、そして北海道(64人、4人増)、山梨県(55人、4人減)と続きます。
子どもだけで留学した参加者数が多いのは、同じく第1位は鹿児島県(113人、9人増)、第2位は長野県(107人、1人減)となっています。
その他、群馬県や高知県、北海道、島根県、長崎県などが多くなっています。
親など家族一緒に留学した参加者数が多いのも、同じく第1位は鹿児島県(90人、増減なし)でした。
しかし、山梨県(55人、4人減)、北海道(43人、4人増)と続き、家族留学の場合はこの3県で約8割を占めていました。
参考)「NPO法人全国山村留学協会 山村留学データバンク全国山村留学実態調査データ
(https://www.sanryukyo.net/new/databank/)」
山村留学の募集対象・留学期間・受け入れ方式・費用
【山村留学の募集対象は?】
山村留学は、主に義務教育期間の子どもを対象にしていますので、小学1年生から中学3年生までが対象になります。
実際は、受験対応の難しさなどから中学3年生の留学を受け入れているところは多くはなく、中学2年生からの継続の場合のみ受け入れるケースもあります。
在校生の学年や性別によって募集する学年や性別が限定される場合や、受け入れ先の寮や里親宅の状況によって募集状況が変更される場合もあります。
また、小学校低学年で親元を離れた生活を送ることは難しい場合が多く、小学校中学年以上を募集対象にしている地域が多いようです。
小学校低学年での山村留学を希望する場合は、家族で留学するスタイルや休暇中に実施される短期留学への参加も併せて検討することをおすすめします。
【山村留学の留学期間は?】
通常、長期の山村留学は4月から3月までの年度単位での留学を想定、または原則としている学校が多いです。
年度が替わる時には、継続の希望があればそのまま継続できるケースが多いようです。中には継続可能かどうか再度、審査が必要な学校もあります。
年間での留学を理想としていますが、募集定員に余裕があって事前の面談の様子で受入れ可能と判断された場合などに限り、年度途中でも受け入れを行う団体や地域もあります。
週末や学校の長期休暇を利用した短期の山村留学を実施している団体や自治体もあります。長期留学を検討する際には、一度短期間の留学を体験してみることもおすすめです。
【山村留学の受け入れ方式は?】
「山村留学」には受け入れ地域や団体によって、さまざまな受け入れスタイルがあります。
どの場合でも、子ども達は地域の公立学校に通学することになりますので、ホームスクールやフリースクールの形態は山村留学には含まれません。
また、親子留学の受け入れだけで、子どもだけの受け入れを行っていない地域もあります。希望先の受け入れ体制を必ずご確認ください。
ここでは、子ども達がどのような生活スタイルをするのかによって分けられた4つの受け入れ方式をご紹介します。
里親スタイル(ホームステイ)
地域の住民(里親)の家庭で寝起きし、そこから通学します。その地域で長く暮らす子育てを終えたシニア世代の家や農家などが主なホームステイ先になります。
1つの里親宅に複数の留学生が生活することもあります。
ホームステイなので里親さんを親として、子ども達は兄弟姉妹として、その家の子どもになったつもりで家庭的な雰囲気の中で自立心を養うことができます。
寮スタイル
地域の寮や合宿所で共同生活を行いながら通学します。寮や合宿所では、生活面や活動をサポートする指導員が一緒に生活することが多いです。
規律正しい共同生活を送ることで、自分の身のまわりのことを自主的に管理できるようになります。
併用スタイル
寮とホームステイを併用するもので、期間を区切って両方を行き来して生活します。半月毎に移動する場合が多いです。
親子留学スタイル
親子で住所を移して通学します。親は新しくその土地で仕事を探したり、リモートワークで仕事を続けたりしながら、子どもは地域の学校へ通学します。
自治体によっては、住まい探しのサポートや家賃補助などの移住支援があります。
【山村留学にかかる費用は?】
基本的には、学校関係費用(PTA会費、給食費など)やお小遣いなどの生活費、寮費またはホームステイ費用や帰省時の交通費などは実親が支払います。留学費用は受け入れ方式によって変わります。
一例ですが子どもだけが留学する里親スタイルや寮スタイル、併用スタイルの場合、実親が負担する費用は学校に関わる費用と生活費、滞在費として月額3万~10万円程度になります。
自治体からの助成金・補助金の有無や、休日等の活動の有無によって実親が負担する金額は変わります。
山村留学のメリットやデメリット
ここからは、山村留学の魅力(メリット)と知っておきたい問題点や課題(デメリット)をご紹介します。
【山村留学の魅力】
- 豊かな自然環境での暮らしを体験し、生きる力を育むことができる。
- 地域特有の文化や伝統行事を体験し、集落の活性化に貢献できる。
- 少人数教育を受けることができる。
- 親元から離れて暮らすことで自立心が芽生える、自立を促すことができる。
- 小規模校での集団生活によって、連帯感や責任感を養うことができる。 など
山村留学の魅力は、親元を離れてホームステイや寮での共同生活を送り、自然と向き合う環境のもとで成長することでしょう。
新しい環境や人間関係の中で生活することは、決して楽なことではありません。
しかし、子ども達は共同生活を送りながら他者と関わることで、自立心や思いやりの心などを育みます。
また、留学先の環境は都会と違って人口も少なく、学校に在籍している子どもの数も少ないため、小規模校ならではの環境で異年齢の友達との交流もできます。
そして、日常生活そのものが学びとなる子ども達にとって、地域の大人と近い距離で接することでも大きな成長を促すことでしょう。
最近では、少人数教育を受けられることでも山村留学への注目が高まっています。「子ども達の生きる力を育むことができる」ことこそが、山村留学の最大の魅力と言えるでしょう。
【山村留学の問題点・課題】
魅力の多い山村留学ですが、やはり課題もあります。
受け入れる前に本人と家族との面談や現地見学、体験入学を実施していますが、それでも留学を途中で中断してしまうケースがあるそうです。
ここからは、山村留学に見られる問題点や課題として、NPO法人全国山村留学協会山村留学(https://www.sanryukyo.net/new/)のホームページに掲載されているトラブルの例と留学を途中で断念してしまったケースをご紹介します。
- 里親制度の山村留学で、里親・教育委員会・学校等の連携がなく、里親独自の判断で不適切な指導が行われていた。
- 全寮制の山村留学で、専門的な指導員の配置がなく、体験活動があまり実施されていなかった。
- 家族留学制度で、留学生やその家庭に地元住民が理解を示さず、地域の中で孤立してしまった。
- 食事の提供内容があまりに貧弱で、栄養面などが考慮されていなかった。
- 留学生の保護者間で不協和が生じたが、事態を調整する指導員や対応する機関もなく、地域や他の保護者も巻き込んだトラブルとなってしまった。
このようなトラブルだけでなく、山村留学を途中で断念する子どもの原因の一例として下記のように掲載されていました。
- もともと本人に学校へ通う意志がなかった。
- 本人が留学生活に目的や課題を持てなかった。
- 本人が行きたくなかったのに保護者が無理やり行かせたために、留学先で前向きになれなかった。
- 指導員や教員、ホームステイ先など受け入れ先とのトラブルが起きた。
- 素行不良で山村留学の生活ができなかった、あるいは地域に迷惑をかけた。
- 留学生同士や学校などでうまくコミュニケーションがとれずトラブルが絶えなかった。
- 保護者が留学先のルールに従わず、現地を混乱させた。
- 海外転勤など、保護者側の都合。
保護者と受け入れ側のミスマッチを防ぐためには、やはり事前にしっかりと情報を集めて留学先の状況を把握することと、子ども自身の気持ちを優先して進めることが重要です。
子ども自身が留学を希望して主体的に進めていくことで、親も子も山村留学に対して前向きな気持ちが芽生えることでしょう。
そのような姿勢ならば、もし留学中に何か問題が起きても、たいていの場合は周囲の理解とサポートによって乗り越えることができます。
そして、不安や問題を自分だけで抱え込まず、自分から発信し解決していけるだけのコミュニケーション能力は最低限必要だと感じます。
また、不登校の解決を目的とし転地療法として山村留学を検討する場合は、寮や里親宅での集団生活と学校生活を送る意思が本当に子ども自身にあるかどうかが重要です。
不安がある場合は、子どもだけを留学させるのではなく、親子留学ができる自治体や学校を探すことも念頭に置いて検討することをおすすめします。
親子で住民票を移す場合は、自治体によって住宅支援や就職活動に関わる情報提供など移住促進のさまざまな支援が受けられる場合がありますので、ぜひ検討してみてください。
山村留学情報サイトの紹介
NPO法人全国山村留学協会では国内約60ヵ所の山村留学実施地域のうち24団体が加盟し、加盟団体の紹介ページより確認できます。
NPO法人全国山村留学協会(https://www.sanryukyo.net/new/memberslist/)
受け入れ自治体や関連団体は複数ありますが、山村留学実施校の全てが加盟する公的な協会や団体は現在のところはありません。
以下に、一例として関連情報リンクをご紹介しますが、これ以外の地域でも山村留学は実施されています。ぜひ希望する地域の教育委員会へ山村留学の実施をお問い合わせることをおすすめします。
- 公益財団法人育てる会:直営学園にて長期山村留学を実施
- フリーキッズ・ビレッジ:山村留学・フリースクールを運営
- NPO法人なみあい育遊会:長野県阿智村浪合で山村留学実施
教育委員会のホームページ
- 長野県 信州自然留学(山村留学):信州自然留学(山村留学)
- 鹿児島県教育委員会 山村留学: 鹿児島県教育委員会
- 北海道教育委員会 山村留学: 北海道教育委員会
- 山梨県教育委員会 山村留学:山梨県教育委員会
- 鹿児島県教育委員会 山村留学: 鹿児島県教育委員会
- 埼玉県越生町里山ふれあい留学:埼玉県越生町教育委員会
- かじかの里学園:群馬県上野村教育委員会
※地域みらい留学:全国募集を行う公立高等学校の紹介
まとめ
ここまで山村留学についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
魅力あふれる山村留学ですが、留学生が募集できずに学校が廃校に追い込まれてしまったり、受け入れ先が不足したり、地域住民の高齢化で受け入れができなかったりする場合もあるそうです。
一方で、この山村留学制度を活用して全国から集まる子ども達を山あいの学校が受け入れることで、廃校の危機を回避できたケースも数多くあります。
受け入れ団体や地域によって活動内容もさまざまで、最近ではホームページやSNSなどへ留学中の子ども達の日常を発信しているところもあります。
また、学校の長期休暇中などに行われる体験留学や短期留学などへ参加して、現地を訪れてみることをおすすめします。
実際に留学する環境を確認し、留学中の活動や滞在先のルールなど確認しておきましょう。
子どもに何かトラブルがあった場合に適切な対応をしてもらうためにも、里親(または寮の管理者)・教育委員会や学校・地域などと保護者の連携が取れていることは重要です。
受け入れ方法や自治体からの助成金などの有無によって費用も大きく異なりますので、事前にしっかりとリサーチしながら進めることが大切です。
そして、何よりも大切なことは子ども自身がどのような形の山村留学を希望するのかを明確にすることです。
子どもだけが留学する場合は寮生活なのか、里親宅のホームステイなのか、または家族で留学するのかなど、ぜひご家族で話し合ってみてください。
この記事が皆さんの山村留学を検討するご参考になれば幸いです。